ストリートピアノでも大人気! ジェイコブ・コーラーが教える即興演奏の魅力


ジャズ・ピアニストならではのアレンジ力で、スタンダードはもちろん話題のポップスからアニメソングまで華麗に弾きこなすジェイコブ・コーラー。人気テレビ番組『関ジャニの仕分け』の「ピアノ王決定戦」で優勝したことや、ストリートピアノのYouTubeでも注目を集める彼は、英語で教えるピアノ教室の先生でもある。アメリカと日本ではピアノ教育にどんな違いがあるのか? どうすれば即興演奏を楽しめるのか? 蒲田駅近くの教室で、お話を伺った。

――そもそもジェイコブさんが日本を拠点にしたきっかけは?

父や兄の影響で「楽しそうだな」と、4歳からピアノを始めました。最初はクラシックです。14歳でプロピアニストになり、高校生の頃にジャズバンドに入ったことで即興演奏に目覚め、それからジャズ・ピアニストを目指すようになったんです。2003年にライブツアーで初めて来日しました。半年ほど日本に滞在している間に日本が大好きになり、奥さんとも出会いました。一時期はアリゾナに戻って活動していたのですが、結婚生活を送るなら日本の方がいいかなと、2009年に本格的に日本に拠点を移しました。TOKUのバンドなどで活動しながら、当時は週5日くらいジャムセッションに参加していましたね。とても楽しかったです。

 

 

――ご自身の活動と並行して、英語で教える音楽教室も始められたのですね。

実はピアノ講師としては、16歳の時にアリゾナのヤマハ音楽教室でピアノを教え始めたのがキャリアのスタートなので、もう25年くらいになります。日本では2010年から蒲田駅の近くで英語音楽教室を始めて、今は僕自身は週1回しかクラスを持っていませんが、ピアノとバイオリンを6人の講師で教えています。お子さんから大人まで、楽しんでレッスンしてもらえることを一番大切にしていて、ベースには、僕も影響を受けたロバート・ペース博士(コロンビア大学教授・音楽家)の「音楽は、すべての教科のコア(核)である」という理念に基づいたペース・メソッドがあります。

 

ジェイコブ・コーラーインタビュー(1)

 

――教材もオリジナルなのですか?

子供向けのものはオリジナルです。ピアンダモン!というパンダの忍者のキャラクターと一緒に冒険しながらピアノと英語を楽しめるように工夫して作りました。僕は音楽には単にピアノ曲を何曲か覚えて弾けるようになる以上に、たくさんのことが含まれていると信じています。テクニックやレパートリーを増やすことだけに捉われず、演奏を楽しみ、音楽の響きや可能性を自分で発見できる喜びを何より感じて欲しいから。例えばカンガルーの気持ちになって、飛び跳ねるように「Three black keys」って歌いながらファ#、ソ#、ラ#を弾くんです。
 

――(テキストを見せてもらい)ドレミから習うのではなく、最初に黒鍵から触り始めるのですか!? 目から鱗です

よく驚かれますが、アメリカではこれが普通です。英語の音に耳を慣らしてもらいながら、まずはピアノの音やリズムを楽しんもらいたいんです。英語は特にリズミカルな言語なので、英語と音楽を一緒に習うのは最高の組み合わせだと思いますよ! あと、僕のレッスンで特徴的なのは、小さな子供たちのレッスンにも即興演奏を取り入れていることです。子供たちは何気なく楽器を触ることから、音楽をスタートしますが、お稽古が始まるとそうしたことをしなくなってしまいます。でも、音楽を通して自分自身を表現する力をつけるのに、即興演奏は非常に重要な要素だと思います。

 

ジェイコブ・コーラーインタビュー(2)

 

――それも驚きです。ジャズのアレンジなど即興演奏に憧れている人は多いと思いますが、子供の頃に何年もピアノを習ったはずなのに「即興で何か弾いてみて」と言われると固まってしまいます。

ハハハ! 分かりますよ。それも日本に来て驚いたことのひとつです。ピアノが好きでアメリカに比べて習っている人もとても多いけど、難しく考えすぎているのかな。「上手に弾かなきゃいけない!」って思い込んでいる気がしますね。もっと自由に楽しめばいいんです。僕も教室で子供たちに即興演奏をやってもらうようにしたら、その結果に驚いたし、感動しました。小さな子供たちは、ピアノを自由に弾いて遊ぶことが大好きです。子供は遊ぶことによって生活の中でも様々なことを学びますが、それはピアノや音楽においても同じなんですよね。僕の教室では、すべてのレベルの生徒さんたちに即興を通じて音を冒険するようにすすめています。
ソルフェージュも大事ですが、スケールやコード、グルーヴなどのコンセプトは即興演奏をすることで理解が深まり、自分のものになっていきますし、譜読みのレベルもアップします。ピアノを弾く人は、1、2分でいいのでぜひ即興にチャレンジしてみてください。2、3ヶ月で自分でも驚くほど変わってくると思いますよ。あとは、人前で弾くことも! ストリートピアノはそういう意味でも、とてもいい機会になると思います。


――なるほど。とてもやってみたくなります! 矛盾する質問になってしまいますが、大人向けの何かいい教材はないでしょうか(笑)?

アメリカではとてもメジャーなものですが、『The Real Easy Book』シリーズがいいのではないでしょうか? ジャズの初心者向けのものですが、ウェス・モンゴメリーなど有名なジャズ・ミュージシャンが作曲した演奏曲を通して、基本的な要素を体感することができると思います。例えばジャズだと4小節ですが、演奏することでフレーズの長さを自然に感じられるようになると、即興演奏のコツも掴めるようになると思います。ブルース音階など、教わった方が早い部分もあるのですが、理論は後でいいので、まずは体感で慣れることを意識してみるといいと思います。「So What」など音階の少ない曲もおすすめかな。

 

 

――ジェイコブさんのことを、ストリートピアノで知ったという人も多いと思います。ご自身は、ストリートピアノの魅力をどんなところに感じていますか?

ジャズのセッションに近いと感じていますね。駅だったり、観光地だったり、その場の環境に刺激を受けて演奏するところや、色んなスタイルの演奏者たちと、音楽で会話を楽しむような感覚は、ジャズの面白さと同じでワクワクします。先日、初めて沖縄に行ったのですが、自然も文化も独特の雰囲気がとても刺激的でした。もちろん琉球音階もね! 東京では感じられない空気の中で演奏して、もっともっといろんなところで演奏してみたいなと思いました。

 

 

――YouTubeには自然の中で演奏されている動画も多いですね。

もともと外で遊ぶのが好きで、渓流釣りにもよく行くくらい自然が大好きなんです。「ルパンⅢ世のテーマ」や「丸の内サディスティック」など、日本のリスナーに人気のある曲を多くアップしている「Jacob Koller Japan」の前から、「Jacob Koller/The Mad Arranger」という全世界向けのチャンネルをやっていて、それはアリゾナの豊かな自然の中にピアノを運んで弾くという試みから始まったものだったんです。基本的には映像の編集も自分でやっていますが、どっちのチャンネルも僕らしさが出ていると思うので、ぜひ見てもらいたいな!

 

 

――最近は、配信ライブにも精力的ですね。

コロナ禍にライブやストリートピアノができないことから始めたのですが、コメントでリクエストを聞けたり、すぐ感想を言ってもらえたり、実は通常のライブより双方向のコミュニケーションができることに驚いたし、面白いなと思いました。もちろん生の音を聴いてもらえるのも嬉しいことですが、どんな形でもやっぱり音楽は楽しいものだって改めて気がつきました。

僕がピアノを好きな理由は、ベースもメロディーも和声も、ひとりでオーケストラのように弾けることにあって、音域も含めてすごく可能性に満ちている楽器だと思う。弾きたいと思った曲、自分が好きな曲を弾くことができる喜びを、これからも伝えていきたいですね。

 

ジェイコブ・コーラーインタビュー(3)

 


 

【プロフィール

ジェイコブ・コーラー

1980年、アメリカアリゾナ州・フェニックスアウト生まれ。アリゾナ・ヤマハ・ピアノ・コンクールをはじめ、多くのクラシックピアノコンクールで優勝。14歳でプロミュージシャン、16歳でピアノ講師として活動を始め、ジャズ・ピアニストとして活躍。アリゾナ州立大学ジャズ科卒業。2009年に来日。溝口肇、畠山美由紀、TOKUらと共演し、ソロピアニストとして日本だけではなく2014年からは韓国でもコンサートツアーを行い、2017年には米国でもコンサートツアーを実現。YouTubeのチャンネル登録者数は、2つのアカウント(Jacob Koller / The Mad Arranger、Jacob Koller Japan)あわせて46万人以上に上る。

https://www.jacobkoller.com/
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https://www.jacobsmusiclessons.com/​​​​​​​

 


 

【Information】

ジェイコブ・コーラーインタビュー(4)

 ぷりんと楽譜20周年記念企画 

「ジェイコブ・コーラー オンラインピアノコンサート」

2021年11月27日(土)16:00~ Youtube LIVE配信(無料)

 

ジェイコブ・コーラーインタビュー(5)

 

当日は、ジェイコブ氏とのコラボ動画でも話題のバイオリニストMAiSA氏とセッションも予定されています。また、本コンサートでは、事前に演奏曲のリクエストを募集しているだけでなく、さらには、コンサート視聴でプレゼントが当たるキャンペーンも実施しているので、ぜひ、応募してコンサートを楽しもう!
詳細は、ぷりんと楽譜特集ページへ 

https://www.print-gakufu.com/feature/lp/20th/live/

 

 


 

Text:仲田舞衣
Photo:グレート・ザ・歌舞伎町