第12回 YouTube① 【音楽あれば苦なし♪~福岡智彦のいい音研究レポート~】

ちょっとしたコツをYouTubeで学ぶ

 

先日、カミさんが額付きの絵をいただいて、玄関に飾ろうということになりました。ただ、壁がよくある石膏ボードに壁紙を貼ったもので、これまでもいくつか絵を飾ったことはあるんですが、どうもうまくいかなかった。ホームセンターで適当に買ってきた「石膏ボード用ネジ」を使ったのですが、壁に大きな穴が開くし、しっかり固定されないんです。絵に隠れて見えなくなるので、外見はまあ問題ないのですが、どうにも不本意。

この機会にもっとちゃんと考えようと、ネットで「絵を飾る 石膏ボード」と検索してみたら、YouTubeの動画が出てきました。
「絵画の取付け方 石膏ボードの壁に絵を飾る手順」
おー、まさにテーマはぴったりです。早速観てみたら、目からウロコ。「石膏ボード用フック」というものがあって、細くて長い釘を斜め下に打つことで、もろい石膏ボードでもうまく荷重に耐えうるフックを取り付けることができるんですね。動画は他にも、思う位置に簡単にきれいに飾るためのちょっとしたコツなども教えてくれました。すぐにホームセンターへ行ってそのフックを手に入れ、苦もなく、完璧に、絵を飾ることができました。ついでに昔飾った数点の絵もつけ直し、スッキリしました。

YouTubeはもちろん以前からよく利用しています。知らない音楽をどんなものかと調べるのにはまずYouTubeです。何千万曲を謳う音楽配信サイトにも見当たらない曲だって、YouTubeにならたいていありますから。

だけど、生活のちょっとしたノウハウについて、YouTubeで学んだのはこれが初めてだったんです。それを息子に話すと「そんなの常識だよ。困った時のYouTube先生だよ」と鼻で笑われてしまいました。
たしかに、もうあらゆることについて、誰かが動画をアップしてくれていますね。言葉で説明しながら、実際にやって見せてくれるんですから、短時間で具体的に理解できる。文字と簡単なビジュアルだけのトリセツやFAQの類とは大違いです。だいたいトリセツの日本語はなんであんなに分かりにくいんだろう?
アップローダーもシロウトに毛が生えたくらいの人が多いんでしょうが、こちらの視点に近いからか、却って分かりやすい。間違ったことをおっしゃってる可能性もあるでしょうが、ハナからそれもありうるとバッファを持っておけば、問題ないでしょう。

 

音楽あれば苦なし12_01

ギターの弾き方だって、YouTube先生が教えてくれる

 

益々高まるYouTubeの存在感

 

いつのまにか、頼りになる「困った時のよろず相談室」にもなっていたYouTube。マメにコンテンツを作ってくれているアップローダーの人たちには「ご苦労さん」とサムアップ・アイコンをクリックしておりますが、もちろん彼らも見返りがあるからこそ頑張っているわけですね。
今や小学生がなりたい職業ナンバーワンと言われる“YouTuber”。再生回数に応じて広告収入のレベニューシェアが動画の権利者=YouTuberに支払われるという、YouTubeの画期的な仕組がこの巨大な“コンテンツ・ランド”を築いてきたと言っていいでしょう。
コンテンツが充実すれば、ユーザーが増える。ユーザーが増えれば、広告効果が上がり、スポンサーが増える。スポンサーが増えれば、広告収入が増える。広告収入が増えれば、それを当てにしてYouTuberが増える。YouTuberが増えれば、コンテンツが充実する……そしてもちろんこのスパイラルが広がれば広がるほど、YouTubeの運営者であるGoogleの収入も増え、さらにサービスの充実・強化に投資することができる。実に強大なビジネスモデルであります。

このところ、名の知れたお笑い芸人らも続々YouTubeに参入していますが、ある程度以上再生回数がいけば、充分な稼ぎが得られるということなのでしょう。“出演慣れ”している彼らですから、面白いかどうかは置いといて、そのコンテンツとしてのクオリティはテレビのバラエティ番組と比べても遜色ありません。華やかなセットや高性能の機材はないかもしれませんが、その代わりスポンサーからの圧力やプロデューサーからのダメ出しもない。洗練されてない分、伸び伸びしています。たくさんの小さな“インディ・テレビ局”が、再生回数やチャンネル登録数の増進を目指して、それぞれに工夫を重ねている。実に活気を感じます。「YouTubeはテレビを超える」と以前から言われてきましたが、そろそろそれが現実味を帯びてきているような気がします。

 

似て非なり?負け組ナップスターと勝ち組YouTube

 

さて、YouTubeはチャド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・カリムという、順にアメリカ人、台湾人、バングラデシュ系ドイツ人の3人により、2005年2月に創設されました。12月にサービスインするや爆発的に人気が高まり、1年も経たない2006年11月には16.5億ドルでGoogleに買収されました。
初期のキャッチフレーズが「Broadcast Yourself」であるように、表向きは(権利侵害をしていない)自作の動画を共有するサービスでしたが、それだけで人が集まるわけはありません。テレビ映像などからの違法コピーを含め、ニュースやスポーツや音楽、多種多様な映像コンテンツをオンデマンドで、無料で観られるからアクセスが殺到したのです。

考えてみればこれは、1999年に登場した「ナップスター(Napster)」に近いサービスですね。ナップスターは個人のPC内にある音楽ファイルをネット経由でやり取りできるようにしました。映像と音楽の違いはあれ、SNSの要素がありつつ、コンテンツを無料で共有できるところが両者の共通点です。ナップスターも当時としては画期的で、ネット環境がまだまだ貧弱だったにもかかわらず、やはり利用者が急増しました。
ただしこの時は、レコード会社はじめ音楽業界が、直ちに権利侵害に対する訴訟と糾弾キャンペーンを展開し、ほどなくナップスターは撤退せざるを得なくなりました。

YouTubeも、特に初期には、権利者からの非難の声が殺到したはずです。ところが違ったのは、ナップスターは権利侵害を幇助促進していると言われれば否定することができませんでしたが、YouTubeはともかく「自作の動画を共有するサービス」なんだと主張をし、「他者の権利を侵害している動画は削除する」という対応で非難を躱した、というところです。実際は削除申請があったものについて処理するだけでしたが。そうこうするうちに利用者の数が巨大になり、権利者たちも排除するより利用する方向に方針を切り替え、さらにGoogleという巨人といっしょになったことでその地歩は盤石のものとなり、今に至るというわけです。

このことに関連した個人的なほろ苦い経験もあります。2004年8月、私は数人の知人とともに音楽配信サイトを立ち上げました。「レコミュニ (recommuni)」という名で、SNSを導入した音楽配信でした。音楽を聴く/買う動機としていちばん強いのは「知人からの勧め」だよね、という発想から、SNSと音楽ダウンロードを結びつけたのです。そしてメンバーが好きな音楽の、推薦コメントや関連情報とともに、音源そのものをアップロードできる仕組も作りました。ナップスターにSNS機能を足したようなものとも言えるでしょう。ただし、私も知人たちの一部も音楽業界出身でしたし、ナップスターの轍を踏むわけにはいきません。アップロードされた音源は、レコード会社などの音源の権利者の許諾を確認したのちダウンロード可能にする、という仕組にしました。
この仕組なら、権利者は何の作業も負担も要せず、配信可不可を答えるだけで、売上が入ってくる。それをメリットとして訴えて、レコード会社から許諾を得ようという楽観的なビジョンを抱いていました。その前にJASRAC(日本音楽著作権協会)に通い、前例のないスキームだったため、あれこれ突っ込まれまつつも、著作権については無事に包括許諾をいただきました。
新サービスを発表すると、かなりの反響がありました。雑誌や新聞、情報サイトの取材をいくつも受け、私たちはベンチャー気取りで理想を語りました。

しかし、現実は(いつも)思い通りにはいきません。各レコード会社の配信担当者には知り合いも多く、会いに行くと快く迎えてくれましたが、「レコミュニ」の説明をし、音源の配信許諾を求めると、笑顔がしだいに曇っていくのが分かりました。

 

…つづく。

 

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