ロックは死んだからこそ永遠に生き続ける?

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“You guys are so rock!!!!”
ライブ後によくこう言って褒めてもらえることがある。“Thanks!!”と笑顔で返すものの、よくよく考えてみると今の時代のロックってなんなのだろう?

「アメリカに行けば、もっと私の好きな音楽の近くで生きられるはず!」という根拠のない確信に導かれて、大阪の片田舎からアメリカへと渡りはや8年が経ってしまった私。当時憧れていたはずのニューヨーク、ブルックリンに住み気がつけば2014年よりLOVE SPREADというバンドを組んで音楽活動をしている。

アメリカで年間120本ものライブを繰り広げている内に、たくさんのアーティスト、オーディエンスと触れ合いながら今の音楽シーンに起きている変化の波を直接感じてきた。

「ロックは死んだ」という言葉が聞こえてきて久しい今日この頃。本物のロックスターはこの時代にいるのだろうか。ロックはまだ存在しているのだろうか。その疑問を確かめる為、ロックを感じる周りのアーティストに「あなたにとってロックとは何か?」「ロックを感じる作品は何か?」という質問を単刀直入に聞いてみた。
 

アメリカで活動するアーティストたちにとって、「ロック」とは?


1人目の回答者:Ryota
(LOVE SPREADのギター、ボーカル、コンポーザー)

<ジャンル>
エクスペリメンタルビットポップ、ポストJ-Pop
<インタビューした場所>
リハーサルスタジオ(Bushwick)

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Q1. ロックって何だと思う?
「言葉だけでは誰も聞く耳を持ってくれなかったメッセージや、伝えたいのに自分を守る為に築き上げた外のイメージに邪魔をされて出てこれなくなった想いを救う事のできる手段。例えば真夜中に最近気になってるあの子に「死にたい」とラインを送っても既読無視されるけれど、ステージ上でギターを掻きむしりながら爆音に乗せて「死にたい」と叫べば自分と似たような汗だくのイカつい兄ちゃん達が一緒に「死にたい」と叫んでくれて、もしかしたら気になってるあの子も“良太くん、ライブカッコよかったよ、とてもシティポップだね”と勘違いしてくれて場末のホテルでもうGoodnight。」
 

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Q2. ロックを感じる作品は?
「何かを変えたい、変わりたい、という意思の元に作品を作ってそれらを外に出しているのであれば、アイドルだってヒップホップだってアンビエントだってロックだと思う。そして人々がそのメッセージに賛同してくれればそれが新しいムーブメントとなる。皆がそれぞれ何かを強く信じてそれを発信し続けていれば一つくらいは大きく当たって世界が変わる。5年後、10年後も歌っていられるなと感じる事に関して歌いたい。もちろん僕は10年前も死にたかった。変わりたいと歌い続ければ、表現し続ければきっとロックは死なない。で、何の話だっけ。」


2人目の回答者:Reagan Holiday
(パフォーマンスアーティスト)

<ジャンル>
ノイズ
<インタビューした場所>
ライブハウス Trans Pecos(Queens)

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Q1. ロックって何だと思う?
「ロックとは私にとってエネルギーそのもの。押し込められていたものを解放する手段。誰にだってなれるし、誰にも邪魔されることのない感覚をくれるもの。私はいつも自分のパフォーマンスをロック精神にのっとっていると思っているわ。私とオーディエンスの間にはただ真っ白な自由しかないの。例えば、いま私がREAGAN HOLIDAYとして表現し続けていること。それは私が女性として押し込められている鬱憤やトラウマ、そういうことを男性的に暴力的に解放してみせるの。美しくないように見えることが同時に美しさを纏い、強さとなり、周りを変える。ロックの原点じゃないかと思うわ。」
 

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Q2. ロックを感じる作品は?
「私にとってロックを感じる作品はPharmakonの『Bestial Burden』。これは彼女の個人的な痛みや喪失感が込められたものなのだけれど、人間としての限界や精神性が押し広げられているように感じるわ。恐怖や闇を乗り越える時に寄り添ってくれるものってロックだと思う。」


3人目の回答者:Grooming
(White Ropeのボーカル/ハードノイズパフォーマー)

<ジャンル>
ノイズ、ガバ
<インタビューした場所>
ライブハウス Silent Barn(Bushwick)

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Q1. ロックって何だと思う?
「ロックとは、縛られないこと。他人の苦しみを請け負うために自身をステージ上で痛めつけること。ラウドなドラムこそが正義。僕はギャバーミュージックにもトランスミュージックにもロック精神を感じる。動のパワーが働いているからね。結果、ロックとは素敵な死を受け入れられるよう導いてくれるものだと思うな!」
 

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Q2. ロックを感じる作品は?
「MASONNAのノイズは僕にとってのロックンロール。Rob Geeのドラムにもロックを感じるね。作品として考えるとやっぱりハードコアなものがロックなように思えるね。」


4人目の回答者:Machine Girl
(プロデューサー/LOVE SPREAD「Myrtle-Wyckoff」MV監督)

<ジャンル>
ブレイクコア
<インタビューした場所>
ライブハウス The Meatshop(Bronx)

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Q1. ロックって何だと思う?
「僕にとってのロックは反抗。だからヒップホップもアンダーグラウンドなエレクトロニックミュージックも今の新しいロックだと思う。自分のライブが行われる場所だってロック会場。出るアーティストはみんなロッカー。僕はここでロックをしている。」
 

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Q2. ロックを感じる作品は?
「今の僕がロックを感じるアーティストはR&B歌手のSade。そういえばドレイクも彼女のことが大好きらしいね。」


5人目の回答者:ManKid
(Machine Girlのドラマー/ノイズアーティスト)

<ジャンル>
エクスペリメンタルノイズ
<インタビューした場所>
ライブハウス Silent Barn(Bronx)

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Q1. ロックって何だと思う?
「ロック?真新しいもの。恐ろしさを感じさせるもの。DIY精神があるもの。爆音であるもの!」
 

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Q2. ロックを感じる作品は?
「Boredomsの『Chocolate Synthesizer』が俺にとっての“ロック“だね。ティーンエイジャーだったころに欲しかったものすべてがつまっているから。」
 

ロックは永遠に生きている

ざっくりとした質問にも関わらず、皆真摯に答えてくれた。インタビューした場所は俗にDIYベニューと呼ばれる、設立から運営まで全てアーティストたち自身が力を合わせて作り上げたライブハウスやリハーサルスタジオだ。

今現在ブルックリンでは高騰する家賃や物価、トランプ政権の外国人圧迫といった流れを受けて、たくさんの芸術スペースが閉業に追い込まれている。これから成功したい!と思うアーティストたちにとって経済的にも環境的にも苦しい時代になっており、同じ志を持った仲間たちがそんな世間の流れに反抗するカウンターカルチャーとしてのDIY(Do It Yourself)な場所を作り上げている。

時代と共に移り変わるその場所は、大体家賃が低く、大きな音を出しても訴訟社会アメリカで訴えられない、世間的にはとても危ないとされる地域で繁栄する。今となっては全てオシャレで安全な地域に変わってしまったのだが、70年代The Velvet Undergroundはソーホーを、90年代Sonic Youthはローワーイーストサイドを、00年代はYeah Yeah Yeahsらがウィリアムズバーグを拠点としたように、今回インタビューした場所は次の流れを起こそうと静かに炎が燃えている最中なのだ。

そんな2017年のDIY会場にて、Machine Girlのライブの後に会場に来ていたオーディエンスに同じ質問をしてみると、

「ロック?そんなの知らないわよ!死んでいいわ!でも今日のライブは楽しかった!ロックね!」
「生きてる!生きてるぜーーーーー!!!」
「ロックかどうかなんて気にしてるほうが時代遅れだ。」

なんてどこまで酔っ払っているのか、はたまた危ないお薬でハイなのかわからない答えが帰ってくるので、自分は今とても面白い時代にアメリカにいて音楽活動をしているのではないかと思った。

自分がアメリカという国に憧れたのは当時オルタナティブロックと言われたBeckの熱狂的なファンになってしまったことがきっかけ。カリフォルニア出身の彼が影響を受けたものを探っているうちにカントリーロック、ポップロック、ノイズロック、ハードロック、サイケデリックロック等・・・たくさんの「ロック」がつく音楽を聴いてきた。そして、アメリカという国はその発信国であったように思う。

結果的にバンドメイトであるRyotaと出会い、自身が信じる音を追求するようになってしまったのだが、Machine Girlがヒップホップはロックだと言い切っていたように、Reagan Holidayがロックとは自身の女性性を解放する手段だと答えたように、かつての「ロック」は形を変えて、でも精神は変えずに生き続けている。それぞれの心に根付くものこそが「ロック」なのではないだろうか。

「ロックは死んだ。」生きているか死んでいるかでしか表現できないロックなら死んでしまえばいいと私は思う。その先を私自身、探していきたいしせっかくこの場所にいるので、色々なロックのあり方を見届けていけたらいいなと思う。結局は皆それぞれロックスターなのだ!

Text:narumi(LOVE SPREAD)

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