甲子園のブラバン応援でNGの楽器とは!? 意外と知らない野球応援のヒミツ

▲夏の甲子園で演奏する熊本工業。マーチングのユニホーム姿で演奏するのが恒例だ。
(2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会)

 

2年ぶりに開催され、日々熱戦が繰り広げられている第103回全国高校野球選手権大会。甲子園といえばアルプススタンドの応援も欠かせないが、使用楽器や応援ルールなど実はさまざまな制約がある。“高校野球ブラバン応援研究家”として活動する筆者が現地取材を重ねて知った細かなルールを紹介したい。

コロナ禍で無観客の開催となった、2年ぶりの夏の甲子園。春のセンバツでは現地で演奏することが許されず、録音音源を流すことで対応した吹奏楽の応援も今回は、人数制限やソーシャルディスタンスの徹底などの条件付きでOKに。連日さまざまな応援曲がアルプススタンドから流れ、試合に花を添えている。 応援席には吹奏楽部が通常使っている楽器を持ち込むのが基本だが、実はさまざまな制約があることをご存知だろうか。多くの学校が使用を控えている楽器は、以下の通り。

 

球場で使わない楽器

オーボエ・ファゴット・バスクラリネット・コントラバス

 

ブラバン応援NG楽器(1)

▲左からオーボエ、ファゴット、バスクラリネット、コントラバス

 

オーボエとファゴットは、特徴的な音色で、オーケストラに欠かせないダブルリード楽器。両楽器とも音量がさほど出ないという点と、デリケートで高価な楽器につき、炎天下で強烈な日差しにさらされたり、急な雨で濡れるというリスクをおかしてまで使いたくないもの。同様の理由でバスクラリネットもほとんど使われていないが、これまでに一度だけ見かけたことがある。理由を尋ねると、「自分の楽器で応援したかったから」。大きな弦楽器のコントラバスは、そもそも移動が大変だし、わざわざ応援に使う理由がない。
それでは、これらの楽器の担当者が何をしているか。タンバリンなどの小物打楽器を担当したり、鍵盤ハーモニカなど、他の楽器を担当することもある。筆者もファゴット吹きなので、バスクラリネットの生徒の「自分の楽器で応援したかった」という理由もよくわかる。
ほか、指揮を担当したり、応援曲や選手名のボードを上げる係を担当するケースも多い。

また、たまに見かけるのがプラスチック製のクラリネット。通称「プラ管」と呼ばれる楽器で、通常のクラリネットは木製だが、プラ管はABS樹脂製。木製のクラリネットは直射日光や急激な温度変化に弱いため、屋外での演奏に使うのをためらう奏者も少なくないが、プラ管は温度や湿度の変化に強いため、野球応援慣れしている強豪校の吹奏楽部や、屋外で活動することの多いマーチングを行う吹奏楽部が所有していることが多い。
色も、黒のほか、赤や白、緑などカラフルで、宮城の強豪・仙台育英高校は、スクールカラーに合わせた青と黄色で揃えており、アルプススタンドで非常に映える。
おもにクラリネットに多い樹脂製の楽器だが、たまにトランペットやトロンボーンを見かけることも。

 

ブラバン応援NG楽器(5)

▲ABS樹脂製の青いクラリネットで演奏する、仙台育英高校吹奏楽部。
(2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会)

 

日本高等学校野球連盟のガイドラインで、使用が禁止されている楽器もある。たとえば、鐘や笛、拍子木、和太鼓(鼓・締太鼓)などの和楽器だ。管楽器以外の鳴り物は、球場周辺への騒音防止のため禁止されている。鉦(しょう)や、銅羅(どら)、鈴(りん)など、鳴り物の仏具もNG。ほかに、ハンドベルや、2010年サッカーW杯で一躍有名になったブブゼラ、鍋、フライパン、洗面器などを楽器代わりに叩くことも禁止されている。

社会人野球の応援でよく使われているマイクやアンプスピーカーなどの音響装置も、甲子園では騒音防止のため使うことはできない。

そのほかにも、応援に関する細かなルールが決められている。

・爆竹やクラッカー、花火などの火薬類
・指揮台(スムーズな移動のため)
・ぬいぐるみ(等身大以上)
・着ぐるみ、郷土民族衣装着等
・大漁旗
・ノボリ
・紙テープ・カイ吹雪、ゴム風船などはゴミになるので禁止
・応援団の曲目ボードは100cm×150cm以内

 

ブラバン応援NG楽器(6)

▲応援席の生徒や一般客がコールしやすいよう、選手名のボードを掲げる鳴門高校。
(2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会)

 

ぬいぐるみや着ぐるみ、大漁旗などは観戦の邪魔になるためNG。同様の理由で、曲名や選手名を書いたボードのサイズも決められている。
過去の新聞記事によると、代表校はそれぞれの故郷を背負って甲子園にやって来るだけに、年々応援がエスカレートして、広島の代表校がアルプススタンドに宮島の鳥居を設置したり、秋田代表校の応援席になまはげが登場したこともあり、細かく規制するようになっていったのだろう。着ぐるみの禁止は、ゆるキャラが一大ブームだった頃、各地からのキャラクターが来ないようにするために定められたものと思われる。たとえば、熊本代表校のアルプスにくまモンが来たら、撮影を求める観客が殺到して大騒ぎになることは想像に難くない。

夏の甲子園は、1日4試合行う日もあるため、応援席の入れ替えは非常にシステマチック。次の学校とスムーズに入れ替えが出来るよう、吹奏楽部は楽器ケースの持ち込みが禁止されている。試合終了後に楽器の手入れや片付けをしていると、その分入れ替えが遅くなるため、バスかトラックに置いて来ないといけない。

テレビ観戦しているとなかなか気付かないが、さまざまな決まりごとがある応援席。全国から駆けつけ、このような数々の規則を守って応援しているアルプススタンドの応援団にも、心からのエールを送りたい。

 


 

Text&Photo:梅津有希子

 

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