40周年を超えて新境地へ!世界に誇るドラマー神保彰が最新2作で示す新たな音楽世界


1980年にカシオペアのドラマーとしてデビューして以来、類稀なるテクニックによる流麗なドラミングで日本のドラムシーンを牽引してきた神保彰。近年はメロディからアンサンブルまでをドラムから奏でる“ワンマンオーケストラ”なるスタイルに取り組み、その演奏は海外でも高い評価を獲得。2007年には「ニューズウィーク」誌の「世界が尊敬する日本人100人」に選出されている。
その一方で、ソロアーティストとしても精力的に活動。そこでは、ドラマーの枠に収まらない幅広く芳醇な音楽性を聴かせている。しかも、2012年からは2枚のソロアルバムをリリースし続けるという多作ぶり。今年は年初に3枚リリースしただけでなく、12月22日に『SORA』『アメアガリ』を同時発売。1年で5枚のアルバムをリリースすることとなった。そんな最新作で神保は「シフトを変えた」と語る。
今なお新たな挑戦を続ける彼に、自身の音楽への思いを聞いた。

ドラムに興味がない人でも楽しめる作品になっているといいなと思っています

 

ーー2020年に続き、今年もコロナ禍で演奏活動は思うようにいかなかったようですね。

神保今年もワンマンオーケストラのツアーを予定してはいたんですが、ほぼキャンセルになってしまいまして。例年ですと旅先で曲を書いていたんですけど、今年もほぼ自宅におりましたので、腰を据えて作品作りには取り組めたなとは思っていますけどね。

ーーその言葉が裏付けるように、今年は1年で5枚のソロアルバムがリリースされるという、驚くべき状況になりました。

神保毎年元旦にソロアルバムを出すのが恒例になっているんですけど、今回は、クリスマスの前に出すのも良いのではないかということになりまして。作業としては1カ月ほど前倒しになっただけなんです。ただ、今年は1月に3枚のアルバムを出したので、結果として年に5枚ということになってしまいました(笑)。1月にリリースした3枚で30作という区切りを迎えたんですね。なので、ここでちょっとシフトを変えてみようと思って作り始めたんです。例えば、アルバムタイトルにカタカナを使ってみたり、日本語をアルファベット表記にしてみたり。ジャケットも自然光を使った写真にしたのですが、実はそれも初めてなんですよ。元旦からクリスマス前にリリースが変わったのも、シフトを変えたことの1つです。音楽的には、僕はラテンにすごく影響を受けていますし、ファンキーな音楽も大好きなので、ラテンとファンクをサウンドの2本柱にしてやってきたんですが、そこも見直してみました。​​​​​​​

ーー『SORA』はAOR、『アメアガリ』はテクノをキーワードに制作されたそうですね。

神保そうなんです。今年の3月にキングレコードの制作スタッフとミーティングをしたんですが、その中で出てきた言葉なんです。ラテンとファンク以外で、どんな音楽に影響を受けてきたのだろうと考えてみたんですよ。今は80年代の音楽が見直されているという流れもあって、AORというのは70年代後半から80年代の初頭にかけて大きな盛り上がりを見せた音楽なので、その流れにもリンクするかなと思いました。テクノは、いわゆるテクノ・ポップ。クラフトワークとかYMOが作り出した音楽で、やはり70年代後半から80年代の初頭にかけて大きな波がありました。これも、今の流れにリンクしているなと。自分はどちらの音楽からも大きな影響を受けていますが、ジャズのフィールドで活動してきたので、そういう影響を表に出すことはあまりなかったのですが、自分の中には確実に埋まっているものなので、そこに光を当ててみたんです。

 

神保彰インタビュー(1)

 

ーーそれぞれのアルバムの方向性が決まったところで、曲を書き始めたのですか?

神保いえ、曲はもう年始から書いていました。ただそれは完成したものではなく、曲のスケッチといった感じのものなんですけど。骨格ができたと思ったら、すぐ次の曲に取り掛かります。数を作ることを毎年自分に課しているんです(笑)。

ーー昨年は年間で100曲作ったそうですけど、今年は?

神保今年はそこまではいきませんでした(笑)。去年は3作同時に出すという、自分にとって初めての挑戦だったんです。そうすると(3作で)30曲ほどは必要ですよね。ならば100曲くらいないとだめだろうと思って、100曲作ったんです。今年は3枚という無謀なことはやめようと思いまして(笑)。​​​​​​​

ーーやはり3作同時にリリースするのは大変でしたか?

神保大変ということはないですよ。やれないことはないんですけど、でも、毎年3枚出るのってどうなのかなと思って。お客さんの立場からすると、買うのも大変でしょうし(笑)。2枚というのが妥当な線なのかなと思います。

ーーちなみに去年100曲作って、アルバムに収録されなかった曲が70曲ほどあるわけですけど、そういう曲は、今年に持ち越しになったりするんですか?

神保いえ、70曲は放置です(笑)。毎年、そういう曲がかなりの数あります。そういう曲を引っ張り出して形にするというのは、今のところやっていません。まだ、新しい曲のアイデアが出てくるんです。何も出てこなくなったら、放置されている曲を引っ張り出そうかな(笑)。でも、未発表だということは、やはりそれなりの理由があるんですよ。世に出すクオリティに達していないと判断したものなので。​​​​​​​

ーーなんだか、もったいない気がします(笑)。年始から曲を作り始めたのであれば、AOR、テクノというキーワードに沿って曲を書いたわけではないですよね?

神保そうですね。6月の終わりくらいまでに70~80曲は書いたんです。7月には聴き直して選曲するんですけど、その段階でAOR向きだな、これはテクノ向きだなというのが見えてきました。そこからそれぞれのテーマに沿ってアレンジを詰めていきました。『SORA』はどちらかというと楽曲として完成されているというか、イントロがあってサビがあってというように、体裁が整っている曲が多いんですが、『アメアガリ』は1グルーヴものというんですかね、4小節の循環コードがあったら、それが最後まで変わらないというような曲が多い。グルーヴの起伏で聴かせるという感じですね。​​​​​​​

ーー『アメアガリ』は、より自由にドラムで表現している印象を受けました。

神保ドラムに焦点を当てようという狙いはありました。​​​​​​​

ーーライナーノーツによるとドラムは“正しくずっこける”というのが、神保さんのマイブームのようですね。具体的にどういうものなのか、教えていただけますか?

神保ずっこけているパートというのが、随所に散りばめられています。聴いていて“あれ?”って思ったところは、全部ずっこけています(笑)。でも、でたらめにずっこけているわけではなくて、ちゃんと法則性があるんです。細分化すると音符がすべてグリット上にあるんです。グリットというのは時間軸を均等に分けたものと言えばいいでしょうか。それで、2で割れる音符と、3で割れる音符が共存していて、1つ目の音符は同じ位置にありますけど、その次からは音符の位置が微妙にずれてきます。そのずれ加減でずっこけを表現しているんです。​​​​​​​

ーーそういったトリックを使ったようなフレーズを盛り込んで曲のフックにしつつも、曲全体としては、きちんとポピュラーミュージックとして成立しているように感じました。そのあたりのさじ加減はさすがですね。

神保いや、もともと難しい曲が書けないんですよ(笑)。自分の曲は、一貫してシンプルでわかりやすくありたいと思っています。ドラマーのソロアルバムというと、難解というか、キメがたくさんあって、ドラムを叩きまくっているといったイメージがあると思うんですけど、そういうものではない作品にしたいとは思っています。ドラムに興味がない人でも楽しんで聴いてもらえる作品になった……なっているといいなと思っています(笑)。

 

神保彰インタビュー(2)

 

立ち止まらずに歩き続けることで、何かが見えてくるんです

 

ーー『SORA』はジェフ・ローバー(p)、パトリース・ラッシェン(p、vo)、ネイザン・イースト(b、vo)、フレディ・ワシントン(b)が参加していますが、彼らに声をかけた理由を教えてください。

神保みんな過去にも共演した人たちなんです。自分の中でAORというと“西海岸のサウンド”というイメージなんですよね。それに1月に出たアルバムでは、ニューヨークのミュージシャンとリモートでレコーディングしたということもあって、次はロサンゼルスのミュージシャンとやろうと、3月の時点で決めていました。3月のミーティングでマイケル・フランクスの「アントニオの歌」をカバーすることも決まったんですけど、この曲は自分の中ではAORを代表する1曲なんです。ただ、アントニオ・カルロス・ジョビンへのオマージュなので、原曲はボサノバなんです。それをよりAORらしい都会的なアレンジにしたら、また違った良さが出るんじゃないかと。マイケル・フランクスは歌い上げるタイプではなく、囁くように歌うので、自分とよく共演している仲間でそういうふうに歌える人はいないかなと考えたときに、すぐにネイザン・イーストが浮かびました。彼はベーシストとして認知されていますが、すごく良い声をしているんです。それで適役だなと。

ーー世界的なベーシストに、シンガーとして参加を要請したんですね(笑)。

神保そうしたら快諾してくれたので、だったらベースも何曲か弾いてよって(笑)。ジェフ・ローバーさんは、僕は70年代から大ファンなんですよ。彼は、日本のフュージョンの雛形となるようなサウンドを最初に提示した人だと思うんです。パトリースも僕の作品にも何度も参加してもらっていますし、リー・リトナーとのツアーでも一緒して、気心知れた仲間なので、今回もお願いしました。彼女のスケジュールを押さえた段階で、パトリースの大ヒット曲「フォゲット・ミー・ノッツ」をカバーしたいので、歌ってもらえないかと頼んでみました。これも大好きな曲で、一度はカバーしたいと思っていたんですけど、本人が自分の持ち曲を他人のアルバムでカバーするって、あまりないじゃないですか。セルフカバーならわかりますけど。断られるのも覚悟していたんですが、“いいわよ”って快諾してくれました(笑)。​​​​​​​

ーー二つ返事で快諾だったんですね。

神保それだったら、オリジナルでベースを弾いているフレディ・ワシントンにも参加してもらおうという流れになったんです。彼は「フォゲット・ミー・ノッツ」の共作者でもありますし、ベースラインが印象的な曲で、当時誰もがコピーしたものなので、ぜひ弾いてほしいなと。結果、ご本人参加という、とても豪華なカバーになりました(笑)。

ーー『SORA』のレコーディングはリモートで行ったんですか?

神保リモートです。みんなで同じスタジオで演奏するのとはやっぱり全然違いますね。そもそもの方法論が違うので、まず演奏するときの心構えが違います。みんなで“せーの”でやるときは、なるべくいろいろなことを考えないようにして臨むんです。その場で生まれる化学反応を大事にしたいので、前もって決めすぎてしまうと、即座に反応できないんですね。まっさらな状態で、そのときに自然と身体が反応したプレイを瞬間パックする……そんなニュアンスでやっていたんです。でも今回は、先に他のメンバーが録音して、その後、完全に出来上がった状態でドラムを演奏するので、そういう化学反応は期待できないんですね。その代わりに、いかにドラミングやアレンジを構築するか……熟慮に熟慮を重ねて、その楽曲を1ランク上のレベルに持っていく。そこが挑戦しがいのある部分でもあって、面白い作業だなと思いながらやっていました。​​​​​​​

 

 

ーー『アメアガリ』は、ご自身がプログラミングしたトラックにドラムを入れるんですよね。ドラム以外は完成していて、そこに自分の演奏を加えるという意味では、『SORA』とも同じなのかなと思うんですが、プログラミングと演奏するのは違うものですか?

神保どうでしょう……先ほど話が出た“正しくずっこけるドラミング”というのは、生身のミュージシャンと“せーの”でやるときには難しいんですよ。ドラムがずっこけていると、他の人たちは“???”ってなりますからね(笑)。ずっこけるアプローチというのはリモートならでは、だとは思いますね。それと、自分でプログラミングをしているので、完成形がしっかりとわかっているんですけど、でも、ドラムをプレイしてみると、うまくハマる場合もあれば、ハマらないこともあって。ハマらないときは、どうすればいいかなって試行錯誤していくんです。

ーー試行錯誤の中で、思いもよらないものが生まれることもありますか?

神保当初の構想とは全然違うものになった曲もあります。やっぱり実際にスタジオで音を出してみないとわからないことも多いんです。全部自分で作ったものではあるんですけど、その瞬間の気持ちみたいなものが反映される。そういう意味では、全部自分でやっても、化学反応のようなものがあると言えるのかもしれないですね。

ーーレコーディングで使ったドラムは?

神保デビュー30周年のときに作っていただいたヤマハのYD9000AJです。前作も同じですね。

 

神保彰インタビュー(3)

 

ーーデビュー以来、ずっとヤマハのドラムを使っていますよね?

神保いや、デビュー前から使っているんですよ。スティーヴ・ガッドの影響なんですけど、彼が“リアルウッド”のYD9000を叩いている写真を見て、いつか自分もこのセットを叩きたいと思ったのがきっかけです。大学時代にビッグバンドに所属していたんですけど、そのドラムを買い替えるときに、YD9000にしたんですよ、部費で(笑)。でもいまだに現役で、そのビッグバンドでは使っているんです。OB会で叩く機会があったんですけど、音が熟成されていて、改めて素晴らしいドラムだなと思いました。それでYD9000AJを作ってほしいとヤマハにお願いしたんですよ。30周年のときに作って、もう11年経つのですが、良い感じで鳴りますね。

ーー神保さんから見たヤマハドラムの魅力とは?

神保クオリティが高い、製品として優れているというのは当然ですけど、ヤマハは良い意味で色がついていないんです。プレイヤーの色に染まってくれるんですよね。個性がないわけじゃないけど主張し過ぎないと言えばいいのかな。逆に言えば、プレイヤーの個性を最大限に引き出してくれるドラムなんだろうと思います。

ーーデビュー40周年を超えて、年間100曲に迫るほど曲を作り、今年にいたっては5枚もソロアルバムを作ってしまうというのは、ある意味驚異的だと思うのですが、その衰えることのない創作意欲の源はどこなのでしょうか?

神保アルバムを作って発表できるというのは、ものすごく恵まれた環境ですよね。それはいつも感謝しています。そういう環境があるので、曲を作ろうと思うんでしょうね。それと、立ち止まってしまうと停滞してしまう気もして。やっぱり若い頃みたいな、ほとばしるエネルギーはないので(笑)。立ち止まらずに歩き続けることで、何かが見えてくるんです。これまでもそうでしたし、きっとこれからもそうなんだと思います。立ち止まらずにいれば、曲もできるだろうし、演奏面でも何かしら新しいアイデアがひらめいたりするんじゃないでしょうか。

ーーちなみに、現在の制作ペースではしんどいなと思うことはないですか?

神保ないですかね。曲を作って数が増えていくと、貯金が貯まるみたいな感じで嬉しいんですよね(笑)。ちょっと貯まると、もうちょっと貯めたいなんて欲も出てきて。そんな気持ちがある限りは、今のように歩き続けていくと思います。

ーー新たな作品を創作するにはアウトプットするばかりではなく、インプットも必要だと思うのですが、そういう作業もされていますか?

神保どうなんでしょうか。日々生活をしていれば、見たり聞いたりするものもありますし、こうやって取材を受ければ、会話したことが刺激にもなりますし、そういったすべてのことが、自分の中でかき混ぜられて、何らかの形で出てくるんだと思います。それと、やっぱりライヴですね。この2年は数が激減してしまいましたけど、ライヴって、自分たちがお客さまに音楽を提示するだけじゃなくて、こちらがお客さまからもらうエネルギーも大きいんです。それはライヴができないこの2年で実感しました。ライヴは一方通行ではなく相互通行で、エネルギーの交歓が行われる場なんだと強く思います。そうやってお客さまからいただいたエネルギーも、創作意欲には大いにつながっていると思いますね。

 

神保彰インタビュー(4)

 

 


 

【プロフィール

1980年、カシオペアでプロデビューして以来、40年以上の長きにわたって常に音楽シーンの最先端を走り続けるトップドラマー。2007年、ニューズウィーク誌の特集「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。メロディやアンサンブルを1人でたたき出すワンマンオーケストラというスタイルは唯一無二。世界のトップドラマーを紹介するサイト「DRUMMERWORLD」に初めて載った日本人、米ドラム誌「Modern Drummer Magazine」の表紙を飾った唯一のアジア人でもある。2011年、国立音楽大学ジャズ専修客員教授に就任。多忙な日々を送る。

OFFICIAL HP:http://akira-jimbo.uh-oh.jp/index.html
​​​​​​​

YouTube:https://www.youtube.com/user/yd9000aj/featured

 


 

【リリース情報

神保彰インタビュー(5)

『SORA』
2021年12月22日(水)発売
KICJ-855 3,300円(税込)

神保彰インタビュー(6)

『アメアガリ』
2021年12月22日(水)発売
KICJ-856 3,300円(税込)

mysound_btn_470×58.png

キングレコード:https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=35728

 

 


 

Text:竹内伸一
Photo:渡辺知寿