【レコにまつわるエトセトラ】勝手ジャケ ~ 勝手にしやがれ!描き人知らず、自作ジャケットの世界【第15回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第15回のテーマは、“勝手ジャケ ~ 勝手にしやがれ!描き人知らず、自作ジャケットの世界”です。コレクターたる者、自分の好きなレコードや探しているアイテムのジャケットは目に焼き付けている人も多いかと思います。だから、お店の棚を漁っている時に断片が見えただけでも、ピクリと反応してしまうというのはよくあること。

それが実はちょっと似ているだけの全く別物だったりもするわけですが、今回取り上げる品は二度見…の後に三度見!までしてしまいそうなド級の逸品です。珍しいとか高いとかそんな価値観はブッ飛ばして、ただただ音楽そしてレコードへの愛情の純粋なる結晶とでも言うべき品々をご覧あれ。


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「ん?え?あれ!?」三度見した先にあったものは…


レコード屋に長年通うと、妙な経験ってすることありませんか?

パタパタと新着コーナーかなんかを見てて、ふと目に止まった一枚のレコードに「ん?え?あれ!?」っていう三度見かましちゃうような経験です。

別に超絶レア盤を発掘とか、奇跡の爆安ブッコ抜きとかそんな類の話ではなくて、

「ん?こんなレコードあったっけ...」
「え?これって見たことない別ジャケ?」
「あれ!?いやいやこれそもそも手描きじゃん!」

っていうような三段活用で目に飛び込んでくる、とある自作レコードとの出会いの話です。

ということで、今回はどこかの誰かが勝手に作った一枚のジャケットが、ひょんなことから人の手に渡り、巡り巡ってレコード屋の片隅にひっそりと潜んでいる、ある種のゲリラ型アウトサイダー・アート「勝手ジャケ」のお話。

まぁ普通に「勝手ジャケ」なんて呼んじゃってますが、私が今、原稿を書きながら何となく思いついただけの造語です。
何かの拍子にジャケットを失くしたとか、そもそもアートワークが気に入らなかったとか、色々な理由があるとは思いますが、要は通常のオフィシャルなレコード盤が、どこかの名無しさんが勝手に作ったお手製ジャケットに入れられて出回っているもののことを指しています。

私も商売柄、過去に何度かそんな三度見経験をしていますが、今回はその中でも群を抜いて素晴らしい一枚に出会ってしまいましたので、ぜひこの機会にお披露目させてください。

ただ音楽を聴くだけじゃもったいない、無限の楽しみ方が広がる奥深き(罪深き)レコードの世界への誘いです。どうぞ!
 


レコードだけじゃない、髪もヒゲもブリンブリンも全部自作だぜ!


自作ジャケットの世界では大メジャーとも言える、アメリカが産んだ稀代のアウトサイダー・アーティスト、ミンガリング・マイクをご存知でしょうか?

60年代後半のデビュー以来、数十枚に渡るレコードを制作し続けたソウル界のスーパースター、ミンガリング・マイク。
ただ、彼が他アーティストと大きく違うことがひとつ。ジャケット、レコード、歌詞、音楽、そしてそのアーティスト名に至るまで、その全てが彼の「妄想」だったのです。
そして彼は自らの妄想を声と楽器ではなく、ペンとダンボールで具現化した異能のアーティストだったのです。

印象的な手描きジャケットには(架空の)レーベル・ロゴや規格番号が描かれ、(架空の)ファンクラブへの連絡先や、(架空の)ビッグ・アーティストからの推薦文等も掲載。さらにはシュリンクラップで包み込み、その上にはお手製ハイプ・ステッカーも貼り付けるという念の入れよう。
レコード盤はダンボールで作られ、溝までをも手描きで再現。もちろんラベル・デザインやクレジットも入念な仕上がりです。

決して画力があるというワケではないんですが、それら全てが彼のレコードへの深い愛(偏愛?)が故の「ワカッテル」感に満ち溢れていて、同じレコード好きであれば食らわされること間違いナシです。

彼は様々な名義を使い分けながら、オリジナル・アルバムのみならず、ライヴ盤やトリビュート盤、そしてベスト盤と次々に妄想リリースを続けたのですが、ここで何よりも重要なことは、これらの妄想レコードはあくまで彼一人の楽しみであったということです。

後に彼と貸し倉庫との間のトラブルにより叩き売られることとなった妄想レコードは、蚤の市で偶然にもコレクターに「発掘」されフックアップされるまで、誰の目にも触れずただひっそりと仕舞い込まれていただけ。

別に売れてやろうとかアートしてやろうとか、そんな助平心はハナからゼロ。架空のベッドルーム・スーパースター「ミンガリング・マイク」は、彼の頭の中だけで光り輝き続けていたのです。

そんな純真無垢な作品だからこそ、皆の心を激しく打ちつけるのではないでしょうか?これこそ「勝手ジャケ」のひとつの完成形とも言っても過言ではないでしょう。リスペクト!

 

ただただ溢れ出る音楽への愛が生み出した奇跡のブツ


では前置きが長くなりましたが、ここからは私が発掘した「勝手ジャケ」をご紹介して行きます。なお、これまで色々と見て行く中で大きく3つのパターンに分けられることが判明しましたので、分類別にご紹介して行きたいと思います。
 

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【パターン1】再現ジャケ

まずは最もシンプルとも言える、オリジナル・アートワークの忠実な再現を目指す「再現ジャケ」をご紹介。

「レア盤の盤だけを格安で手に入れたから、ジャケは自分で作っちゃおう!」っていうノリがひとつの定番だと思いますが、できるだけ自らの手描きでオリジナルに近づけようと努力するタイプのヤツです。

「コピーしたほうが早くない?」と思う方もいるかも知れませんが、周りにそんな都合良くオリジナル・ジャケを持っている人はいないもんですし、インターネット以前の時代では気軽に画像を調達もできません。

もちろん単純に楽しみとしてやってる人もいると思いますが、とにかくレコード愛が相当に深くないとできない所業ではあるでしょう。

 

レコにまつわるエトセトラ15_02レコにまつわるエトセトラ15_03

 

今回、例として挙げているCluster『Cluster II』も、深い愛が故の素晴らしいクオリティーです。
恐らく油性マーカーで丹念に描き上げた近年の作品だと思いますが、この情熱ほとばしる筆致は、最早オリジナルにはない特別なオーラを帯びています。
ちなみに中に入っていた盤は通常の独初版でした。
 

レコにまつわるエトセトラ15_04

 

【パターン2】カット&ペースト(貼り絵)ジャケ

雑誌の切り抜きやステッカーなんかを白ジャケに貼り付けて作る「カット&ペースト(貼り絵)ジャケ」。

思い思いの切り抜きを配置して行くので、中々に作り手のセンスが問われます。上の例のものは正直それほどの出来ではないのですが、アクセントになっている「まことちゃん」が気になったので採用しました。

その手軽さからも数的には一番多く見つかりますが、元々白ジャケに入っているもの、つまりはプロモやテストに付属している白ジャケに切り貼りしたケースも多いです。

かくいうこれも、中にはすこぶるレアな某見本盤が入っていました。この手のジャケを見たら、中身をチェックしておきましょう。

 

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【パターン3】オリジナル・ジャケ

そして随分とひっぱりましたが、今回この記事を書くきっかけにもなった、完全ゼロからオリジナル・ジャケットを創造する「オリジナル・ジャケ」。
勝手ジャケ界の頂点とも言うべきパターンですが、その中でも至高と呼ぶに相応しい一枚をご紹介します。

今回満を持してご紹介するのは、ビートルズのシングル『カム・トゥゲザー b/w サムシング』の勝手ジャケ。
ピクチャー・スリーヴ前面はお馴染み『Abbey Road』のアルバム・アートワークを模倣していますが、クレヨンで描かれた淡く優しいタッチ、そしていかにも本当にありそうな秀逸なデザインにグッときます。

では本作のオフィシャルな通常ジャケと比べながら詳細を見て行きましょう。

 

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レコにまつわるエトセトラ15_08

 

こちらが通常ジャケですが、こんな感じで本来はペライチのジャケットで、背面には歌詞が掲載されています。
そして、盤はお馴染みのAPPLEロゴが入った黒いスリーヴに収められています。

 

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そしてこちらが勝手ジャケ・ヴァージョン。
ジャケは見開きに変更され、内面に歌詞、背面にはロゴを配置した、他タイトルではお馴染みの意匠を再現。そしてもちろんこれら全ては「手書き」です。スリーヴのAPPLEロゴも抜かりありません。

さらに注目すべきは、本来はなかった解説文が掲載されていること。解説者の名前は伏せておきますが、間違いなくこの解説文、この勝手ジャケの制作者によるものでしょう。
ジャケットとしてのクオリティー、レコードへの深い理解と愛、そして「勝手解説」を入れ込むほどに漲る情熱。マジで泣かせます。

売上のことを考えたり、レーベルやアーティストに忖度したり、そんな商業的なこととは全くの無縁。ただただ溢れ出る音楽への愛が止められずに創り出す、そんな勝手ジャケの世界に触れる度、自分もまっさらな気持ちで音楽へ向き合いたいと思わされるのです。
 

レコード屋の扉を開けて、その向こう側に広がる夢の世界へ

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もちろんレコ屋は国内だけじゃありません。レコードのためだけに海外旅行に行く、そんなの最高じゃないですか?

 

今や世界中のレコードがワンクリックで買える、そんな素晴らしい時代なのかも知れませんが、ただ自分の探してるモノをサッと買って聴くっていうだけじゃもったいない気がするんです。

特に今回の話の勝手ジャケなんて、ネットで探して買おうっていうようなものではありません。たしかに誰かに自慢できるものではないかも知れませんし、高値が付くとか、DJネタで使えるとか、そんなこととも全くの無縁かも知れません。ただミンガリング・マイクみたいに、自分だけの密かな楽しみ方を持ってるっていうのもオツじゃありませんか?

そして、そんな無限に広がるレコードの楽しみ方を知るには、自分の足を使うことも大事だと思います。
知らない街の商店街を歩き、ちょっと暗がりの狭い階段を昇って軋むドアを開けた時、その向こう側に広がる夢の世界。
日も沈んだ帰り道、ズシリと肩に食い込むレコードと、妙に痩せた財布に不安になるけれど、どうしてもほころぶ顔が止められない、待っているのはそんな幸せな時間です。

そうだレコ屋、行こう!

 


 

Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千