邪道?それとも革命!?全然アリじゃん!落語とエレクトーンのコラボ「E~落語」 高座編


江戸古来の伝統芸能「落語」と、三味線でも太鼓でもない洋楽器の「エレクトーン」がコラボした「E~落語」。いよいよ高座の本番だ。遊子さんの「初天神」、竹千代さんの「反対俥」に山﨑雅也さんのエレクトーンが加わり化学反応を起こすという、前代未聞!?の高座をレポートする。

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目の前には親子が歩く姿と広がる青空 エレクトーンが魅せる新しい風景

E~落語(1)

 

一席目は三遊亭遊子さんの「初天神」だ。この噺の聴きどころは、親子のコミカルな会話。大人びた子供が父親に甘え、父親が子供に翻弄されるというよくある風景を面白おかしく描いている。
次から次へと繰り出す子供の要求に合わせて変わる場面展開、会話や所作で表現する子供の情景など、なかなか技術が問われる演目だ。山﨑さんも「意外と難しい」と打ち明けている。
子供のテンションや父親の感情の起伏に、エレクトーンがどう斬り込んで来るのだろうか。

 

E~落語(2)E~落語(3)

 

「一席おつきあいをいただきたいと思いますが…。えー、落語にはいろんな物語がございますが、中でもお子さんが出て来る物語がございます。落語に出て来るお子さんですから、大層こまっしゃくれた生意気な奴が多いんでございますが…」からの、親子の小噺をマクラに振り、羽織を脱いで本編へ。

「羽織なんて着ちゃって、おとっつぁん、初天神に行くんだろ?連れてっておくれよ、ねえ、連れてっておくれよう」から始まる父親と子供のやりとり。と、ここでエレクトーンが。日本昔話っぽいサウンドトラックで、どこかとぼけているのも良い感じ!

 

E~落語(4)

 

初天神へ出かける親子。子供のテンションが上がっていくシーンだ。エレクトーンが入ることで、どことなく父親も楽しんでいる感じが伝わる。なるほど、わがままを言う子供が煩わしいだけかと思っていたのだが、なんだかんだ言ったって子供がはしゃいでいる様子を見るのは、親もうれしいものなのだ。
噺のシーンや遊子さんの動きに合わせて、山﨑さんがリズムや音、メロディーに変化を付けていく。この感じ、ラジオドラマを聴いているイメージといえば伝わるだろうか。そして、落語家の間を壊さずに効果音まで入れるとか、山﨑さん天才か。

紆余曲折の末、凧揚げのシーンへ。ほとほと疲れ果てた父親の表情がおかしい。しかし、いざ凧をあげようとなるとにわかに元気が満ちて来る。「いい風が吹いてきやがった!」と風を読み、糸を繰り出して…。

「うわーーい、上がったねえ」「すごいだろう?俺ぁな、子供の時分から凧揚げの1等賞だったんだぞう」「すごーい、すごいねえ」
凧が大空へ上がって行く様子を、山﨑さんが音楽で表現。壮大なサウンドトラックに、青空と高く上がる凧の様子が見えるよう!遊子さんによる親子のやりとり、大空に高く揚がり小さく見える凧、空き地の広がりや人々が空を見上げている光景までが、鮮明に浮き上がる。これが音楽の力か。

 

E~落語(5)

 

「あーあ、こんなんだったらおとっつぁん連れて来なけりゃよかった」。サゲ(落ちをつけて終える)から高座を降りるまでを計算して、音楽を作っている山﨑さんに驚き。落語という芸能を理解していないとできない芸だろう。お見事!

 

まるでスラップスティック・コメディ!ドタバタ喜劇を粋に仕上げるエレクトーンに拍手

E~落語(6)

 

2席目は桂竹千代さんの「反対俥」。羽織なしの袴で登場。お武家様が登場する噺や、所作がダイナミックで着物がはだけてしまう演目には袴をつけることが多い。今回の場合は後者だ。
この噺はとにかく動きが大きく、サゲまで一直線に突き進む。駆け抜ける中にも落語家独特のフラ(落語家独自のおかしみ)が入るため、山﨑さんも「苦労した」と振り返っている。
竹千代さんのエネルギーに、山﨑さんがどう食らいつくのか。筆者も楽しみにしてきた演目だ。

 

E~落語(7)E~落語(8)

 

噺の始まりは、明らかに病人風情の車屋と俥に乗りたい男の会話。「ぐえっほごっほごっほ、うげえっほ(咳き込み)」「おい車屋、大丈夫かい」「大丈夫です。今、1日のうちで一番体調が良いですから」

エレクトーンのとぼけた音が秘めやかに入る。コメディ映画の冒頭のような雰囲気だ。この先の「お約束」展開に期待をもたせてくる。

梶棒をあげたりおろしたりするシーンでは、竹千代さんの動きに合わせて効果音が!エレクトーンって何でもできるんだな。「トムとジェリー」やディズニーアニメのような演出だ。

 

E~落語(9)

 

ようやく速そうな車屋をみつけた男。「韋駄天の熊ってんだ!」と、ここでスピード感のあるテンポの速いジャズサウンドへと転換(音楽のことをよくわかってない筆者)。車屋が男を乗せて、疾走スタート!

「ほう!こりゃ速えな!上野の駅、間に合うかもしれねえな!」「お客さん、こんなんで速いなんて言ってちゃ困りますぜ。見せましょうか。音速の、向こう側(ドヤ顔)」
竹千代さんの人力車のスピード、ジャンプ、驚愕、オラオラ感にエレクトーンが絡まり合い協奏する。スラップスティックのコメディ映画を見ているよう。楽しい!思わず拍手!楽しさのスピードに筆者の語彙力が追いつけ。ところどころ効果音が巧みに入って来る。エレクトーンは万能。

 

E~落語(10)

 

フェイントにお付き合いして噺は一気にサゲ。気持ち良い間で余韻とオチをつける山﨑さん。天才か(2回目)。ブラボー!

 

「噺に色がついた」「面白い掛け合わせ」落語×エレクトーンの可能性は無限大

 

高座後は、今回のE〜落語についてエレクトーンの山﨑雅也さん、演者である三遊亭遊子さん、桂竹千代さんにお話を伺った。

 

E~落語(11)

 

――今回の感想を聞かせてください。

三遊亭遊子(以下:遊子)
:本来落語に入る楽器は三味線と太鼓、拍子木などの和楽器なのですが、エレクトーンとのコラボは初めて。最初は不安でした。でもやってみたら、こんなにもテンションがあがるのかっていうくらい上がりましたね!自分が絵の中に入った感覚。エレクトーンで音楽が入ることによって、これまで自分が考えていた風景に明るい色合いに変わるんです。音楽が入ることによって、細かい背景が見えてくる。山﨑さんのエレクトーンが合わせてくれるので “金坊をもっとぐずらせてみよう”とか、お互いに乗っかって合わせていくのが楽しくて面白くて、いつもより若干オーバーになったかな。でも、それが恥ずかしいとは全く思わない。今後の自分の落語の参考にしたいですね。

桂竹千代(以下:竹千代):音楽で全く印象が変わるんだな、と改めて驚きました。車屋が疾走するシーンでは早い雰囲気の曲を入れてもらったのですが、噺とぴったり合致して良い高座になったと思います。エレクトーンという、落語に異質なものが入ったわけですが、邪魔になることなくwin-winな関係性。今回の演目は、緩急を音楽で表現できたら面白いのではないかと選んだんですが、対比が楽しくできていて良かったですね。
落語というのはできるだけ無駄を削いで作り上げた芸なのですが、それが今の人たちには古いと感じてしまうかもしれない。今回のような斬新な掛け合わせで、落語を知らない人にも面白いと感じていただけるとうれしいですね。

遊子:兄さんの「反対俥」の印象が変わりました。この噺ってライブ感が強くて、目の前のお客様をぐいぐい引っ張り込む演目なんですが、音楽が入ることでイタリアン喜劇みたいになって。物語としてもこんなに面白いんだって発見がありました。

竹千代:そうそう。「トムとジェリー」みたいな感じ。

山﨑雅也(以下:山﨑):「トムとジェリー」を意識したところはありますね。遊子さんや竹千代さんのようにいつもの高座と違った楽しさがあったと言ってもらえると、演奏家冥利につきます。ありがたいことです。
「初天神」では僕が合わせていったり、反対に僕が引っ張っていったりなど、そのバランスが難しいと感じました。「反対俥」では所作に合わせて効果音を入れたのですが、タイミングはバッチリだったかなと。処理能力が上がったなと自分で感じています。

――打ち合わせは一度きりだったそうですが、やりずらさとか不安はありましたか

遊子
:考えてみればおかしいですよね。本来は、ある程度の時間稽古しなくちゃいけないものなのに。

竹千代:まったく、乱暴な話ですね(笑)

山﨑:仮に1年間くらい稽古を重ねるとどう変わるのかという興味はありますね。今回は、即興性の楽しさがあったのかと思います。

遊子:もともと僕は、大阪芸術大学で舞台芸術というお芝居の勉強をしていたこともあり、こだわりたくなる質で完璧主義。もっと感覚的にやってみたいと思い、落語の世界に入りました。今回の「初天神」も感覚で進める噺。自分が楽しくできる好きな噺を選んだのですが、僕の感覚に山﨑さんが乗ってきてくれるのがすごい。こっちからも合わせにいきたくなっちゃう。ここで落ちたらセリフを入れようと思った、その瞬間に落としてくれる。このタイミングがピタッと合うと、ものすごく気持ち良いんです。気持ちよくて15分のネタが21分にもなっちゃう。やりずらさということは、全くなかったですね。

竹千代:私もやりずらさは全くありませんでした。こちらの主導に山﨑さんがぴったりついてきてくれて、私自身のリズムが崩されることも全くなかったです。一度落語を聴きにきてくれていましたけど、その時にリズムをつかんでくれたのかな。

山﨑:そうですね。リズムや間を知りたいと思って聴きにいきました。

竹千代:すごいですね!1回聴いただけでわかってしまうんですね。

――今後挑戦してみたい演目があれば教えてください。

遊子
:ミステリーや怪談も合うと思うのですが、僕はあえて「庭蟹」を。洒落のわからない旦那に番頭がシャレを教えるという、ただそれだけの噺なのですけど、エレクトーンの音楽でものすごくバカバカしくしてもらいたい。どれだけ見世物として盛り上がるのかを体験してみたいですね。

竹千代:怪談とか人情噺に挑戦してみたいですね。

遊子:僕は、兄さんの自作の噺がどんなふうになるのか聴いてみたいです。

竹千代:私の自作の噺は漫談に近いものなんですけど、どうやって音楽を入れてくるのか興味がありますね。究極のライブになるのでは。山﨑さんは、やってみたいジャンルとかあるんですか?

山﨑:漫才やコントなどいろんなジャンルがありますが、僕は落語が好きですね。この「E〜落語」の楽しさって、落語とエレクトーンという、一人で完結できる者同士がコラボレーションしているところに面白さがあるのではと感じています。そのうえで、人情噺やどんでん返しがあるものなど、感情の起伏が激しいものをやってみたいですね。いろんなジャンルに挑戦して、バリエーションを増やしていきたいと考えています。

江戸時代から継承され続けてきた伝統芸能「落語」。大衆芸能としての顔もあるこの芸能は、時代やニーズに合わせて変化する部分があったからこそ、現代まで伝わってきたといえるのだろう。
エレクトーンによる音楽と落語の融合は、いつもの寄席では経験することのないライブの刺激を容赦無く浴びせてくる。新たに落語を聴く人はもちろん従来の落語ファンにとっても、これまでにない快感となるに違いない。
予想できない化学反応を容赦無く魅せてくる「E〜落語」から、落語の新しい時代が始まりそうだ。

 

E~落語(12)

 


 

高座の模様はコチラでご覧いただけます。

E~落語【エレクトーン×落語】


<Vol.2-1(オープニングトーク)>



<Vol.2-2(「初天神」三遊亭遊子)>



<Vol.2-3(「反対俥」桂竹千代)>



<Vol.2-4(エンディングトーク)>

 


 

Text:櫻庭由紀子
Photo:溝口元海(be stupid)