【レコにまつわるエトセトラ】美の証明 ~ コレクター悩殺、シュリンクの世界【第27回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第27回のテーマは、“美の証明 ~ コレクター悩殺、シュリンクの世界”。自分が愛する作品であればあるほど、より良い状態のものが欲しい。という思いは、どんなもののコレクターにも基本的に共通しているのではないでしょうか?

特にレコードにおいては大きな美的価値を持つ、ジャケットがきれいなものを所有したいもの。そこで今回はいわゆる「美品」を裏付ける大きな要素のひとつである、「シュリンク」の特徴と魅力についてご紹介していきます。

美品の証明、「シュリンク」とは?

 

レコにまつわるエトセトラ(1)

個人的に最高に好きなシュリンク・ステッカー。

 

なんやかんやでこの連載を始めて早2年。そんな2年の中で最も大きかった出来事は、やはり突然襲ってきたコロナ禍でしょう。

2020年に入ってすぐの頃は、まだギリギリ海外にレコードの買付に行けていたんですが、その後すぐに全く想像していなかった未曾有の事態に突入。現在進行形でレコード業界にも大きな影響を与えています。

本来であれば、今頃はオリンピック需要で海外のコレクターが大挙して押し寄せて、日本の世界一のレコードの充実ぶり、そして日本ならではの「美品」の揃いっぷりを見せつけられると、ワクワクしていたんですけどね……残念です。

ところで今サラッと使った「美品」という言葉ですが、数十年の時を経てもなお、美しい状態が保たれたレコードを表現する時に使われることがあります。
別に言葉自体は普通なんでなんとも思わないかもしれませんが、これって随分と曖昧な表現で、人によってその基準は千差万別なんです。

そしてこの表現自体も、やれ極上だの極美だの、まぁ人それぞれ色々な使い方をするんですが、突き詰めていくと、結局はその人の主観に過ぎないワケです。
ただそんな中にも、これがあると自他共に「美品」って認めざるを得ない、そんな印籠的存在があるんです。そう、それがいわば美品行きの直行便、「シュリンク」です。

ということで、今回は美品の証明、シュリンクの話。シュリンクって何ソレ? っていう方にも、その素晴らしき魅力と、その奥に潜む危うさについてお話しいたしましょう。
レコ好きであってもなくても、ぜひご一読あれ!

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

そのタイトル固有のものではないステッカーも多く存在します。

 

では、まず「シュリンク」とは何かをご説明いたしましょう。
正式名称は「シュリンクラップ(英:Shrink Wrap、Shrink-Wrap)」。ここ日本では、シュリンクと省略して呼ぶのが一般的です。
簡単に言えば、熱を加えればギュッと圧縮されるビニールのことなんですが、そんなビニールで封されているレコードって見たことありませんか?

ちょっとややこしいんですが、いわゆる外ビニール(塩ビ)やセロパックと呼ばれるような後付けのビニールではなくて、製造段階で新品として封をするために使われたペラペラのビニール、それがシュリンクです。
また、そのシュリンクで封をされたまま開けられたことのない、いわば未開封品のことを「シールド(Sealed)」と呼んでいます。そして開封はされているけど、シュリンクがまだ残っているものを「シュリンク付」みたいな感じで呼び分けています。

そもそもこの新品のレコードをシールドするという文化、現在ではごくごく一般的なものですが、1960~70年代当時はちょっと特殊なものでした。
というのも、イギリスをはじめとしたヨーロッパや、ここ日本を例に挙げるまでもなく、世界広しといえどもアメリカだけが採用していた方式なんです。
製産段階からシュリンクで包み込むことによって、新品か中古かを簡単に判別できますし、レコ屋がわざわざ外ビニールに入れなくても、店頭に陳列したレコードはダメージから守られるという寸法です。

まぁその数十年後にある意味さまざまな禍根を残すことになったワケですが、たしかに合理的なスタイルだったのかもしれません。だって現に今となっては、世界各国シュリンク・スタイルが基本ですしね。
あ、ちなみに現在の多くの店は、シュリンクの上に1枚ビニールをかけますけど。

また、他の国はレコードにシュリンクこそかけませんでしたが、ヨーロッパ圏はジャケにラミネートコートして強度を出してみたり、ブラジルはシュリンクとは異なる厚手のビニールをジャケに巻いてみたりと、世界各国で独自進化を遂げていったのです。

 

ジャケットの保護機能だけではない、シュリンクの魅力

 

レコにまつわるエトセトラ(3)

英盤でもある意味、シュリンクはあります。
ただこれの中はただのダンボールの、鬼レアな試作段階のもの。

 

そんなアメリカが生んだシュリンク・カルチャーですが、今現在を生きるコレクターたちからは、シュリンクはアイドルさながらに大きな人気を集めています(言い過ぎ?)。
言ってしまえばただのペラペラのビニールが、なぜこんなにももてはやされるのか、その魅力を紐解いていきましょう。

冒頭でも述べた通りなんですが、まずはなんと言っても、シュリンクが状態を担保するものになりうるということでしょう。例えば1971年リリースのレコードで、シュリンク付で現存しているものがあったとします。となると、そのレコードは50年以上に渡ってシュリンクで守られてきたワケです。

レコードって人から人へとサイクルしていくもの。そのレコードも50年の間に、複数人のオーナーの間を渡り歩いてきたのかもしれません。そしていろいろな人に触られる中で、どうしても大なり小なりのダメージは避けられないものですが、シュリンクがあるということは少なくともジャケットは守られ続けてきたワケです。

シュリンクなんて本当にペラペラなんで、何人か目のオーナーがビリビリッと破り捨ててしまってもおかしくない、というよりはそれが普通なんです。それでもシュリンクが残っているということは、それだけ大事に扱われてきたとも推測できるワケです。これこそがシュリンク付は美品、そういったパブリックイメージがついた所以でしょう。

そして次に魅力として挙げられるのが、なんといっても「シュリンク・ステッカー」の存在です。
シュリンク・ステッカーとは読んで字のごとく、シュリンクの上に貼ってあるステッカーのことを指します。ただ裏を返すと、シュリンクの上にしか貼ってない、つまりはシュリンクを引っぺがしてしまえば、失われてしまうステッカーということです。剥がしてジャケに貼り直す人もいますけど。

そんな希少性と共に、ジャケを彩るひとつのデザインとして、米盤コレクターにとっては非常に重要なコレクト対象として珍重されています。

では、その一例をご覧いただきましょう。

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

 

まずはシュリンク・ステッカーの中でも最も多く、定番とも言えるのが「ハイプ・ステッカー」です。
「ハイプ」とは広告とか宣伝みたいな意味合いですが、上の写真を見てもらえば分かるように、先行リリースされヒットした、シングル曲の名前を入れるのが定番です。うーん、リアルタイム感たっぷり。

 

レコにまつわるエトセトラ(5)

 

そしてもうひとつが、もはや付属品と呼んでしまったほうがしっくりくる、「タイトル・ステッカー」です。
シュリンクの上にアータイ(アーティスト名・アルバムタイトル)やトラック・リスト等が記載されたステッカーが貼ってあるタイプで、元のアートワーク自体になんら記載がない作品に多く採用されます。

上の写真はアータイこそ元から表記がありますが、「~POSTER INCLUDED」とポスターが付属していることを追加でアピールしています。そして下地が透明のステッカーのため、ジャケットの雰囲気を損なわずにも済んでいます。

他にも無数にあるんですが、ロック界隈ではディノ・ヴァレンティの’68年ソロ・アルバムなんかも有名です。そちらもジャケの表面には特に何も記載がないので、透明ステッカーにオレンジ色で「dino valente」とアーティスト名を追加しています。
デザイン的にもハナからそれでも良かったんじゃない? っていうぐらいハマっています。雰囲気バチバチで最高!

 

レコにまつわるエトセトラ(6)

まさにコレクター泣かせ、タイトル・ステッカーありのシュリンク付ゲートフォールド。

 

ちなみにそんな魅力あふれるシュリンクですが、その入手難易度はタイトルによって異なります。
というのも、そのジャケットの仕様によって大きく異なってくるので、大まかに分けてご説明しましょう。

【ジャケット別シュリンク付入手難易度】
ギミック・スリーヴ ゲートフォールド・スリーヴ >>> シングル・スリーヴ

ギミック・スリーヴというのは、Led Zeppelin『III』とか、Alice Cooper『School's Out』とかみたいな、いろいろな仕掛けが施された特殊ジャケのことです。
そして、ゲートフォールド・スリーヴは見開きジャケのことです。シングルでさえシュリンク付は入手難なのですが、ギミックとゲートフォールドは極端に現存数が少ないんです。

ではなぜジャケの仕様によって、シュリンク付の入手難度が異なるのでしょうか?
結構シンプルな理由なんですが、ギミックやゲートフォールドの場合は、シュリンクを外さないと楽しめないからなんです。
ゲートフォールドは開いて内面のデザインや歌詞なんかを見たいし、ギミックは回したり組み立てたりといろいろ遊びたいんです。

そんな感じで、もちろんどちらもシュリンクを外すのが前提のデザインのため、当時買った人は当然シュリンクを外して楽しむでしょう。だからこそ、シュリンク付が残らないのです。

ということで、当時からコレクター気質たっぷりな、数少ない御仁たちが遺してくれたシュリンクは、現代のコレクターたちの蒐集欲をこれでもかと刺激し、年々その価値はうなぎ上りしています。

 

人気があるゆえに…“偽物”にも“偏愛”にも注意が必要

 

レコにまつわるエトセトラ(7)

シュリンク・ステッカー付、それはリシュリンクではないことの証。

 

やっぱりというか、そんなプライスアップが起こった最中に湧いて出てくるのが……そう、よくない輩たちです。
彼らは当時のオリジナル盤に新たにもう一度シュリンクをかけてしまう、「リシュリンク」と呼ばれる手法を駆使し、高値で売り捌こうとするのです。

ただ、これはポイント押さえた上で慎重に実物を見れば、どなたでも比較的簡単に判別できると思います。
ポイントとなるのはシュリンクの内側、つまりジャケットの状態です。擦れや痛みがジャケ「だけに」ある場合はリシュリンクと思って良いです。

例えば、ジャケにはリングウェアがあるのに、シュリンクはほぼ無傷とか、ジャケにプライス・ステッカー跡があるのに、その上にシュリンクがかかっている(普通はシュリンクの上に貼られるはず)とか、とにかくジャケとシュリンクの状態に齟齬がないかどうかを確認するのです。
他にもシュリンクの素材や空気穴の有無でも確認できますが、この状態の判別だけでほぼ防げると思います。

ただ、懸念される点もあります。リシュリンクでもまだ開封されていない「リシールド」状態のものは少し判別がしにくいかもしれません。ただ注意深く実物を見れば大丈夫です。

また、当時のリシュリンクっていうのもあります。
どういうことかと言うと、例えば1970年にリリースされた作品が、その翌年とかに中古としてレコ屋に流れてきた時に、店側がもう一度シュリンクをかけ直すっていうパターンです。決して多くはないのでそれほど気にすることもないですが、これの見極めには慣れが必要だと思います。
結構パターンとして多いのは、ドリルホールの穴がシュリンクだけ開いていないっていうものですが、まぁこれはあくまでひとつの参考パターンだと思ってください。

そして最も注意すべきは、ネットで通信販売をする時です。さっきから何度も言っているように、実物を見れば分かることも、写真越しだと分からないことが多すぎるのです。
とにかく良くない輩のやることは、不自然さがつきまとうもの。なんだか相場よりちょうど良い塩梅で安めだったりと、コレクター心の隙間を狙いすましてくるのです。まだこの手のレコード犯罪は件数少なめですが、十分にお気をつけくださいね!

 

レコにまつわるエトセトラ(8)

これには付いていませんが、英盤のシュリンクには英国旗のマークがダダっと印刷されているものもあります。

 

最後になりますが、米盤以外でもシュリンクがかかっているケースをご紹介しましょう。
俗称「エクスポート・シュリンク」と呼ばれるものになりますが、他国(大半はイギリス)で生産されたレコードがアメリカに輸出され、アメリカ国内で新品として別途シュリンクが施されたものになります。

先ほども申し上げたように、米盤でさえ現存数の少ないシュリンク付ですが、エクスポート・シュリンクともなるとかなりのレア度を誇ります。
シュリンクの内側に隠れたビッカビカのコーティング・スリーヴなんて、思わず興奮しちゃいますよ!

あと、シュリンクへの偏愛にも注意が必要です。
最新リリースの作品を買っても、結局シュリンクを外せなくてゲートフォールド内側はまったく見たことないっていうぐらいであれば普通(?)なんですが、安盤でもレア盤でもとにかくシュリンクがないと買いたくないとか、カビカビでドロドロのシュリンク、俗称「汚シュリンク」でもやっぱりシュリンク付を買っちゃうっていうのは、なかなかの重症ですよ! お気をつけを!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千