【レコにまつわるエトセトラ】検盤力 part.2 ~ 絶滅危惧種を保護せよ!【第26回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第26回のテーマは、“検盤力 part.2 ~ 絶滅危惧種を保護せよ!”。前回はレコードにノイズや針飛びを引き起こす原因となる、さまざまな種類の傷や「塩ビ焼け」についてご紹介しました。

続編となる今回は、その傷をどうやって見分けるかというテクニックについてまずご説明。さらに、検盤する際にチェックすべき上記以外のポイント、「スピンドルマーク」と「反り」についても解説していきます。

ヴィンテージ・レコードの美品は「絶滅危惧種」

レコにまつわるエトセトラ(1)

「Tomshine クリップライト」
今回はこちらをご紹介。詳細は文中にて。

 

インターネット登場以降、レコードの研究は加速度的に進展を遂げ、オリジナル盤の細かな要件設定や、マトリクス等によるプレス時期の特定等、いよいよここまで来たかというぐらい、コダワリ出したら止まらないディープな世界線へと突入しました。

またeBay等のネットオークションやDiscogsを中心とした、個人間のネット販売網も急速に拡がりをみせ、日々途方もない物量のレコードが飛び交い、以前では考えられないようなトンデモ盤(=超絶レア盤)までもが市場に顔をのぞかせるようになりました。

しかしその反面、市場の活性化によってもたらされた反動とも言える、コンディションが美しく保たれたレコード、つまり「美品」が露骨にその数を減らしていっています。

まぁそれもそのはずで、紙と塩化ビニールでできたなんとも頼りない円盤が、極東から南端まで世界中をグルグルと駆け巡り、色んな人にペタペタと触られ針を落とされて、なんならレコードリテラシーに欠けるところにお嫁に行けば、雑に扱われて「美」が永遠に失われてしまうかもしれません。

コンディションとプライスは相関関係にあるものなんですが、そんな経緯もあって、今現在ではいわゆる「VG」から「MINT」に至るまでの値動きが、指数関数的な伸び率を見せるようになってしまったワケです。(グレーディングの見方はコチラを参照
そう、美品は「絶滅危惧種」なんです。

ということで今回は前回に続き、みなさんのレコードの状態を正しく読み解く力、「検盤力」向上のハナシ。
前回も申し上げましたが、そんな希少な美品だけを追い求めるのは、なかなかどうして時間とお金が許しません。現実的には状態を見極める力、つまり検盤力を磨き、経年劣化と正しく向き合う必要があるんです。
この記事が少しでもアナタのお力添えになれば何よりです!

 

「光」を駆使して盤面をチェック

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

レコ棚でも紹介しましたが、やっぱり高コスパなIKEA製品も人気です。

 

前回の続きを語る前に、まずは検盤の際に最も重要なキーとなる「光」についてお話しさせていただきましょう。

盤面についた傷やその他諸々の状態を確認するためには、盤面にさまざまな角度(これ大事!)から光を当てる必要があります。
そうすることによって、傷の有無や溝の状態、そしてこのあと解説もする盤の反り等が判別できるようになるワケです。

そしてこの時にポイントとなるのが、盤面を照らす光の元、つまり光源のタイプです。その強さや種類によって、ずいぶんと見え方が違うものなんです。

私たちバイヤーは、ありとあらゆる環境で途方もない数のレコードの検盤をしているということもあって、夜目が利くというか、メチャクチャ光源が悪い場所でも正しく検盤する術を身につけています。
とはいえ、そうなるにはかなりの熟練が必要ですし、もちろん私たちとて良い感じの光があったほうが助かるに決まってます。

ではまず光の種類について整理しておきましょう。左に行けば行くほど傷が見えやすくなります。

白熱球>蛍光灯>太陽光

白熱球は陰影が出やすいこともあって最も傷が見やすく、太陽光はいかんせん光量が不安定なので見えにくいことが多いでしょう。
ただ一番大事なのは光の種類よりも光量、要は明るさです。明るきゃ太陽光でもクッキリ見えます。
擦れオンリーのようなコンディションの場合は、暗いと全部ピンピンの美品に見えちゃうので、いざ聴いてみたら結構チリつくな…なんていうこともあるかもしれません。

ということで、私たちレコ屋も含めて多くの人のスタンダードと言えるのが、白熱球のスポットライトでしょう。60~100wぐらい、できるだけ明るいほうが見えやすいです。

 

レコにまつわるエトセトラ(3)

レコにまつわるエトセトラ(4)

色違いで同じ場所を見てみましょう。正直これだと違いが分かりませんが…。

 

一応ご参考までに、いろいろ踏まえた上で私が今使っているものをご紹介しておきます。お察しの通り、トップ画像のものですね。

クリップ型のスポットライトになりますが、電球はLEDになります。そしてアーム部分をグニグニと自由に曲げることもできちゃいます。
600ルーメン(50W相当)と白熱電球ほど明るくはないですが、十分な強さの光量で、かつ調光&調色機能が付いていることもポイントです。

基本は暖色の明るさマックスで使用していますが、たまに色と光量を変えて意図的に見えにくくもします。
見えにくい光の下でもはっきり視認できるような傷は、それだけサウンドに影響を与えやすそうな傷という寸法です。

そんな機能十分で見た目もシュッとした優れモノなヤツなんですが、2,000円を切るコスパの高さも魅力です。
クリップタイプをお探しであればオススメですよ!

 

そのレコードの来歴を物語る「ヒゲ」の多さ

レコにまつわるエトセトラ(5)

ビートルズだと、これぐらいは普通です。

 

では前回に続き、検盤の際に見るべき3つのポイントの残り2つ、「スピンドルマーク」と「反り」について解説していきましょう。

その盤がどの程度のノイズを含むのかを確認するにあたって、盤面の傷の有無はもちろん大事なんですが、溝自体のコンディションも大事です。
ただ、それを目視だけで確認するのは結構難易度が高いもの。そんな時に役立つのがスピンドルマークのチェックです。

スピンドルマークというのもなかなか聞き慣れない用語だと思いますが、レコードのセンターホール(中心の穴のこと)の周りに付いている擦れのことを指しています。ちなみにスピンドルというのは、ターンテーブルの中心軸(真ん中の棒)のことです。
なお、スピンドルマークは俗称「ヒゲ」とも呼ばれていますが、なんならここ日本ではそっちの方が一般的な呼称かもしれません。

そしてそもそもなんでそんな部分の擦れをチェックするかというと、レコードをターンテーブルに乗せる時の動作を思い出してみると分かりやすいです。
丁寧な方はそっと、かつドンピシャでスピンドルにセンターホールを合わせてスッと通すものですが、あんまり気にしないぜっていう方は、適当にレコードを置いてグリグリと上から押さえつけながら、スピンドルを探すようにしてセンターホールを通すんです。
まぁ60年代や70年代当時は、今みたいにレコードを半ば骨董品のような扱いをしていたはずもなく、あくまで普通の感覚でグリグリしていたと思います。

ということで、スピンドルマークを見るとその盤がどのように扱われてきたのか、ある意味「来歴」が読み取れるワケです。
単純に擦れや傷みが多ければ多いほど、よく聴き込まれて溝が傷んでいる可能性があり、パチついたり音が歪んだりとノイズ成分を多く含んでいると推測されます。
特に古くてポピュラリティーの高いレコード、いわばビートルズのオリジナル盤みたいなものは、ヒゲのチェックはかなり当てになりますよ!

 

見分けづらい「反り」、だが致命傷になることも…

レコにまつわるエトセトラ(6)

 

見つけづらさと針飛び発生率の高さから、前回もその危険性をお話しした「円周傷(溝傷)」ですが、それに並ぶヤバいヤツにして、検盤の際に見るべき3つのポイントの最後、「反り」について解説いたします。

「反り」ないし「盤反り」は、その名の通りレコードが変形して反り返ってしまったものを指します。

上の写真を見てください。グイッと下方に反っているのがお分かりでしょうか?
これが音にどう影響するのかはさておき、たしかに真っ直ぐじゃないっていうのは分かっていただけると思います。

では、角度を変えて撮影したものを見てみましょう。

 

レコにまつわるエトセトラ(7)

 

どうですか? 急に分かりづらくなりましたよね?
同じ場所で角度を変えただけでこんな調子ですので、やっぱりいろんな角度から見るっていうのは大事なんです。

反りの有無を確認するには実際にプレーヤーで回してみるのが一番なんですが、それができない環境であれば目視で確認するしかありません。
そしてそのコツとしては、上の写真のように水平にしてチェックするか、光をいろいろな角度から当てて光の歪みで判断するかですが…これがなかなかどうして難しいものなんです。

この発見しづらさが反りの厄介なところなんですが、もっと恐ろしいのは3つのポイントの中でも、とりわけサウンドに与える影響が大きいことです。
傷はいくら深くてもその箇所のみの影響に止まりますが、反りがキツイものは針がバウンドしてまともにプレイ自体ができません。
ちなみにこの写真のものも、外側は派手に針がダンスっちゃう、大部分はプレイ不可なものでした。チクショー!

なお、反りと一口に言ってもいろいろな種類があるんですが、最もキケンなのが「部分反り」です。
この写真のもののように全体が緩やかに反っているのではなく、一部分だけがポコっと反っているものなんですが、最も気付きづらく、針飛びの可能性も高く、いかなる手段を用いても治すこともできない、そんな凶悪極まりない症状です。

ではこんな(レコードにも持ち主にも)絶望的なダメージを与える反りですが、その発生原因はなんでしょうか?

まず1つは「熱」です。レコードは塩化ビニール製なので、ホントに熱に弱いんです。
やらかしの定番でもあるんですが、真夏の車の中にレコードを放置して、ちょっと買い物にでも出掛けてみてください…帰ってきた頃にはぐんにゃりと曲がってしまっていますから! これマジで気を付けてくださいね!

そして2つ目は、時間をかけてじんわりとかかり続ける「力」です。
その中でも多いパターンは、レコードの積み上げとシールド品です。レコードを適当にポンポンと置いて積み上げていって、そのまま長時間放置しておくと、その重みによってじわじわと盤が反っていく可能性があります。

それとある種同じような原理で、シールド品(米盤で多く見られるビニールで封された未開封品)もある程度のリスクがあります。
60~70年代製のギュッとビニールでシールドされたものなんかは、長い年月一定の力が掛けられる格好となり、盤に反りが発生しているものも少なくありません。
ただ、シュリンク(シュリンクラップ。封していたビニールのこと)が残っていても一度開封されたものに関しては、そこから新たに反りが発生するようなことはありません。ご安心ください。

 

 

レコにまつわるエトセトラ(8)

とはいえ、抗い難い魅力に満ちたシールド。ややこしい造りのジャケほど入手困難です。

 

反りが発生してしまったものは、反りのメカニズムを逆手に取る、つまり反ってしまった部分に熱や力を掛け続ければ、治る可能性もある(部分反りは除く)と言えます。
それは専用機器からオールドスクールな手法までいろいろとありますが…それはまた別の機会にお話ししましょう。

そして最後にお伝えしておきたいのは、どんなにポテンシャルを秘めている盤でも、状態が悪ければその真価を発揮することはないということです。
そして検盤力の向上は、レコードの状態を正しく見極め、より良く音楽を楽しむための手段ではありますが、検盤力を磨けば磨くほど、レコードを大切に扱おうっていう意識の向上にもつながってくるのです。

日々失われていく有限のアーカイブたるレコードを大切に扱い、その素晴らしき音楽のバトンを後世へとつないでいきましょう! では!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千