【後編】吹奏楽部顧問が選ぶ、MY BESTニュー・サウンズ【TALK ABOUT ニュー・サウンズ】


1972年にスタートし、50年近くにわたってポップスの楽しさを伝え続けている吹奏楽の楽譜シリーズ「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」。元吹奏楽少年・少女だった吹奏楽部の顧問は、特にどの曲が印象に残っているのだろうか。思い入れのある曲を、エピソードとともに取材した。
後編では、演奏会・文化祭を彩ってきたニュー・サウンズ、好きなアレンジャーをお届けします。

 >前編はコチラ! 

演奏会・文化祭を彩ってきたニュー・サウンズ

 

『シング・シング・シング』(1981年・第9集)

「中学生で吹奏楽部に入部した頃、映画『スウィングガールズ』が流行っていました。初めて購入したDVDで、今でも忘れていません。内容ももちろんおもしろいですが、まだ楽器を初めて間も無く、ジャズを聴いたことのない自分にとって、見たことのない世界が見えた瞬間でした。しかも野球応援のシーンがあり、中学生の自分にとって、ジャズに加えて初めて野球応援をみたシーンだと思います(笑)」(拓殖大学紅陵高校 吹奏楽部顧問 芝崎杏子 29歳)

『スウィングガールズ』は上野樹里が主演の大ヒット映画で、たしかに、この映画の公開以降に『シング・シング・シング』を演奏する学校が増えたように記憶している。

 

顧問が選ぶNSB(1)

 


『真夏の夜の夢』(1994年・第22集)

「高校の文化祭で吹いた思い出深い曲。当時、話題となったドラマのオープニング曲で、松任谷由実さんの歌う怪しげな原曲の雰囲気がしっかりと再現されていることが魅力です。吹奏楽にアレンジする際、原曲キーから変わってしまうと、原曲キー信者の私にとって違和感しかないが、この曲はしっかりと原曲キーのままであることが素晴らしい。しかし、オリジナルを尊重するだけでなく、アレンジもしっかりとしており、中間部からはフルート、クラリネット、サックス、トロンボーン、ホルン、トランペット、パーカッションなど各パートにソリがあるため、吹き応え十分。特に、私が吹いていたチューバには冒頭のおいしいソリがあり、注目されることができました。チューバ冥利に尽きます(笑)。今年のサマーコンサートにでも演奏することが決定しており、紅陵高校吹奏楽部の夏の定番曲となるはずである……。というか、顧問の権力で決定します(笑)」(拓殖大学紅陵高校 吹奏楽部顧問兼トラックドライバー 鈴木康治 41歳)

TBSドラマ「ずっとあなたが好きだった」(1992年)の賀来千香子と佐野史郎が再び共演し、結婚をテーマに男女の極限の愛憎を、サスペンス仕立ての強烈なタッチで描いた衝撃作「誰にも言えない」(1993)の主題歌。松任谷由実が17年ぶりに書き下ろして、大ヒット曲となったこの曲は、筆者も高校時代に演奏したことがあるが、朝から晩まで部活漬けの日々だったので、ドラマは一度も見たことがない(笑)。

 

顧問が選ぶNSB(2)

 


『“くるみ割り人形”より3つのダンスメドレー』(1993年・第21集)

「高校生の頃、初めて自分たちの学年で定期演奏会の企画ステージを作ることになり、仲間たちとこの曲を選び、出てきたアイデアが、なんと『男子部員によるバレエ』という企画でした。当時15人近くの男子部員がおり、今考えればよくあんなに無茶な企画を立ち上げ、顧問の先生が許してくださったと思いますね(笑)。鈴木英史先生の華やかな編曲と、個人的にはその演奏会で自分も演奏した、長いホルンソロが印象的です」(星稜高校吹奏楽部顧問 下村健治 42歳)

「男子部員によるバレエ」という発想がすごい(笑)。お客さんも、さぞ盛り上がったのではないだろうか。みんなで定期演奏会の企画を考える時間はとても楽しいもので、「ニュー・サウンズが青春の1ページを彩ってきたのだなあ……」と、改めて感じた。

 

顧問が選ぶNSB(3)

 


『A列車で行こう』(1979年・第7集)

「この作品は、私が楽器を始めて、初のニュー・サウンズになります。 今考えると、ジャズのスタンダード曲を中学生がよく演奏出来たなと感慨深く思います。当時、必死に練習した記憶がよみがえる、懐かしく苦しい曲です。さまざまな本番で演奏し、大好きなニュー・サウンズナンバーのひとつです」( 浦和学院高校吹奏楽部 音楽監督 新谷卓 51) 

 

顧問が選ぶNSB(4)

 


『ビギン・ザ・ビギン』(1983年・第11集)

「海外の歌のヒット曲が吹奏楽でこんなに楽しい曲に変化するのか! と感心した曲です」(尼崎市立尼崎高校吹奏楽部顧問 岩山悦志 55歳)

 

顧問が選ぶNSB(5)

 


『ディープ・パープル・メドレー』(1996年・第24集)

「私は高校から吹奏楽(T.Sax)を始めました。1年生の秋からバリトンサックスに移り、3年生の秋まで、マーチの四分音符に全てをかけて吹いてきました。そんな陰でみんなを支える立場の私が、引退を迎える3年生秋の文化祭の場で、『ディープ・パープル・メドレー』のソロを吹かせてもらうことに。もちろん、ソロなんて吹いたこともなく、とてもうれしかったのを覚えています。当時、学校の行き帰りにMDで東京佼成ウィンドオーケストラの音源を聴きまくり、朝練でも音源を聴きながら、ソロを吹いていた田中靖人さんになったつもりで練習しました。フラジオまではできませんでしたが……。本番では練習の成果も発揮できて、無事に終えることができました。その後、文化祭を楽しんでいた僕に国語の先生が声をかけてくれて、『私の隣で聴いていた(顧問の)K先生、前原くんのソロを聴いて泣いてたよ!』と教えてくれました。思いもよらず、自分の演奏で人を感動させることができたのは、僕にとっては驚きであったのと同時に、大きな経験になりました。人の演奏を聴いて泣いたり、自分が指揮しながら泣いてしまう原点は、ここにあったのかもしれません(笑)」(駒澤大学付属苫小牧高校 吹奏楽局顧問 前原光 36歳)

ジャズのスタンダードナンバーや映画の曲、ハードロックなど、「海外の曲を知るきっかけとなったのがニュー・サウンズ」という人も多かったことだろう。まさに、吹奏楽少年・少女たちに新しい世界を教えてくれた。

 

顧問が選ぶNSB(6)

 


『サウンド・オブ・ミュージック<メドレー>』(1979年・第7集)

「高校1年生の時、文化祭で演奏する曲でした。エーデルワイスにトランペットソロがあります。合奏練習時に一度だけ代役で吹きました。めちゃくちゃ上手に吹けて、先輩たちに褒められたというエピソードです(笑)」(東邦高校マーチングバンド部監督 白谷峰人 44歳)

 

顧問が選ぶNSB(7)

 


『ウエストサイド物語<メドレー>』(1982年・第10集)

「中1から始めた吹奏楽。トランペット担当で、当時楽器を始めて半年経っても上のFがやっと……。ちなみに高い音は苦手で、中学3年間は常に3rdや4thばかり。1曲だけ2ndで、1stは1曲もありませんでした。3年間で200曲くらいやってるのに、それだけ記憶に残るほど。『ウエストサイド物語<メドレー>』は高校時代に演奏し、高い音が苦手な鈴木少年の担当パートは当然3rd。それでも、曲の後半にGの音が何度も出てきて、練習の成果で、何回かは出るようになり、定演本番を迎えました。そんな、トランペットのハイトーンへの道を切り開いた苦しい思い出の曲です。そして、この曲はその後大好きになるミュージカルというものの扉を開く作品になりましたし、また大好きなレナード・バーンスタインという作曲家に出会った最初の作品でもあります! この曲があるから、音楽の楽しさはもちろん、練習の辛さとそれを乗り越えた時のうれしさを、後進に伝えていけてるのかな? 音楽の教員として、子どもたちと一緒に楽しく音楽出来てるのかな?と思っています」(札幌白石高校吹奏楽部顧問 鈴木恭輔 45歳)

 

顧問が選ぶNSB(7)

 

『サウンド・オブ・ミュージック<メドレー>』『ウエストサイド物語<メドレー>』は、筆者も札幌白石高校時代に演奏したことがある(ファゴット担当)。現顧問の鈴木氏は1つ上の先輩で、まさに定期演奏会のステージで一緒に演奏したが、先輩がそんなに苦労して吹いた思い出の曲だったとは露知らず……。

 

好きなアレンジャーは?

 

ニュー・サウンズについて熱く語ってくれた先生方に、好きなアレンジャーを尋ねてみたところ、やはり「ニュー・サウンズの父」こと、岩井直溥氏の名前が多く上がった。

「なんと言っても岩井先生!大学時代にはご自宅までお邪魔させていただきました。アレンジもそうですが、お人柄も大好きです! 駒澤大学4年当時、主将をしていた関係であいさつのためお邪魔しました。誰とも分け隔てなく、学生の私にも打ち解けていただける人でした」(駒大苫小牧高校吹奏楽局総監督 内本健吾 48歳)

「岩井直溥先生の他をおいてはいらっしゃらないかと思います! もう、理由は必要ないかと」(東海大学付属相模高校吹奏楽部音楽監督 矢島周司 45歳)

「私たちの時代はニュー・サウンズといえばやっぱり岩井直薄、真島俊夫のお二人なので」(日本大学第三高校 吹奏楽部顧問 細谷尚央 58歳)

「ニュー・サウンズをここまで広めた功績は偉大。『黒いジャガーの時代』『シング・シング・シング』『エル・クンバンチェロ』『アフリカンシンフォニー』など、原曲を超えるアレンジ力。ニュー・サウンズで初めてその曲を知ったことも多々あります。会場のお客様に向かって、頭(本人はおでこのつもり)に手を当てて挨拶する姿が今でも目に焼き付いています」(拓大紅陵高校吹奏楽部 野球応援専門顧問 吹田正人 58歳)

「1980年代になりますが、所属していた尼崎市吹奏楽団と岩井直溥先生、ドラムの猪俣猛さんで演奏会を開催しました。岩井先生の編曲は、吹奏楽でこれほどまでにポップで楽しい演奏ができるのかと感心しました。また、いろんな楽器がいろんなメロディーを奏で、まさに『みんなが主役!』。指揮者、演奏者、観客が一体となって楽しめる、素晴らしい編曲ばかりでした」(尼崎市立尼崎高校吹奏楽部顧問 岩山悦志 55歳)

「当時はニュー・サウンズの曲を聴いてから、原曲を聴くことが多かったです。『黒いジャガーのテーマ』もそのうちの1曲でした。映画のストーリーには、オリジナル曲よりも、岩井先生のアレンジされた曲のほうが合っているのではとひそかに思いながら見た記憶があります。『本家を超えたアレンジ』と言っても過言ではないでしょう」(智辯学園和歌山中学・高校吹奏楽部顧問 酒越光覺 55歳)

「どんなアレンジも素晴らしいサウンド! 木管楽器の使い方をはじめ、ジャズのスタンダードナンバーからミュージカル、歌謡曲にいたるまで。吹奏楽のレパートリーの拡大に貢献した功績は殿堂もの! と思います」(札幌白石高校吹奏楽部顧問 鈴木恭輔 45歳)

吹奏楽少年・少女の心をがっちりととらえていた岩井氏。ちなみに、筆者の母校札幌白石高校の校歌は、吹奏楽編曲を岩井直溥氏が手がけたということを卒業後ずいぶん経ってから知った。驚きながらも、「どうりで、吹いて楽しくお洒落な編曲だったわけだ」と妙に納得したのであった。

数々の素晴らしいアレンジを手がけた真島俊夫氏と、星出尚志氏に思い入れのある顧問も多かった。

<真島俊夫氏>
「同郷の山形県出身というご縁もある、大好きな作曲家の1人です。日本の旋法と西洋のハーモニーを融合したとされる数々の吹奏楽作品も本当に素晴らしいです。ニュー・サウンズのアレンジにおいても、真島さんらしい、忘れがたいハーモニーを味わうことができると感じています」(日本大学第三中学校・高校吹奏楽部講師の冨岡哲郎 23歳)

<真島俊夫氏>
「高校時代は特に意識したことはありませんでした。真島俊夫先生と岩井直薄先生の名前は『よく見るなあ』と思っていました。ニュー・サウンズとは全然関係ありませんが、私が吹奏楽団の監督を務める愛知東邦大学の校歌は真島俊夫先生が作曲です」(東邦高校マーチングバンド部監督 白谷峰人 44歳)

<真島俊夫氏>
「『宝島』などでもお世話になりましたが、原曲の良さを引き出してくださるアレンジだと感じます。どの楽器でも吹いてる側が楽しくなれる譜面なのも好きなポイントです。Tubaが楽しい譜面は貴重なので……。」(拓殖大学紅陵高校吹奏楽部顧問 松本瑞希 23)

<真島俊夫氏>​​​​​​​
「ニュー・サウンズの名作『オーメンズ・オブ・ラブ』『宝島』など数々の楽曲をアレンジされており、その多くを高校・大学時代に演奏しました。会ったこともないのに、親しみを込めて『マーシー』と呼んでいました」(拓殖大学紅陵高校 吹奏楽部顧問 鈴木康治 41歳)

<真島俊夫氏>​​​​​​​
「個人的にもとても思い出深い先生です。中学時代に全国大会で、課題曲の『コーラル・ブルー』を演奏させていただいたのも忘れられませんし、私の母校(石川県立金沢錦丘高)の校歌の吹奏楽編曲は、なんと真島先生。校歌なのにボサノヴァ風の伴奏やホルンのグリッサンドがあったり、ステキなアレンジです。そのご縁もあり、指導者になった今でも、どうしても真島先生の作品を取り上げてしまいます。高度な技術を要する『チュニジアの夜』や『ベイ・ブリーズ』など、ぜひ生徒達と取り組みたいですね」(星稜高校吹奏楽部顧問 下村健治 42歳)

<星出尚志氏>​​​​​​​
「編曲者を見て選曲をすることはないですが、音源を聴いて『いい音するなあ』と思って編曲者を見ると、星出先生のアレンジであることが多いです。『ドレミの歌』『ソーラン・ファンク』『ルパン三世のテーマ』など、たくさんお世話になっています。特に『ドレミの歌』は、本校の“ドレミ隊”と呼ばれる演出とともに、日本のみならず、海外でも通じるノンバーバルな演目として、本校の定番曲になっています」(近江高校吹奏楽部顧問 樋口心 44歳)

<星出尚志氏>
「一番演奏している曲が多いアレンジャーさんかもしれません。個人的には『ジャパニーズ・グラフィティVI』の『襟裳岬』、『ジャパニーズ・グラフィティX』の『大岡越前のテーマ』からの『暴れん坊将軍のテーマ』への転換は、初めて聴いた時に鳥肌モノでした!」(駒澤大学附属苫小牧高校 吹奏楽局顧問 前原光 36歳)

現在生徒たちを指導する先生方も、中高時代は吹奏楽部で青春を謳歌していただけに、今回の取材に皆喜んで協力してくれた。回答を読んでいる筆者も、とても楽しいひと時であった。そして、知らなかったニュー・サウンズの楽曲も知ることができ、新たな魅力を再発見した。

これからも、吹奏楽界に新しい世界を見せてくれることを期待している。

 


 

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Text:梅津有希子

 

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