【レコにまつわるエトセトラ】ロック文化史 〜 音楽誌から見る、百花繚乱のロック・エラ【第29回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第29回のテーマは、“ロック文化史 〜 音楽誌から見る、百花繚乱のロック・エラ”。音楽好きなら、一度は書店で音楽誌を手に取ったことがあるのではないでしょうか。それこそ今のようにWebが普及する前は、自分が好きなアーティストや作品についての情報源は主に音楽誌だったのです。

雑誌ごとに専門分野や色の違いがあれど、常にその時代ごとの流行や文化を映し出してきた音楽誌の数々。レコードを聴くだけでなく、それが発売された時代にリアルタイムで発行された雑誌を見ることで、当時の熱をより一層感じられるかもしれません。今回はそんな「音楽誌」の魅力をご紹介していきます。

あの時代へタイムスリップできるメモラビリア「音楽誌」

 

レコにまつわるエトセトラ(1)

レコにまつわるエトセトラ(2)

『Music Now』1970年5月16日号
10月に待望の新装版『Let It Be』がリリースされたということで、当時の広告をピックアップ。
掲載の規格番号が通常盤「PCS7096」ではなく、初回BOXの「PXS1」というところがまた泣かせます。

 

「ロックは死んだ」なんて、過去幾度となくこすられてきた言葉ですが、たしかにあの百花繚乱の時代は、今のところ戻ってくる気配がありません。
ロックの黎明期にして全盛期ともいえる 、1960年代中頃から1970年代初頭。今では歴史的な名盤として語り継がれるようなアルバムが、毎月、いや毎週のようにリリースされる、そんな時代は確かに存在していたのです。

ただ、それは歴史的事実といえども、今現在の私たちとは相当に距離感があって、もはやちょっとした「神話」みたいに聞こえてしまうのもまた事実。その距離感を埋め切るのはタイムマシーンでもない限り難しいですが、可能な限り近づくことはできるのかもしれません。

その方法のひとつが(オリジナルの)レコードであることは言うまでもないですが、もっとその熱狂の時代をリアルタイム感たっぷりで感じることができる、そんなスペシャルなアイテムがあるんです。

ということで、今回はそんな不可能を可能にするメモラビリア「音楽誌」のハナシ。
まさにその時、その瞬間を収めた記事の数々は、今もその熱を放ち続けているのです。さぁみなさんもご一緒にプチ・タイムスリップ!

 

レコにまつわるエトセトラ(3)

『Record Mirror』1974年10月26日号
こういう広告用に独自に制作されたアートワークって、めちゃくちゃ刺さってきませんか?

 

まずは予備知識として、軽く音楽誌の歴史について触れておきましょう。
音楽誌の歴史は古く、ロンドンで1926年に創刊された最古参『Melody Maker』を始め、ポピュラー・ミュージックの台頭と共に多くの音楽誌が誕生しています。
そしてことさらロックの世界においては、やはりビートルズの存在が大きいもの。彼らの登場以降、音楽ジャーナリストたちはロックと初めてがっぷり四つで組み合う形となり、ロックが評論の壇上で語られ始めることとなりました。

また、そんな経緯もあったため、ロック評論はアメリカよりもイギリスの方が先行しており、先んじて数多くの音楽誌が生まれています。
『Melody Maker』、『NME(New Musical Express)』、『Record Mirror』、『Sounds』、『Disc』等々、多様な音楽誌がシノギを削っていましたが、長い歴史の中で、各誌は生き残りをかけて吸収合併を繰り返していきます。

最古参『Melody Maker』は、2001年に最大のライバル誌であった『NME』へと統合され、『NME』一強の時代へと突入します。しかし、そんな『NME』ですらも、よる時代の波には逆らえず、2015年にはフリーペーパーへと業態変更。そして2018年にはついに紙での発行を取り止め、オンラインへと完全移行しています。

一方、アメリカでは、世界的な影響力を誇る巨大音楽誌、『Rolling Stone』が有名でしょう。今でも「500 Greatest Albums of All Time」のようなリストを定期的に発表するなど、音楽業界にコンスタントに火をくべて、数少ない現役音楽誌としての意地をみせています。


数々の作品やアーティストと共に時代を彩った音楽誌

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

『NME』1973年2月17日号
ソノシートはAlice Cooperですが、元々こんなスリーヴは付いていません。あと画質悪くてすいません。

 

ここからは写真とともに各誌をご紹介していきたいと思いますが、この記事で語るのはあくまでレコードの話。
ということで、記事の内容には触れず、レコード・コレクター目線100%で音楽誌の魅力をご紹介していきましょう。

すでに上に掲載した写真でお察しかもしれませんが、ここ日本の音楽誌では一般的な綴じ冊子形式とは異なり、英米では新聞形式がメインとなっています。
もちろん傷みやすく、現存するものはさすがに経年劣化したものが多いですが、雰囲気はこれ以上ないぐらいたっぷりで、タイムスリップ気分を味わうにはうってつけです。

そして各誌色々な魅力があるんですが、まずはなんといってもレコード・コレクター的には外せない、『NME』からご紹介したいと思います。

1952年創刊、タブロイド紙から始まり現在もなお影響力を持つ英国老舗音楽誌、『New Musical Express』、略して『NME』。
もちろんその誌面も素晴らしいんですが、やはり一番の魅力といえば、フリー・シングルと呼ばれるソノシートの存在でしょう。

表面にぺチッとソノシートが貼られてリリースされた号が存在するとあっては、レコード・コレクターたるもの素通りするわけにはいきません。
上下の写真以外にも色々と制作されていますが、中でも個人的にオススメな逸品を挙げておきましょう。

■The Rolling Stones - Exile On Main St.
(1972年4月29日号に付属)
アルバムからのダイジェストに加え、ここだけに収録されたミックのブルース・ナンバーが魅力の逸品。
近年はアルバムの英初版とニコイチにして販売されているケースもあるようですが、あくまで別の商品なのでご留意を。

■Emerson, Lake & Palmer - Brain Salad Surgery
(1973年11月3日号に付属)
内容というよりも人気の理由はジャケット。LPと同じく、あのデザインとギミックを踏襲した、観音開きピクチャー・スリーヴが付属しています。

 

レコにまつわるエトセトラ(5)

上の画像のソノシートです。

 

次にご紹介するのは、『Record Mirror』。『NME』と共に英国の音楽シーンの先端を報じ続けた、1954年創刊の音楽カルチャー週刊誌です。

『Record Mirror』の魅力は、なんといってもカラー表紙。思わず飾りたくなるような、秀逸な写真が冒頭を飾ります。
これは百聞はなんとやらということで、まとめて写真をご覧ください。

 

レコにまつわるエトセトラ(6)

『Record Mirror』1967年2月11日号

 

レコにまつわるエトセトラ(7)

『Record Mirror』1967年7月8日号

 

レコにまつわるエトセトラ(8)

『Record Mirror』1967年8月12日号

 

レコにまつわるエトセトラ(9)

『Record Mirror』1968年1月6日号

 

そして最後にご紹介するのは、1967年に米国にて創刊された最大手音楽カルチャー雑誌、『Rolling Stone』。ロックを志すものであれば、誰もが表紙を飾ることを夢見た偉大なる音楽誌です。なお、創刊から70年代までは、他誌と同じように新聞紙スタイルでの発行となっていました。
ちなみにですが、イギリスでは姉妹誌も出版されています。『Friends of Rolling Stone』、『Friends』、『Frendz』と名前を変えながら、アンダーグラウンド・マガジンとして暗躍していましたが……まぁ、またそれは別の機会にまとめてお話しします。

そしてこちらも色々と写真を見ていただきますが、今度は表紙よりも広告を主体に見てみましょう。
あの名作やこの名作が、あの手この手でプロモーションされています。これを当時の紙のあの質感、そしてあの匂い(コレ大事)と一緒に味わえば、英語はちんぷんかんで記事を読めなくても、200%楽しめることうけあいです。

 

レコにまつわるエトセトラ(10)

『Rolling Stone』1969年5月17日号
黎明期の表紙はこんな感じです。

 

レコにまつわるエトセトラ(11)

『Rolling Stone』1969年12月13日号
やっぱり『Let it Bleed』の広告にグッときます!

 

レコにまつわるエトセトラ(12)

『Rolling Stone』1969年5月31日号
かなり男前なSly & The Family Stone。

 

レコにまつわるエトセトラ(13)

『Rolling Stone』1969年5月31日号
Zappleの広告。

 

ヒットチャートを眺めてプチ・タイムスリップ!

 

最後になりますが、やっぱり一番リアルタイム感が味わえるかもしれない、ヒット・チャートをご覧いただきましょう。
とある作品が発売当時何位だったか、そういったピンポイントの情報はちょっとググれば分かっちゃいます。ただ、他の様々な作品と並ぶことによって、初めて分かることも多いものなんです。

 

レコにまつわるエトセトラ(14)

『Record Mirror』1967年7月8日号

 

チャートは各紙とも掲載していますが、今回は『Record Mirror』を例にご覧いただきましょう。
本国イギリスでのアルバム・チャート、シングル・チャートに始まり、5年前のチャートからアメリカのチャートまで、様々なチャートが掲載されています。

では早速拡大して、アルバム・チャートをじっくり見てみましょう。
 

レコにまつわるエトセトラ(15)

 

本誌は1967年7月8日号になりますが、やはりというか、1位を飾るのは同年5月に発売されている『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』。そして3位には同じく5月発売だったジミヘンのデビュー作『Are You Experienced』と、ここまではまさにロックの歴史が並びます。
ただ、もうちょっと全体を見てみると、2位はお馴染みのサントラ作『Sound of Music』だったり、やっぱりイギリスらしく、13位にはThe Dublinersがランクインしていたりします。
あんまりこういう全体の並びが紹介されることは少ないと思いますが、こうして俯瞰して見て初めて、当時の空気感が感じられると思います。つまりは、これで晴れてプチ・タイムスリップができちゃうワケですね。タマラン!

 

レコにまつわるエトセトラ(16)

『Oz』1973年1/2月 第46号
パラっと見ただけで色々とキケンな香りがする、アンダーグラウンド・マガジンの世界。

 

今回は音楽誌の世界へとご案内しましたが、今回ご紹介したものはあくまでオーバーグラウンド・サイド。やはり何事も表裏一体、その裏面となるアンダーグラウンド・マガジンも多く出版されていました。
『Oz』、『It(International Times)』、『Zigzag』など、その極彩色のサイケデリックな世界観は、一味も二味も違うものなのです。でもまたそれは次の機会に……。乞うご期待!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千