新世代のセッション・バンド練習ツール ヤマハ「SYNCROOM」活用ガイド ~紅維流星(東京アクティブNEETs)の配信現場に潜入!~


オンライン配信が定着してきた昨今において、限りなくレイテンシー(遅延)の少ないリモート合奏サービスとして大きな注目を集めているヤマハの「SYNCROOM」。同様のサービスの中でも圧倒的な信頼性を獲得している本サービスだが、その反面、上手く使いこなせていない人が多いのも事実。そんな「SYNCROOM」の活用法を紹介すべく、キーボーディスト/ビデオグラファー/プロデューサー/コンポーザー/アレンジャーなどマルチな才能を持つ紅維流星(東京アクティブNEETs)を迎え、約10年かけて辿り着いたという“日本屈指”の遠隔セッション配信システムを紹介してもらった!

新世代のセッション・バンド練習ツール「SYNCROOM」

 

「SYNCROOM」とは、インターネット回線を介すことで複数のユーザー同士(最大5拠点)が低遅延でリモート合奏を楽しめるサービス。実は約10年もの稼働実績を持つ技術で、前身である「NETDUETTO β2」を経て、Windows / macOS版アプリケーションとして今年6月29日に正式に公開された。遠隔地間においても違和感のないオンラインセッションが可能で、新たにリバーブ機能、メトロノーム機能と録音機能を追加。奇しくもコロナ禍と重なり、さらに無料(!)ということもあり、音楽表現の新たなプラットホームとして高い注目を集めている。

 

SYNCROOM 公式サイト
https://syncroom.yamaha.com
 

今回は「NETDUETTO β2」の頃から愛用し、「SYNCROOM」の誕生とともについに最高の遠隔セッション配信システムを構築したという紅維流星のプライベートスタジオにお邪魔し、そのセッティングと「SYNCROOM」の活用法を聞くことができた。


「SYNCROOM」はレイテンシーがかなり少なくて
鋼の心ではなく豆腐の心くらいでも対応できます(笑)

SYNCROOM(1)

 

SYNCROOM」を使うようになったきっかけは何ですか?

 もともと「NETDUETTO」が出たときから少し遊んでいたんです。で、インストバンド/同人サークル“東京アクティブNEETs”のメンバーでショボンというドラマーがいまして、東京に住んでいたのですが、秋田県にある実家のお米農家が収穫期ということで(笑)、実家で農業をしながらドラムの仕事をすることになったんです。今年はじめくらいから「NETDUETTO β2」で音のやり取りをして、Zoomで映像のやり取りをするという作業をしていました。それがたまたま新型コロナウイルスの前だったので、みんなが外出自粛を余儀なくされている頃に今の遠隔システムが完成して。
 それまでは「NETDUETTO β2」の他にも似たサービスはありましたが、ダントツで「NETDUETTO β2」が使いやすかった。その理由のひとつは、日本語に対応しているところ(笑)。他は海外のサービスだったので、サーバーのことはわかりませんが、日本でのやり取りでは「NETDUETTO β2」が一番使いやすかったですね。ユーザーインターフェースも使いやすいし、設定もめちゃくちゃ簡単でほぼいじる必要がなかった。で、新しいバージョン「SYNCROOM」が出るという話を聞いて、そのまま移行した形です。

―「NETDUETTO β2からSYNCROOMへの移行でどのような進化を感じましたか?

 「NETDUETTO β2」の途中からIPv6(IPoE)接続に対応するようになったことでレイテンシーがだいぶ改善されて、途中でブツブツと切れることもなくなりましたね。このシステムを作った時は、“レイテンシーをなかったことにする鋼の心が大事”と言っていましたが(笑)、今はそのレイテンシーがかなり少なくて、ショボンいわく“以前は体感で2拍くらい遅れていたのが今は16分くらい”みたいなことを話していますね。だから今は、鋼の心ではなく豆腐の心くらいでも対応できます(笑)。そのあたりのハードルが下がった体感はかなりありますね。数字的にも30msから10〜20ms(0.01〜0.02秒)くらいになったのでその差はかなり大きいなと思います。

―そのくらいの数値だと、体感的にどれくらいの遅延ですか?

 ドラムのショボンに合わせているので、僕らはまったく遅延を感じていないんです。ドラムを叩いている側が僕らに合わせずに一定のビートを保ってくれれば上手く進んでいくんですよね。「SYNCROOM」になってクリックを入れられるようになったので、それを使っています。技術的な話になりますけど、あのクリック機能はレイテンシーを計算して出しているんですかね。その時のレイテンシーに応じたクリックの出し方をしている気がしていて。こっちと向こうで同じタイミングでクリックが鳴っていたら多分ズレると思うんだけど、こっちと向こうで発音している時間が違うのかなと思っていたりします。ひとつ望みがあるとするなら、クリック音が生放送に乗らないようにクリックだけ違うチャンネルに送れるシステムがあればいいなと。あとはテンポを変える時のスライダーですが、動かし終わったあとに数値が表示されるのですが、それがリアルタイムで表示されるか直接数値を入力できるようになると嬉しいですね。そこが改善されれば最強最高だと思います(笑)!

 

東京アクティブNEETsが10年かけて構築した遠隔セッション配信システムはコレだ!

SYNCROOM(2)

 

<SYNCROOM関連のシステム>
■SYNCROOM用システム

SYNCROOM(3)

SYNCROOMがインストールされているMacBook Pro 2016。

 

SYNCROOM(3)

オーディオインターフェイスのIK Multimedia iRig Pro DUO。

 

『SYNCROOM用システム』が一番重要だと思います。IK MultimediaのiRig Pro DUOと、Antelope AudioのDiscrete 8の2つはオーディオインターフェイスで、インとアウトで別々のオーディオインターフェイスを使っています。ドラムに送るためにiRig Pro DUOを使い、東京で作ったドラム以外のミックスをドラム側(Antelope AudioのDiscrete 8)に送っている状態です。それがインプットで、逆に送られてきたドラムの音声をDiscrete 8からアウトして『音声ミックス用システム』のプロツールスに送り、そこで僕らのミックスを作っているわけです。普通であれば、オーディオインターフェイス1台と、パソコンが1台に「SYNCROOM」がインストールされていればやり取りができます。最初は生ドラムではなくてエレドラだったし、生放送で1台のオーディオインターフェイスに全員の音を入れていたけど、試行錯誤をしながら機材をアップデートする中でこうなりました。このセッティングに満足していて、現状アップグレードする部分はないですね(笑)。

■音声ミックス用システム

SYNCROOM(4)

 

プロツールスを使っている『音声ミックス用システム』は、もはやプロ用のレコーディングシステムです。なので、この『音声ミックス用システム』ももっと簡単に組めると思います。音質がすごく良くなっている秘訣は『SYNCROOM用システム』です。普通であれば『音声ミックス用システム』は省いていいと思いますよ。僕らの場合は、ドラムがいたりベースもいたり管楽器もいるので、もともとプロツールスを使っていたのですが、皆さんが「SYNCROOM」を使うぶんにはピアノ、ベース、ドラム、ギター、歌など全員がバラバラなので、ここはあまり考えなくていいと思います。上の図はレコーディングと同じような環境ですよね。僕らがCDを作ったりする完成形にかなり近い状態でやっています。

■SYNCROOMの設定

SYNCROOM(5)

 

ほぼほぼ最高設定にしています。もしもマシンパワーが低いのなら調整する必要があるかも。でも、そこまで難しい処理をしているわけではないと思うので、まともなネット回線とみんなが使っているような普通のパソコンがあれば、そのあたりはクリアできると思います。

■ルーター

SYNCROOM(6)

 

無線LANではなく、有線LANを使うことが最大のポイントです! プロバイダーから借りている安いルーターだと安定しないことがあるので、1台機材を増やすのであれば良いルーターを買うといいかもしれない。僕が使っているのは、ネットギアのナイトホークというルーター。中2心を煽るようなネーミングですよね(笑)。2万円くらいルーターに投資すると、回線も安定するんじゃないかな。「SYNCROOM」を安定した環境にするには、まずは自分の家のルーターがどんなものなのか確認して、もう少し高性能のルーターにするのが一番のポイントですよね。パソコンにLANポートがない場合は、USBのLANアダプタを買いましょう!

<生配信関連のシステム>
■映像&配信用システム

SYNCROOM(7)

配信用カメラのCanon EOS 5D Mark Ⅳ。

 

SYNCROOM(8)

LEDライト。同様のものが反対側にもうひとつ設置されていた。

 

ここも10年間の積み重ねがありますね。映像をHDMIでずっと出力し続けるために、安いカメラだとやりづらいのでいいカメラを使わないといけない。だから、カメラは多く持っていて使い分けています。カメラは10台以上持っているんじゃないかな。交響アクティブNEETs(生演奏同人オーケストラサークル)もやっているので、そのときにどうしてもカメラが多くなってしまいます。広角気味のレンズが多いですね。スタジオって基本的に暗いから、明るくするためにLEDライトを使っています。直接当てると光がきついので、LEDを天井に向けて光をバウンスさせています。

■キーボード下のペダル

SYNCROOM(9)

 

ボスのFS-5Uです。真ん中がサステインペダルになっているのですが、左右のペダルはアイパッドの譜めくりになっているんです。右を踏むと前(次のページ)に進んで、左を踏むと後ろ(前のページ)に戻る。直接つないでいるわけではなくてBluetoothで接続しています。スタジオにこのペダルだけ持っていくこともありますね。右足だけで3つの動作がまかなえるのでとても重宝しています。

■ストリームデック

SYNCROOM(10)

 

このストリームデックは、演奏しているときに演奏曲のジャケ写を映すためのボタンです。OBSという配信ソフトの中でこの画像を流すことができます。もともとはDTMのショートカットを登録していたんです。右下のショボンは、生配信の画面に秋田からの映像を合成しているのですが、特に携帯で見ている人は自然すぎて東京にショボンがいると思われている方がいるので(笑)、このボタンでわざとショボンを消すんです。なので、ショボンのオン/オフボタンです(笑)。

<おまけ(小ネタ)>
■スタンド用のウェイト

SYNCROOM(11)

 

スタンドが倒れないように、筋トレ用のダンベルをスタンドに乗せています(笑)。筋トレ器具として持っていたものだったのですが、専用グッズかと思うくらいジャストサイズだったんです。

<最後に>
オーディオインターフェイス1台とパソコンに「SYNCROOM」をインストールするだけなので、接続自体は説明する必要もないくらい簡潔ですよね。なので、ポイントは「SYNCROOM」の設定よりも回線の安定性が大事だと思います。意外とWi-Fiを使っている人が多いと思うし、そもそもノートパソコンにLANポートがなかったりするので、有線で接続するためのセッティングはマストです。「SYNCROOM」はアプリケーションとしてのチューニングがかなり仕上がっているので、セッティングで苦労することはほとんどないと思います。ぜひ皆さんも気軽にトライしてみてほしいですね。

 

SYNCROOM()SYNCROOM(12)

 


 

【プロフィール】

紅維流星
2008年より活動を開始、 CDの自主制作と動画作品の製作を活動の軸とし、作編曲、演奏、録音、編集、撮影など作品に必要な全ての作業をこなすマルチクリエイター。インストバンド「東京アクティブ NEETs」ではリーダーとして、オーケストラ「交響アクティブ NEETs」ではプロデューサーを務め、同人インスト音楽界のトップを独走している。(とらのあな年間ランキングトップ 100にて 2016年 11作品、 2017年 11作品がランクイン)
海外イベントへの参加も多く、これまでアメリカ、カナダ、中国、台湾、香港、フィリピン、マレーシア、シンガポールなどから招待を受け海外公演を成功させている。
ニコニコ動画においては創成期から公式イベントのバンドメンバー、バンドマスターとして起用され、 2015年の超会議からはユーザー初のプロデューサーを務めている。
日本を代表する楽器メーカーとのコラボでは、 Rolandからは初のアーティスト専用モデルとしてシンセサイザー「 FA-08 紅い流星カスタム」が制作、贈呈される。 ヤマハとは DCEXPO2017においてヤマハみらいのアンサンブルに出演し、世界初となる人間と AIの 2台ピアノ合奏を披露。
2018年、Youtubeチャンネル登録者数10万人を達成、銀の楯を獲得。
同年、念願のプライベートスタジオを建設、 20畳のブースと8畳のコントロールルームを有し、新たな活動の拠点とする。
そのほか、脳漿炸裂ガールなどのボーカロイド楽曲でのピアノ演奏、月刊ピアノ誌での連載、キーボードマガジン誌でのインタビュー、テレビ番組「アニぱら音楽館」でのバックバンド演奏、 SEGA、 KONAMI、Aniplex等ゲームへの提供など。

■Twitter
https://twitter.com/akairyusei

■Active NEETs YouTubeチャンネル
毎週木曜日20時30分からYouTubeにて生放送中!
https://www.youtube.com/c/activeneets

 


 

Text&photo:溝口元海