音楽の分解&再構築!Kubotyが全編クラシックギターによるインスト作品をリリース

 

2019年に15年間在籍したTOTALFATを脱退し、現在は作曲家やアレンジャー、プロデューサーとしても活躍するギタリストのKubotyが、全編クラシックギターによるインストアルバム『おやすみ、またあした』を10月30日に配信限定でリリースした。カバー6曲、オリジナル6曲からなる全12曲を収録し、昨今のコロナ禍に一筋の光明を与えるようなハートウォーミングな作品に仕上がっている。従来の彼からは想像できない“クラシックギターによるインスト”をチョイスした理由から、斬新な制作手法まで、“Kuboty節”全開で語ってもらった!

レコード会社がやってくれることを全部自分でやってみようと

 

Kuboty(1)

 

――全編クラシックギターによるインスト作品はKubotyさんのイメージにはありませんが、そもそも制作のきっかけは何だったんですか?

Kuboty コロナ禍において外出する機会が減って、自宅だけで完結できる何かを探していた時、メタルのインスト作品を作ることも考えたんだけど、メタルだったらコロナ禍でなくても作っているなと。逆に振り切るじゃないけど、コロナ禍において人の役に立てるような、音楽で人の心を癒してよく寝られるような作品を考えた時に、まずやってみようと思ったのが「G線上のアリア」で。好きだし簡単だから1曲録ってみたんです。そうしたら“これ意外といけるんじゃね?”と思って、「G線上のアリア」から始まり他の曲を9月から録り始めて、10月頭くらいには曲が溜まってきて。縁があって“もくもくちゃん”にジャケットのイラストを描いていただくことができました。もともと“もくもくちゃん”の大ファンで、すごく優しさが溢れた世界観のイラストを描かれるので絶対にマッチすると思って。

 

――10月30日に配信開始なので、ものすごいスピード感ですね。

Kuboty 10月20日に全曲を録り終えて、26日の朝方にミックスを終えて、その日に全曲の配信依頼を出して30日0時から配信がスタートしました。

 

――これまで、クラシックギターでソロギターを弾いたことは?

Kuboty 全然弾いたことがないです。クラシックギターもガットギターも持っていなかったので。

 

――今作のために購入したのですか?

Kuboty そうですね。最初はヤマハさんからギターをお借りしました。「M」と「G線上のアリア」と「君をのせて」くらいまではそのヤマハのギターで録っていますが、本当に音が最高だった。残りの曲は色を変える為にコルドバというフラメンコ系のブランドのギターで録っています。ヤマハは温かみのある音、コルドバは抜けの良い音が特徴です。ライブではコルドバを使うと思います。

 

――クラシックギターでのレコーディングは初めてだったんですね。

Kuboty ソロギターは一般的にコードからメロディまで1人で弾きますが、あんなのできっこないから(笑)。しかも、指ではなくてピックで弾いています。モチーフは完全にゴンチチさんです。ゴンチチさんもバッキングをスティール弦で弾いて、メロディをナイロン弦で弾いている。しかも、ナイロン弦はピックで弾いていますから。

 

――ゴンチチさんもピックなんですね。

Kuboty 俺も丸いピックを使って、アタックをなるべく弱くしました。最初はバッキングさえもスティール弦で弾こうと思ったのですが、ナイロン弦で弾いてみたらかなりいい感じに仕上がったので、全部これでいこうかなと。クラシックギターを弾きこなす技量がないので、そのぶんアレンジで勝負というか、自分の一番の持ち味であるアレンジ力にフォーカスしました。なので、曲によっては12本くらいギターのトラックがあります。

 

――それはどの曲ですか?

Kuboty 「M」と「君をのせて」ですね。各ラインとマイクで24トラック。それを自宅で作業して。公園がすぐ近くにあるので、お昼だと公園の子どもの声や車とかバイクの音がガンガン入るので夜に作業しました。夜でもそういう騒音が入ってしまうとやり直しです。軽い防音施工はしているけど、やはり多少は入ってしまうので。

 

――すべて自宅レコーディングなんですね。

Kuboty エディットまで自分でやりました。人の手を借りたのは、エンジニアさんにお願いしたミックスとアーティスト写真、ジャケットのイラスト。レコーディング、エディット、アレンジは全部自分で、カバーの楽曲使用申請まで自分でやりましたね。

 

――すごいですね。

Kuboty レコード会社がやれることを全部自分でやってみようと。

 


“Kuboty押し”じゃなくて“リラクゼーション押し”でマーケットを開拓したい

 

Kuboty(2)

 

 

――最初にレコーディングしたのが「G線上のアリア」。

Kuboty もともと「G線上のアリア」はイングヴェイ・マルムスティーンもライブで演奏していたのですが、レベルが高すぎる、クラシック系のギタリストもリズムが特殊なんだけど、俺はどうしてもオーバーダブで作っていくので、クリックを聴きながらそれに合わせて弾く感じですね。

 

――この1曲で手応えを感じたそうですね。

Kuboty そうですね。「G線上のアリア」を作ったあとに“うわ!最高!”と思って。「M」は重ねまくったらすごく納得のいく仕上がりというか、もともとこの曲はアレンジがすごいんですよ。僕の作り方としては本当に完コピ。例えば「M」だと10トラックくらいを全部ギターに変換して、それを自分で弾きやすいようにアレンジすると。「M」は俺の超尊敬する笹路正徳さんがプロデュースをしているので、原曲のアレンジを分解してそのひとつひとつをクラシックギターで弾いています。

 

――その手法は主流なのでしょうか。

Kuboty 「君をのせて」や「M」はアレンジが緻密で、分解して再構築する中でめちゃめちゃ勉強になりました。分解してからの再構築はオフホワイト(※イタリアのファッションブランド)のデザイナー、ヴァージルアブローの手法です。服が大好きなので俺も音楽で分解&再構築をやってみました。

 

――名曲であればあるほどアレンジも緻密だし、確かに細かいトラックを見たら面白そうですね。

Kuboty 本当にすごいですよ。カバーは分解&再構築だけど、オリジナル曲はインスピレーションで弾いてそこにオーバーダブして切り貼りして作るので決定的に違いますね。2・4・6・8・10曲目の偶数曲がオリジナルなんですけど、そのへんとカバーではまったく作り方や録り方の手法が違います。

 

――分解&再構築ではどのような発見がありましたか?

Kuboty 俺がすごく好きな笹路さんの「M」のアレンジは本当に好きだなと思って。ベースラインも超ヤバイですが、もう全部ですね。バンドの各パートの役割とはこうあるべきだなと。TOTALFATをやっている時に気付きたかったくらい(笑)。「君をのせて」はやっぱりクラシック的で、久石譲さんはすごいなど。ストリングスや木琴など、普段触れないような楽器のアレンジでしたが木琴(マリンバ)がメインでしたね。ただ、ナイロン弦は音色的にもピアノに近い感触が出るのがポイントだったかなと。スティール弦よりも、ナイロン弦ギターのほうが遥かにピアノのアレンジと親和性が高いなと感じました。
あとはサブスクで俺にどれくらいの小銭が入ってくるかですよね。印税の行き先がジグザグになるように、カバーとオリジナル曲を1曲ずつ散らしました(笑)。

 

――そんな曲順の決め方もあるんですか(笑)。

Kuboty あとは作品がこういう雰囲気なので、カフェとかリラクゼーション系とか、治療院を経営している友達も院内で流してくれると言ってくれているけど、そういう別の方向で広がっていったら可能性もあるんじゃないかなと。盤(CD)を作るにしても、CD屋さんじゃなくてビレバンとか雑貨屋がいいなと。隙間産業を狙いたいですね。

 

――図書館でレンタル用CDとして置いてもらうのもいいですね。

Kuboty 図書館で手に取ってもらえるかどうかのところまでいきたいですね。

 

――しかもKubotyさんって絶対にわからない。

Kuboty 売り方によっては“Kuboty”という名義じゃなくてもいいくらい。“Kuboty押し”で売るんじゃなくて“リラクゼーション押し”でマーケットを開拓したい。11月25日にリリースされたHYDEさんのニューシングル「LET IT OUT」(Kubotyが楽曲提供)とは真逆の世界観ですけど(笑)。

 

もうひと鳴き、もうひと飛びしたい

 

Kuboty(3)

 

――オリジナル曲は以前からあった曲ですか?

Kuboty オリジナル曲として今作用に書き下ろしたのは「雨のあしおと」と「月うさぎのワルツ」で、「1997, In Canada」と「さざなみ」は高校1年生の時に作った曲です。

 

――ずっとストックしておいたんですか?

Kuboty 意図したわけではないですがそうなりますね。TOTALFATに加入する前に自分でバンドをやっていたんですよ。その時にけっこういい曲があって、ずっと出す場所がないと思っていたんです。まずは「雨のあしおと」と「月うさぎのワルツ」を作ったのですが、その手法で作っていくと曲が似てしまいそうなのと、カバー曲が強いからちゃんと作曲したものをアレンジしないと映えないなと思って。コンペに出していたデモ音源もひと通り聴いたんですけど、この作品のコンセプト的に“昔を大切にしよう”みたいなところもあって。そういう意味で、過去の作品から音源を引っ張ってくるのはめちゃめちゃいいなと。

 

――昔の曲は何曲目になりますか?

Kuboty 4曲目「1997, In Canada」、6曲目「見守る愛」、10曲目「さざなみ」。「見守る愛」は大学生の時に作った曲です。

 

――たくさんある曲の中からこれらを選んだポイントは?

Kuboty 「1997, In Canada」は高校生の時に組んでいたバンドのボーカルとの共作なんですけど、作曲のクレジットは俺で登録させてもらいました。1本電話を入れて、印税でスタバぐらいは奢るからって。97年にフランスにホームステイしたのですが、カナダにホームステイした同級生もいて、この曲にはカナダ組の思い出が詰まっています。俺もアルペジオとかを一緒に考えたんですけど、すごくいい曲なんです。さらに今の自分の感覚でリアレンジして。

 

――「見守る愛」は慈愛に満ちたタイトルですが。

Kuboty 『北斗の拳』が大好きで、“見守るだけの愛もある”というトキの名言から取りました。なので、これは『北斗の拳』のトキの曲です。ジャンプイズム。努力、友情、勝利です。

 

――2曲目「雨のあしおと」と8曲目「月うさぎのワルツ」はどうですか?

Kuboty 家で適当に弾いていたらいい感じにできました。メモ程度にとっておいたフレーズがそのまま“あれ?これいけるんじゃね?”みたいな感じで。ハーモニクスのループもすごく良くて好評です。

 

――「雨の足音」はすごくキャッチーで耳馴染みがいいですよね。

Kuboty でもすぐに完成しましたね。編集は時間がかかってるんですけど、曲の素材自体はたぶん1〜2時間で終わったと思います。「月うさぎのワルツ」は8分の6拍子だからまぁワルツではないんだけど、何となくのタイトルです。『おやすみ、またあした』なので、ちょっと夜っぽいキーワードを入れたらそれっぽいかなって。

 

――非常に聴き応えのある作品でした。

Kuboty 最後に録ったのが11曲目のCHAGE and ASKAさん「終章(エピローグ)」なんですけど、最後に録ったのでめっちゃクオリティが高かった。ついにクラシックギターの鳴らし方とマイキングを覚えましたね。こういう音が欲しかったらここ!みたいな。

 

――絶妙な場所なんですか?

Kuboty サウンドホールに寄るとモコモコした音で、ネックに寄るとコンコンした音になります。あとは横軸と縦軸、ギターとの距離、鳴らし方。ある程度クラシックギターだけで済まさないといけないから、一般的なレコーディングでは不必要なロー(低音域)も今回は録らないといけない。そのへんは自分でローを狙って弾きました。

 

――辿り着いた場所はどのあたりだったのですか?

Kuboty ネックのジョイント部分で、6弦側から1弦側に向かってマイクのアングルをつけるといい感じでした。

 

――「さざなみ」はどうでしょう?

Kuboty まったく知られていない曲だけど、自分の中ではすごく大事な曲です。「さざなみ」は高校の時の思い出の曲で、当時『YOKOHAMA HIGH SCHOOL HOT WAVE FESTIVAL』という高校生のバンドコンテストがあって(通称:ホットウェーブ)、97年にその曲を横浜スタジアムで演奏したんですよ。メロディの一部がクイーンとデヴィッド・ボウイの共作「アンダー・プレッシャー」とまったく同じところがあるんですけど、「アンダー・プレッシャー」を聴いたことがない状態でこの曲を書いたので。それをあとから知って、“こんなに売れている曲と同じメロディを考えられたから音楽で食っていけるな”と高校生の時に勘違いしちゃった(笑)。それから今に至り鳴かず飛ばずみたいな。

 

――充分、飛んではいるんじゃないですか?

Kuboty もうひと鳴き、もうひと飛びしたいですね。

 

――もう1段飛びたいと。

Kuboty 1段じゃなくてもう5段くらいは飛びたいですよ。今作もそうだしHYDEさんのシングルも良いチャンスになりましたので、作家としても名を上げながらメタルとクラシックの両極端で攻めていけたらいいなと目論んでいます。

 


 

【作品情報】

ジャケ写.jpg

配信限定アルバム
『おやすみ、またあした』(sambafree.inc)
2020年10月30日リリース

【収録曲】
1.M
2.雨のあしおと
3.君をのせて
4.1997, In Canada
5.G線上のアリア
6.見守る愛
7.愛の讃歌
8.月うさぎのワルツ
9.恋するカレン
10.さざなみ
11.終章
12.EIGHT MELODIES

【配信先スマートリンク】
https://orcd.co/oyasumimataashita

 

【プロフィール】
Kuboty/2019年、15年在籍したTOTALFATを脱退。ギタリスト、作曲家、アレンジャー、プロデューサーとして幅広く活動中。

・Instagram
https://www.instagram.com/kuboty666/

・Twitter
https://twitter.com/kuboty666

 


 

Text&Photo:溝口元海