いつか全て忘れてしまうとしても、忘れたくない想いをTHE PINBALLSは掻き鳴らす

今の時代には珍しいほどの正統派ロックンロールサウンドと、Vo.&G.古川貴之が描き出すファンタジックな詩世界が融合し、まさに唯一無二の存在感を放っている4人組バンド、THE PINBALLS。コロナ禍の影響を大きく受けた音楽業界の中でも、彼らは自分たちが今鳴らすべき音と真摯に向き合ってきた。
テレビ東京 水ドラ25『闇芝居(生)』オープニングテーマとなった「ブロードウェイ」はミュージックビデオ公開1ヶ月で100万回再生を突破、「ニードルノット」は話題のTVアニメ『池袋ウエストゲートパーク』オープニング主題歌に選ばれるなど、その音は確実に大きな広がりを見せようとしている。
この社会に生きる誰もが今までとは違う状況に陥り、かつて当たり前だったことがそうではなくなった時代。常に何かに抗い、戦い続けてきた彼らの音楽は静かに、だが着実に“普遍”へと近づいているのかもしれない。そんな想いを抱かずにはいられない、紛うことなき傑作を生み出した4人に迫るインタビュー。
「ロックンロールバンドは、どう考えてもライブがメインなわけじゃないですか」
――今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響も大きかったと思うのですが、バンドの活動にも変化はありましたか?
森下(Ba):当たり前ですけど、ライブがなくなってしまって。でもそのぶん、制作日数は増えた気がしますね。何かが減った代わりに、何かを増やすことができたというのはバンドとして良かったと思います。
――今回の『millions of oblivion』制作時期は、コロナでの自粛期間と重なっていた?
古川(Vo&G):アルバムの曲を作っている最中でした。森下も言ったようにじっくり作れた気がするので、いつもよりは気持ちに余裕も生まれて。制作に集中できたところはありますね。
――ライブができないことで、心境に何か変化は?
古川:やっぱり、テンションが上がらないところはあって。ちょっと寂しいので、動画を配信するようにしました。
――Twitterにアップしている弾き語りの動画は、古川くんの意外なルーツも見えて面白いなと思いました。
古川:「こんなものも好きだったんですね!」みたいな反応もあって、喜んでくれる人が多かったですね。(ファンとの)コミュニケーションは切らさないようにしたいなと思っていました。SNSをこうやって使うとお客さんも喜んでくれるんだというところで、改めて勉強にもなって。もっとこういうことをやっていかなきゃなと思ったし、自分自身も楽しめたので良かったです。
――中屋くんは、コロナになって何か変化はありましたか?
中屋(G):ロックンロールバンドは、どう考えてもライブがメインなわけじゃないですか。それが今までどおりできなくなってしまったという面では、つらいというか…。音楽を仕事にさせてもらっている中で「何が一番楽しくて、こんなことをやっているのか?」と訊かれたら、やっぱりライブがあるからなんですよね。
――ライブができなくなったことが一番大きかった。
中屋:ステージに自分たちが立って、ライブを観に来てくれている人たちがいて、その前で演奏できるっていう…。それって俺の中では、ものすごいことなんですよ。生きている実感というほど哲学的ではないんですけど、パワーにはなっていて。それがないというのは、どうしても“寂しいな”とは思っちゃいますね。
――自粛明けにライブをした時は、今までと違う感覚もあったのでは?
中屋:俺らはまだライブをあまりやっていなくて、前回のリリース(Acoustic Self Cover Album『Dress up』/2020年9月)に付随した神戸と横浜の2ヶ所だけなんです。着席の会場だったし、いつもどおりの自分たちのスタイルではなかったんですけど、“やっぱりライブって良いな”と思いましたね。観に来てくれている人たちの前で演奏できるのは楽しいなという気持ちもあるし、スタッフとも「この感覚、久しぶりだよね」と言っていました。
――いつもとは違う雰囲気の会場や編成にチャレンジしたわけですが。
石原(Dr):本当に楽しかったです。パーカッションの人と一緒にライブできたことが、自分としてはすごくプラスになって。めちゃくちゃ勉強になったし、“また機会があればやりたいな”という気持ちもありますね。あと、やっぱり“ロックバンドの音って良いな”とは思いました。
――改めてロックバンドの良さを実感したと。
古川:自分たち以外のミュージシャンの音が鳴っているというのも初めての経験で。新しい経験をしたことで今作にもすごく良い影響が出たので、やって良かったです。でもそれを踏まえた上で、(普段通りのスタイルで)ライブをやると、ギターの歪んだ大きな音がひときわ気持ちよく感じたりもして。そういう意味でも、本当にやって良かったと思います。
「自分でも計り知れていないようなものについて語りたいんです」
――『Dress up』やそのレコ発ライブでの経験も、今作に影響した部分がある?
古川:今作はポエトリーブック(※初回限定盤スペシャルパッケージのみ付属)を作るということもあって、アルバムを通したストーリーを考えたんですけど、その中には『Dress up』でやった曲のイメージも入っています。『Dress up』(の収録曲)は過去の曲でもあるので、図らずも今までの気持ちを振り返ったことが新作にも投影されたというか。そういう面でも面白くなりましたね。
――今回は最初からポエトリーブックも作ろうと思っていたんですか?
古川:はい。僕は歌詞を書く時に文章をたくさん書くんですけど、その中から言葉をピックアップするので、(使えなかった)イメージの断片がもったいないなと思っていて。(歌詞で)全部を使いきれるわけではないから。でも小説のような文章の中でならすごく自由度があって、曲と曲の世界観を結びつけることもできるなと。ポエトリーブックがあることで今作を補強できたし、言葉がつながっていくのがすごく面白いなと思いました。
――そのせいか、今回のアルバム全体でも1本の流れがあるように感じられました。
古川:やっぱりポエトリーブックで意味を補強したことによって、アルバムにも1つ筋の通った物語ができましたね。僕自身も全体で何となく1つの流れがあるように感じています。ただ、曲は曲でそれぞれが独立した世界観を持っているんですけどね。
――特にタイアップ曲のM-2「ニードルノット」 やM-9「ブロードウェイ」は、独立した世界観で作ったのかなと。
古川:「ニードルノット」はそうです。「ブロードウェイ」はショービジネスの曲なんですけど、それがたまたま“お芝居”をテーマにした『闇芝居(生)』というドラマにハマったという感じで。それをドラマの制作側にもすごく気に入っていただいて、「番組のテーマにぴったりだからぜひ!」と言ってもらいました。
――逆に「ニードルノット」は、TVアニメ『池袋ウエストゲートパーク』をイメージして作ったんでしょうか?
古川:そうです。この曲は、原作の小説も読んで、その時に感じた感動やワクワク感だけをイメージして書きました。小説には石田衣良先生の世界観や完結した素晴らしい宇宙があるし、特にドラマ版のイメージがみんなに浸透していると思うんですよ。だから原作から感動はいただきつつ、文章的なものは全て忘れようと思って、全く無関係な歌を作りました。
――あえて無関係にしたと。“ニードルノット”は造語なんですよね?
古川:そもそも“ロックンロール”という言葉も、意味はよくわからないじゃないですか。色んな由来はあるけれど、“じゃあ、なぜロックンロールと言ったのか?”と考えたら、本当に感覚的なもので“岩、ゴーン!”みたいな(笑)。でも実はそういう感覚って世界も超えられるし、人に一番伝わる可能性があるんですよね。
――言葉の響きだけで、直感的に伝わるというか。
古川:そういう感覚的な、自分でも計り知れていないようなものについて語りたいんです。自分の中にあるマグマを、“よくわからないけど、これがニードルノット!”みたいな…そういう熱い感動だけ伝えられたらなと思っていました。
――M-8「惑星の子供たち」で“気にするな ジョニー ジョニー ジョニー”と連呼した後に、“いや もうジョニーなんて言葉はどうだっていい”と歌っているところも、そういう感覚に近いのかなと…。
古川:自分で言っておきながら、「いや、違う。もっと本当の言葉を言えよ!」と言っている感じですね。そういうことをみんな感じているから、ギターを掻き鳴らしたりするんだろうなって。“もっと他にあるだろう? こんな言葉なんて要らないんだ!”みたいなことを、スピード感と一緒に表現したかったんです。
――内面にある熱をただ表現したかった。
古川:「ニードルノット」もそういうイメージで。”いいよ、もう言葉なんて! この感動と熱さだけあれば良いよね”みたいなところで、どちらかといえば無意味な歌詞になったんだと思います。
「忘れ去られるのは当たり前だから、今忘れたくないものは忘れない」
――M-1「ミリオンダラーベイビー」はアルバムタイトルともワードが重なりますが、今作を象徴しているように感じました。
古川:「ミリオンダラーベイビー」がこのアルバムの全てのようでもあって、自分の中では1~10曲目までの全部で「ミリオンダラーベイビー」のようでもあると思っているんです。全体と1つ1つの曲が相互作用していると良いなとは思いますけど、図らずもそうなっているというか。結局、言いたいことは1つなんだろうなという気はします。
――今回で最も言いたいことがこの曲に表れているんでしょうか?
古川:自分の気持ちを正直に書いている気がしていて。「ミリオンダラーベイビー」を書いている時にイメージしていたのは、自分が昔すごく好きだった女の子のことなんです。あと、『池袋ウエストゲートパーク』のオープニング主題歌を歌わせてもらうにあたって、自分が実際に池袋西口公園で弾き語りをしていた時に誰も立ち止まってくれなかったことを思い出して…。
――実際に池袋西口公園で弾き語りをしたんですね。
古川:誰にも聴いてもらえなくて“ヤバいな…”と思っていたら、外国人の女の子が遠くで1人踊ってくれていたんです。それを見て“1人でも喜んでくれている人がいたんだ!”と感動して、泣いたことがあって。その子の踊っている姿に“音楽をやっていい”と言ってもらえたような気がして、それが大事な思い出としてあるんですよ。
――その思い出も含まれている。
古川:自分の恋とその踊っていた外国人の女の子のイメージが、どちらも「ミリオンダラーベイビー」にはあって。パーソナルな部分もありつつ、物語のようでもあるという意味では、アルバム全体のイメージにもつながっていますね。
――なるほど。M-10「オブリビオン」という曲名にもなっていますが、“忘却”も今回のキーワードなのかなと。
古川:そういう美しい記憶もあるんだけど、僕もその少女もこのバンドも永遠には生きられないじゃないですか。絶対にみんな死ぬから。だからといって、そのことに落ち込んでいるわけじゃなくて、“みんなが亡くなるものだし、忘れ去られるのは当たり前だから、今忘れたくないものは忘れない!”というポジティブな意味で、最後は“忘れていく”というイメージにしました。
――みんなが忘れていくものだから、『millions of oblivion』というタイトルに?
古川:“たくさんの忘却”というか。僕たちが好きだったバンドのことも、意外と今の10代の子たちは知らなかったりするじゃないですか。でもそうやって消えていったバンドたちも、僕の中では星のように輝いていて。それが流れ星のようというか、宇宙の闇の中で無数に輝く星たちのようなイメージで考えました。
――バンドに対する想いも込められている。
古川:かつて“自分は成功してロックスターになる”というイメージを持っていた時の夢って、ある意味では叶っていると思うんです。でもたとえばキャデラックに乗っているような“ザ・ロックスター”みたいな夢は潰えていて。バンドマンって1つ1つのステージに夢があって、みんなにそういう夢がそれぞれあると思うんですよ。僕だけじゃなくて一般論としての、“バンドマンの夢”みたいなものをイメージしましたね。
――自分たちの生き様も込められた作品なのかなと思います。石原くんはTwitterで「今回のアルバムは個人的に今までで一番好きだ!」と書いていましたが。
石原:毎回“一番良い”と言わなきゃいけないんでしょうけど、今回が本当に一番良いと思ったので正直に書いちゃいましたね(笑)。
――メンバー自身でもそれだけの手応えを感じられている。
森下:自分でも繰り返し聴くアルバムになっていて。毎回“良いものができた”という自負はあるけれど、今回はどこか客観的に聴ける瞬間があるんですよ。いつもなら“これは俺がプレイしているんだよな~”と思いながら聴くんですけど、今回はそういうことすらも忘れられる作品かなと思います。
――そんな作品を持って、2021年はツアーに出るわけですが。
中屋:いつもならアルバムをリリースした段階では、もう気持ちはツアーに向かっているんです。でも今回は今までと状況が違って、ずっとライブをやれていないというのもあるし、今までみたいに気持ちが素直にツアーに向かっていないというか。音楽をやっている人たちだけに限らず、この社会で生きている人みんながそうなんだろうけど、やっぱり今までとは違う感覚がありますね。
――その感覚がどうライブに反映されるのかも楽しみです。
古川:こうやって色々と“意味”みたいなものを伝えてしまうことで、みなさんもわかろうとしてくれると思うんですよ。でも文章は文章で別の芸術だから、そういうものは度外視して、音楽は音楽として楽しんでもらえるようにしたいですね。ツアーはもうゴチャゴチャ考えずに、単純に音だけを楽しみにしてくれれば気持ち良くなれるようにしていくから。音楽でみんなを楽しませます!
【プロフィール】
Vo.&G.古川貴之、G.中屋智裕、Ba.森下拓貴、Dr.石原天
■WEB
公式サイト:
http://thepinballs.org/
公式Twitter:
https://twitter.com/PINS_official
【Information】
Major 2nd Full Album
『millions of oblivion』 2020/12/16 Release(日本コロムビア)
【初回限定盤スペシャルパッケージ(CD+Blu-ray+ポエトリーブック64P)】
COZP-1689-1690 5,280円(税込)
【初回限定盤(CD+Blu-ray)】
COZP-1691-1692 4,180円(税込)
【通常盤(CD)】
COCP-41311 3,080円(税込)
日本コロムビア THE PINBALLS:
https://columbia.jp/artist-info/pinballs/
■ライブ情報
THE PINBALLS Live Tour 2021 “millions of memories”
2/05(金) 千葉LOOK
2/13(土) 福岡CB
2/14(日) 岡山ペパーランド
2/19(金) 仙台MACANA
2/21(日) 札幌SPiCE
3/06(土) 大阪Banana Hall
3/13(土) 高松DIME
3/14(日) 名古屋Electric Lady Land
3/27(土) 長野LIVE HOUSE J
3/28(日) 金沢vanvan V4
4/08(木) 渋谷TSUTAYA O-EAST
Interview&Text:大浦実千