アメグラ、ディズニー、ドレミの歌……。わが青春のニュー・サウンズ。【TALK ABOUT ニュー・サウンズ】


今年48年目を迎えた「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」。中高の吹奏楽部や、一般バンドなど、演奏会で吹いたことのある人も多いのでは? あまりにも身近すぎて、ニュー・サウンズのことを深く知らないという人のために、あらためてその歴史を振り返ってみたい。

 吹奏楽経験者なら、誰もが知っている「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」。ヤマハミュージックエンタテインメントより毎年発売されている、吹奏楽用の楽譜集で、ディズニー作品や映画音楽など、定番の名曲から最新のヒット曲まで豊富なレパートリーも魅力のひとつだ。

 吹奏楽部出身の筆者は、札幌の中高時代、ひたすらコンクールの全国大会を目指し、1年の半分以上を費やして課題曲と自由曲を練習する日々を送る一方、演奏会や地域のイベントなどでポップス曲を披露する機会も数多くあった。その時に必ずといっていいほど演奏していたのがニュー・サウンズで、吹いていてとても楽しかったのをよく覚えている。「どの曲も、演奏していてウキウキしたなぁ……」と感慨にふけりながら、何の曲を演奏したか、音源を検索しながら記憶をさかのぼってみた。

<中1>
第16集(88年)

NSB(1)

『ハイ・プレッシャー』/MALTA作曲・森田一浩編曲
『タンゴ・ア・ラ・カルト』/森田一浩編曲

<中2>
第9集(81年)

NSB(2)

『ディズニー・メドレー』(『ミッキーマウス・マーチ』『小さな世界』『ハイホー』『狼なんかこわくない』『いつかは王子様が』『口笛吹いて働こう』『星に願いを』/岩井直溥編曲

第7集(79年)

NSB(3)

『サウンド・オブ・ミュージック<メドレー>』(『ドレミの歌』『ひとりぼっちの山羊飼い』『さようなら、ごきげんよう』『エーデルワイス』『すべての山に登れ』)/岩井直溥編曲

<高1>
第19集(91年)

NSB(4)

『ドレミの歌』/星出尚志編曲

第19集(91年)
『アメリカン・グラフィティーⅢ<プレスリー・ヒット・メドレー>』/岩井直溥編曲

<高3>
第15集(87年)

NSB(5)

『ジャングル・ファンタジー』/岩井直溥編曲

第21集(93年)

NSB(6)

『アメリカン・グラフィティーⅤ<メドレー>』(『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』『おお!キャロル』『ジョニー・エンジェル』『ブルー・レディに紅いバラ』『恋はフェニックス』『バイ・バイ・バーディー』)/岩井直溥編曲
『マンボ・ジャンボ』/岩井直溥編曲

 いやー…、どれもこれも懐かしい……! 曲目を洗い出すだけでも楽しい作業だった。ちなみに、中1の時の『ハイ・プレッシャー』は、自分で吹いたわけではなく、給食準備中の音楽だったことを思い出した(笑)。毎日お昼になると流れていたので、とてもよく覚えている。放送局、なかなかいいセンスしてたんだなぁ……。
 高校時代に何を演奏したか、記憶が曖昧だったので、吹奏楽部の同期LINEで「ニュー・サウンズ、何やったっけ?」と投げかけてみたら、上記の曲目が上がってきたのだが、「定演でやった『ジャングル・ファンタジー』の衣装、クソださかったよね〜!(笑)」「ドラムソロをミスった苦い思い出がよみがえる……」「うそー! 誰も気づいてなかったよ!」などと、学生時代に戻ったかのように大盛り上がり。こういう話題でいくつになっても仲間たちと楽しい会話が出来る吹奏楽には、ほんとうに感謝しかないくらい楽しい思い出だ。

 

NSB(7)NSB(8)

▲札幌白石高校吹奏楽部3年生の時の、定期演奏会パンフレット:私物

 

ニュー・サウンズはどのようにして誕生したのか?

 

 このように、自分の中高時代にはすでに当たり前のように存在し、数々の楽しい演奏機会を与えてくれたニュー・サウンズ。72年に第1集が発売されたが、そもそもこのシリーズは、どのようにして誕生したのだろうか。2000年に作られた『NEW SOUNDS IN BRASS Official Handbook』の「ニュー・サウンズ・イン・ブラスストーリー」に掲載されているライナーノーツより引用してみたいと思う。
 

●レコードの制作にあたって
 このレコードは、バンドを愛する多くのヤング達の為に企画・制作しました。学校で、職場で、又気のあった仲間達で楽しく聞き、演奏してもらおうと意図したものです。それは従来のかたくるしい数々のバンド曲からたまには抜け出し、思い切って楽しみたいと願うヤングへの贈り物です。
 誰にでも親しまれた不滅の名曲の数々、我国のポピュラー界をリードするトップ・プレイヤーのすばらしい演奏、トップ・アレンジャーによるハイセンスな編曲、そして最高の録音技術によるダイナミックなサウンド。これらが一体となって出来上がったぜいたくなレコードです(中略)楽器の編成は40名というごく一般的な編成です。どこのバンドでも無理なく、それでいてすばらしい演奏効果のあがるように、各編曲者のこまかな配慮がうかがえます。これからのバンドコンサートのプログラムが、より一層カラフルに、バラエティに富んだ楽しい内容になるよう皆さんで企画してみてください。

●吹奏楽でポップスを…岩井直溥
「吹奏楽でポップスを!?」つい数年前までは殆どの皆さんがそう思って居られたように、野球の応援や行進等でしか一般の方々に接することがないと思われていた吹奏楽。私たち専門家でさえ、たまに演奏会に行けば、全部難しい曲や古典の大曲ばかりを聞かされてくつろげなかった吹奏楽。そこにはよく云われる「イージー・リスニング」の音楽、つまり楽しく演奏出来又、気楽に聞ける音楽は殆ど無かった吹奏楽。
 そうしたある日静岡にある「コンセール・リベルテ」と云う市民バンドでポップスをやりたいと云うことからヤマハの友人と知り合い、だんだんと話しが進みこのポピュラー音楽を吹奏楽の世界に普及させようと云うことになり、最初、多少不安に思っていた私もこの新しい分野の開拓に非常な魅力を感じ、「一つやってみよう」とこの部門の編曲を始めて数年、今ではどこの学校、職場あるいは市民バンド等でも必ずこのポピュラー曲が演奏される程に定着しつつある吹奏楽。
 このように発展してきた吹奏楽でのポップスにも新たな課題が生まれてきたのです。それはクラシック音楽と違いポピュラー音楽では指揮者及び演奏者によるある程度の自由な発想の展開が好ましいのですが、これに対する認識が不足していることで、このことは音楽を上品にも下品にもする大事な問題点なのです。そこで少しでもその参考になるようにと数年前から始められたのがヤマハで出版され東芝EMIでレコーディングされているこのニュー・サウンズなのです有名なスタジオ・ミュージシャン諸氏にも手伝っていただいているこのレコードは、その意味で吹奏楽ファンには大変参考になることと思いますし又、一般の方々にも十分楽しんで頂けると思います。


 「ヤング」という表現に時代を感じる。そして、今でこそ吹奏楽のポップス曲は数え切れないほどあるし、楽譜出版社もたくさんあるけれど、この文章を読んでいると、70年代の吹奏楽界は、かたくるしい大曲が大半だったということがわかる。吹奏楽ファンならまだしも、一般のお客さんの前でこういった曲を演奏しても、「何だか難しくてよくわからない」「つまらない」「知らない曲を聴いていても眠くなる」といった声も多かったのではないだろうか。そんなとっつきにくかったであろう吹奏楽の敷居をグッと下げてくれたのが、このニュー・サウンズなのではないかと、ライナーノーツを読んで改めて感じた。

 

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▲2000年「ニュー・サウンズ2000」発売時の購入者特典:スタッフ私物

 

ニュー・サウンズから、吹奏楽にエレキベースが普及

 

記念すべき第1集には、ビートルズの『オブラディ・オブラダ』『イエスタデイ』『ヘイ・ジュード』(すべて岩井直溥編曲)など、10曲が収められている。70年代前半に吹奏楽用にこのような楽譜が登場したのは、相当画期的なことだったのだろう。
 今でこそ吹奏楽の演奏にエレキベースを使用するのは当たり前のことだが、岩井氏によると、これもニュー・サウンズの影響のようだ。昔は、「『エレキベースを持ったバンドが同じステージに乗るなんてことはとんでもない』といった批判があった」と、同ハンドブックに岩井氏の証言がある。今ではどの学校にもエレキベースやアンプ類があるが、「ニュー・サウンズの影響じゃないでしょうかね」そして「コンクールの課題曲にポップスがあったからということもありますけど」と岩井氏は続けており、ニュー・サウンズが吹奏楽界にさまざまな新しい風を吹かせたてきたことが伺える。

 最新作の第48集も、生誕250周年の『ベートーヴェン・ポップス・シンフォニー』『アナと雪の女王2メドレー』『Official髭男dismメドレー』など傑作揃い。ベートーヴェンからアニメ、ヒゲダンまで同列に並ぶ楽譜集などなかなかないだろう。

 時代ごとに、それぞれの青春を彩ってきたニュー・サウンズ。あなたのお気に入りはどの曲だろうか?

 


 

【INFORMATION】
『ニュー・サウンズ・イン・ブラス2020』
東京佼成ウインドオーケストラ

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2020.05.13 Release
¥2,700 (+tax)
UICZ-4471

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Text&Photo:梅津有希子