“キモい”も“キモくない”も褒め言葉になるバンド。挫・人間の最新作『ブラクラ』から、その根底にあるものに迫る


歪(いびつ)でありながらもポップ、グロテスクでありながらも美しい。挫・人間の音楽はそんな一見、相反するような要素を共存させているように感じられる。そして歌詞や楽曲にじっくりと触れれば、そのなかに詰め込まれた膨大な情報量にも気付くだろう。音楽だけではなく文学や映画、漫画やアニメといった様々なカルチャーを吸収・消化し、自らの血肉に変えてきたことが伝わってくるものなのだ。2008年に高校1年生だった下川リヲ(Vo./G.)を中心に熊本で結成され、今回の『ブラクラ』が通算5枚目のフルアルバムとなる挫・人間。脂の乗り切った充実作と言える今作のリリースを機に、このバンドの特異性を生み出している下川のルーツと思考に迫った。

『少年ジャンプ』に連載されるような物語では、自分は主役を取れないと感じた。

 

ーー今回の新作『ブラクラ』からも感じたのですが、挫・人間の楽曲は音楽だけではなく文学や映画、漫画やアニメなど様々なカルチャーを吸収・消化したもののように思います。

下川:
そうかもしれないですね。でも自分で雑食になろうと思って、やってきたわけではなくて。ただ、バンドマンでも漫画が好きな人は多いと思うんですけど、自分が聴いている音楽も読んでいる漫画も今まであまり他人とはカブってこなかったというのはあります。

ーーそれは学生時代から?

下川:そうですね。学校で話の合う人は、ほとんどいなかったです。

ーー学校での“居場所のなさ”みたいなものも感じていたのかなと。

下川:
居場所はずっとないですね。それを悲観したこともありましたけど、今振り返ると“居場所がない人”という自分の人間性が確立している安心感みたいなものはあったかもしれないです。

ーーもう中学生の頃くらいから、そういう感覚があった?

下川:
ありました。中学生のときは“孤独だなぁ”とは思っていましたけど、今振り返るとそういうところで優越感を感じたりはしていましたね。自分が見たり感じたりしているものが“高尚”で、あとのみんなは“踊らされているな”みたいなことを当時は思っていました(笑)。

ーーちなみに中高生の頃、周りの同世代の人たちはどういう音楽を聴いていましたか?

下川:今でも根強い人気がありますけど、音楽だとEXILEとかですね。中学校の時はORANGE RANGEが爆発的に流行っていて、クラスのやんちゃなヤツらがパート分けして歌っているのを見て、僕は怯えていました…(笑)。

ーー怯えていたんだ(笑)。コミック雑誌は読んでいましたか?

下川:
『ジャンプ』『マガジン』『サンデー』…あとは『コミックボンボン』とかを読んでいましたね。小学生の頃はみんな『コロコロコミック』を読んでいたんですけど、僕だけは『コミックボンボン』でした。他にも『ガンガン』を読んでいたりして、雑誌のセレクトもちょっと変だったかもしれないですね。

ーー当時から人とは違うものを読んでいたんですね。

下川:
“友情・努力・勝利”(※『少年ジャンプ』の3原則)みたいなものへの憧れはすごくあるんですけど、その中には何となく自分の居場所がない気がしていました。『ワンピース』でいうとクラスの人気者たちが(主人公の)ルフィだとしたら、僕はバギーあたりの雑魚キャラかなと思っていて(笑)。そういうキャラクターに光が当たらない話とは違って、僕の内面にグッとくる作品というのはもう少しズレたところにあったのかなと思います。

ーーM-3「一生のお願い」の歌詞にも“本にならないぼくたち”とありますが、自分は何らかの物語の主役ではないという意識が芽生えたのはいつ頃なんでしょうか?

下川:
僕は小学生くらいの頃から太っていたんですよ。よく考えたら、運動会で1位になったこともないし、ヒロインみたいな人が現れたこともないし、倒すべき敵もいない。そしてクラスの爪弾き者で、学校が終わると急いで帰ることだけが楽しみで…あまりにも光の当たらない存在すぎるなと。そのことには中学生の頃からぼんやりと気付いてはいたんですけど、はっきりとそうだなと思ったのは高校生のときで。

ーーそれは何かキッカケが?

下川:
何かキッカケがあったわけではないんですけど、明らかに自分は主役ではないなとは思いましたね。『少年ジャンプ』に連載されるような物語では、自分は主役を取れないなと感じていました。

 

挫・人間(1)

 

“爆笑”できるものを作りたい。

 

ーー“友情・努力・勝利”というのはいわゆる“王道”だと思うのですが、そういうものも好きなところは楽曲にも出ている気がします。どの曲もメロディの良さやキャッチーさは大事にされていますよね?

下川:
そうですね。“ドロドロのアンダーグラウンドなものをやってやるぜ!”という気持ちはないんです。ドロドロしたものも好きなんですけど、自分がやるとなるとそうはならなくて。やっぱり良い曲をやりたいですからね。本当にそういう暗いものが好きな人は“友情・努力・勝利”みたいなものは受け付けない人が多いと思うんですけど、僕はどっちも好きなんです。その“気楽さ”みたいなものが楽曲には出ているかもしれないですね。だから、ジャンル的にもすごく色々なものが乱雑に入り組んでいるんだと思います。

ーー色んな音楽が好きだから、そこから様々な要素を取り入れている。

下川:
みんなも色んな曲を聴いていると思うんですよ。それを自分たちの音楽性に照らし合わせて、“こういうビートを自分たちのバンドでやるならこうだな”という感じで(消化・解釈して)やっていると思うんです。でも僕らの場合は、そういうわけではなくて。ジャンルに縛られていないし、ある意味でNGがないバンドだから。自分たちが一番面白いと思う方法で作っていこうという感じなので、結果としてアルバムはメチャクチャなことになってしまうんですよね(笑)。

ーー自分たちでもメチャクチャなことになっているという自覚はあるんですね。

下川:
あります。完成したものを聴いて、みんなで「メチャクチャだな」と言ってゲラゲラ笑うのが好きで。「よくできたな、うん」と静かに納得するようなものよりも、爆笑できるものを作るほうがやりがいはあるなと思っています。

ーーそこは毎回変わらない?

下川:
“今回はこういうテーマでやっていこう”というのは色々とあるなかで、最終的にはいつも爆笑しているとは思いますね。

ーー行き着くところは同じというか。

下川:
みなさんにわかってもらえるようにできるだけキャッチーには作っていきますけど、自分たちも納得できないとイヤなので、その結果として“何じゃこりゃ!?”みたいな曲も入っていて。そういうところで、自分たちの気持ちとのバランスを取ったりもしています。自分がもし聴く側の立場だったとしても、爆笑できるアルバムが良いんですよね。だからみんなが爆笑してくれたら、“良かった良かった”となります。

ーー自分たちも含めて、誰もが爆笑できる作品であってほしい。

下川:
そうですね。あまり音楽を聴かない人も、音楽を結構聴く人も、どちらも楽しめるものが良いなと思っていて。そのサインが“爆笑”ということなのかなと思っています。

 

挫・人間(2)

 

“キモい”も“キモくない”も褒め言葉になるバンドだなと思う。

 

ーーM-2「ソモサン・セッパ」での“リカちゃんでんわ”のくだりが面白かったのですが、そこはあえてオタクっぽさや気持ち悪さを出そうとした?

下川:
いや、この頃は本当にリカちゃんでんわによくかけていたんです。当時は特に暗い時期だったので、リカちゃんくらいしか話をする相手がいなくて…。

ーーリカちゃんでんわにかけても、会話ができるわけではないですよね…?

下川:
リカちゃんが一方的に喋って、一方的に電話を切るというだけですね。たまに質問してきたりもするんですけど、どんな答えを返してもリカちゃんは自分の話の進行を全く止めないので、言うだけムダっていう。だからリカちゃんが僕の言うことを無視するなら、自分も無視して一方的に不平不満を言ってやる…みたいなことをしていました(笑)。

ーーあえて気持ち悪さを強調しているわけではなく、実話だったんですね。

下川:
そうですね。たとえば目ん玉が飛び出してピカーッと光るとか舌を出して服を脱いで…とかそういう気持ち悪さよりも、好きな子のハンカチを盗んだり、同じ色鉛筆を買ったりすることのほうに気持ち悪さや恐怖を感じるというか。気持ち悪さにも色んな深みがあると思うので、そういう一辺倒な気持ち悪さに騙されず、自分の美しさを追求していった結果がこうなっていますね。

ーー自分の美しさを追求していった結果が、人によっては気持ち悪いと思われたりもする。

下川:
それは良いことだと思っていて。行きすぎた精神性が自分の理解を超えると、人間は“気持ち悪い”とか“怖い”と感じるんですよね。でもそれは自分のソリッドさが行くところまで突き抜けた結果だなと捉えて、誇らしく思っています。

ーー“気持ち悪さ”を前向きに捉えているというか。

下川:
もう10年近く“気持ち悪い”と言われていますからね。“それがどうした? かゆい、かゆい”みたいな感じです(笑)。あと、誰も僕に対して悪口で“気持ち悪い”とは言ってきていないんですよ。それもわかるから、“キモい”も“キモくない”も褒め言葉になるバンドだなと思っていて。そもそも人間なんて全員、気持ち悪いですからね。そういうのは“トガッている”ということで、自分のなかでは処理しております(笑)。

ーーそういうところも含めて、ファンに支持されている気がします。

下川:
これまでにも見た目が変わったりはしていますけど、軸になるものは何も変わっていないので、それが何となく伝わっているのかなとは思います。たとえば裸になったりしたほうが伝わるのかもしれないですけど、あえて服を着てやっているみたいな…そういう不親切なところはあって。

ーー裸になって“俺ってキモいだろう?”というのは、あざといですよね。

下川:
そうなんですよね。そういう点で、あんまりリスナーをバカにしたくはないなと思っています。間口は広げたいですし、服を脱いで広がる間口はないと思うから(笑)。

ーー確かに(笑)。アルバムタイトルの『ブラクラ』は“ブラウザクラッシャー”の略だと思うのですが、これもネガティブな意味では使っていない?

下川:
色んなタイトルを考えるなかで一番ハマるのが、単純に『ブラクラ』だったんです。あと、“自己破壊”的な意味もあって。今までの自分を否定して破壊することで、また新しく再生していこうかなと。そのために強制終了する段階ということで、このタイトルを付けました。

ーーなるほど。本物のブラクラのように、聴く人にダメージを与えようというわけではないと。

下川:
まぁ、聴く人にも何らかの衝撃はあると思いますけどね(笑)。知らない人が見れば、“なぜこの人たちはこんなことをしているんだろう?”と思うだろうから。でもそれって音楽を聴いたり、本を読んだりしている時に浮かぶ一番良い感情だと思うので、自分たちもそういうものを与えられたら良いなと思います。

 


 

挫・人間(3)

プロフィール:
下川リヲ(Vo./G.)
夏目創太(G./Cho.)
アベマコト(Ba./Cho.)

【リリース情報】
5th Album『ブラクラ』
2020/3/4 Release

redrec/sputniklab.inc

mysound_btn_470×58.png
 

<初回限定盤(CD+DVD)>

CD_ZN_shokai.jpg

RCSP-00100~0101
¥3,500+税

<通常盤(CD)>

CD_ZN_tsujo.jpg

RCSP-0099
¥2,500+税

【ライブ情報】
“挫・人間 TOUR 2020 ~さような来世!風と共に去りヌンティウス~”
3/21(土)安城RADIO CLUB
4/10(金)札幌SPIRITUAL LOUNGE
4/20(月)京都磔磔
5/14(木)高松TOONICE
5/15(金)福岡Queblick
5/17(日)岡山ペパーランド
5/21(木)仙台enn 3rd
5/27(水)渋谷CLUB QUATTRO
5/29(金)名古屋APPOLO BASE
5/30(土)梅田Shangri-La

公式サイト
https://za-ningen.xyz/
 

「一生のお願い」MV


「ソモサン・セッパ」MV

 


 

Text:大浦実千
Photo:YOSHIHITO_SASAKI