勢いに乗る3人組バンド“kittone”が1stミニアルバム『ラストノート』を発表


色鮮やかなバンドサウンドや透明感のある儚げな歌声、そして生活の一幕を情景豊かに描いた楽曲が魅力の3人組バンド、kittone(きっとね)。RIDDLE、Quintや多数アーティストへの楽曲提供で活躍するヒラノシュンスケ(Gt,Kb,Cho) が「女性ボーカルの作品を作りたい!」と一念発起し、2020年1月に活動をスタート。以降、さまざまなオーディションで注目を集め、2021年1月に発売したタワーレコード一部店舗限定シングル「群青と走る / 告白前夜」がチャート1位を獲得するなど、勢いに乗るバンドだ。そんなkittoneが、mysoundマガジンに初登場。2021年2月26日に配信リリースした1stミニアルバム『ラストノート』の制作秘話や、結成の経緯についてインタビュー。

ライブを見た帰りに、もう気持ちが抑えられなくなって“バンドやろうよ”って(ヒラノ)

 

――まずは結成の経緯についてお聞きします。kittoneはヒラノさんが女性ボーカルのプロジェクトを立ち上げたいと思ったところから始まったとか。

ヒラノシュンスケ(以下、ヒラノ)
 そうですね。単発的に女性アーティストに楽曲を提供する機会はあったんですけど、もっと自分の作家性や個性をふんだんに盛り込んだ楽曲を女性ボーカルに表現してもらいたいという欲が生まれていました。

――もともとベーシストのヒラノさんが、同じベーシストのヤマザキさんとバンドを始めることになったのはなぜでしょうか?

ヒラノ
 僕とヤマザキは先輩・後輩で、十何年来の友人なんですけど、よく地元で遊んでるんですよね。音楽の話もよくしてて、一緒にバンドをやりたいって話は何年も出ていたんですけど、「お互いベースやん!」ってところでいつも頓挫して、実現していませんでした。でも、2019年7月に2人でライブを見に行った帰りに、もう気持ちが抑えられなくなって“今しかない! バンドやろうよ”という話になって。僕が折れる形でギターをやることになったけど、それでも一緒にバンドがやりたいって気持ちが勝ちました。クルマで常磐道を走っていて、水戸から埼玉県内につく頃には「明日、ボーカルを募集しよう」って話になっていましたね(笑)。

ヤマザキユウキ(以下、ヤマザキ) いや、友部くらいではもうなっていたと思います(笑)。
※注:水戸から友部は15分~30分程度。

――HANAさんはどういった経緯で合流を?

HANA
 もう1つやっているバンドが変則的で、激しめの音楽だったので、自分の軸がもう1つ欲しいなと思ったタイミングで、Twitterのボーカル募集のツイートを見て応募しました。普段聴く音楽はシンガーソングライターさんのものが多くて、どちらかというと落ち着いてコーヒーを飲めるような音楽が好きなんですけど、デモを聴いてみたら私の求めていた音楽で、やってみたいなと思って。すぐにバンドが始まったので最初は戸惑ったんですけど、2人の熱意で入らせてもらいました。

――HANAさんにお願いした決め手は?

ヒラノ
 良くも悪くもイメージがまだ固まっていないというか、洗練されすぎていないけど澄んだ歌声。ポジティブな感情もネガティブな感情も、どちらを歌っても染め上げてくれるような感じですね。憂いがありすぎてもそれはちょっと違ったし、スッと入ってくるような声がいいなと思いました。HANAちゃんならどんな曲でも自分の色に染めてくれると思ったし、僕たちが染めることもできるなってイメージが湧きましたね。

 

こんなにも自分がスッと入っていける歌いやすいメロディは初めてでした(HANA)


――バンドをやろうと決意して半年足らず、2020年1月には初の楽曲「終わりのち、晴れ」のリリックビデオを発表しています。

ヒラノ
 「終わりのち、晴れ」はボーカル募集のときにはできていたんですけど、最初にバンドらしい活動をしたのは、「終わりのち、晴れ」をレコーディングしたときですね。

ヤマザキ HANAちゃんに初めて会ったのが2019年8月で、レコーディングは10月とか。

――kittoneとして初のレコーディングでは、どのような点を意識しましたか?

HANA
 レコーディング自体はいろんなところでやらせてもらっていたので、kittoneでは何を求められているのかをうまく汲み取って、モチベーションを上げていきました。自分が世界観にどっぷり入って、伝えようと思って歌うというのは一番大事なことかなと思っています。今まではダンスボーカルユニットで歌ったり、もう1つのバンドも激しい音楽だったので、こんなにも自分がスッと入っていけるような、歌いやすいメロは初めてでしたね。

ヒラノ 僕とヤマザキは女の子とバンドをやったことがなかったので、ディレクションの仕方がわからなくて。どういう言い方をすれば傷つけないかなって考えました(笑)。おっかなびっくりで、キュー・ボックス(※ブースの中にいる人に声が聞こえるスイッチ)を押す前に「もう1回って俺が言うの!?」「ザキが言ってよ」ってやりながら、言葉を選んでディレクションした記憶があります(笑)。

HANA すごく優しかったです。レコーディングって沈黙の時間があると「大丈夫かな?」ってなるんですけど、「ちょっと待っててね」って言ってくれるから。

ヒラノ その間、ミーティングしてるんですよ。「何て伝えればいいんだろう」って(笑)。

――「終わりのち、晴れ」が完成したときの気持ちは覚えていますか?

ヒラノ
 めっちゃよかったですよ! 僕、今回のミニアルバムの中でも一番のフェイバリットは「終わりのち、晴れ」です。何かを始めよう、何かを動かそう、何かを変えようというエネルギーって、そこに宿るものだと思っていて。それがいい形でギュッとなったなと今聴いても思うので、初めて聴いたときは感慨深かったですね。話が出てから3か月で、俺たちこんなものを作っちゃったんだ!って。

 

kittoneの音楽がさりげなく側にあるものでいてほしくて『ラストノート』とつけました(ヤマザキ)

 

――そこから約1年、1stミニアルバム『ラストノート』が配信リリースされました。タイトルに込めた思いを教えてください。

ヤマザキ
 最近、香水にハマっているんですけど、香水ってトップノート、ミドルノート、ラストノートって、つけてから経過した時間で匂いが変わるんです。その中で2時間後から半日くらい香っているのが“ラストノート”で。kittoneの音楽が聴く人にとってどういう位置にいてほしいか考えたときに、薄くなっても持続性があって、さりげなく側にあるものでいてほしいなって気持ちで、このタイトルをつけました。あと、初めてなのに“ラスト”って単語があるのが皮肉っぽくていいなって。

 

 

――1曲目の「群青と走る」は、シンセサイザーのフレーズや多彩なサウンドが印象的なキャッチャーなナンバーです。

ヒラノ
 7曲の中ではあとのほうに作った曲で、kittoneが今やりたいのってこういうのだよねってある程度出しきったあとに、次の一手として出しました。新しいkittoneもアルバムで見せたいと思っていたタイミングだったので、ちょっと違う感じにしたいなというのがひとつあって。それまで避けていたわけじゃないけど、シンセの音を入れてみたり、今までだったら選ばなかったような木琴の音色をアンサンブルに足したり。歌詞も、それまでは“私”と“あなた”で完結してしまう、言ってしまえば恋愛の曲が多かったので、そういうのとは違う観点で作ってみようと思った記憶があります。

――その新しさを見せた曲を1曲目に持ってくるというのが大胆ですね。

ヤマザキ
 全曲聴いて判断する人ばかりじゃないというのはわかってるので、1曲目でキャッチーにいかなきゃと思って。1曲目はキャッチーで疾走感のある「群青と走る」がいいなと思いました。あと、一番聴かせたいのがHANAちゃんの歌で、「群青と走る」は歌に始まるのも早いので。

――動き回りつつも歌にぶつからないベースラインなど、アグレッシブなアンサンブルもこの曲の魅力だと感じました。

ヤマザキ
 ベースは歌より前に出ないってところと、歌がないところではメロディを弾くのは自分かギターだと思うので、そこでお互いが邪魔し合わない程度にいいメロディを弾こうというところを意識しました。歌を押し出してあげるイメージです。ずっと同じ位置で後ろにいるだけじゃないようにって差し引きを考えたり、あえて考えなかったりもするんですけど。

ヒラノ ヤマザキはメロディラインの合間を縫うのがすごくうまくて。メロディが休符になったときにヤマザキのベースがふっと前に出てきたり、メロディが戻ってきたときはちょっと引いてっていう差し引きを考えるのが、ナチュラルにできるんですよね。その中でも「群青と走る」はセオリーを無視した部分があって、大サビのあとはメロディの裏でベースが鳴っていていいなって。今までのヤマザキだったら引いてたところを、めちゃくちゃ攻めてくれてて、逆にベースの役割をしてないところもあるんです。

ヤマザキ ベースラインは歌詞を見て考えますね。歌詞の中で一番強く訴えかけたいところでベースがグッと前にきたりとか、耳につく音域の音を鳴らしたりします。

ヒラノ 「恋」でも、2サビ前にベースのダブルストップが入るんですけど、ヤマザキくんはそれを“人が恋に落ちる音”って言ってました。

ヤマザキ めちゃくちゃ恥ずかしい(笑)。

――恋の矢で射抜かれるようなイメージ?

ヤマザキ
 まさに。そこは一番目立つ音にしてくれってエンジニアに言って。

ヒラノ 僕らは困ったときは歌詞頼りみたいなのはありますね。アレンジに困ったときに、歌詞が羅針盤になるというか、方向性を示してくれます。

――全曲に共通していますが、多彩なサウンドでも負けない歌やメロディの強さも感じられました。

ヒラノ
 メロディと歌の強さがあるから、ある程度ムチャしても、逆にそれが効く部分がありますね。

HANA もちろん、音を聴くのも自分の中では大事にはしてるんですけど、周りの音がどうであれ、リズム楽器と同じように自分が引っ張っていくイメージはずっと意識していることですね。負けないようにって感覚というよりは、引っ張っていく気持ちです。

――「おとぎ話みたいに」では、HANAさんもヒラノさんと共作で作詞していますね。

ヒラノ
 HANAちゃんから歌詞を書いてみたいってアプローチがあったので、8割ぐらいできた段階でCメロを書いてみてよって投げた感じです。

HANA メロが先にあって歌詞をはめるのは、苦手意識があったんですけど、この曲はスッとメロが入ってきてたし、ほかの部分の歌詞ができていたので、最初の1行を書いたらあとはサラサラ出てきました。〈優しい横顔〉のところは最初に入れていた単語がはまらなくて迷ったので、2人にも相談して。ここが曲に明るさを出していると思うので、思い入れがあります。

――「とけない魔法」はヤマザキさんとヒラノさんの共作。

ヤマザキ
 1日1フレーズ、メロディを作っているんですけど、バンドに唯一持っていったのがこの曲ですね。

ヒラノ 作曲ヤマザキ、編曲ヒラノって感じですね。歌詞も、俺が書いたものを推敲してもらいました。やっぱり、作曲者の頭の中にしかないものがあるので。

ヤマザキ ミニアルバムにもう1曲足そうというので、追加で作ったんですけど、ポップなほうにどこまで振り切れるのかという挑戦的な意味合いもあって。ここまで明るい曲をHANAちゃんが歌ったらどう聴こえるのかやってみたかったし、それまではゆったりした曲を作るのが続いてたので、アップテンポの曲も作りたくて。

ヒラノ あと歌詞が、ね?

ヤマザキ すごく好きなアーティストにたまたまお会いしたことがありまして、その出来事を一生忘れないように曲に込めました。ただ、自分一人のものじゃなくて、誰が聴いてもイメージしやすいくらいに対象との距離感を保つようにしましたね。

――「告白前夜」は音の余白感が余韻を感じさせる楽曲です。

ヒラノ
 個人的には差し引きが一番うまくいったと思っているアレンジです。最後のほうに大胆にボーカルだけのアカペラにした8小節があって、リバーブもカットしたくらいで。そういった差し引きって、ほかの曲では意外とできなかったので、それがハマったという意味では一番アレンジがうまくいった曲だと思います。

ヤマザキ タイトルは僕がつけたんですけど、タイトルがついたあとに最後の〈もう 明日会いにいくよ〉ってフレーズをシュンスケさんが書き足したんですよね。

ヒラノ 9割くらい歌詞が出来上がってる段階でヤマザキが「タイトルは『告白前夜』がいい」と言って、譲らなくて(笑)。「これ、告白前夜かな?」と思ったので、最後のフレーズを変えたら、まるで最初から「告白前夜」ってタイトルで書いたかのように一気に収まりました。曲がタイトルを呼んで、タイトルがラストのフレーズを呼んだいい例かなと思います。

――『ラストノート』はkittoneの始まりの1年が凝集された、名刺代わりの一枚ですね。リスナーの元にどのように届いてほしいですか?

HANA
 サブスクってみんながやっていると思うので、聴いてくれる人が徐々に確実に、地道に増えていくといいなって思います。

ヤマザキ 押しつけがましくないような、生活の一部にさりげなく置かれ続けるものであってほしいですね。

ヒラノ 優しく、末長く、さり気なく、だけど常に人の気分を上げて支えてくれるような、香水のラストノートのように残っていく作品になればいいなと思います。

 

kittoneインタビュー(1)

 


 

【プロフィール】
ヤマザキユウキ(Ba/Cho) :右
HANA(Vocal) :中央
ヒラノシュンスケ(Gt,Key,Cho) :左

自身のバンドや多数のアーティストへの楽曲提供で数々の多彩な楽曲を世に送り出してきたヒラノシュンスケ(Gt/Key/Cho)が「女性ボーカルの作品を作りたい!」と一念発起、同郷のヤマザキユウキ(Ba/Cho)とともにプロジェクトを立ち上げ、理想の女性ボーカリストを探し始める。

そこで出会ったHANA(Vocal)の歌声に感銘を受け、単発のプロジェクトではなくバンドとして活動していく事を決意し、本格的に楽曲制作を開始。

2020年1月、kittone初となる楽曲、「終わりのち、晴れ」リリックビデオを発表。バンドとしての活動をスタートさせる。

ある時は映画のワンシーンのような、またある時には日常の憂いや希望を切り取ったような、儚い歌声で彩り、聴き手の心に寄り添うエモーショナルサウンド、kittone。
https://kittone.net/

Twitter:https://twitter.com/kittone_
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCTE9NrQHR3dt01nHgQCbyhQ


【Information】

kittoneインタビュー(2)

1st Mini Album
『ラストノート』2021.2.26配信

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Text&Photo:神保未来