【レコにまつわるエトセトラ】紙モノに幻惑されて ~ あの熱狂を丸ごと真空パック、ヴィンテージ・ポスターを愛でよう【第17回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第17回のテーマは、“紙モノに幻惑されて ~ あの熱狂を丸ごと真空パック、ヴィンテージ・ポスターを愛でよう”。当連載でも何度か取り上げている「ジャケット」に代表されるように、レコードにとってアートワークはとても重要な要素の1つです。

とりわけ「ポスター」は、コレクター界では世界的なマーケットを形成しており、中にはとんでもない金額で取引されるものも…。だが歴史的・文化的背景を知ればわかる、実はそれだけの魅力を持って然りの「ヴィンテージ・ポスター」の世界へと今回はご案内していきます。

シーン興隆への起爆剤となった数々のアートワーク

 

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Grateful Deadの1968年7月25日~27日、Honolulu International Center公演コンサート告知ポスター。デザインはリック・グリフィン。2ndプリント。
本公演は実際には実施されずキャンセルとなった経緯もあり、1stプリントは(状態問わず)僅か20枚程度しか現存しないと言われ、数多いサイケデリック・ポスターの中でも最高難度を誇る一枚。

 

皆さん「メモラビリア」という言葉はご存知でしょうか?
あまり一般的ではなく初めて耳にした方も多いと思いますが、音楽に限らず野球選手の直筆サイン入り色紙とか、そういう類のいわゆる「記念品」のことを指しています。

音楽の世界でも、ポール・マッカートニーが学生時代使用していたノート(オークション落札金額:約700万円)や、エルヴィス・プレスリーが肌身離さず持っていた聖書(同:約850万円)から、ジョン・レノンの歯(同:約300万円)まで、ありとあらゆるものがその蒐集対象として珍重されていますが、その中でもとりわけ広く人気を集めるのが「ヴィンテージ・ポスター」です。

ということで、今回はここ日本ではまだまだ盛り上がりに欠ける、ポスターにまつわるハナシ。
世界ではしっかりとした市場が形成されているのですが、国内では取扱店が少ないこともあってか、現状は人気、認知度共に激低と言わざるを得ません。

ヴィジュアル面ではレコード以上にアートしてる、そんな素晴らしきポスターの世界を一人でも多くの方に体験していただきたい、そんな願いを込めて書きました。
ぜひご一読よろしくお願いします!

 

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Grateful Deadの1973年9月14日、Providence Civic Center公演コンサート告知ポスター。デザインはランディー・トゥッテン。1stプリント、トゥッテンのサイン入り。
プリントの真贋を保証するという意味でも、サインが入ったポスターも存在します。

 

音楽同様、ヴィンテージ・ポスター界にも英米に大きなシーンが存在していますが、いずれもその芸術性が大きく花開いたのは、サイケデリック・ミュージックが生まれた1960年代中頃のこと。

それまではコンサートを告知するポスターと言っても、機能性オンリーのテキストだけだったり、メンバーがキチンと整列した写真が写っているだけだったりと、主張少なめのごくごくシンプルなデザインが王道でした。
レコードのアートワークにも同じことが言えるのですが、時代と共に音楽の世界にもアート的表現が流入し、その制作を担うアーティストたちがオーバーグラウンドへと台頭してきたのです。

では今回はヴィンテージ・ポスター界最大の人気を誇る、アメリカのシーンをご紹介していきましょう。

アンディ・ウォーホールを始め、バスキアやキース・ヘリング等、皆さんご存知のポップ・アート界のビッグネームたちも音楽との関わり合いは深く、レコードのアートワークやコンサート・ポスター等を手掛けていますが、今回ご紹介するアーティストたちは、サイケデリック・カルチャーと密接な繋がりを持ち、またそのサウンドをビジュアル化することによって、シーンの拡大に大きく寄与した巨人たちです。

 

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米メモラビリア界の頂点『BGシリーズ』の一枚。
1967年3月3日~5日開催コンサート告知ポスター、「BG-53」。デザインはウェス・ウィルソン。2ndプリント。
「SPLIT FOUNTAIN」という特殊技法でプリントされており、そのテクニカルな技法とデザイン性の高さからも名品と名高い一枚です。

 

舞台はサイケデリック・カルチャーの爆心地、米カリフォルニア州サンフランシスコ。

Jefferson Airplane、Grateful Dead、Quicksilver Messenger Service、The Doors、Jimi Hendrix Experience、Big Brother and the Holding Company、イギリスからはThe Who、Pink Floyd、The Yardbirds等々…挙げ出せばキリがありませんが、今では掛け値なしのレジェンド・アーティストたちが、夜な夜なライヴ・パフォーマンスを繰り広げていました。

そしてそんなアーティストらをブッキングし、シーンを創り上げた功労者ともいえるのが、プロモーターの存在です。
プロモーターの中でもとりわけ大きな功績を残し、自身も伝説となった「ロックを創った男」ことビル・グラハム、そしてプロダクション「the Family Dog」の創設者にして、 Big Brother and the Holding Companyのマネージャーを務め、ジャニス・ジョップリンを加入へと導いた男、チェット・ヘルムス。
特にこの二人のプロモーターはシーンのキーマンと言えるでしょう。

彼らは自らが運営したライヴ・ハウスであった、Fillmore Auditorium、Fillmore West、Winterland、Avalon Ballroom等を拠点に据え、ヒッピー・カウンターカルチャーの旗手として、シーンを創り上げて行ったのです。

そして、開催されるライヴには告知用ポスターが制作されたのですが、サンフランシスコにはポスター・アーティスト界においてとりわけ強い影響力を誇った、「The Big Five」と呼ばれる巨匠たちがいました。
ウェス・ウィルソン、スタンリー・マウス、アルトン・ケリー、リック・グリフィン、ヴィクター・モスコソ。
この伝説の5人が生み出した数々のアートワークは、サイケデリック・サウンドをビジュアルで表現し、音楽と共にシーン興隆への起爆剤となったのです。

 

ヴィンテージ・ポスター、その「オリジナルの見分け方」とは

 

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サイケデリック・グループ、WILDFLOWERの1967年3月3日開催コンサート告知ポスター、「NEON ROSE #9」。1stプリント。
ヴィクター・モスコソの多くの作品の中でも、最も偉大なる足跡とも言えるシリーズ「NEON ROSE」の一枚。

 

彼らが数多残した作品に関しては、ググったりして見ていただくとして、ここからはコレクター度数の高い「オリジナルの見分け方」の話をして行きます。
ちなみに、この手の記事は日本国内ではなかなかお目にかかれないと思いますので、今回の肝とも言えるでしょうか。

ポスターはレコード同様に、複数の版を重ねることが多く、サイズ、紙質、印刷手法、細かなデザインの変遷等により、オリジナルであるか否かという判断基準が形作られています。
なお、レコードではオリジナル云々の話の際に頻出する用語「プレス」は、ポスターでは「プリント」と呼ばれています。
つまりレコードでは初回盤を「1stプレス」と呼んでいますが、ポスターで言うところの初版は「1stプリント」と呼ばれているというワケです。

ではここで米コンサート・ポスター界におけるトップ・ブランドのひとつ、「Avalon Ballroom」のポスターを例に、オリジナルの見分け方の一例をご紹介しましょう。

 

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今回ご紹介するのは、1966年9月30日~10月1日にAvalon Ballroomにて開催された、13th Floor Elevatorsのライヴ告知ポスターです。サポートはQuicksilver Messenger Serviceと、タイムスリップ出来るならこの日を指定したい、そんな歴史的なライヴです。
ポスターの製作者は、「The Big Five」の一角にして、共作することによって数々の名作を生んだ、スタンリー・マウス&アルトン・ケリー。型番は「FD-028」、通称「Zebra man」と呼ばれる名作中の名作です。

そして上の画像のものは「4thプリント」にあたるものなんですが、ポイントを押さえながら紐解いて行きましょう。

まず前提として、ここで言う「1stプリント」とは、その名の通り初版刷りという意味ではありますが、もうちょっと細かく言うと、ライヴ開催前にプロモーション用として制作されたものになります。
そのため現存する個体数も少なく、後述もしますが何よりも紙質が非常にデリケートなものが多く、ダメージを免れたポスターの希少度は、レコードとは比較にならないほどに高いものです。

本作の1stプリントは2,000枚印刷されたとされていますが、「Vellum(ヴェラム紙)」と呼ばれる紙に印刷されており、サイズは約W14”×H20”(インチ表記)。また色味が特徴的で、顔のオレンジ色部分が一色刷りではなく、赤みを帯びた色から黄色へとグラデーションのように変化しています。
加えて、一番右下の欄外部分に「The Bindweed Press San Francisco」というクレジットが記載されています。

なお、ヴェラム紙というのはあまり馴染みがないかも知れませんが、ポスター・コレクターにとっては御用達の用語で、厚いトレーシングペーパーのような風合いの紙と思ってください。通常の紙よりも粗くナイーヴで、質感のある素材となっています。

 

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続く本作の2ndプリントの印刷枚数は1,000枚。1stとサイズも紙質もクレジットも同じで、色味は若干異なるものの、ほぼほぼ同じと思ってください。
ただ分かりやすい違いが1点、左下欄外に「28(2)」という表記が追加されているんです。「(2)」はシンプルに2ndプリントを意味しているワケですね。単純明快!

なお、2ndプリントというのは、通常はライヴ開催後から数週間以内にはプリントされるもので、もちろん既に告知用という訳ではなく、販売のために制作されたものになります。

そして3rdプリントは、今まであった右下欄外「The Bindweed Press San Francisco」のクレジットがなくなり、左下欄外が「28( )」となります。
また、顔の色も一色刷り、そして紙質も「Uncoated Index」と呼ばれるものへ変更されています。これは光沢のない厚紙で、ヴェラム紙に比べると滑らかな仕上がりになっています。

そして上の画像のものでもある4thプリントは、さらに「28(3)」と変更されているのですが、Capitolレコードが制作したリプリントとなっています。あーやっぱりややこしい。

 

オーラ漂う一枚を飾れば、いつもと違う音が聴こえてくる…

 

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1968年6月21~23日開催コンサート告知ポスター、「FD-124」。デザインはパトリック・ロフトハウス。1stプリント。
本品は中央部分に切れ込みと折りの加工がされており、中央部分のキャラクターが踊るギミックが仕込まれています。


最後にお伝えするのは、やっぱりみんな気になるプライス感。

レコード同様、作品によって事情は大きく異なりますが、1stで数十万円、2ndであれば数万円、なんていう具合に桁が一つ落ちたりします。
プリント時期は1stとそれほど変わらないにも関わらず、入手難度もグッと身近になり、保存状態も良好なものが見つかりやすく、そして肝心のプライス的にも随分とこなれますので、実際にコレクトするには2ndプリントが狙いどころかも知れません。

ただ、そもそも1stしか存在しないものもあったり、上記の「Zebra man」のように2ndすらも地獄のレア・ポスターなんていうのもあったりと、本当に色々とあるものです。そして何と言っても1stと2ndでは紙質や色味が大きく異なるものも多いため、パッと見のビジュアルでも大きな隔たりがあるわけですが…まぁその辺はレコードと一緒で、どこまで拘るかという感じでしょうか?

 

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他のアメリカン・ポスターや、イギリスのシーンなんかもご紹介したかったのですが、ちょっと長くなってしまったので今回はここまで。

レコードよりも生産数は圧倒的に少なく、かつ紙という特性上、ダメージを受けずにサバイヴすること自体が難しいヴィンテージ・ポスターたち。だからこそ蒐集欲は刺激され、世界中に多くのコレクターを生んだとも言えるのですが、やはり肝心なのはヴィンテージが故に醸し出し得る、何にも代えがたい至極のオーラです。
別に何枚もコレクションする訳ではなくても、バッチリ額装した一枚をドンと自分のオーディオ部屋に飾る。そしてレコードに針を落とし、椅子に身を預けながらポスターを眺める…ほら、いつもと違った音が聴こえてきませんか?

ヴィンテージ・ポスターは、あの頃の熱狂を丸ごと真空パックした、紛れもない本物のアート・ピース。
まずは一枚、手に入れてみてはいかがでしょうか?ただそれは底なし沼への一歩かも知れませんが。ぜひ!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千