第10回 ライブとレコード④ 【音楽あれば苦なし♪~福岡智彦のいい音研究レポート~】

 

ライブに関しては、コロナ禍が奇しくも後押ししてくれたライブ配信のインフラ拡充により、観客を動員してのリアル・ライブと、それをネットに載せ、時間差視聴もできる配信ライブという2本立てで、収益も増えればファン拡大も見込めるという希望が見えてきたのでは?…前回そんな話をしました。
一方レコード(録音物)は、繰り返しお話ししているように、CDで1998年に売上のピークを迎えたあとは下降の一途、「着うた(R)」が当たろうが、iTunesが始まろうが、Spotifyが来ようが、状況を打開することは叶わず、ここ数年は往時の約半分の規模で低空安定飛行を続けております。

レコード売上は、音楽業界の中でも特にレコード会社のまさに生命線なわけですが、この20年、彼らはいったいどういう対策を講じてきたのでしょうか。「彼ら」と言いながら、私自身、1985年から2003年までレコード会社の社員としての人生を送っていましたので、他人事ではありません。“当事者”としての自覚も忘れず、振り返っていこうと思います。

間違いだらけの違法配信対策

 

なぜ1998年がピークだったかの理由としてよく言われるのが、翌1999年からの「ファイル交換」(違法配信)行為の流行です。米国に「ナップスター (Napster)」というサービスが登場し、瞬く間に全米に広まっていきました。これはmp3にコンバートした音源を、ネットを介して無料でやりとりできるというものでしたから、音楽業界は大騒ぎ。米国では直ちに著作権法侵害で訴えることでこの新興サービスを潰しにかかり、日本ではまださほどの危急感はなかったものの、これが蔓延する前に、“正規”の音楽配信サービスを提供することで備えようと考えました。早くも99年中に、ソニー・ミュージックが「bitmusic」という配信サイトを立ち上げ、やがて他のレコード会社も加わった「レーベルゲート」もサービスをスタートしますが、これが、①使いにくい、②価格が高い、③曲数が少ない、という“3点セット”で、まったくの不人気。

説明しますと、

①「著作権保護機能=Digital Rights Management=DRM」が強くて使い勝手が悪すぎた。たとえば、PCからポータブルプレーヤーにコピーすると、PCからは消えてしまう。つまりコピーではなく“移動”しかできなかったりしました。
②最初は1曲350円もしました。片やレンタル店ではアルバムCDが250円くらいで借りられたのに。
③何よりこれが問題です。欲しいモノがない、取り寄せもできないような店に誰が行きますか。

これに対して、ナップスターは、

①DRMなし。コピーフリー。ユーザーには至便。
②無料。ただし当時はインターネット接続が電話回線で、その料金がバカにならなかった。
③ユーザー同士の物々交換なので、探せばほぼ何でもある。

いやはや、これで対抗できると考える方がおかしい、と思いませんか。
要するにレコード会社は、ユーザーが「(PCさえあれば)いつでもどこでも音楽が聴けるという、CDビジネスにはなかった音楽配信のメリットに魅力を感じている」と判断したのでしょう。だけどそれは大いなる勘違い。「タダでどんな音楽でも手に入る」から飛びついたのです。実際当時のネット環境では、データ量の小さいmp3でさえ、1曲ダウンロードするのに10分程度かかったはずで、「いつでもどこでも」というほどではなかったのですから。
そして、タダの魅力に対しては「それは違法です」と著作権法を盾に禁止するのみで、これがもうひとつのだいじな本質の読み違え。
ナップスターのヘビーユーザーは、法的には違反者だろうけどその前に、より多くの音楽を聴きたい「ヘビー音楽ファン」であり、本来は最重要顧客になり得る人たちでした。そんなだいじな人たちをレコード会社は頭ごなしに犯罪者扱いするだけ。おそらくその人たちに犯罪の意識はなかったでしょう。友人同士のCDの貸し借りがネットによってパワーアップされたというような感覚だったんじゃないですか、たぶん。
それに、mp3が無料でやり取りされても、直接レコード会社が損害を被ったわけではありません。ところが彼らは「販売機会の損失」などと主張しました。「買ってくれるかもしれなかったのに、タダで手に入ったから買わなかった」というわけです。そりゃそういう人もいたでしょうけど、逆に「タダだから聴いてみたら気に入ってファンになり、CDを買ったりライブに行ったりするようになった」という人もいたでしょう。

今だから言えることでしょうが、この時とるべきだった最良の対策は、ナップスターと話して、ファイル交換に少しだけ課金をしてもらって、レコード会社にある程度のお金を支払ってもらうことだったんじゃないかな。

そして、自ら音楽配信に乗り出すなら、

①DRMなんてなしでよかった。コピーできなくしていいことありますか?ネットでタダでばらまかれないように?CDはコピー・フリーで売られ、レンタルされてますけど。
②価格は1曲100円。米国でiTunesが99セントで成功したように、着うたが100円でバカ売れしたように、100円ショップが大人気であるように、100円は買いやすい。後ろめたいタダより100円払うことを、人はきっと選ぶ。
③豊富なカタログ。売れ筋の商品ほどCDで売りたいがために配信しないことが多かったのですが、ユーザーがいちばん欲しいモノがないなんて、サービスとしてありえない。

もしもこのようなサービスだったらば、有料音楽配信ももっと盛り上がったと思うのですがどうでしょう?

 

音楽あれば苦なし01

音楽はデータで楽しめる時代へ。レコードビジネスはどのようにあるべきなのか。

 

音楽業界の根深い体質

 

ともかく、レコード会社はじめ音楽業界は2つの大きなミスを犯しました。一つは、ユーザーの気持ちを理解できなかった、と言うより、理解しようとしなかったこと。二つ目は、それまでのビジネスモデルに固執して、時代に合わせた変化・進化ができなかったこと。
実は、この2点はもう日本の音楽業界の体質みたいなもので、ずっと以前、1980年の「貸しレコード問題」が起きたときも、詳しい経緯はここでは述べませんが、同じような対応をしたし、この後も懲りずに同様のことを繰り返していきます。たぶん今も変わってないんじゃないですかね。
自分たちの判断で商品化した音楽を、自分たちが決めた値段で売る。それだけでレコードが売れ、儲かってきたという歴史ですから。「どんなものが売れそうかな」と、大衆の嗜好は気にするけど、不満はあまり気にしない。ほんとは売上第一なのに、事あれば「文化の担い手」と見得を切る。それでずっとやってこられたから、根本的に傲慢なんです。

そんなレコード会社が次にやったこと。
先ほど、「CDはコピー・フリーで出回っているんだから、配信だけDRMなんて無意味」であると指摘しましたが、彼らも当然そこは分かっていたのでしょう。だけど取った行動は真逆でした。CDにもコピーガードをつけたのです。
2002年に登場した「CCCD (Copy Controlled CD)」がそれですが、デジタル・コピーができないと、たとえば、当時画期的な商品として人気を集めていた「iPod」に入れられないわけで、ユーザーにとってはとんでもない話です。しかし問題はそれだけではありませんでした。ついにはアーティストたちも「CCCDではリリースしない」とレコード会社に反旗を翻すほどの事態になっていきますが、その顚末は次回に。

…つづく。

 

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