【レコにまつわるエトセトラ】各国盤のススメ part.2 〜 見た目変われば音変わる!? 別ジャケの魅力【第28回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第28回のテーマは、“各国盤のススメ part.2 〜 見た目変われば音変わる!? 別ジャケの魅力”。第11回では、同じレコードでもリリースされた国によってサウンド面に違いがあったりするということを、ビーチボーイズの『Pet Sounds』を題材に検証しました。

第2弾となる今回は、ジャケットの違いにフォーカスします。国ごとの違いはもちろん、同じ国でもプレスやリリース年によって違ったりするジャケットのアートワーク。もしあなたが心から好きなレコードに、全く違う(魅力的な)デザインのものがあるとしたら…。コレクター心をくすぐる別ジャケの魅力に迫ります!

レコにまつわるエトセトラ(1)

これは別ジャケというよりも独自ジャケですが、彼らのデビュー・シングルはオランダでのみピクチャー・スリーヴが存在します。

 

ビジュアルって大事。
って何を急にそんなことを言い出すのかというと、ビジュアルがサウンドに及ぼす影響って、思っているよりも遥かに大きいって改めて思ったんです。
料理とかだってそうだと思いますが、いつも食べてる白米が急に青色に変わっていたら、たとえ味が同じだとしても全然違う印象を受けると思います。
ちょっと大ゲサかもしれませんが、あの名盤もこの名盤も、ジャケが違えば名盤にならなかったかもしれないんです。

ただ、昨今のサブスク全盛期においては、アルバムのアートワークの重要性は薄れてきているのかもしれません。それは別に良し悪しということではなくて、また違った表現方法へとシフトしたと言って良いでしょう。
しかし、さかのぼること1960年代後半から1970年代。アートワークを専門的に手掛けるアーティストが台頭し、アートワークが音楽作品を彩る欠かせないピースとして、非常に高い重要性を持っていた時代がありました。

その間、実に多くのアーティストが生まれていったのですが、そんな中でも特に著名な方々を代表作とともに挙げてみましょう。
ヒプノシス(Pink Floyd)、ロジャー・ディーン(Yes)、キーフ(Vertigo)、アンディー・ウォーホール(Velvet Underground)、リック・グリフィン(Grateful Dead)、ジョン・コッシュ(『Abbey Road』)等々、挙げ出せばキリがありませんが、あれから数十年経た今だからこそ、そのサウンドとアートワークとが、密な関係性にあることがお分かりいただけるかと思います。
だってちょっとでもあの音が鳴れば、すぐにあのジャケを連想しちゃうでしょ?

ということで、今回はレコードのジャケットの話。ただ、この人がこのジャケを作って云々、みたいなのは他で散々紹介されていると思いますので、ここではもうちょっと角度を変えて、マニア度高めな「別ジャケ」の魅力に迫ります。

今回はジャケ写多めでお送りいたしますので、文字読むのが面倒っていう方は、さらっと写真だけでも見てやってください。ぜひ!

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

『The Soft Machine』(米1stプレス/1968)

 

今しがた「別ジャケ」なんて軽く言いましたが、まずは用語説明からさせていただきましょう。
別ジャケは「別ジャケット」の略語で、英語では「Different Sleeve」とか「Different Cover」というように呼ばれています。

今ではなかなかないことだと思いますが、当時はリリースされる国によって、大なり小なりジャケットのデザインを変えることがあり、そしてそれは決して珍しいことではありませんでした。
テキストが現地語になってるぐらいの軽いものから、異なるアートワークを使っているもの、果ては間違って全く関係のないアーティストを載せちゃったものまで、本当にいろいろなバリエーションが生まれています。
そんなこともあって、「英別ジャケ(イギリス別ジャケット)」なんていう感じで、前に国名を付けて分けて呼んだりもします。ちなみにほぼ同義語で、「独自ジャケ」なんていう呼び方もあります。

では早速その具体例を挙げていこうと思いますが、今回はこのバンドにクローズアップしてみましょう。そう、カンタベリーの源流にして頂点、Soft Machineです。
彼らは多くのアルバムを残していますが、1stアルバム『The Soft Machine』と2ndアルバム『Volume Two』以外の作品では、ほとんど別ジャケを残していません。
強いて言えば、3rdアルバム『Third』の日本盤と、7thアルバム『Seven』のUS盤の別ジャケは有名ですが、まぁその程度です。
ということで、今回は初期2作品に絞ってご紹介していきましょう。

なお、すでにお察しかもしれませんが、彼らの作品は途中までタイトルが数字だけっていう分かりやすさなので、以降では基本的にアルバム名を省略させていただきます。あしからず。

 

レコにまつわるエトセトラ(3)

これが取り出し口付近の回転部。まぁ正直ギアを直接回したほうが早いですけど。
 

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

ギアが回れば、そこには秘密の写真が……。

 

それでは、’68年にリリースされた彼らのデビュー・アルバムにして、それ以降世界中にその種が伝播していくこととなる、カンタベリー・シーンの記念碑名作『The Soft Machine』から見ていきましょう。

まず最初は上の写真のものですが、なんといってもこのギア(歯車)のギミックが効いたデザインが秀逸な、米初版を挙げなければ始まりません。これがいわゆるオリジナル・デザインにあたります。
右の取り出し口付近の回転部を回すと、内側に仕込まれたギア部分が回るという仕組みになっています。ね、面白いでしょ?

 

レコにまつわるエトセトラ(5)

裏ジャケット。これが水着修正のない1stプレス。

 

ちなみにムチャクチャ細かい話なんですが、そんな米盤にもバリエーションがあります。
ジャケ表面にギアのギミック、そしてジャケ裏面の女性がヌードになっているものが1stプレス、ギミックはそのままに、女性に水着を着せたように修正を入れたものが2ndプレス、そして今度は水着修正はそのままに、ギミックもメンバー写真もぽっかりなくなって、寂しい感じになってしまったのが3rdプレスとなっています。国ひとつでもバリエーションたっぷり。

なお、Soft Machineはイギリス出身のバンドですが、このデビュー作は、アメリカでジミ・ヘンドリクスとのジョイント・ツアーの最中に録音されたということもあり、’68年当時はイギリスでのリリースがありませんでした。
その代わりと言ってはなんですが、イギリスではかなり遅れること’73年、2ndアルバムとカップリングされた2LP仕様としてリリースされており、それがイギリスでの1stアルバムの初出となりました。
ここではすでにギアのギミックはなくなり、写真だけのさっぱりとしたデザインとなっています。ちなみに裏面は、2ndアルバムのアートワークを流用しています。

 

レコにまつわるエトセトラ(6)

『Volumes One & Two』(UKプレス/2LP/1973)
ギアがないだけじゃなくて、女性には水着の、そしてワイアットにも修正が入ってます(笑)。これは米2ndプレスも同じ。

 

レコにまつわるエトセトラ(7)

『The Soft Machine』(USプレス/2LP/1973)
2LP仕様は同年にアメリカでもリリースされています。

 

そんなこんなで、各国からもリリースされたのですが、英盤同様、1stと2ndを組み合わせた編集盤としてのリリースがメインとなっています。
ただそんな中でも、’68年当時に内容は1stそのままで、装い新たに別ジャケ仕様でリリースした国が、フランスとオランダです。

米盤とは全くアプローチが異なりますが、その秀逸なデザインからも高い人気を集めています。特にフランス盤は、Soft Machineの全ての別ジャケの中でも、代表作となるような一枚でしょう。クール!

 

レコにまつわるエトセトラ(8)

『The Soft Machine』(仏1stプレス/1968)
 

 

レコにまつわるエトセトラ(9)

『The Soft Machine』(蘭クラブ・イシュー/1968)

 

ちなみに1年遅れの’69年には、ここ日本からも別ジャケでリリースされています。白ベースのジャケ前面には、裏ジャケの女性があしらわれ、さらに赤い帯も相まってなかなかに男前なデザインなんですが……ここには画像の掲載はありません。いや、ただ単純に私が持っていなかっただけなんですが。すいません!

では気を取り直して、ここからは1stアルバムと2ndアルバムを1枚にまとめ上げ、各国からリリースされた編集盤もまとめてご紹介しましょう。

 

レコにまつわるエトセトラ(10)

『The Soft Machine』(蘭クラブ・イシュー/1969)
ある意味、修正なしの表ジャケがあらわになった、唯一のバージョン。

 

レコにまつわるエトセトラ(11)

『The Soft Machine』(独1stプレス/1970)
オランダからも同じジャケでリリースされています。

 

レコにまつわるエトセトラ(12)

『We Did It Again』(ベネルクス共通再発盤/1976)
こちらはタイトルこそ違えど、収録曲は1stと同じ。

 

ちなみにちょっと横道にそれますが、巷で彼らの代表作ないし最高傑作と呼ばれているのは、3rdアルバムだと思います。
たしかに名曲「Moon in June」を収録した名盤には違いないんですが、個人的には2ndアルバムが一枚の作品としての完成度が最も高く、他に類を見ない唯一無二の作品ではないかと思っています。
ただジャケのデザインは微妙なんですけどね……失礼!

ということで最後になりますが、’69年にリリースされた2ndアルバムの各国盤別ジャケをご紹介しましょう。
なお、本作はイギリス録音なので、1stとは違って普通に英国盤がリリースされています。別ジャケもそんなにたくさん種類があるワケじゃないんですが、一番下のちょいレアなベネルクス共通盤は、「そう来たか」感がたっぷりで良いですね!

 

レコにまつわるエトセトラ(13)

『Volume Two』(英1stプレス/1969)

 

レコにまつわるエトセトラ(14)

『Volume Two』(米1stプレス/1969)

 

レコにまつわるエトセトラ(15)

『Volume Two』(仏1stプレス/1969)

 

レコにまつわるエトセトラ(16)

『Volume Two』(ベネルクス共通再発盤/1977)

 

流れる音から連想するジャケット、目に入るジャケットから連想する音。
今回の話を読んでいただければ、当時は育った国によって、全く異なるものだったということがお分かりいただけたかと思います。なんなら国によっては、別ジャケの影響で作品そのものの評価自体が異なっていたのかもしれません。

ただ、今現在の私たちは、それら全てを俯瞰して楽しめる、そんな時代を生きています。
自分がこよなく愛するあの一枚を聴く時に、やっぱりアーティストの意向が詰まったオリジナル・アートワークで、正面からガップリ四つで向き合うも良し、逆に別ジャケを手にして、今までとは違うフィーリングを感じようとするも良し。
そう、レコードの楽しみ方って無限大。あなたなりのスタイルで楽しんでいただければ何よりです。ぜひ!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千