【レコにまつわるエトセトラ】レコ飯 ~ タフな海外買付を乗り切る孤独のグルメ【第8回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。
そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン・新宿プログレッシヴ・ロック館店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第8回のテーマは、“レコ飯 ~ タフな海外買付を乗り切る孤独のグルメ”。レコード好きなら、一度は海外にレコード買付の旅に出てみたいと思うものではないでしょうか。初めて行く土地で未知なる素晴らしいレコードとの出会い…なんて夢見てしまいますが、現実はそんな甘い話ばかりではないようです。言語はもちろん、文化や環境の違いなど様々な困難に直面しながら、限られた時間で買付を進めていく。そんなハードな日々のなかでの活力剤にもなる“食”をテーマに、今回はお届けします。

“食”は、海外買付の成否を握っていると言っても過言ではない。

 

レコにまつわるエトセトラ(1)

イギリス料理の大定番、English Breakfastのちょっと良いやつバージョン。

 

海外にレコードを買い付けに行く、いわゆる海外買付けってどんなイメージでしょうか?
アメリカのどデカイ荒野を長距離ドライブして、巨大倉庫で豪快にレコードをドサッと買って肉食ってビール飲んで寝る、みたいなワイルドなイメージをお持ちの方もいるかもしれません。
少しググってみると、色々なレコード屋さんの買付日誌が上がっていたりするのでなんとなくのイメージは湧くのかもしれませんが、まぁ本当に肉体的にも精神的にも大変なことが多いお仕事なんです。

渡航前より長い時間を掛けて情報を集め、現地でも常に計画通りに買えるかどうかのプレッシャーに苛まれ、レコ屋の持病こと腰痛を騙し(猫騙し程度)ながら重いレコードを持ち上げ、帰国したらしたで今度は売れるかどうかのプレッシャーが襲いくる…そんな苦行みたいな側面もあるんです。

とは言っても、寝ても覚めても一日中レコードまみれの生活っていうのは、好き者にとって最高のご褒美だったりするわけです。
って、おかしくなってますかね…?

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

ご飯を食べる時だってレコ箱が机っていう徹底ぶり。

 

車や誰かの手助けなしで、自分の手で重いレコードを引っ張り、自分の足で異国を踏破する“ハードコア買付”を貫く私にとって、最も重要な要素のひとつとして挙げられるのは“食”。身体を動かすのに必要な栄養として、そして疲れた心を和ます一服の清涼剤として重要な役割を担っている“食”は、買付の成否を握っていると言っても過言ではないでしょう。

「時はレコなり」。この言葉はどこかの偉人が言ったわけでもなんでもなくただの私の戯言ですが、わざわざ海外までレコードを買いに行った時に一番惜しむべきは時間。ご飯を食べるにしても、店に入ってナイフとフォークでランチ、なんていう優雅な時間はないのです。

 

レコにまつわるエトセトラ(3)

イギリスでは店舗数がかなり多い、SUBWAY。ビンテージな建物とのコントラストも映えます。

 

ということで、今回お教えするのは一人旅を支える孤独のグルメ~イギリス編。

ファストフードを中心に、サクッと美味しく食べられるものをご紹介。レコードや音楽とは直接関係ないかもですが、普通の一人旅にも役立つと思います。
私が人柱となってトライアンドエラーを繰り返し導き出した至高のメニュー、とくとご覧あれ!

 

イギリスならではの最高のファストフード店、御三家とは…?

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

ヨーロッパ圏(特にイギリス、ドイツ)最強のファストフード店、BURGER KING。

 

イギリスと言えば食べ物の評判の悪さはピカイチ。
確かにみなさんご存知のフィッシュ・アンド・チップスやイングリッシュ・ブレックファーストは、当たり外れがあるのも事実。町の外れの寂れた店でテイクアウトしたりすると、いつの油よ? ってぐらいの古い油で揚げられたフィッシュ・アンド・チップスが出てくることもあるでしょう…。美味い店のはもちろん美味いんですけどね。

でも、もちろんイギリスだって色々な飲食店が営まれていて、ケバブ、カレー、中華なんていうどの町にも必ずある店もあれば、やっぱり間違いないイタリアンやフレンチなんかも多く営まれています。

では肝心のファストフード事情はどうでしょう?
大手ファストフード・チェーンの勢力図は日本とは大きく異なり、まず最大勢力を誇るのはバーガーキング。次いで店舗数が多いのはサブウェイとなっています。あくまで私の体感で正確な店舗数は知りませんが、どの街もこのような状況だと思います。ちなみに日本ではぶっちぎりのマクドナルドは、イギリスをはじめヨーロッパにおいて店舗数はかなり少な目です。

ただ今回私が紹介したいのは、そんな日本でもお馴染みの店ではなく、イギリスならではの最高のファストフード店たちです。
色々良い店がありますが、その中でも御三家と呼びたい名店をご紹介しましょう。

 

レコにまつわるエトセトラ(5)

いつもあなたの側にはUpper Crust。

 

・Upper Crust
まずは全英ファストフード界の帝王、Upper Crustをご紹介。’86年にロンドンで生まれたファストフード店で、俗称はアパクラ(個人的な略称です)。多くの駅や町にあるので、イギリスに行ったことがあれば100%目にしていることでしょう。

この店のメイン・メニューはバゲット・サンド。バゲットにフレッシュなハムやチーズが挟まれている王道スタイルは、私たち日本人にとっても特に物珍しい訳ではありませんが、こんなにも定番として老若男女に親しまれてはいないでしょう。

バゲットは30cmはあろうかという大分大きめサイズで食べ応え十分。日本ではちょっとウケが悪そうな、ボロボロ落ちるタイプの食べ辛さ満点のハードなバゲットですが、その硬い皮と中のもっちりとした生地感が最高の味わいを生み出しています。

 

レコにまつわるエトセトラ(6)

気分に左右されない美味さ、TUNA MAYO。

 

レギュラー・メニューは“HAM&CHEESE”や、“BLT”等、毎日でも食べれる定番が並びますが、個人的オススメは“TUNA MAYO”。まぁ言うまでもなく鉄板でしょう。
また、店舗数の多さを活かした、ご当地メニューも盛り沢山。電車で数時間掛けて田舎町のレコ屋に行って、ボウズで終わった時の悲しみを癒やしてくれるのはご当地メニュー。食べたことのないメニューで大当たりすると、「俺はここまでレコードじゃなくてアパクラのご当地メニューを食いに来た」と一人噛み締めるのです。

ちなみにメニューの横に“HOT”のロゴが入っているものは、トーストも可能なメニューです。
注文した時に温めるかどうか聞かれるので、「Yes, Please」とか言って温めてもらいましょう。バゲットはサクフワ度が増し、チーズ等の具はトロッとなって極上の味わいを醸しますよ!

 

パン文化が根付いている国のパンはベースが美味い!

 

レコにまつわるエトセトラ(7)

レコにまつわるエトセトラ(8)

レコにまつわるエトセトラ(9)

サクッ、フワッ、モチッ、トロッ…あらゆるオノマトペを使いこなす、Delice De France。

 

・Delice De France
次に紹介するのは至高のフランスパン・サンドを味わえるお店、Delice De France。
スイスの外食産業系企業、Aryztaがイギリスで展開するファストフード店で、店舗数はそれほど多くはないですが、主要駅を中心に店舗展開されています。

とにかく個人的な推しは“Ham & Cheese Croissant”。パリッとしたクロワッサンの中と上に、これでもかというぐらいにトロットロになったチーズと刻みハムが入っているヤバイやつです。

あと甘い系で“Pain Aux Raisins”も極上。見た目は何の変哲もないですが、パリッとした皮の中はもっちゃりした甘い生地で、レーズンとの相性も抜群。地味な見た目に反して、予想の10倍はウマイはずです。

 

レコにまつわるエトセトラ(10)

レコにまつわるエトセトラ(11)

レコにまつわるエトセトラ(12)

体力仕事にピッタリな男飯、Pasty。

 

・The Pasty Shop
最後はかなりのボリュームを誇る、腹ペコ野郎御用達の肉パン屋をご紹介。

“Pasty”っていうのはイギリスはコーンウォール発祥のパイで、刻まれた牛肉、ジャガイモ、タマネギをパイ生地で包んで焼き上げたもの。
結構肉厚なパイ生地に、中にはカレーが作れそうな具材がてんこ盛りで入っているので食べ応えは横綱級。ちょっとハンパな気持ちで買うと、途中で挫けるかも知れません。

牛肉が基本で、チキンもあったりしますが、“Cheese & Vegetable”もオススメ。中はホワイト・ソースのグラタンみたいになっていて、比較的食べ心地も優しめにいただけます。ウマイ&ボリューミー!

 

レコにまつわるエトセトラ(13)

カップラーメンだって一味も二味も違います。それはまた次の機会に。

 

いずれの店も駅を中心に店舗展開しており、朝は5~6時から営業しているので、電車移動にはピッタリなファストフードたち。ちなみにイギリスは電車の中(ロンドンの地下鉄は微妙ですが)で食べ物を食べたり、電話をしたりするのはごくごく普通なので、時間がない私たちのニーズにドンズバなワケです。

まぁ時間あるなしに関係なく、イギリスに行った際は一度食べてみてはいかがでしょうか?
もちろん日本にだって美味しいパン屋さんは沢山ありますが、やっぱりパン文化が根付いている国のパンはベースが美味い! 海外に行っている時ぐらい米を忘れてご当地のウマイものをいただきましょう!
ご馳走さま!

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千

 

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