第3回 いい音は皮膚で聴く?! 【音楽あれば苦なし♪~福岡智彦のいい音研究レポート~】


前回、「理屈で考えれば、スピーカーを振動させて音波になるまでは電気信号の流れですから、銅などの金属の“道”をなるべく広く短くして流れやすくしてやればいい」って書きました。いろんな不思議なことはあるけど、これだけは最低限、前提となる「理屈」だろうと。でも最近、これすらひっくり返すような出来事を実体験したので、ご報告しようかと。

常識を覆すスピーカー・ケーブル

 

ウエスタン・エレクトリック(Western Electric)社の細いスピーカー・ケーブルがよい、という噂を耳にして、調べてみると「単銅線ツイスト・ビンテージケーブル」というのが、なんと1m=370円という安値で売られていました(もう少し調べると「16GA」とか「18GA」とか、ホントのヴィンテージものがマニアの間では評判なのですが、そういう品番もついてない平凡なヤツのことです)。この値段ならダメ元でいいやと思い、4m分買ってみました。

ちなみにこのウエスタン・エレクトリック(以下WE)は会社としてはもう存在しないのですが、歴史上超重要なすごい会社だったんです。あのグレアム・ベルと電話の特許について争い、負けてAT&Tの傘下になったのですが、電話関連の機器の製造を一手に担いました。中高年には懐かしい「黒電話」、あの電話機はWEが開発し、世界でいちばん使われたのがWE製だったそうです。そして音楽の世界では、何より、マイクロフォンを使った「電気録音方式」を開発した会社なのです。どういうことかって?電気を使わない録音なんてもう想像もできないですもんね。でも、1887年にベルリナーが円盤状のレコードを開発してから、1925年に「電気録音方式」が登場するまでは、電気の助けなしにレコーディングしていたんです。「アコースティック録音方式」と呼びますが、スタジオには大きなラッパがあり、そこに向かって演奏したり歌ったりして、できた空気の振動をその先にある針の振動に変えて、回転する蠟盤に刻みました。生演奏をそのまま収録するだけなので、たとえばソロ楽器を大きく聴かせたいと思ったら、その楽器奏者がラッパに近寄らなければいけない。歌がいちばんたいへんで、小さな声だと埋もれてしまうから、オペラのように朗々と歌うような歌手じゃないとレコーディングそのものができなかった。電気録音になってようやく、まともな録音ができるようになったのです。そういう意味ではウエスタン・エレクトリック社がレコード文化というものを生み出したと言っても過言ではありません。

脱線しましたが、それくらい重要な会社だったので、もう会社はないのに、今も「ウエスタン・エレクトリック社の…」を売りにしているのでしょう。さて、そのスピーカーケーブル。実物は予想以上に細かった。見た目は「どこにでもあるような針金にビニール皮膜をかぶせたもの」に過ぎません。つまり「電気の通り道は太く短いほうがよい」という常識には真っ向から逆らっているシロモノなのです。しかも1m=370円。だけど、常識に縛られていてはいけない。過度の期待はせずに、ケーブルを繋ぎ替え、極力先入観を抑えるようにして聴いてみました。……そしたら、いいんですよ、これが。音の、出るべきは出て引っ込むべきは引っ込んでる、つまりは立体感が増している。それゆえ、より躍動感を感じる。

今までのケーブルは、今はなき某レコーディングスタジオで使われていたのをいただいたもの。メーカーとかは判らないのですが、プロ用であることは間違いなく、すごく太い。それが20分の1くらいの太さしかない“針金”に負けました。「いい音」ってやっぱり不思議です。

 

音楽あれば苦なし(1)

白と黒のケーブルがウエスタン・エレクトリック社のスピーカーケーブル(福岡氏所有)

 

いい音&爆音は人気がない?

 

毎月一度、「いい音爆音アワー」というイベントをやってもう10年になります。レコードやCDを、いい音で、大きな音で、スピーカーから聴くというシンプルなことを、日常的にできている人はすごく少ないんじゃないかなー、と憂う気持ちがきっかけです。日本の住宅事情を考えれば、家で大きな音を出せる人なんてほんの一握りでしょうし、昔はジャズ喫茶・ロック喫茶もたくさんあったけど、今は数えるほど。映画なら映画館があって、やはりウチでDVDを観るのとは違うスケールを味わうことができます。音楽でも、ライブならライブハウスやコンサート会場があるのですが、録音物となると、そういう場がほとんどない。ならばとりあえず、月に1回だけでもそういう場を作るかな、と。


でもそんなに多くの人は来ません。録音物をいい音&爆音で聴ける場所、私なら、万難を排してとまでは言いませんが、週一でも通い詰めると思うくらい。だけど世間には私のような人は少ないみたい。

ヘッドフォンというものがあります。ヘッドフォンがあればいつでもどこでも爆音で聴くことができる。電車の中でも街行く時も、多くの人がつけていますね。だから改めていい音&爆音で聴ける場所なんて必要ないんじゃないの?
でも私はヘッドフォンって物足りない。もちろん聴きますが、スピーカーでいい音を聴くと、じわ~んと幸福感が満ちてくるんだけど、ヘッドフォンではそれがないのです。すぐ疲れるし。

 

音楽あれば苦なし(2)

「いい音爆音アワー」イベントの様子

 

 

重要なのは皮膚で感じる音だった

 

ヘッドフォンだと音圧を身体で感じないから。物足りない理由を、私はそのように大雑把に考えていました。だけどこないだ、Eテレの「又吉直樹のヘウレーカ!」という番組を観ていたら、大いに納得できる説があって。「皮膚はすべて知っている?」というテーマだったのですが、皮膚、それも表皮を構成する「ケラチノサイト」という細胞は、それ自体で五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)ばかりか気圧や電気も感じることができるということが、実験によって明らかになっているそうなんです。特に聴覚では、耳に聞こえない高音(20kHz以上)=「超高周波」を、イヤホンで聴くだけでは何も起きないのに、スピーカーで聴くと脳深部が活性化しているのが判る。つまり超高周波は自覚的には聞こえていないのに、皮膚がちゃんと感じているのですね。で、脳深部の活性化は、免疫機能を強めたり、ストレスホルモンを減少させたりして、心身の働きを高める効果があるというのです。

超高周波は鳥や虫の声や羽音などから豊富に出ているらしく、森の中が気持ちいいのは、フィトンチッドだけでなく、超高周波のおかげでもあるのだそうです。もちろん音楽にも含まれます。私の幸福感は気のせいではなく、音圧というわけでもなく、皮膚の聴覚のおかげだったんですね。

ただし、CDは20kHz以上をカットしているので、超高周波を含んでいません。ハイレゾ以外の配信音源も同様です。ですから、mp3などの圧縮音源やいわゆるストリーミング音源をヘッドフォンで聴いているだけの人たちは、超高周波の恩恵に一切与っていないことになります。いちばんもったいないのは森の小径をヘッドフォンで音楽を聴きながら歩いている人ってことになりますかね。

これは由々しき問題かもしれません。古来人間は自然に近い暮らしや、生の楽器や歌で、たくさんの超高周波を浴び、それが健全な心身にとって欠かせないものであったかもしれず、現代のストレスフルな社会は、超高周波不足もその一因であるかもしれないからです。

 

心身のためにスピーカーで聴こう

 

だから、楽しみのためだけでなく健康のためにも、スピーカーで音楽を、アナログレコードを聴きましょう。CDには超高周波はないけど、それでもスピーカーで、皮膚に聴かせてあげるほうがいいような気がします。プレーヤーを持ってないし家でスピーカーを鳴らせないよ、とお嘆きのあなたは、アナログレコードが聴けるロックバーや、手前ミソですが私の「いい音爆音アワー」のようなイベントに出かけましょう。人類とその社会の平和と明るい未来のために!