【レコにまつわるエトセトラ】レコ好き必修マナー講座 ~ 時を戻そう!ジャケット補修術【第23回】

 

近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第23回のテーマは、“レコ好き必修マナー講座 ~ 時を戻そう!ジャケット補修術”。中古レコードというものは年代や人の手を経ている分、なかなか美品ばかりというわけにはいきません。中にはジャケットにシールが貼られていたり、底が抜けていたり、汚れていたりすることも。

例えば大きく欠損しているような場合はさておき、ちょっとした汚れやダメージならなんとかなるかも…? と思った時に、読んでほしいのが今回の“ジャケット補修術”。失敗すれば価値を下げることにもなりかねないけれども、きれいに生まれ変わるかもしれない…そんなお役立ち知識をご紹介します。

一度失われてしまったコンディションは取り戻せない…が、それでも

 

レコにまつわるエトセトラ23_01

今回用意した道具は、(オイルを除き)全部100円ショップで購入

 

2012年8月、スペインのボルハ市にあるミセリコルディア教会で起きた、「世界最悪のキリスト肖像画修復事件」。みなさんは覚えていらっしゃいますでしょうか?
結構な話題になったので、画像を見れば一発で思い出すと思いますが、キリストをまるでサルのように「修復」して、世界を色んな意味で震撼させた事件です。

修復を手掛けたのは、82歳のおばあちゃんセシリア・ヒメネスさん。このおばあちゃん、あの後ムチャクチャな追求されちゃったりしたのかな? と不安になったものですが、この事件の面白いところはその後になります。

世紀のやらかしをしたこのおばあちゃん、しでかしたことのインパクトとなんとも呆けた絵面とのギャップが人を惹きつけたのか、期せずして世界の人気者になってしまいました。
その絵はコップになり、パズルになり、Tシャツになり…気づけば世界中から教会に人が集まり、今や立派に地元を潤す強力な観光資源。終いにはおばあちゃんはポップアート界のアイコンとして祭り上げられたとさ…チャンチャン。

って嘘みたいなホントのハナシですが、こんな絵に描いたような怪我の功名みたいなケースは稀も稀。
レコードの世界においても「修復(補修)」は、なんともリスキーな修羅の道。
常日頃レコードの価値付けを行うバイヤー業を営む私たちの世界においては、「下手な補修」は罪深き行為と断罪され、市場価値がグッと下がるというのが共通認識です。

冒頭で言ってしまうのもなんですが、結論としては「何もしない方がマシ」。前回の記事でもお話ししましたが、一度失われてしまったコンディションは取り戻せないんです。
ただ、たしかにその通りなんですが、「上手な補修」は有限な文化財たるレコードを蘇らす、ポジティブな行為となることもあります。
ただただ放置して朽ちていくのを見届けるのではなく、絵画も壺も寺も、丁寧な補修を施しながら後世へと繋いでいっているのです。

ということで、今回はレコードを明日へと繋ぐための必修マナー講座、「レコード補修術」をお伝えします。

今回の講座内容は「シール剥がし術」「底抜け補修術」「ジャケット美白術」の3つ。ジャケット補修に絞った内容となります。
いずれもできるだけコストとリスクの低い補修術になりますが、大事なレコードを労る気持ちは絶対に忘れずに!では、ご一読ください!

 

まずはシール剥がしのテクニックから

 

レコにまつわるエトセトラ23_02

これは裏ジャケですが、今回はコイツを取り除いてみましょう。

 

補修術その1「シール剥がし術」

必需品:スクレーパー/Zippoオイル

ジャケットの表面にプライス・シールが貼られていることって多いですよね?
70年代リリース当時の小さな「$」シールとかならあんまり気にならないことも多いですが、やたらと主張が強くてビジュアルを損なうものも少なくありません。

そんな時は邪魔なんで気軽に爪でカリカリッと…って、ちょっとその手を止めましょう!
そのワイルドなスタイルでは、ステッカーの粘着度によってはジャケごとベリッと奪い去り、百歩譲って上手くいっても爪の引っ掻き跡が残ります。
こんな時は正しい「シール剥がし術」を心得ておけば安心です。

まず前提のハナシですが、ジャケ補修において一番大事なのは、ジャケの仕様、そしてその素材を見極めることです。
世界各国色々とバリエーションはありますが、基本的には国ごとに仕様が統一されています。
そして、その中でも最もポピュラーなのが「A式」と「E式」と呼ばれるものです。

「A式」のAはアメリカで、その名の通りアメリカで広く採用されています。
ただの白ジャケみたいな定型のジャケットの表裏に、印刷した紙をペタッと貼り付けるスタイルです。
厚みはありますが、とにかく「紙!」っていう感じのざっくりとした質感が多いです。

対して「E式」はヨーロッパ式。こちらは印刷した紙そのものを組み立ててジャケットに仕立てており、厚みはなくきめ細やかな印象です。
どちらも似たような感じがしますが、E式の方が紙に色々と加工が施しやすく、デザインの自由度が高いため、エンボス、テクスチャー、変形と様々な仕様のジャケットが制作されています。

そしてシール剥がしにおいては、どっちかというとA式の方が厄介です。
E式は「コーティング」という表面にラミネート加工が施されたジャケットも多く、その場合のシールはつるっと剥がれます。
とにかく紙感が強いものに手を焼くのです。

 

レコにまつわるエトセトラ23_03

 

それでは補修術を紐解いていきましょう。
まず用意する道具は、Zippoオイルと小型のプラスチック製スクレーパー。
Zippoオイルのことはご存知だと思いますが、Zippoライター用のオイルで、コンビニで容易に入手できます。
スクレーパーは「へら」のことです。100円ショップに行けば小型のものが数本セットとかで売っています。
ちなみに金属製のスクレーパーは、ジャケを根こそぎ持って行っちゃいかねないので使用不可です。

では、まずはオイルを患部(シール部分のこと)に塗りましょう。全体的に薄く塗る程度で大丈夫です。
一般的にはそこから爪でカリカリが多いんですが、そこはこちとら補修術、ひと工夫凝らしてスクレーパーの登場です。

 

レコにまつわるエトセトラ23_04

 

レコにまつわるエトセトラ23_05

 

レコにまつわるエトセトラ23_06

 

とこんな感じでシールを取り除いていくんですが、ここで大事なのはシールの粘着部分ごと剥がしていくことです。
ただ、シールの上っ面だけがペロッとめくれて、長年を経て変質した粘着部分が残ることが多いもの。
触ってみてまだベタベタしているような場合は、上の写真のようにオイルを上塗りして、粘着部分を優しくこそげ落としましょう。
また、シール自体がすんなり剥がれない時も、オイルを足しながら少しずつ剥がしていってください。焦りは禁物です。

 

レコにまつわるエトセトラ23_07

シール剥がし直後。

 

レコにまつわるエトセトラ23_08

約5分後。

 

また、ジャケにZippoオイルを塗った時、一時的にシミのようになります。
紙質によってはかなり目立つんで焦りますが、よっぽどドボドボに塗らない限りはちゃんと揮発して見えなくなりますのでご安心ください。

ちなみに世の中にはシール剥がし専用の液体も存在しますが、モノによってはちょっと成分が強過ぎるものもありますので、目立たないところで試しながら使うのがベター。
でも容器の先端がペン・タイプになっていて塗りやすかったり、オイルじゃ荷が重いものでもスルリと取れたりと、さすが専用液っていうのもあります。

あと、あんまり私はやらないですが、ドライヤーで患部を温める方法もあります。これもケースバイケースで使い分けられればなお良し!

 

お次はジャケットの底抜け補修テクニックを

 

レコにまつわるエトセトラ23_09

 

補修術その2「底抜け補修術」

必需品:木工用ボンド

底とか天とか背とか、ジャケの抜けって精神衛生上よろしくありません。そして抜けた状態で盤をそのまま入れておくと、その傷はひろがってしまうかもしれません。まぁ、盤を外に出しておけばいいんですけど。

抜けの補修のポイントは、「E式は補修しない」です。
元々薄めの素材ということもあり、綺麗な補修は難しいもの。さっきも書きましたが、下手な補修はそのレコードの市場価値を著しく落としてしまいます。
ただ、そもそもE式は比較的抜け難い素材ではありますので、この補修術はA式に限った手法と思っておいた方が良いでしょう。

あと、ボンドの種類にも注意が必要です。
もちろん色々と種類があるんですが、今回使用しているものと同じ「水性」のものにしましょう。
プラスチックとかをくっつける「樹脂系」のボンドは、仕上がりの見た目が最悪になりますのでご注意ください。
また、今回はあくまで安さ重視で選びましたが、コダワリなアナタは造花とかに使う紙用のボンドがベストでしょう。ノズルも先細りしていたりと、使い心地もバッチリです。

 

レコにまつわるエトセトラ23_10

 

レコにまつわるエトセトラ23_11

今回の施術対象はコレ。

 

ではまず成功のポイントなる、「バリ」の有無を確認しましょう。
とはいえ世間的にはあんまり「バリ」なんて言わないと思いますが、下の写真の部分を(私的に)「バリ」と呼んでいます。
当然っちゃー当然なんですが、バリがないとパーツ足らずで綺麗に補修ができません。

 

レコにまつわるエトセトラ23_12

 

レコにまつわるエトセトラ23_13

 

まずはバリを丁寧に起こしてあげます。
こんな時にも先ほどのスクレーパーが使えます。

 

レコにまつわるエトセトラ23_14

 

レコにまつわるエトセトラ23_15

 

それでは患部にボンドを塗っていきましょう。後からでも足せるんで、あくまで少なめの気持ちで。
ちなみにコレ、ちょっと出し過ぎてます…。

 

レコにまつわるエトセトラ23_16

 

レコにまつわるエトセトラ23_17

 

バリを丁寧に閉じてあげて、平に慣らします。
無理矢理ギュッとピンチしたりすると、変に出っ張った形で固まってしまったりするので気をつけてください。
ちなみに素材が白い場合は、さらに追加で上からボンドを薄く塗って、指で優しく慣らしてあげると完成度が高まります。

ただここまで言っといて申し訳ないんですが、一人で写真を撮りながらやっていたら、今回はものすごい微妙な仕上がりになってしまいました。
ただの言い訳ですが、不器用な人間がやるとこの程度です。そう、補修って難しいんですよ…。

 

「何もしない方がマシ」と思うかどうかはあなた(の腕)次第…?

 

レコにまつわるエトセトラ23_18

レコにまつわるエトセトラ23_19

レコにまつわるエトセトラ23_20

スポンジに軽く水を付けて優しく擦る、ただそれだけ。

 

補修術その3 「ジャケット美白術」

必需品:消しゴム/メラニン・スポンジ

最後になりますが、これは痛みを修復するというよりも、アンチ・エイジング的なジャケの蘇りを目指す術になります。
ただあらかじめ念押ししておきますが、これはちょっとリスキーな作業になるのでやり過ぎは禁物です。でもあまりに綺麗になるので、ついついやり過ぎちゃうんですよね…。
盤面の形に沿ってジャケが円形に汚れたり痛んだりしている箇所をリング・ウェアと言いますが、この美白術はそんな時に効果を発揮します。

まず初手としては、消しゴムを使います。汚れている部分に軽く消しゴムをかけていくシンプル極まりない作業ですが、効果てきめんです。

ただここで注意事項です。この補修術は白地ではない、色が入った部分には使わないでください。リング・ウェアと一緒にジャケの色まで持っていかれます。
とはいえ、コーティングのジャケは全然問題ありません。そう、素材の見極めが大事なんです。

 

レコにまつわるエトセトラ23_21レコにまつわるエトセトラ23_22

 

今回の対象品は英盤のE式コーティング・ジャケです。
ほら、黒ずみ(=リング・ウェア)が消えているのが分かるでしょ?

そして禁断の奥の手がメラニン・スポンジです。要はみなさんお馴染みの「激落ちくん」です。
悪魔に魂を売り払ったかのごとく、その圧倒的な効果には目を見張るものがありますが、ここで必ず守っていただきたいことがあります。
ポイントを箇条書きしておきましょう。

■E式コーティングにのみ使用
■水分を絶やさない(けど相手は紙、付けすぎない)
■結局はただのヤスリ

この3箇条を守れば大事故にはなりませんが、結局はヤスリがけをしているに過ぎないので、やりすぎは厳禁です。
基本原則として「1に消しゴム、2にメラニン」を守りつつ、素材によって使い分けていくのが良いでしょう。

 

レコにまつわるエトセトラ23_23レコにまつわるエトセトラ23_24

この裏ジャケの場合は、コーティングが施された折り返し部分にメラニン、他コーティングのない部分には消しゴムをかけています。あくまで軽く。

 

今回の補修術はリスクを抑えたものとは言え、いずれも一定のリスクは抱えています。
結局、私の結論としては、最初にも申し上げた通り「何もしない方がマシ」なんです。今回の私の補修自体、なんだか微妙な結果になりましたしね…。

それでも「気になって夜も眠れないぜ!」っていう方は、今回の補修術を参考にしていただければ幸いです。
では、より良いレコード・ライフを!

 

←前の話へ          次の話へ→

 


 

Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千