【レコにまつわるエトセトラ】検盤力 ~ 傷との円満交際のススメ【第25回】

 

近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第25回のテーマは、“検盤力 ~ 傷との円満交際のススメ”。レコードとは“形あるモノ”と当たり前のことを言うようですが、それゆえに何かの拍子に傷がついてしまったり、汚してしまったり…などのトラブルは付きものです。ましてや何十年も前に発売された盤となれば、言うに及ばず。

レコードの場合は、そういった傷や汚れが音にも影響を与えてしまうところが難儀であり、“味わい”と解釈されたりもするわけで。でもなるべくなら避けたい…というところで、今回はノイズが出そうな盤を見分けるテクニックをご紹介していきます。

レコードはアナログなもの、であるが故に…

 

レコにまつわるエトセトラ(1)

「レイメイ藤井 ハンディ顕微鏡DX」
今回はこちらを使用しました。高機能で2,500円もしないっていう恐ろしいコスパの本品、お世話になってます。

 

レコードって、ものすごいアナログ。
便利極まりない現代のサブスクに比べると、ある種どうしても効率の悪いフィジカルメディアの親玉みたいな感じすらあるんですが、アナログであるが故に感覚的に分かりやすく、デジタルよりも話の通じる相手とも言えるのかもしれません。

さかのぼること20数年前のことですが、レコードという存在に否定的ですらあった若かりし頃の私がいました。
小さな頃は普通に家にレコードがあった世代なんですが、なにがそんなに気に食わなかったのかというと、

「CDと違ってバチバチッて傷の音がしたりするんでしょ? そんなの嫌じゃない?」

とまぁ別に間違っちゃーいないんですが、今思うと短絡的が過ぎる考えを持っていました。

その後、自然な流れでレコードを手に取るようになった私は、みるみるうちにその魅力に取り憑かれて、一転レコード派に変貌を遂げたワケですが、今回クローズアップしたいのはその「傷の音」。

時折レコードの音を表現する際に、テンプレのような形で「プチパチ音が郷愁を誘う」なんて言われますが、リアルタイム世代なら多少のノスタルジーこそあれど、大多数のレコード愛好家にそんな感覚はなくて、ノイズレスであるに越したことはないと思っています。だって、そうでしょ?

ということで、今回はレコードにとってどうしても避けられない、「傷」との上手な付き合い方のハナシ。
レコ屋で働く私が受ける質問の中でも特に多いのは、「この傷って音に出そうですか?」だと思いますが、今回はどういうメカニズムで傷がサウンドに影響を与えているのかに迫ります。
この記事をザッと読めば、今後はどういう傷は避けたほうが良いのかスッと分かるようになるハズです。ぜひご一読ください!

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

レコにまつわるエトセトラ(3)

もちろん直接のぞくこともできますが、こうやって同梱のアダプターをセットすれば、スマホで撮影できちゃいます。ほら、溝ってキレイでしょ?。

 

今、手に持つ盤がどれくらいのノイズを含んでいるかを評価するにあたって、見るべきポイントっていうのが何ヵ所か存在します。
もちろん全部通しで聴けばどんな具合か一聴瞭然なんですが、普段レコ屋で買おうかどうかっていう時に、全てを聴いて判断するワケにもいきません。
店によっては試聴時間の縛りがあったりもしますし、そもそも何枚かあったらとんでもない時間が掛かっちゃうっていうのもあります。さらに言っちゃえば、再生環境によって傷の鳴り方も違うものです。

そういうこともあって、基本的には目視で状態を判断するんですが、プラスで特に気になる部分があれば、そこだけ部分聴きして塩梅を確認するっていうのが一般的です。

また、レコ屋で商品カードとかに「EX」とか「VG」とか、そんな記載を見たことありませんか?
これは「グレーディング」と呼ばれる状態表記のことで、この表示があるのであれば、状態確認(=「検盤」って言います)に不慣れな方でも目安になるので安心です。

なお、多くのレコ屋ではこの状態表記を目視を基本とした評価方式、通称「ビジュアルグレード」を採用しています。
また、中には全部通しで聴いて評価する、「オーディオグレード」を行っている懇切丁寧なレコ屋もあります。少ないですけどね。

ちなみにこのグレーディング、世界的にレコード共通言語として使用されてはいますが、どの店に行ってもその表記があるかというと…それは色々と事情が異なります。
というのも、日本でこそ(まぁまぁ)一般的ですが、海外ではめちゃくちゃ少数派なんです。

あとある程度慣れている方は、表記があっても自分自身でも検盤をしたほうが良いと思います。別に店を信用してないっていうワケじゃないんですが、グレーディングって個人差があって難しいんですよ…。
まぁその辺は過去記事でも書かせていただいているので、ぜひそちらも併せてご参照ください。

 

傷の“種類”がとても重要


レコにまつわるエトセトラ(4)

レコにまつわるエトセトラ(5)
今回掲載の「縦傷」と「横傷」は、どちらもコイツから。基本美品なのに、嘘みたいに2本だけ深い傷があります。トホホ…。


では、見るべきポイントを押さえていきましょう。

ポイントは大きく分けると、「盤面」「スピンドルマーク」「反り」の3点。
そんなにあるの…とため息付く気持ちも分かりますが、慣れてくるとササッと数秒見ただけでも大方の判断は付くようになります。
なお、1つひとつを掘り下げながら解説していきたいところですが、かなり話が長くなってしまいますので、今回は一番肝心要な「盤面」について解説させていただきます。

盤面でのチェックポイントは、傷の形状と量、そして盤表面の輝き。
まずはダイレクトにサウンドに影響を与える、傷についてご説明しましょう。

傷を確認する上で大事なのは、「深さ」と「角度」。
針はレコードの溝に沿って動いていくワケですが、単純な話、その動きを邪魔するものがあれば、本来鳴るべきではない音、すなわち「ノイズ」となって私たちの耳をつんざくのです。ね? アナログでしょ?

傷の「深さ」を確かめるのは比較的簡単で、目視で確認できる傷の部分を優しく指でなでてみましょう。
その時にハッキリと凹凸が感触で分かるような傷の場合、通り道を邪魔された針は揺さぶられ、「ブツッ」とノイズが発生する可能性が考えられます。
そしてもちろんその傷は深ければ深いほどノイズも大きくなり、最悪の場合は針飛びを起こしてしまいます。

さらに、そんな傷の深さも「角度」次第でサウンドへの影響が大きく変わります。
ここでは特にチェックしておきたいパターンを、顕微鏡による拡大画像と共にご説明していきましょう。


レコにまつわるエトセトラ(6)

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■縦傷

ごく一般的な傷です。ノイズや針飛びが発生するかしないかは、その深さ次第。
なお、この程度の深さであれば周回でノイズが鳴るものですが、これはそんなにヒドくなかったです。溝の掘りの深さしかり、色んな要素が互いに作用し合っているのです。


レコにまつわるエトセトラ(3)

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ちなみに、触って凹凸が分からない程度の深さの場合は、傷ではなく「擦れ」と呼ぶのが一般的です。
「バチバチッ」と耳触りに鳴るかもしれない傷に対して、まぁ許せる程度の「パチパチ」で済むかもしれないのが「擦れ」。
この言葉の使い分けは結構重要ですよ!


レコにまつわるエトセトラ(10)

レコにまつわるエトセトラ(11)

 

■横傷

縦傷よりもサウンドに影響を与えやすい傷のタイプ。というのも針の進行方向と一緒が故に、針が傷に乗り上げて飛んでしまうことも少なくないです。
ちなみに上の写真の場合では、傷の深さ自体は終始変わらないんですが、縦から横に向いたところで針飛びを起こしてしまいました。しょんぼり。

 

レコにまつわるエトセトラ(12)

レコにまつわるエトセトラ(13)

 

■円周傷(溝傷)

最も厄介な傷がコレです。
音溝に沿って円周状についた傷を指しますが、60年代に一般家庭で使われていた廉価なタイプのポータブルプレーヤーとかの、さらに針がバカになってるヤツでプレイして傷付いたっていうパターンが多いかもしれません。
まぁもちろん他の要因で発生することもあるんですが、そんな経緯もあって80年代以降のレコードにはあまり見られないタイプの傷でもあります。

そしてこの溝傷の厄介なところは、針飛びの発生確率の異常なまでの高さ、そして傷の発見の難しさにあります。
そんなに深さのない傷でも針はピョンと飛び、溝と同化してかなり見えにくくなっているものも多く、プロである私たちでも見落としてしまうこともしばしば。

写真のものはかなり分かりやすい例で、普通はもっと隠れています。
とにかく発見の精度を上げるには慣れしかありませんが、今お伝えした前提知識を頭に叩き込んだ上で確認、そして疑わしきは聴いてチェック、それがベストでしょう。

ちなみにですが、写真のものは「チッ」と1回鳴るだけでセーフでした。飛ぶ確率が激高って言うだけで、100%飛ぶというワケではありません。とにかく聴いて確認あるのみです。

また、発生箇所にはある程度の傾向があるもので、やはり最初に針を置くド頭に多いでしょうか。
意外と最も見落としがちな部分でもありますので、注意してチェックをしましょう。
 

ノイズを引き起こす原因は傷だけではない

 

レコにまつわるエトセトラ(14)

この白く濁っているのが焼けの症状。
多くの地雷盤をリリースしている、Recommended Recordsからの一枚です。


続いて、盤面の輝きについて解説していきます。

どうも光沢感に欠け、なんだか曇り気味で元気のないレコードってあるものです。
その実よくよく見てみると、細かい傷でビッシリ埋め尽くされていたり、溝が全体的にやられていたりと、様々なマイナスファクターが盤の表面上を鈍った見た目にするワケです。
もちろん音質もそれに伴って悪くなっていくのですが、そんな曇りのパターンの中でも一番抑えておきたいのが、みなさんお馴染み(?)の「塩ビ焼け」です。

塩化ビニール製であるレコードは、とある条件下のビニールと一定期間触れ合うと、「塩ビ焼け」と呼ばれる症状が発生してしまいます。
症状としては盤面が白く変色(変質)してしまうのですが、その部分は「サー」という大きめのノイズが発生してしまい、リスニングへの影響は大きなものとなります。

温度や湿度、時間や素材等、どういった条件下で発生するのかは正直ハッキリしませんが、いわゆる定番パターンが存在しますので、注意すべきものを列挙しておきましょう。

■ピクチャー盤

塩ビ焼け界の大定番。
当然美しい盤面が売りのピクチャー盤、それを見せたいがあまり、ジャケの代わりに透明のアウター・ビニールに入れてしまったのが運の尽き。恐ろしいほど高確率で症状が発生しています。しかも盤の色によっては、症状の有無がちょっと判別しづらいという罠もあります。
近年のアウターの素材は意外に問題ないですが、念のためダイカット・スリーヴ等に入れて盤だけ別保管が安全でしょう。

■Simply Vinyl

‘97年創設、ロックファンには180g重量盤仕様でお馴染みの英国発の再発レーベル。
ジャケをさらにPVC製のアウターに入れるというのが、彼らのある種のシグネチャーなんですが、まぁこれがダメでしたね…。
ピクチャー盤と似たような原理なんですが、ほぼほぼ塩ビ焼けが発生していて壊滅状態です。

百歩譲って再発だけなら良かったんですが、ヴァン・モリソンの’99年作『Back On Top』等、Simply Vinylからオリジナルアルバムをリリースしているパターンもあります。困ったもんです。


レコにまつわるエトセトラ(15)

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レコにまつわるエトセトラ(17)

コイツのせいで、盤面が変質を起こしてしまいます。
 

最後にちょっと深めの話をしていきましょう。
レコードって世の中、色々な形で制作されているもので、明らかにやっちゃった仕様でリリース、後々に取り返しがつかなくなったなんていう例も少なくありません。
ちょっと何例か挙げておきますので、これだけでも覚えておきましょう。

・av/pak製ジャケット
Pentangleをはじめとしたブリティッシュフォークの名作群、そしてプログレッシヴロックの秀作も残した独立系レーベル「Transatlantic Records」を筆頭に、一部のレーベルで採用されていた特殊ジャケ。
まぁこれが悪評高いのなんのって…。

上の写真を見てほしいんですが、これは袋状になっていない、つまりレコードは入れられない見開き仕様のジャケットの間に、プラスチック製のインナースリーヴを半ば無理矢理、合体させているんです。

まぁただでさえヤバそうな仕様なんですが、問題は取り出し口部分。
右側からレコードを入れるんですが、スポンジがついているのが見えると思います。ちょっと欠損しているので分かりづらいですが、本当はビシッと上から下まで付いてるこのスポンジ、ほぼ100%塩ビ焼けがパワーアップしたような表面の変質を発生させてしまいます。

このav/pak製以外にも、元々の仕様が悪くてこの塩ビ焼けの類が発生してしまっている例がありますが、今現在の私たちは潔く諦めるか、奇跡的に症状を免れた一枚を探すしかありません。
以下にそんな「地雷盤」の一例を挙げておきますが、そんな経緯もあるので症状のないものはグンとプライスアップを果たします。お覚悟を!

・Colosseum『Colosseum Live 』(UK Bronze / ICD1)

・Jan Dukes De Grey『Mice And Rats In The Loft』(UK Transatlantic Records / TRA 234)

・Kaleidoscope『Faintly Blowing』(UK Fontana / STL5491)


レコにまつわるエトセトラ(18)

レコにまつわるエトセトラ(19)

ブリティッシュフォークの至宝盤、Folkal Pointも悲しいかな持病持ち。


もう製造されてから50~60年は平気で経っているものも多いレコード。そりゃ全く無傷のものって、そう簡単にありません。

その現実も織り込み済みで、ちょっと針飛びしようがその分激安でゲットするぜっていう方もいると思いますし、薄スレ1つも許さないっていうミントコレクターな方もいると思います。ただその時飛ぶのは、針じゃなくて大金ですけどね!

そう、大事なのは傷との付き合い方。結局は自分ならではの距離感、つまり自分の傷の許容範囲を見つけておくのが大事なんです。
ではまた!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千