楽器演奏大好き芸人・西村ヒロチョと行く大人の音楽科見学《ヤマハ工場見学編》


先日公開された記事では、ヤマハが実施している参加無料の楽器体験イベント〈TOUCH & TRY〉で、ヤマハミュージック浜松店の一日店長を務めた西村ヒロチョ。せっかく浜松に来たのだし、大人の社会科見学ならぬ“音楽科見学”をしたい!と地団駄を踏むヒロチョのわがままにお応えすべく、楽器たちがどのようにして作り出されているのか、ヤマハ株式会社 豊岡工場まで見学しにやってまいりました! 少々マニアックな内容ですが、楽器好きの人はもちろん、音楽好きの人にもぜひ見てもらいたい! これを読めば、きっとあなたにとっての楽器や音楽がもっと特別な存在になるはず。

JR浜松駅から車で20分。天竜川沿いの抜け感良好な直線をひた走り、南アルプス深南部の山のひとつである黒法師岳をはじめとする赤石山脈が背景に広がる、のどかな場所にヤマハ豊岡工場はある。ここ豊岡工場は管楽器製造の拠点であり、その他にもキーボード、ミキサーなどの電子機器を製造し、開発部門も擁している。ちなみに、拠点は豊岡工場の他に、本社、掛川工場、磐田南工場、天竜工場、松之木島工場と飯田工場がある。

大人の音楽科見学(1)

 

工場に到着するなり、にやけ顔を浮かべる西村ヒロチョ。“楽器演奏大好き芸人”として約40種類もの楽器を所有する彼にとって、すでにロマンティックが止まらない状態だ。工場を案内してくれるのは、管弦打・デジタル生産部 管楽器生産グループリーダーの森さん。工場内は作業音が大きいため、森さんの解説が聞き取れるようイヤモニを装着し(優しい配慮!)いざ工場の中へ!

 

大人の音楽科見学(2)

 

まず目の前に飛び込んで来たのがベルの作業場。ここではトランペット、トロンボーン、サクソフォンなどのベルを製造していて、熟練の職人さんがベルをハンマーで叩いて成形するという伝統的な工法を見ることができる。ヤマハ内では“ハンマリング”そして“朝顔絞り”という工程が行われていた。ベルのことをヤマハでは“朝顔”と呼んでいるそうだ。

ヒロチョ「おしゃれなお酒みたいな名前ですね」

機械作業がメインのシステマティックな光景を想像していたら、いきなりのクラフト感!

 

大人の音楽科見学(3)

 

森さん「技術と力が要る作業です。サクソフォンの場合は金属の厚みが0.7ミリしかないので、熟練度が低いと破れたりベコベコしてしまいます。ただ叩いているように見えますが、叩くと金属が伸びるので、手先の感覚で微妙に調整しながら作業する必要があります。よく、“全部機械で作ってるんじゃないの?”とお客さまから聞かれることがありますが、とんでもない。機械よりも手作業の割合のほうが圧倒的に多いんです」

 

大人の音楽科見学(4)

 

もちろん、指の感覚が必要とされる作業と、反対に機械のほうが適している作業がある。単調な作業は、機械に任せたほうが安定した品質、狙いの音色に繋がる。

森さん「教育方法としても長い行程を時間を掛けて覚えさせるのではなく、行程ごとに手分けして教えます。技術は場数と経験が大事なので、行程を短く区切ることでそのぶん回数をこなすことができるんです。それによって習得までの期間を短縮することができます」

ヒロチョ「芸人でいうと、2分のライブを何回もこなして営業につなぐ感じかな」

昔は10年修行を積んで一人前と言われていたが、昨今は情勢や雇用形態も変わり若い世代のスタッフが増えているんだとか。

 

大人の音楽科見学(5)

▲芯金とベルを回しながら、ヘラを使って芯金にベルを押し当てながら絞っていく。この工法は“一枚取り”と言われ、1枚の扇型の真ちゅうを丸めてつなぎ目を溶接。高級なカスタムモデルやプロモデルに採用されている。

 

ちなみに、管楽器のU字部分はいろいろな曲げ方があるが、ここで紹介するのは加工がしやすく機械での作業が可能な“ローラー曲げ(バルジ加工)”。水圧を利用し、U字管を内側から膨らませ金型で成形するのだが、これはヤマハ発動機のマフラー加工技術を応用したもの。このバルジ加工はオートバイの世界では今はあまり使われていない技術だが、管楽器ではスタンダードな加工。このような技術交換もヤマハだからこそなせる技だ。

 

大人の音楽科見学(6)

大人の音楽科見学(7)

▲2枚の金属を溶接して作る場合は“2枚取り”という。溶接は非常に難しい作業で、火力の強いバーナーのため少しでもズレると穴が開いてしまう。

 

ヒロチョ「男はこういう工程好きですよねぇ。ずっと見ていられますもん」

 

大人の音楽科見学(8)

大人の音楽科見学(9)

▲ベルやバルブケーシングなどが完成したら、手作業でハンダ組み立て。

 

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▲管楽器に開いた穴を“音孔(おんこう)”と言うが、回転させた駒を管体の内側から引き上げることによって音孔の壁を作っているんだとか。音程と音色を左右するため、穴を開ける場所や直径、高さなどは音響学的に計算した上で決定。

 

ヒロチョ「1枚の板から筒になって穴を開けて…これはすごいなぁ。大事に末長く使おうと思いますね」

 

大人の音楽科見学(11)

大人の音楽科見学(12)

大人の音楽科見学(13)

大人の音楽科見学(14)

 

こちらはサクソフォンの朝顔管の彫刻。何と高級品には一本一本手彫りで模様を彫刻! はじめに模様をスプレーでマーキングしてから彫刻するのだが、もちろん手作業のため表情や個性はすべて異なる。まさに熟練の技とセンスが要求される、管楽器作りの中でももっとも高度な作業なのだ!

森さん「彫刻作業は誰にでもできるわけではなく、技量が認められた人でないとなれません。楽器彫刻の流れがもともとアール・ヌーヴォーから来ているため、花など命のあるものがデザインモチーフになっています。サクソフォンは頻繁にモデルチェンジする楽器ではありませんが、その際には彫刻も変更されます」

 

大人の音楽科見学(15)

大人の音楽科見学(16)

大人の音楽科見学(17)

▲美しすぎて声を失うヒロチョ。

 

ヒロチョ「彫刻を見ていつの年代のサクソフォンか言い当てられるくらいの変態になりたい」

お次はバフ(羽布)がけの工程へ。管体の表面を研磨剤を塗ったバフでキレイに磨いていく。

 

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バフがけは職人気質の作業場で、みんなが自分が磨いた楽器に誇りを持っている。実際に見ている間も、磨き上げた楽器を見ながらその仕上がりについて熱く話し合っている光景が。

 

大人の音楽科見学(20)

大人の音楽科見学(21)

 

森さん「バフは消耗品なので、4時間ほど使用するとこのくらい小さくなります。また、バフのサイズもさまざまで部位によって使い分けています。バフにつける研磨剤は5種類で、最初の段階が粗磨き用で、仕上げに近くにつれて光沢出しになります」

 

大人の音楽科見学(22)

▲4時間使用するとこんなに小さく! 真ちゅうを磨くため、使用後は真っ黒に。

 

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▲研磨剤の種類。左から粗磨き用、中磨き用、仕上げ用、仕上げ/光沢出し用、仕上げ用(貴金属向け)。

 

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大人の音楽科見学(25)

 

森さん「チューバなど大きな楽器の研磨は一苦労です。重量もありますし、一度磨いたところは触れないので磨いていくうちに持つ場所がなくなって、最後の仕上げのときには限られた部分をしっかりとした姿勢で持たないといけないので体力が必要です。みんな自分の仕事に誇りを持っていますから、仕上がりには自信を持っています!」

 

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大人の音楽科見学(27)

 

ヒロチョ「皆さん男らしくてすごくカッコいいです。でも、この方たちだけを集めた営業はすごく難しそうですね(笑)」

 

大人の音楽科見学(30)

▲バフ前とバフ後、輝きがこんなにも違う!

 

続いては塗装。塗装は大きく分けて5つの設備(洗浄設備/乾燥設備/塗装設備/焼き付け乾燥炉設備/トローリーコンベアー)から構成されている。洗浄設備では研磨剤などの汚れを完全に落とすために7つの洗い工程を行い、乾燥設備では部品に付着している水分を100度以上の炉内で完全に蒸発。塗装設備では、自動塗装機による2つのスプレーガンが上下に移動しながら塗料を吹き付ける。焼き付け乾燥炉設備では、塗装を終えた部品の塗料を硬化乾燥させる。

森さん「バフで仕上がったピカピカの状態から塗装工程に入ります。コンベアーにパーツを引っ掛けて、上がったり下がったりを繰り返すのですが、下がっているところに洗浄槽があり徐々に汚れを落としていきます。最初は強めの洗浄液で汚れを落として、最終的には純水といってキレイな水で洗い上げて乾燥させます。2階に当たるところが乾燥炉です。水滴が残っていないかも注意深くチェックします。水滴が残っていると、乾燥炉に入れたときに水滴の形でシミになってしまうので」

 

大人の音楽科見学(28)

▲トランペットを塗装しているところ。後ろに水が流れているが、これは“ウォーターカーテン”と呼ばれ、連続的に塗料を塗布しているため空気中の塗料を流している。

 

大人の音楽科見学(29)

▲子供のような眼差しで塗装工程を眺めるヒロチョ。

 

塗装は自動車と違って透明のため塗り直しができない。ホコリがつくとすべて塗装を剥がし作業し直さないといけないため、細かくチェックする必要がある。

ヒロチョ「塗装担当の人は相当のプレッシャーですね」

森さん「しかも、塗膜は7ミクロンという薄さ(自動車は数10ミクロン)なのでシビアな作業です。自動塗装機で塗る前に“手吹き”といって補正塗装します。自動塗装機で塗りにくい、塗料が届きにくい場所を手吹きでカバーします。一般的には自動機で塗ったあとに、塗れていない箇所を手吹きでカバーするのですが、手吹きが先のほうが音、仕上がりともに良いので、ヤマハではこの順番で塗装を行なっています。もちろん、モデルによってはすべて手作業で塗装を行うものもあります」

 

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大人の音楽科見学(32)

 

塗装が終わったらいよいよ組み立て。木管楽器と金管楽器では作業の種類が異なり、金管楽器はピストンやトロンボーンのようなスライド、抜き差しなど、水平移動とスムーズに動くような調整が多いのに対し、木管楽器はパーツが多いためキーなどの “組み付ける”作業が多い。

 

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大人の音楽科見学(34)

▲木管楽器の組み上げは女性スタッフが多い。理由は、力強さではなく繊細な作業がメインだからとのこと。

 

ヒロチョ「キャビアを詰める作業も女性じゃないとできないみたいですね。男性だと力が強いから卵が潰れてしまうそうです」。と博識っぷりを披露。

 

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▲爪楊枝の先に薄い紙をつけて、タンボと管体の間に隙間が空いていないかチェック。この薄い紙ほどの隙間も許さない厳しい検査を行う。

 

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▲左が皮製のタンポで、右がブラダー(腸)のタンポ。他にもコルク製のタンポもあり、同じように見えて実はいろいろなパーツが違う。

 

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▲組み立てを終えた楽器はすべて検査してチューナーで音程をチェック。作業場からはさまざまな管楽器の心地良い音色が聴こえ、工場にいることを忘れてしまう。

 

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▲楽器とタンポの間に挟み、タンポ調整に使用する治具。さまざまなサイズがある。

 

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▲オーダーメイドのスペシャリストである大橋さん。業界では知る人ぞ知る人物。すべて金材で製造するオーダーの場合、自動車よりも高額になることもあるんだとか。

 

大人の音楽科見学(41)

▲こちらはサクソフォン組み立て調整の最終検査。管体の中に細い蛍光灯を入れ、音孔とタンポのわずかな隙間から漏れる光を目で確かめて息漏れをチェック。光の漏れ方や方向によって隙間の状況を判断して調整するんだとか。すごすぎる…。

 

大人の音楽科見学(42)

▲サクソフォンの完成品を検査。スタッフの音色を聴いて“めちゃくちゃ上手い!”と感動するヒロチョ。実はヤマハ吹奏楽団に所属しているんだとか!

 

最後にリコーダーの製造現場も見せてもらいました!

 

大人の音楽科見学(43)

▲リコーダーと一口で言ってもさまざまな種類がある。馴染み深いのはソプラノですね!

 

森さん「原料を高温で溶かして、型の中に高い圧力で圧縮して成形します。それをカットして組み立てるのですが、基本的に接着剤は使わず、超音波の力を使ってそれぞれの部品を溶着します」

ヒロチョ「樹脂がまるでアイスクリームのチョコトッピングに見えますね」

 

大人の音楽科見学(44)

▲プラスチックリコーダーはABS樹脂を原料にしている。ABSとはさまざまな分野で使われている汎用性の高い樹脂で、耐久性に優れ最高級の木材に音質特性が近いという。また一部のモデルにバイオマス由来の樹脂を使うことで、二酸化炭素の排出量を抑える努力も行われている。

 

大人の音楽科見学(45)

▲機械からの空気の吹き付けで、正常に音が鳴るかをチェック。

 

最終検査を終え、長い旅を終えた管楽器たち。何気なく愛用していた楽器が、長年培われた技術、そして多くの職人さんによる想いによって製造されている光景を直に見て、ヒロチョも胸を打つものを感じたようだ。

ヒロチョ「丹精込めて作っている様子を見て、音程とかピッチが安定している理由がわかりました。ヤマハのサクソフォンを使っていて感じるのですが、これだけの技術と職人さんが集結すればそれは一流の楽器が作れるなと。興味があるもの、好きなものがどうやって作られているのか直接見る機会はないけれど、職人さんの表情を見ていたら甘えていたなと(笑)。職人さんは1日に数本の楽器を作るけど、お客さんにしてみたら“一生の1本”なんですよね。工場見学に行く機会とか、楽器に触れる機会を作る紹介人みたいな芸人になりたいですね。作り手と吹き手をつなぐ、架け橋のような存在になれれば、いろいろな世界を知ってもらうことができると思うので」

 

大人の音楽科見学(46)

▲工場を案内してくれた森さん(右)とマーケティング&セールスグループの村上さん(左)と。

 


 

読者プレゼント

こちらの記事をお読みいただいた読者の中から抽選で3名様に『こうして管楽器はつくられる【開発編】』をプレゼント!!どなたでもご応募いただけます。
 

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ウィーン・フィル管楽器絶滅の危機を救ったヤマハ管楽器開発陣の努力の舞台裏を紹介。

■書籍の詳細はコチラ
https://www.ymm.co.jp/p/detail.php?code=GTB01097516


応募期間:2020年3月12日(木)~ 3月26日(木)受付分まで。
当選者の発表は発送をもって代えさせていただきます。
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Text&Photo:溝口元海

 

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