レコードとファッションから知るベルリンのカルチャー

post00000027487.jpg

ベルリンは言わずと知れたテクノの聖地であり、ジャンル問わず世界中から集まってきたアーティスト、有数のローカルクラブ、レーベル、エージェント、そして、レコードショップによって構築されていると言っても過言ではないほどクラブカルチャーと密接な関係にあります。
金曜日の23時59分からパーティーは始まり、24時間営業は当然、月曜日の昼まで開催されるパーティーも珍しくありません。週末は電車が24時間運行しており、大半のタクシードライバーは主要クラブの場所を全て知っています。これほどまでにクラブカルチャーが根付き、国を支える大事な産業となっている街など他にあるでしょうか
 

ベルリンのレコードショップはクラブカルチャーを知れる場所

クラブに匹敵するほど、数え切れないほど多く点在しているのがレコードショップです。世界各地から訪れるアーティストが必ず足を運ぶような有名店からオーナーの趣味の域に達したマニアックでインディペンデントな店まで本当に様々です。

浅く広く全ジャンルを揃えている大型のレコードショップとは違い、その店ごとに得意ジャンルを持っており、働いているスタッフはたとえアルバイトであってもかなりの専門知識を持っています。そうでなければ一流のアーティストや耳の肥えたリスナーが顧客となるベルリンのショップでは働けません。
また、テクノやハウスなどのダンスミュージックをメインとしたショップは、レーベル運営をしているところもあり、親交の深いアーティストをゲストにインストアイベントを開催するなど、クラブへ行かなくとも世界で活躍するアーティストを間近で見ることが出来たり、旬な音を知ることが出来るのです。

さらには、Tシャツやトートバッグなどといったオリジナルグッズを販売しているショップも多く、DJに限らず、ファッション感度の高い人たちがコーディネートのワンポイントとして取り入れたり、クラバーたちが愛用しているのもまたベルリンのクラブカルチャーの一つです。

音楽とファッションが融合したセレクトショップ『Rotation』

今回紹介する『Rotation』(ローテーション)は、アパレルのセレクトショップとレコードショップを融合させたベルリンでは珍しい形態のショップです。『Rotation』は、もともとレコードコレクターだったNikolaus Schäfer(ニコラウス・シェーハー)と90年代からベルリンで活躍していたテクノDJのSuzi Wong(スージー・ウォン)(現在は活動していません)のカップルによって、2008年にスタートしました。当時、デジタルでプレイするDJが急増したことにより、レコードの売り上げが急低下したことに危機感を覚えた彼らは、普段から親交の深い音楽レーベルやベルリンを拠点とするファッションデザイナーやアーティストたちに声を掛け、自分たちの持っていたコレクションとともにセレクトショップとしてスタートさせたのです。

場所は、オシャレなカフェやショップが立ち並ぶミッテ地区の人気スポットRosenthaler Platz(ローゼンターラープラッツ)駅のすぐ近くにあります。そこに店舗を構えたのには理由がありました。近くにある『The Circus Hostel』(ザ・サーカス・ホステル)で働いていた経験を持つNikolausは、ホステルのゲストの多くが、ベルリンの最先端の音楽を知れる場所、ショッピングが出来る場所、おもしろいクラブやパーティーの情報などを求めていることを知っていました。さらに、10代の頃からクラブミュージックを背景に持つファッションブランドを愛用していたこともあり、音楽とファッションが密接な関係にあることを熟知していたのです。
そのため、お客さんのニーズに合わせた商品を集めることができ、『Rotation』はあっと言う間にRosenthaler Platzの人気ショップとなったのです。

『Rotation』の店内へ

post00000027304.jpg


エントランスには旬のアイテムでコーディネートされたトルソーが設置されており、一見アパレルのみを扱うセレクトショップと勘違いしてしまいますが、大きなガラス窓の奥にはレコードがズラリと並んでいるのが見えます。
 

post00000027305.jpg


オーナーのNikolaus Schäfer氏。店頭に立ち、自ら接客を行っています。新譜を持って営業に来るアーティストやプライベートで買い物に来るアーティストの対応も行っているため、信頼度も高く、彼に会いに来るアーティストも多数います。
 

post00000027306.jpg


親日家で日本人アーティストにも詳しいとしても知られるNikolausが勧める今一押しのレコードは、ベルリンを拠点に活躍しているレーベルHolic Trax(ホリック・トラックス)のオーナーでDJのTomoki Tamuraとイタリア人DJのTuccillo(ツッチロ)によるユニットDoublet(ダブレット)の人気シリーズ「505」です。
 

post00000027307.jpg


入り口を入って階段を上がったすぐ左は、メンズフロアーとなっており、同フロアーにレコードショップを併設されています。真ん中のテーブルは4月にリニューアルした際に新たに導入したアンティークテーブルで、味のある錆感や重厚感にセンスが光ります。
 

post00000027308.jpg


奥のレディースフロアーには、メンズライクなミニマルデザインが特徴のベルリン発〈format(フォーマット)〉、フランクフルト発ハンドメイドのバッグブランド〈A2(エーツー)〉、オーガニック素材を使用し、フェアトレードを行っているケルン発〈ARMEDANGELS(アームドエンジェルズ)〉などといったドイツ国内のブランドを多数取り扱っています。
 

post00000027309.jpg


壁にはリリースされたばかりの新譜のレコードや旬なアーティストが並んでおり、ここをチェックすれば今のトレンドが分かるようになっています。お勧めの1枚としてあげられたのは、ライプツィヒにある老舗のプレスメーカー〈R.A.N.D. Muzik〉がクリスマスにリリースした貴重なコンピーレション「RM241216」で、同じくライプツィヒを拠点とするアーティストKassem Mosse(カッセム・モッセ)などが参加しています。他にもDJ KozeやManuel Göttsching(マニュエル・ゲッチング)などドイツのアーティストの作品が多いのも特徴の一つです。

KASSEM MOSSE  
 

post00000027310.jpg


中二階の窓際に設置された試聴機は、レコードを聴きながら外の景色も見える居心地の良い空間になっており、最新リリースの新譜や人気アーティストのレコードを求めてやってくる人で常に試聴機は埋まっています。
 

『Rotation』から知るベルリン

ここ10年間でベルリンの街は大きな変化を遂げています。Rosenthaler Platz周辺はツーリストや住人にとってショッピングの主要スポットとなり、夏には近隣のWeinbergspark(ヴァインベルクスパーク)に人が集まり、夜は遅くまで営業しているバーに人が集まるといった活気に溢れるエリアとなりました。

Nikolausたちはそういった環境の中に溶け込み、エリアの一部となって、お客さんのニーズに答え続けてきました。彼らは現在のようにすでに重鎮的な存在になっても変化していくことをやめません。必要に応じて改装を行い、ファッションウィークにはトレードショウへ出向き、新しいブランドを発掘しています。そうしたことで常に新鮮で、最先端なショップとして魅力を放つことが出来るのです。

ベルリンの変化とともに歩んできた老舗だからこそ知れる”今”のベルリンをこの『Rotation』から学んでみてはいかがでしょうか。

Rotation
Weinbergsweg 3, 10119 Berlin 
Tel:+49(0)30 25329116
https://rotationboutique.wordpress.com/


Text:宮沢 香奈
Photo:日夏 佐紀