【レコにまつわるエトセトラ】レコード都市伝説 ~ 信じるか信じないかはあなた次第、あなたの知らないレコード界の暗部【第12回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第12回のテーマは、“レコード都市伝説 ~ 信じるか信じないかはあなた次第、あなたの知らないレコード界の暗部”。中古レコードにも、ブランドバッグなどと同じように「偽物」が存在するのはご存知でしょうか?実は、それこそ一目でわかる粗悪なものから、専門家でも判別が難しい精巧なものまで存在する世界なのです。今回はそんな精巧な偽物がどのように生み出されているのか。そして、マニアックなレア盤の値段はいったい誰が決めているのか。という2つの視点から、レコード界のディープすぎるダークゾーンに切り込みます…。

レコード界における「都市伝説」、信じるか信じないかは…

レコにまつわるエトセトラ(2)

 

みんな大好き「都市伝説」。
とはいっても「口裂け女」(古い!)みたいなのじゃなくて、やっぱり皆さんがお好きなのは「陰謀論」じゃないでしょうか。某番組の影響がすごく大きいと思いますが、今どきはフリーメイソンとかイルミナティとかの秘密結社ネタが特に人気だと思います。 

こと音楽の世界でもその手の組織との繋がりはよく噂されるもので、マスに向けて大きな影響力を持つミュージシャンだからこそ、その手の組織からお声が掛かったりするのでしょう。

マイケル・ジャクソン、マドンナ、レディ・ガガ等、メガ・セールスを記録したポップ・アイコンたちとイルミナティとの関係はまことしやかに噂されますが、60年代組のロック・スターたちと黒魔術(結社)、そしてその中心人物にしてカルト・アイコン、アレイスター・クロウリーとの関係は、もっと明確でズブズブです。

自身の作品『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』にクロウリーの姿を載せたビートルズ、かつてクロウリーの旧家(すでに火災により焼失)に住んだジミー・ペイジ、魔術に傾倒しその死を予言された(そしてその予言は的中した)マーク・ボラン、自ら地下鉄に身を投げ打った「悪魔に魂を捧げた男」ことグラハム・ボンド…挙げ出せばキリがありません。

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

最上段左から2番目、坊主頭の男がアレイスター・クロウリー。

 

ということで、今回のお題は「都市伝説」。
しかもあんまり表立って言われない(言えない)ような「レコード界の暗部」にスポットを当ててお話させていただきましょう。

ここでちょっとあらかじめお断りしておきたいのは、さすがに直で書いたらまずそうなものに関しては少しフェイクを入れさせていただいております。こっちは身分を明かして書いてますので、狙われたりしたらたまったものじゃありません…くわばらくわばら。

まぁとにかく話してみましょうか…あ、これは言っとかないと。

信じるか信じないかはあなた次第です。

 

 

CASE1:マーケット撹乱の主犯格、フェイク・アセテート密造人「Mr.D」

レコにまつわるエトセトラ(3)

【機密画像公開】ここからの画像は、委員会が押収したMr.D製フェイク・アセテートの実物です。この恐ろしいまでに精巧な作り、あなたは見極められますか?

 

あなたがお持ちのアセテート盤、それは果たして本物でしょうか?

アメリカ南部、メキシコとの国境近くにある某街の外れにある、なんの変哲もないよく風景に馴染んだ小さな町工場。それがここ数年の間、レコード廃盤市場を撹乱する、フェイク・レコード密造工場であることは知られていません。

工場とはいっても、ほんの数名で贋作制作から販売までを行っており、その主犯格が「Mr.D」と呼ばれる男です。
彼がメインで手掛けるのはアセテート盤のフェイクですが、そこには実に悪意に満ちた理由があります。

まず世の中に蔓延するフェイクで多いものは、レギュラー盤を元に作られたテスト・プレスでしょう。大半のフェイク・テストの作りはお粗末なもので、ラベルを剥がして無地のラベルに貼り替えるか、ラベルの上にそのまま貼り付けるかで作られています。
まぁそもそも見た目がすでに怪しいので、実物を見れば一発で分かるものも多いんですが、今の世の中ネットでの売買も多いのでやはりチェックすべきはプレス時期です。
ちょっと本筋とズレるので細かい話はおいおいするとして、プレス時期を判断する、つまるところ決してイジれないマトリクス等の情報をチェックして、本物のテスト・プレスであった場合との整合性を取れば良いだけの話なんです。

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

 

ただ問題のアセテート盤、こいつは実に厄介です。元々大半のアセテートはデッドワックス部分に刻まれるマトリクス等の情報は乏しく、真贋の判断基準はラベル面と収録音源、そしてコンディションになるというワケです。
Mr.Dという人間は非常に巧妙かつ明晰な頭脳の持ち主で、フェイク製造においてある種の「コロンブスの卵」的発想を持ち込んだのです。それが「リアル・フェイク」と呼ばれる手法で、簡単にまとめると「可能な限り当時のものを使用する」という密造手法になります。

まず最も重要なラベルに関しですが、かつて彼は南アフリカでアセテート用空ラベルのデッドストックを大量に入手しており、それがフェイク密造のアイデアを思い付いたきっかけになったとも言われています。
南アフリカは英連邦加盟国ということもあり、英国からのエクスポート盤(輸出盤)も多く流通した国。彼がそれらの残存ラベルを廃工場から大量に入手できたのも、英国本国の管理状況下では起こり得ないような、まさに「隙」を狙い澄ました入手手段だったのです。

次にラベルに表記されるテキストですが、これは至ってシンプル。当時製造されたビンテージ・タイプライターを使用。インクももちろんビンテージを使用しており、ある意味本物そのものと言えるでしょう。

 

レコにまつわるエトセトラ(5)

 

収録音源に関しても抜かりはありません。自身が保有するカッティングマシーン(恐らく米Westrex製)を使用して、新品アセテートにダイレクト・カットしているのですが、音源のチョイスが絶妙。
元々コレクターでもあった彼の音楽に関する知識は豊富で、通常盤に収録されている音源だけではなく、現在までにリリースされたCDのボーナス・トラックやブートレグCDに収録されたレア音源を流用。
アセテートはその性格上、通常盤とは異なる音源を収録しているケースもある(そして多くのコレクターもそれを期待する)のですが、裏を返せば、通常盤には存在しない音源を収録することによって、巧妙に「本物であることが担保されているアセテート」を装えるという具合です。

そしてコンディションに関しては、お察しの通り大半は正真正銘の当時モノを使用していますので、経年劣化具合もカンペキ。唯一アセテートの素材自体は現行のものを使用しているのですが、そもそも本物のアセテートもプレイ回数の少ない保存状態が良いものも多く、たとえ盤面が妙に綺麗でも疑惑の念は抱かれづらいのです。
さらに音質面に関しても、つかまされた人はまず比較対象となるものを持っていないので、カットの甘さなんていうのも問題になりません。

 

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多くの知識を持つコレクターほど、足元すくわれるこの巧妙な捏造アセテート。アセテートというロマンに当てられて抱く、「まだ見ぬ音源を聴いてみたい」「誰も持っていないものを保有したい」というある種、純粋な蒐集欲がフェイクを目の当たりにした時に抱いた微細な疑念を自ら覆い隠してしまうのです。

本当に末恐ろしいこのフェイク・クライム、近年被害が多発しているということもあって、秘密裏に調査委員会が発足されています。委員会は独自に調査を進め、被害拡大を防ぐためにもフェイクの回収を行なっています。その他にも、「テストプレス・リテラシー」向上のための啓蒙活動も進めています。

また、ここまで読んで「で結局どうやって見分けるのよ?」って思われた方も多いと思いますが、残念ながら皆さんに噛み砕いて説明できるような明確な判断方法がないのです…。
一枚一枚のアセテートの来歴の追跡、そしてMr.Dが唯一残した痕跡とも言える、手書き文字部分の特徴等から選別していくしか手段がありません。だからこそ調査委員会というものが存在しているのです。

最後になりますが、工場の場所から密造方法まで、なぜここまで分かっていながら直接手が出せないのか。それは背後の組織に起因しますが…これ以上は私もお話しできません。ご理解ください。

とにかくMr.Dとの戦いに打ち勝つためには、私たちコレクター同士の団結が必要最低条件なのです。
共に戦いましょう!

 

CASE2:市場価格からポコラの星まで…全てを決するサイケ四神評議会

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『Record Collector Dreams』

 

中古レコードの値段って誰が決めているんだろう…って、ふと疑問に思ったことはないですか?
正確には値段というか市場での相場の話ですが、そりゃあ誰もが店やオークション等で売買が繰り返されて徐々に値段が決まっていくという市場の原理、いわば「神の見えざる手」的なヤツが決めていると思うでしょう。

とはいえ、そうだとすると1つの疑問が残るはずです。そう、ニュー・ディスカバリーなレコードの値段です。
特に自主盤が多いサイケデリック・ロックの世界では、新たにレコードが発掘された時には誰かしらが値段を決めている、それは容易に想像できると思います。

じゃあ、誰がそれを決めているのか?
それは発掘者でもなく、ましてや一介のレコ屋やコレクターたちが各々の言い値で決めているわけではありません。
そう、「神の手」は実在するのです。

発掘盤はもちろん、聖杯(Holy Grail)とかジェム(Gem)とか呼ばれちゃうような、サイケデリック・ロックを中心としたいわゆる超絶レア盤の価値相場を牛耳るのは、「四本の手」と呼ばれる神たち。そして彼らが集い、様々な物事を決するのが「サイケ四神評議会」と呼ばれるものです。

「四本の手」と呼ばれる4人の神は、ヨーロッパから2名、アメリカから1名、そしてここ日本からも1名選出されています。
世界中の廃盤情報は彼らの下に集約され、日々行われる様々な情報操作によって、彼らが市場をコントロールし続けています。その一例として、一般コレクターへの価格統制のために作られた、ハンス・ポコラ氏(彼はもちろん「手」ではありません)によるかの有名なコレクターズ・ガイド本『Record Collector Dreams』(俗称ポコラ本)が存在するのです。

彼らにより長きに渡り(良くも悪くも)保たれてきた市場バランスでしたが、昨年「四本の手」の1人が急逝。そして後継者も決まらないまま、経つこと半年余り。サイケ界の均衡が崩れた今、これから何が起こるのかは予見できない…。

 

レコにまつわるエトセトラ(8)

黒魔術師ケネス・アンガーによる伝説的カルト・ムービー「Lucifer Rising」のサウンドトラック盤。映画制作当初はジミー・ペイジが担当するもお蔵入り、続き名乗りを上げた男こそが、かのマンソン・ファミリーのボビー・ボーソレイユ。録音は獄中で行われた。

 

いかがでしたでしょうか?
どの業界でもそうだと思いますが、音楽業界、そしてレコード業界にも色々と黒い噂が絶えないものです。
ということでこの手の話はまだ沢山あるんですが、思ったよりも長くなってしまいましたので続きはまた今度。

最後にもう一度念押しで…信じるか信じないかはあなた次第です。

 


 

Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千