第13回 YouTube② 【音楽あれば苦なし♪~福岡智彦のいい音研究レポート~】

YouTubeも日本発なら成功できなかった?

 

2004年に仲間と立ち上げた音楽配信サービス「レコミュニ (recommuni)」。その年の2月にソニー・ミュージックを退社していた私がいちばん時間を使えるから、という理由で代表となりました。ユーザーが自ら音源をアップロードできるという常識破りのスキームは映像におけるYouTubeと似ていましたが、サービスインはこちらのほうが1年以上も早かったのです。

で、YouTubeと違ってこちらは、アップロードされたらレコミュニがレコード会社等に連絡し、許諾を得た後にダウンロード可能にするという流れでした。「ナップスター(Napster)」のような権利侵害はしない。紹介制のSNSコミュニティで、友人の輪を広げながら好きな音楽を勧め合う。音楽市場の活性化に貢献する画期的なサービスになるはず……。“絵に描いた餅”かもしれませんが、志は高かったんです。

ところが、レコード会社の壁も高かった。各社とも担当者は一応話を聞いてくれましたが、配信許諾についてはどこも消極的。NOではないのですが、YESでない限りそれはNOと同じことでした。JASRACはOKしてくれたのに、何がダメなのか?まあ要するに、前例がないサービスだからなんですね。あえて火中の栗を拾う気はない、ってとこですか。20年近くもレコード会社に勤めて、そんな“体質”をちゃんと分かっていなかった自分の不明を責めるべきですね。

結局、私が代表を務めた3年の間、許諾をくれたメジャーレコード会社は皆無でいくつかのインディレーベルのみが参加してくれただけでした。アップロードしてもメジャー系の音源はまず配信可能になることはない。そんなサービスでユーザーが盛り上がるはずもありません。2007年秋、もう畳もうということになり、私も代表を退きサラリーマンに戻りました。実は残った人たちがその後方針を転換、ビジネスモデルを変えて再度挑戦し始め称も「オトトイ(OTOTOY)」と変えて徐々に軌道に乗っていくのですが、それはのちの話。

レコミュニが四苦八苦している時に「すごい勢いで伸びているサービスがある」と聞こえてきたのがYouTubeです。「レコミュニの映像版ですね」と言う人がいました。でもこちらは全く盛り上がっていない。いろいろ考えさせられました。

もしレコミュニが、ユーザーがアップした音源がすぐダウンロードできる仕組だったらどうだったでしょう。ユーザーは集まったに違いないでしょうが、それはナップスターと変わりません。たちまち権利侵害の違法サービスとして音楽業界から糾弾され、叩き潰されて、私はきっと前科者になっていたでしょう。

YouTubeだって、もし日本発だったら難しかったかもしれませんね。権利意識が多少おおらかな米国だったから、権利侵害のクレームを「すみません、すぐ削除します」とか言いながらかわし続けて、気づいたら排斥しようがないほど大きくなることができたのだと思います。

 

YouTubeは音楽においても最強のコンテンツサービス

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ユーザーの増加がコンテンツの増加につながり、それがまたユーザーを増やすという具合でYouTubeは加速度的に巨大化していきました。実はこのモデルは、コンテンツサービスに最適なのです。前回「何千万曲を謳う音楽配信サイトにも見当たらない曲だって、YouTubeにならたいていありますから」と書きましたが、総曲数はともかくユーザーが聴きたいと思う曲は世界中のどの配信サイトよりもYouTubeのほうが充実していると思います。なぜなら、普通の配信サイトは契約レーベルが配信したい音源しか集まらないからです。配信したくない音源、(権利上の問題などで)配信したくてもできない音源、権利者が不明な音源などは配信されません。そしてそんな中にけっこうユーザーが聴きたい音源があったりするのです。

YouTubeであれば、そういうものもユーザーがアップロードすることができます。で、権利者がはっきりしていれば彼が削除要請をするでしょうが、そうでなければ削除要請をする人がおらずそのまま配信されたままになります。また例えばラジオで放送された音楽ライブ。ラジオ局はおそらく放送する権利しかないはずなので、自ら配信に提供することはありません。レコード会社には権利がない。アーティストには権利がありますがこれも100%ではない。すると、誰かがそれをアップロードしても削除要請をする(できる)人がいません。という次第で、他の配信サイトにはない音源もYouTubeには豊富に存在できてしまうんです。

配信サイトの人気を左右するのは、まず何と言ってもコンテンツの充実度です。だから、YouTubeは音楽配信サイトとしても他を圧倒しています。もちろん、無料で利用できるということもあるでしょうが。

他のストリーミング型音楽配信サイトはデータがないので分かりませんが、YouTubeでのヒット曲の再生回数を見ますとBTSの「Dynamite」で9.7億回。テイラー・スウィフト「Shake It Off」は30億回、PSY「カンナムスタイル」は40億回という、ものすごい数字です。(2021年4月現在)最新のデータで、「Spotify」の利用者数(無料を含む)が3億5千万人だそうですが、YouTubeは20億人だとか。桁が違いますね。

 

YouTubeの権利保護はスマートだが改善してほしい

 

権利侵害に対する備えもYouTubeらしいユニークなものです。コンテンツの権利者が、そのコンテンツを誰かがアップロードした際にどういう“振る舞い”をしたいかを、予め設定できるんですね。

①禁止=アップロードさせない
②アップロードは許すけど、広告収入はこちらがもらうよ
③ご自由にどうぞ

の3択かな。もちろん、権利者が何も設定していなければ自由にアップロードできます。権利者の自己責任制なんですね。

で、③はさすがにほとんどないけど②が多い。お堅い日本のレコード会社は①もあります。コンテンツの同定(同じものであると判断すること)は、音源の波形とかでチェックしているみたいですね。今YouTubeに何億個コンテンツがあるのか知りませんが、それでも瞬時にそれを解析してアップロードする前に、①か②か③をアップローダーに警告してきます。

実は私自身「聴いて♪学ぶ!ポップス史講座」というものをYouTubeで始めておりましてまだ2コンテンツしかリリースできてないのですが両方とも古い音源しか使ってないのにちゃんと原権利者がいて②の警告をされました。

権利保護の機能がマネタイズと連動しているところが頭いいですよね。②を設定しておけば、そのコンテンツが使われた映像の再生回数に応じて原権利者にちゃんとお金が入ってきます。他人のふんどしで相撲をとることができる。

ただ、アップローダーには広告収入が入らなくなってしまうので、YouTuberたちは既存の商用音源(巷に流通している音源)を使いたがりません。音楽について語っているコンテンツでも、音楽そのものは再生しないものがほとんど。私は「ポップス史講座」であえて音楽を再生しているのは広告収入をあてにしていないからです。でも、私はこれを問題だと思っています。

①の禁止はもちろんやめてほしいですけど、②の場合も広告収入のレベニューシェア分がすべて原権利者のものになるのではなく、音楽以外の付加的要素が多いコンテンツについては半分と言わないまでも25%くらいはアップローダーに分配されてもいいのではないでしょうか?

もちろんそれはYouTubeが勝手に決められるものではなく、レコード会社など原権利者は必ず反対するでしょう。しかしそうした方が、絶対にコンテンツは面白くなるし、ひいては音楽環境が活性化し、長い目で見ればきっとレコード会社にとってもいいことだと思うのですが。

前回、YouTubeとテレビを比較しましたが、ひょっとしたらいちばんの違いは既存商用音源を使えるか否かじゃないでしょうか。テレビはテレビでちょっと依怙贔屓され過ぎているのですが、音楽を自由に使えます。使った上で著作権使用料と原盤使用料(「商業用レコード二次使用料」と言う)を支払えばいいだけです。YouTubeは上記の通り。この差がある限りYouTubeはテレビを超えることができないかもしれません。

別にテレビ業界に恨みを持っているわけではありませんし、Googleを贔屓する気持ちも特にありませんが、音楽とそれを取り巻く環境がもっと楽しく面白くなるために、YouTubeにはがんばってほしいと思っています。


…このテーマ終わり。

 

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