【レコにまつわるエトセトラ】レコ屋の流儀 ~ みんなで掘りを楽しむための七つの流儀【第18回】

 

近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第18回のテーマは、“レコ屋の流儀 ~ みんなで掘りを楽しむための七つの流儀”です。近年は、ラーメン二郎なんかでも話題の“暗黙のルール”。周りを見ると、みんなやっているけれど、どこかに注意書きがあるわけでもなく、誰かが教えてくれるわけでもない…。

そんなルール…というか立ち振る舞い方が、レコ屋にもあります。でも意味不明で理不尽なものではなく、そこにはちゃんと1つ1つに意味があるのです。知っているだけで自分も他のお客さんもお店もみんなが平和に楽しくレコ堀りができる、簡単なマナーのようなものを今回はご紹介します。

誰も教えてくれない、レコ屋での立ち振る舞い方とは?

 

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今回は唐突に漫画からスタートしましたが、この話を少しでも多くの方に知っていただきたい、そんな思いの詰まった啓蒙活動の一環だと思ってください。

私もレコード屋で働き始めて約20年、次第にこの一風変わったカルチャーにも慣れ、もう随分と感覚がマヒしてしまいましたが、皆さんは初めてレコード屋に行った、あの日のことを覚えていますか?

最初は分からなかったレコードの扱い方や、飛び交う専門用語にも次第に慣れ、ズドドドと誰よりも早く見るのがクールだという思い込みも卒業して、今はゆったりと自分にピッタリなレコ屋スタイルで楽しんでいる、そんな熟練な方もいらっしゃるかと思いますが、レコ屋での立ち振る舞い方をマジマジとイチから教えてくれる人っていないものです。

かくいう私も失敗を繰り返し、強面の店主に圧をかけられて、背中に変な汗をかきながら覚えていったものですが、時代はもう令和。
ちょっと事前情報があるだけで、ベテランもビギナーも誰もがノーストレスで楽しめるんではないかと思うワケです。

ということで、今回はローカル・ルールだらけのレコ屋での振る舞いを紐解く、レコ屋ならではの流儀をチラリとお伝えいたします。

「何だよめんどくせーな」とか思わないでください。別にレコ屋に厳格なルールなんていう大層なものはないんですが、この記事はみんなで楽しく平和に掘るためのヒント集だと思ってご一読ください。
ではどうぞ!

 

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1.めくりの流儀

「めくる」っていう言い方はあんまりポピュラーじゃないかも知れませんが、棚に入っているレコードを「パタパタ」とめくるように見ていくことを指しています。
そしてこのめくりのスタイルこそが、レコ屋でのマナーを語る上で、基本かつ最も重要なことだと思います。

レコードに慣れ親しんでいないビギナーな方でも何となくのイメージはあるかもしれませんが、めくり方の王道はレコードを引っ張り上げては離すを繰り返す、「スッスッ」と見ていくスタイルです。
ただ、この基本に見えるスタイルも、やって見ると意外に難しいものなんです。

今「スッスッ」と書きましたがこれがミソで、レコードを引っ張り上げて離す時には、前後のレコードでそっと抑えて、レコードが棚底にダイレクトで落ちないようにするんです。
ちょっと文章だと伝わりにくいと思いますが、ダイレクトの場合は「ストンストン」という音になるワケです。

そしてこの「トン」部分の何が問題かと言うと、ジャケットの「底抜け」を引き起こしてしまうという点です。
「底抜け」って別に底抜けに楽しい(某スケ君のサンプリング)っていうことではありません。レコードのジャケットは想像以上にナイーヴで、「トン」の瞬間に盤がジャケットの底面を叩き、底部分に穴が空いてしまうことがあるんです。

その昔はエッジの効きまくった個人店がいっぱいあって、「トントン」の「ト」の時点で店主からの注意(という名の怒号)が矢よりも早く飛んできたものです。これホント。

底抜けは商品の価値を下げてしまうということもあって、レコード屋としては万年悩みのタネ。底抜けしてるレコは絶対買わないぜっていう方も、決して少なくありません。
そしてそんな商売的な面ももちろんあるんですが、何よりも理解して欲しいことは、オリジナル盤は有限だということです。

元々は大量生産品といえども、長年の時を経たオリジナル盤は、今や貴重な文化遺産と言っても過言ではありません。一度失われてしまえば二度と戻ってこないのです。
そして今新品で売っているニューリリースものだって、明日のオリジナル盤と言えましょう。買われる前に傷モノになってしまえば…お嫁に行けない!

私たちレコ屋ももちろん対策はしています。
底板にマットやブチルゴムみたいなのを敷いたりして、フワッとさせて底抜けを減らそうとするのですが、滑りが悪くなって余計見にくくなったりもしますし、言うほど防げもしません。うーん、難しい。

長くなりましたが、やっぱりめくりは「パタパタ」に限ります。
コーナーに余裕があればそのままパタパタ、キツくて見にくい場合は一掴み分を抜いてからパタパタ。これがベスト。っていうかこれっきゃない。お願いします!

 

荷物に試聴に検盤に、そしてトイレも…どこでもマナーは大事!

 

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普通のレコ屋は、せいぜい2人が背中合わせでギリギリの道幅です。

 

2.荷物の流儀

見るのに邪魔な荷物は、店に預けてしまいましょう。
なんなら持っている荷物は全てカウンターに預ける、なんていうルールがある店もあります。少数派ですけどね。
それは万引対策っていうのもありますが、店内にレコードが入ってる袋を置いておいたら、目を話した隙に誰かに盗まれた…なんていうトラブル回避でもあります。お気をつけを。

あと、デカいリュックを背負いながらレコードを見るのは控えましょう。レコ屋って基本手狭なもので、通路を完全に塞いでしまうんです。
当たった当たらないで揉める現場を見ることも決して少なくないので、みなさん思いやりの気持ちを持って掘りましょう。

 

3.検盤の流儀

検盤のマナーは店によって違うもので、ここ日本ではカウンターに持って行って、「検盤お願いしま~す」みたい感じで伝えてからチェックするスタイルが一般的ですが、海外では自由にその場でするセルフ検盤が一般的です。
ただ海外でもロンドンみたいな大都市なんかでは、価格に関わらず全部中身抜き(盤はカウンター内に保管)なんていう店も少なくありません。

検盤自体の作法は割愛しますが、ことロック界では状態の確認はもとより、その盤のプロフィールを確認することも多いです。
ラベル面のデザインや細かい文字組み、そしてデッドワックス部分(無音部)のマトリクスをはじめとした各種刻印から情報をキャッチして、プレス時期やプレス工場なんかを確認したりと大忙しです。

ちなみにですが、とある特殊な素材を用いてプレスされたレコードというものが存在するのですが、それらは「光にかざす」ことによって確認ができるのです。

DJMやDAWN等の英PYE関連レーベルでお馴染み、かざすと盤が赤く見える「Translucent Wax(俗称:透赤盤)」や、高音質と定評のある米国発の青く透けるニクイ奴「KC-600」等が代表的なのですが、全く同じタイトルでも通常の黒盤とそれら特殊盤が混在しているケースもあります。

ということで盤を光にかざして確認するんですが、普通の検盤とは違うその動作、事情を知らない人からすればちょっと胡散臭く見えるんですよ…。別にレコードを天高く崇め奉ってるワケじゃありませんからね!

この機会にそういうものもあるって覚えて帰ってください。

 

4.トイレの流儀

本屋と一緒で、レコ屋に行くとなんだかもよおしてきませんか?
ただレコ屋って、サイズの大小関係なく基本的にトイレの用意はありません。例外があるとすれば、テナントとして大きな商業施設に入っている場合でしょうか。
トイレが近目な私は、国内外問わずよく行くレコ屋の最寄りのトイレ情報は完璧に把握しています。これで安心!

 

5.試聴の流儀

試聴に大事なのはスマートさ。
ケースバイケースではありますが、あくまで試聴なので、全曲じっくりみたいな長時間のリスニングは控えましょう。
あとレコードはもちろん商品なので、丁寧な取り扱いを心掛けましょう。
スクラッチする人はさすがにいないと思いますが、頭出しをしたり、センターホールに入れる時に雑にグリグしたりするのはやめましょうね!

 

好きモノ同士、そしてレコ屋店員との交流も醍醐味の1つ

 

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試聴に時間や枚数の制限を設けている店も多いです。

 

6.廃盤セールの流儀

これは日本特有というか、ディスクユニオン由来の文化かもしれませんが、レアなレコードを週末とかにまとめて放出する「廃盤セール」というものがあります。
別に安くなるワケではないので「セール」と名乗るのも違和感ありありですが、何十年もやっていることもあって、しっかりと根付いた文化となりました。

一昔前はコレクター同士の熱いバトルがくり広げられる、まさに鉄火場と化していた廃盤セールですが、最近は時代も変わり、ピースフルな和気あいあいムードになって来ました(たぶん…)。

ちなみに人気セールだと入場整理券を配布したりするのですが、並んでる最中のコレクター同士に交流が生まれ、色々と情報交換(という名の狙ってるものの探り合い?)したり、整理券をゲットしてから開店までの間に朝ご飯を一緒に食べに行ったりと、横の繋がりもまた楽しいものです。

以前はそれこそ徹夜組が出たりと、整理券段階から熾烈なバトルが繰り広げられることもありましたが、最近はコロナの影響もあって、店側としても並びが入らないような工夫もさせていただいています。

真冬だっていうのに、前日の昼頃から一升瓶片手に入口前の隅っこにドカンと鎮座。翌日の開店時間までチビチビ飲み続けて体温をキープし、開店するや否や本命だけを静かに、そして確実にハントした、「レコード必殺仕事人」足るあの漢の勇姿は忘れません…。

 

7.爆抜きの流儀

長いことレコードを蒐集していると、ひょんなことからめちゃくちゃ安い値段でオリジナル盤を買えることもあるでしょう。

でもそんな時は振る舞い方が大事。
だって少なくともそこの店の人はその価値に気づかなかったワケで、露骨に態度に出したり、ましてや直接伝えるのは、イザコザしか生まないので止めておきましょう。

ちなみにどれとは言いませんが、かくいう私も2万円で大体100万円の価値を持つレコを抜いたことがあります。
そこは私もプロ、見た瞬間勝ち(?)を確信しましたが、嬉しさ余って飛び上がるでもなく、いつも通りの平穏な気持ちのままスッと買って…って、いやいやホントは内心めっちゃドキドキしてましたよ!無理無理!
帰ってから独りポゴダンスしたのは言うまでもありません。ヤッタゼ!

 

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今後に乞うご期待!

 

どの世界でもマナーというか、隠れマイナー・ルールってつきもの。そんなに過剰に気にする必要なんてないんですが、アナタの周りに気にしてる人がいるのも事実なんです。

とにかく少しでも分からないことがあれば、店員に聞いてしまいましょう。そこはレコ屋の店員も好きモノ、とにかくレコードにまつわる話がしたくて働いていると言っても過言ではありません。
私なんかは「まだ買ったことないんですけど、オススメのレコードありますか?」とか、そんな質問大好物ですよ!

こうして会話が弾んで、また新しい音楽との出会いがある、それこそがリアル・ショップであるレコード屋の醍醐味の1つではないでしょうか?
ご来店お待ちしてます!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千

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