【レコにまつわるエトセトラ】レコード鑑定団 ~ ロック界最大のレア盤を探せ!【第21回】

 

近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも知らないくらいの若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第21回のテーマは、“レコード鑑定団 ~ ロック界最大のレア盤を探せ!”です。昨今のレコードブームもあり、人気アイテムはリリース後すぐに売り切れて、ネットオークションなどで価格が高騰…なんていうシーンを見かけることも多々あるかもしれません。

とはいえ、ただプレス枚数が少なければ、ただ人気があれば、レア盤になるというわけでもなく。そして一時的に市場が盛り上がって高騰しても、いつの間にか安レコになっているなんてことも…。今回はそんな流行に左右されることもない、確立された価値を誇る“本物”のレア盤についてご紹介します。

「レア盤」はどのようにして生まれるのか?

 

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Honeybus『Recital』
ブリティッシュ・ポップ・ファン夢の一枚。ジャケはプルーフです。
詳細は以下をご一読あれ。

 

「別にレア盤だからって買ってるワケじゃない、たまたま欲しい盤がレアだったんだ」

なんていうハナシをたまに耳にしますが、「レア盤」って文字通り数が少なく希少であることもありますが、どっちかというと意味合い的には「高額盤」を指すものです。

プレス枚数が少ないからって、一律に市場価格が高くなるワケではなく、10枚しかないけど「安盤」もあれば、1万枚ある「レア盤」もあるものです。

ビートルズ『Please Please Me』の英初版STEREOは、ロック・コレクター界隈ではお馴染みの100万overなモンスター・レコードですが、プレス枚数は2~3,000枚と言われています。
これはレコード的にいうと枚数としては決して少なくないんですが、とにかく母数が違う、つまり欲しい人の数が桁違いに多いので起こり得ることなんです。

結局のところ、市場価格は皆さんのある種「人気投票」が決めているということです。当たり前なんですけど。
確かにレア盤だから欲しいって脊髄反射したワケじゃないとは思いますが、思わず欲しくなるような人気盤は、私たちレコ屋やネット・オークション等々が媒介となって、需要と供給のバランスで自ずとレア盤へと歩みを進めていくものです。

ということで、今回はそんな人気投票の粋とも言える「レア盤ピラミッドの頂点」をご紹介します。ちなみにロック縛りです。

まぁ、でもさすがにここまでレアになると、もう人気とかのレベルじゃなくて夢幻。だって、どんだけ頑張っても買えるような代物じゃありませんからね…。
この世の中にはこんなトンデモ盤があるんですねー、って感じでお読みいただければ幸いです。
では、どうぞ!

 

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The Quarry Men『In Spite Of All The Danger / That'll Be The Day』
ポールは1981年に本品を手に入れるや否や、私的に50枚程度の再発盤を制作していますが、この画像のものはその再発盤のテストっていう、もうワケ分からんレベルの一枚。

 

今やめっきりインターネット時代。日々とてつもない回数のオープン人気投票が行われているということもあって、市場とのコールアンドレスポンスの速度感が爆速です。

特に今人気の「和モノ」の再発盤や、毎年限定盤がドッと展開される「RECORD STORE DAY」でのリリース商品等、販売開始と共に市場価格が右往左往するものも少なくありません。

ただこれからご紹介するものは、人気投票を勝ち上がり続けること数十年、決して一過性のものではない、もう未来永劫レア盤であり続けることが決まった栄光のレコードたちです。

ということでいきなりなんですが、ロック界最大のレア盤からご紹介して参りましょう。

やはり上位層にはビートルズ関連作がランクインしていますが、その中でもとっておきがこちら。

■The Quarry Men『That'll Be The Day / In Spite Of All The Danger』
(UK 10” Acetate)

ビートルズの前身バンド、The Quarry Menが1958年にこの世に唯一残したレコード(アセテート盤)です。しかも唯一作というだけでなく、現存数自体がたった1枚の、本当の意味で唯一残されたレコードです。

元々はピアノを担当したメンバー、ジョン・ロウ氏が保有していましたが、1981年に£12,000(当時レート換算で約550万円)でとある人物の手に渡っています。
そしてその気になる人物こそが、Sirポール・マッカートニー。これを聞いただけで本品の希少性が分かっていただけるかと思いますが、ここまで来ればロック云々関係なく、この世で最も価値が高いレコードかもしれません。

本品はポールが今でも保管しており、一般市場には一度も露出したことはありませんが、もしオークション等に出品されることがあるとすれば、どんなに少なく見積もっても1億円overの値が付くことになるでしょう…。

 

この世で最も高額なレコードとは果たして…

 

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The Dark『Round The Edges』
本連載にも以前登場(ジャケ写の元ネタ捜索)した、ブリティッシュ最凶盤のさらに最高額ヴァージョン。

 

The Quarry Menはあくまで予想ランキングの1位ですが、すでに市場でのジャッジを受け認定済な「この世で最も高額なレコード」ランキングの1位を飾るのも、やはりビートルズです。

■The Beatles『The Beatles』
(UK MONO / PMC7067/8 / 「No.0000001」)

1968年リリースの通称『ホワイト・アルバム』の数あるバージョンの中でも最上級の一枚。

少しビートルズのレコードをご存知の方であればお馴染み、本作のジャケットには「限定No.」が押印されているんですが、本品は映えある栄光のナンバー「1」。

本品がオークションに出品されたのは、2015年のこと。
数十年に渡って銀行の貸金庫で保管していたオーナーこそが、かのリンゴ・スター。
瞬く間に入札金額は膨れ上がり、最終落札金額は$790,000(約9,700万円)。この世で最も高額で取引されたレコードの公式記録となりました。

ちなみにここでロックでもレコードでもないのであくまで余談ですが、名実共に「この世で最も高額なCD」は既に確定しています。

■Wu-Tang Clan『Once Upon a Time in Shaolin』

90年代ヒップホップ史における最重要クルーにして、米NYスタテンアイランド出身のリヴィング・レジェンド、ウータン・クランによる一枚です。

本作はたった1枚のCDのために5年の歳月を掛けて秘密裏に制作され、2015年にオークションに出品された「アート」になります。
大量生産品としての既存音楽メディアを超えた作品、つまり「アート」たりうる作品の制作を意図したコンセプチュアルなアルバムで、2枚組CDを1セットだけプレスした後、マスター等のフィジカル・データは全て廃棄するという徹底ぶり。

落札したのは悪名高い米製薬会社の元最高経営責任者、マーティン・シュクレリ氏。落札金額は$2,000,000(約2億4400万円)となりましたが、落札後も様々な契約により取り扱いには制限があり、音源の一般公開は88年後以降、つまり2103年以降とされています。

ただ、すったもんだあって一部音源は流出。さらに現在、実物は米国連邦裁判所が差し押さえ中と、とにかくお騒がせな「アート」です。
ことの顛末が気になる方は、ご自身でお調べあれ。

 

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The Velvet Underground 『s.t.』
当時みんな大ハッスルして買った「緑バナナ」。
久々に引っ張り出して聴いてみたら、プレスが悪いのか針飛びするんですけど…トホホ…。

 

では話を戻して、ロック界が誇るレア盤の中でも、特にコレクターズ・ドリームとして名を馳せる一枚をご紹介しましょう。

皆さんご存知の世界最大のネットオークション・サイト「eBay」における、レコード史上過去最高額の落札金額を記録した一枚です。

■ The Velvet Underground 『s.t.』
(US ACETATE)

「バナナ」でお馴染み、ロック界を代表するレジェンド・アルバムですが、本品は極上の別テイクや別ミックスを収録したアセテート盤。
2007年にはまさにピッタリな「緑バナナ」のアートワークでブート再発され、そして2012年には『Scepter Studios Sessions』としてオフィシャルでも再発されたこともあり、すでに聴いたことがある方も多いでしょう。
よりワイルドで先鋭的な「一枚剥いだ」サウンドの数々は、ファンならずとも必聴の一枚です。

本品が広く知られることとなったのは、2006年に行われたeBayでの過去に類を見ないビット・バトル。
その最終落札金額は$155,401(約1,800万円)となり、ウォッチしていた者たち(私も椅子から転げ落ちました)を驚かせましたが、世のディガーに最もインパクトを与えたのは、出品者はニューヨークのとある蚤の市でたったの「75セント」で発掘したという事実です。
これぞ規格外のコレクターズ・ドリーム!

 

手が届かないからこそ焦がれる…憧れの至宝盤たち

 

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Billy Nicholls『Would You Believe』

 

ここからはレア盤ピラミッドの頂点に鎮座する、憧れの至宝盤たちを一言コメント付きでザッとご紹介して行きましょう。
選盤はレア度順ではなく、ただの私の趣味嗜好です。あしからず。

■The Beatles『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』
(US / Capitol / 1967)

上記のトンデモ盤を除けば、最高額レコードの最有力候補の一枚。1967年に米Capitol関係者へのプレゼント限定でわずかに生産された、究極の別ジャケ仕様です。
何が通常盤と違うかっていうと、メンバーも含めて大半の顔が「Capitolの重役たちの顔」に変わっている、まさに至高の内輪ヴァージョンなんです。
これも市場に出れば、軽く1千万円越えが予想される一枚でしょう。

■The Beatles『Yesterday And Today』
(US / Capitol / 1966)

以前の記事でもご紹介した、通称「Butcher Cover」。中でも最初期ヴァージョン「1st state」のレア度は、余裕で7桁超えのロック界の天上人。さらにMONOではなくSTEREOであれば、さらに手が付けられないプライスに…。

■The Beach Boys『Smile』
(US / Capitol / 1967)

ご存知ロック界最大のロスト・アルバムですが、ジャケットとブックレットは当時作られていました。
90年代までペンシルバニアのとある倉庫で保管されていたとのことですが、ごくごく僅かのみ外部へ流出、アングラ・シーンにおいて超高額で取引されています。

■Bob Dylan『The Freewheelin'』
(US / Columbia / 1963)

定番中の定番アルバムですが、マトリクス「1A/1A」という条件を満たせばあら不思議。4曲も収録曲が違う、余裕で7桁超えな米ロック屈指のレア盤へと早変わり。
こちらもMONOもSTEREOも存在し、後者がより希少。まぁ、どっちにしろ地獄のレア盤ですが。

■The Dark『Round The Edges』
(UK / S.I.S / 1972)

ブリティッシュ・サイケ~プログレ・シーン最高難度を誇るトップ・オブ・トップの宝石盤。たった64枚のプレスながら、ジャケットは複数のヴァージョンが存在し、さらにそのヴァージョンによって派手に価格が変動する、まさに凶悪極まりない一枚。

■Billy Nicholls『Would You Believe』
(UK / Immediate / 1968)

「ビーチ・ボーイズ 『Pet Sounds』への英国からの回答」の異名を取る、ブリティッシュ・サイケ・ポップ・マスターピース。近年そのプライスはうなぎ上り、堂々の7桁越えを果たす。

■Honeybus『Recital』
(UK / Warner Bros / 1972)

1972年にテスト・プレスでのみ残された、ブリティッシュ・ポップ界が誇る伝説のお蔵入りアルバム。
音源自体は編集盤CDで知られていましたが、2018年にはついに初めての単体LP再発を果たしました。

 

レコにまつわるエトセトラ21_06

Sex Pistols『Anarchy in the UK』
最後にオマケですが、出れば7桁超え確実なパンク界最高額シングルの、さらに斜め上のレアリティーを誇るアセテート盤。
コレクターズ・ヘル!

 

ここまでのレア盤になると、カテゴリ的には単なるレコードという存在を超えて、最早ポロックとかバンクシーみたいな現代アートの域にあるのかもしれません。

繰り返しになりますが、大体のレコードは生まれがらにレア盤なんていうハズもなく、人から人へと渡り歩き、幾度も市場で「人気投票」が行われて、その価値が形成されていくもの。

あなたがひょんなことから手に入れた一枚が、明日のレア盤になっているかもしれませんね!
では!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千