【レコにまつわるエトセトラ】ジャケをたずねて三千里 ~ 元ネタを探せ!飽くなき趣味追い人【第9回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。
そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン・新宿プログレッシヴ・ロック館店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第9回のテーマは、“ジャケをたずねて三千里 ~ 元ネタを探せ!飽くなき趣味追い人”。レコードコレクターにとって、大きな魅力の1つとなっているのはジャケットのアートワークではないでしょうか。たとえばThe Beatles『Abbey Road』のように、実在の場所を元にしたアートワークも多数存在します。そんなジャケットの元ネタについて、海外買い付けで数々の都市を実際に訪ね、有名無名を問わず幅広いレコードに精通する筆者による独自研究の一端を今回はお届けします。

ロック史を彩った名盤の数々、名ジャケットの元ネタを探る。

 

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レコ箱を引っ提げて歩く私。元ネタ探しだって足で稼ぎます。

 

ロック史を彩った名盤の数々、そんな名盤にはやはり名ジャケットが付きものではないでしょうか?

たしかに音楽は聴くものではありますが、ジャケットのアートワークが描き出すイメージもまた、一枚の作品を型作る上では切ってもきれない重要なピースなのです。
そんなアートワークには色々な物や場所が題材に使用されていて、知られざる元ネタも多数存在しているものですが、なかなかどうしてこの手の話は話題に上ることが少ないようです。まぁ気にしている人自体が少ないんでしょうけど、私は気になって仕方がない性分っていうワケです。

ということで今回は、私の長きに渡る元ネタ研究の成果をチラリと発表させていただきましょう。
ちなみに今回はイギリス編です。
かなりディープ目な情報ですので、頑張ってネットで調べても出てこないはずです。たぶん…。

 

レコにまつわるエトセトラ9(2)

車窓から見える『バタシー発電所』。

 

まずはアートワークの題材となった撮影スポットからご紹介。
実際に行けるようにポストコードも記載しておきますので、とんでもない好き者がいれば是非どうぞ。

※ちなみにポストコードとは日本で言うところの郵便番号のようなものですが、一発で「ココッ!」っていうぐらいもっと詳細な住所を示してくれる便利なヤツです。調べる時はこの番号を手掛かりにすればイージー!

 

レコにまつわるエトセトラ9(3)

みなさんご存知『Abbey Road』の横断歩道。意外と車通りが多いので、渡る時は気をつけましょう。

 

ことイギリスにおいて、撮影場所が最も有名なジャケットといえば、やっぱりThe Beatlesの『Abbey Road』。
他に良く知られた定番は、Pink Floyd『Animals』、David Bowie『The Rise And Fall Of ZiggyStardust』、Oasis『(What's the Story) Morning Glory?』などでしょうか?
他にもたくさんありますが、この辺の定番はネットで調べればすぐわかりますし、既に行ったことがある方も多いかもしれません。

とはいえ一応、場所の詳細をどうぞ。

The Beatles『Abbey Road』
3 Abbey Rd, St John's Wood, London NW8 9AY

Pink Floyd『Animals』
188 Kirtling St, Nine Elms, London SW8 5BN

David Bowie『The Rise And Fall Of ZiggyStardust』
23 Heddon St,  Mayfair, London W1B 4BQ

Oasis『(What's the Story) Morning Glory?』
75 Berwick St Soho, London W1F 8TG

 

英国ロック廃盤のトップオブトップ、そのジャケットの元ネタは…?

 

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The Dark『Round the Edges』オリジナル盤の裏ジャケット。

 

さて、ここからが本題です。
今回、私が研究の成果としてご紹介するスポットは、英国ロックの廃盤市場において、トップオブトップの座に君臨するThe Dark『Round the Edges』の撮影場所です。しかも裏ジャケの。

舞台は彼らの出身地となる、イングランド中東部に位置する都市、ノーザンプトン。ロンドンとバーミンガムの間ぐらいにある街で、ロンドン・ユーストンから電車に乗ること小一時間。あんまり(買える)レコ屋もありませんので、私も頻繁に訪れる街ではありませんが、ジョンロブとかの革靴の聖地としては有名です。

そして問題の場所は、駅から歩いて10分程度。今は住宅修繕の工務店みたいなのが建っていますが、建物左の窓枠部分を起点に見比べてみると、間違いなくここだとおわかりいただけると思います。ジャケット撮影時は、まだ建設中だったというワケですね。

 

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これが件の建物。上の裏ジャケと見比べてください。

 

ただ紹介しておいてなんですが、ほんと何ということのない建物なので、実際に行ったとて正直、何の感慨もないかも知れません…。
まぁ彼らとしてはただ地元で撮っただけなんで、そんなものでしょう。大体この手の名所って、よっぽど思い入れがないとすごい勢いで肩透かしを喰らうものですし。
ちなみにかくいう私はどうしてたかというと、建物の前に仁王立ちして、イヤホンでアルバムを爆音で聴きながら一人でブチ上がってましたけどね!

とにかく場所は確かにここなんで、(どーかしてる人は)行ってみてはいかがでしょう?
ちゃんと本人の裏付けも取っていますんで間違いないですよ!

The Dark『Round the Edge』
97 St James Mill Rd,Northampton NN5 5JP

 

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これはサンプリングというか…ヤッちゃってます。ちなみにインドのアパレル・ブランドです。服のワンポイント・ロゴにも転用。

 

次にご紹介するのはアートワークのサンプリング・ネタです。
当時のアートワークには元ネタが存在するものも多く、その多くは絵画や文献からのサンプリング。アルバムの音楽性を視覚でも表現すべく、才気溢れるデザイナーたちが過去の遺産から選り抜き新たな価値を創造したその手法は、ただのパクリとはちと違うんです。あしからず。

それでは私の研究成果から厳選して3ネタ+αをご紹介。使用されたアルバムとその元ネタを併記していきます。
アルバムの音楽的な内容については特に触れませんが、もちろん最高過ぎるが故の研究対象。未聴の方はぜひ。
あ、ちなみに原盤はいずれも目ん玉飛び出すプライス揃いです。

 

レコードの魅力を120%楽しむにはこんな探偵活動もアリ!

 

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名著『The Drawings of Heinrich Kley』より。

 

・使用アルバム
The Norman Haines Band『Den Of Iniquity』

・元ネタ
Heinrich Kley『Parlor Game』

1800年代後半から1900年代前半にかけて多くの作品を残し、かのウォルト・ディズニーにも大きな影響を与えた、ドイツ人画家兼イラストレーター、ハインリヒ・クレイの作品を使用。

 

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ただならぬインパクトを放つ名表紙。

 

・使用アルバム
Nicholas Greenwood『Cold cuts』

・元ネタ
Philippe Mora『Pork Chop Ballad』

60年代後半に渡英、スウィンギン・ロンドンの洗礼を受けたフランス出身の映画監督兼アーティスト、フィリップ・モラによる、異臭が過ぎて即撤去を命じられたと噂される名(迷)作、肉彫刻をサンプリング。
ちなみに彼は当時『OZ』等の英アンダーグラウンド・マガジン周りのコミュニティに属していたということもあり、アングラ雑誌『TIME OUT』の1970年5月16~30日号の表紙にも使用されています。

 

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ちなみにジャケットでは、ライオンに乗っているターザンはオミットされています。

 

・使用アルバム
Mighty Baby『s.t.』

・元ネタ
Alan Aldridge and George Perry『The Penguin Book of Comics』

1967年初版発行のコミック研究誌。
ビートルズ関連のアートワークや、The Who『A Quick One』のアートワークでお馴染みのイラストレーター、アラン・オルドリッジのイラスト紹介と、『Sunday Times』誌の編集長、ジョージ・ペリーによる漫画史が掲載された一冊ですが、注目は辿っていくこと128ページ目。
上の画像にある小さな挿絵なのですが、これをトレースしてアートワークに仕立てています。実際のジャケットとよく見比べてみてください。
この素晴らしい仕事は、時代を象徴する英アングラ・アーティストのマーティン・シャープの手によるもの。英アンダーグラウンド・マガジン『OZ』の立役者でもあり、Cream『Disraeli Gears』等々の数多の名作を残した彼。やはり目の付け所がシャープ。

 

レコにまつわるエトセトラ9(10)

番外編ですが、レッド・ツェッペリンが“Tour Over Europe 1980”の際に使用した有名なポスターは、英写真誌『Picture Post』の1939年発行「Vol.3 No.8」の表紙が元ネタ。

 

この他にも、とある文献に掲載された部族の写真をサンプリングしたRed Dirt『s.t.』、とある宗教画とカンタベリーの街並みを重ね合わせ創り上げたHatfield & The North『s.t.』等々、イギリスだけでもまだまだいっぱいありますが、今回はここまで。

この手の元ネタをどうやって発見したかは企業秘密ですが、レコードならではの大きいジャケットを120%楽しむにはこんな探偵活動もアリです。
1ネタ発見するのにとてつもない時間と労力が掛かりますが、見つけた時の高揚感って言ったらないですよ!
この一億総デジタルな時代にわざわざレコードを手に取ったアナタ、どうせならありとあらゆる角度から楽しんでやろうじゃありませんか! Let's Diggin'!!

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千