【レコにまつわるエトセトラ】良音レコード 〜 聴けば100%ワカル、溝に深く刻まれた特濃サウンド【第31回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第31回のテーマは、“良音レコード 〜 聴けば100%ワカル、溝に深く刻まれた特濃サウンド”。各種メディアなどでレコードの魅力を表現する際に「音が良い」「デジタルにはない温かみがある」なんて言葉を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか?

ただ、それはとても抽象的で主観的なもの。実際に音を聴いて、その明確な“違い”を感じた人にしか伝わらない気はします。でもその違いを一度知ってしまったらもう抜け出せない…、今回はそんな“沼”への入り口になること間違いナシの逸品たちをご紹介します。

レコードの音、その魅力を「温もり」だけで表現できるのか?

 

レコにまつわるエトセトラ(1)

Colosseum『Valentyne Suite』
(LP / 1969 / UK / Vertigo / VO1)


ここ最近、某CMでもサンプリングされた、切れ味抜群のギター・リフがクールな一枚。
Vertigo諸作の原盤ってたしかにお高いんですが、そのサウンドは期待を裏切りませんよ!
ちなみにですが、米盤はジャケが同じっていうだけで、ほぼ別の作品なのでそちらも要チェック。

 

あけましておめでとうございます。2019年に始まったこの連載も、おかげさまでもう4年目に突入しました。
そして今までで都合30回分の記事を書かせていただいたワケですが、意外と書いてこなかったテーマがあるんです。そう、それは肝心要なレコードの音の良し悪しの話です。

もちろん遠回しには話してきたんですが、音質そのものには直接触れてきませんでした。というのも、音質ってある種の思想的なところもあって、その人の私感によるところがあまりに大きい気がするんです。
そんなこともあって、色々考えていたらなんだかおよび腰になっていたんですよ……いやはや。

ところが、最近のレコード・ブームに付随して、レコードの音質を表現する、とあるワードをよく耳にするようになったんです。

それが「温もり」です。言っちゃーこれも私の個人的な感想なんですが、レコードのソリッドでパワフルで刺激に満ち満ちたサウンドが「温もり」の一言で片付けられる、それにはどうしても違和感を拭えなかったんです。

じゃあこれは黙ってばかりもいられないぞっていうことで、2022年一発目は音の良いレコードのハナシ。
ちなみに私はブリティッシュ・ロック党ということもあるので、イギリス盤をメインに語りたいと思います。

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

Donald Fagen『The Nightfly』
(LP / 1992 / US / Warner Bros. Records / 1-23696)


ロック界が誇るリファレンス盤といえばコレ。ただ今回はちょっと角度を変えます。

 

「温もり」サウンドの正体って、やっぱりプチパチ音が誘引するノスタルジーでしょうか?
とは言え、レコード・リアルタイム世代ではない方でも、口を揃えたかのように「温もり」と表現する方が多いようです。

たしかにCDとは音の傾向も違いますし、レコードはその特性から聴き疲れしにくいなんていうこともあるかもしれません。
ただCDやサブスクと一口に言っても、80年代黎明期の非デジタル・リマスターCDから、最新鋭のハイレゾ音源まで多種多様。そしてそもそもレコードも、そこに刻まれたソースとなる音源やプレスされた時代によっても、全く事情が異なります。
つまるところ、それらを十把一絡げにして「温もり」の一言で片付けるのは、ちょっと無理筋だと思うワケです。

私は何も難癖つけようとしているわけではなくて、ひょっとして、レコードの音って前時代的でなまくらみたいに思われているんじゃないかと、むしろ心配しているんですよ……。
いやいや、レコードって、マジでバッチバチでギンギンな音が詰まってますからね!

ということで、今回紹介するレコードはインパクト重視で選びました。いわゆるオーディオ・ファイル御用達の、リファレンス盤っていうワケじゃありません。

そしてこれらはオーディオを選ぶとか、これとこれを聴き比べてどうとか、もうそんなこと全く関係ありません。ポータブルで聴こうが、レコードを聴いたことなかろうが、100人聴けば99人(一応ですが……)は文句なしにブッ飛ぶ、そんなサウンドが詰まっているレコードたちなんです。

 

誰が、どんな環境で聴いても違いのわかるレコードたち

 

レコにまつわるエトセトラ(3)

こちらはセンターも欠けたグダグダのコンディションですが、その鳴りは100点満点。やっぱモノが違います。

 

Pink Floyd 『See Emily Play / Scarecrow』
(7” / 1967 / UK / Columbia / DB8214)


では、まず最初にご紹介するのはPink Floydの初期シングル作の英オリジナル盤です。
デビュー・アルバム『The Piper at The Gates of Dawn(夜明けの口笛吹き)』に先駆けてリリースされた彼らの2ndシングルで(本国イギリスの)アルバムには収録されていません。

初期を代表する名曲のひとつですので、その曲自体はご存知の方も多いでしょう。ただ、ブリティッシュ・サイケ・アンセムみたいな感じで、その筋では今も昔も根強い人気を集めるのも、曲の内容だけではなくその圧倒的なまでの「爆音」ぶりからくるものです。

これに関しては、もう、どこの音がどうとか説明なんて全く必要ありません。とにかく凶悪なまでに音がデカく、怒涛のように音塊が押し寄せてきます。音楽的な趣味嗜好なんて関係なく、思わず脊髄反射で「レコードってヤベー!!」ってなってしまう、その反則スレスレの殺傷能力は天下一です。

いくらなんでも、ここまでの爆音ぶりは世界広しといえどもトップ中のトップ。なんなら、一般家庭でいつものヴォリューム位置でのプレイはキケンが過ぎるので絶対にオススメしません。
壁や床、そして自分の五体はビリビリと震え、脳天をドカンと直撃するその恍惚感と引き替えに、速攻で近隣からの苦情がくること間違いなしです。悪しからず。

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

すいません、これも書き込みがあったりとなんだか微妙なコンディションです。でも、もちろん無問題です。

 

Jimi Hendrix Experience『Purple Haze / 51st Anniversary』
(7” / 1967 / UK / Track Record / 604001)

こちらも似たようなテイストなんですが、特に低音の殺傷能力がバツグンです。

CDやサブスクで音楽を楽しまれている方にはピンとこない話かもしれませんが、レコードってものによって大きく音が違うもので、それが楽しさのひとつでもあります。
そしてシングル盤はその性格上、やはり音圧高めでかなり攻め込んでいるものが多いんです。

例えばこの「Purple Haze」も、アルバムと聴き比べたりなんかすると一聴瞭然です。
シングルはモノラル収録ですが、英オリジナルのモノ盤、米オリジナルのモノorステレオ盤と比較しても遥かに音が図太くド迫力です。

もちろん、気のせいとかじゃなくて別物と思ってください。初めてレコードを聴いた人でも、100%その違いに驚くことうけあいですよ!
こりゃー下っ腹にきますわ!

 

レコにまつわるエトセトラ(5)

アートワークもヒプノシスですし、なーんでこんなにもヒットしませんでしたかね……。

 

Marvin, Welch & Farrar『Second Opinion』
(LP / 1971 / UK / Regal Zonophone / SRZA8504)


今度は正直、地味めな存在のアルバムをご紹介。
イギリス版The Venturesという風合いのギター・インスト・グループの大家、The Shadows。そんなグループの中心メンバー、ハンク・マーヴィン、ブルース・ウェルチの2人と、オーストラリア出身のアーティスト、ジョン・ファーラーによる3人組のグループがMarvin, Welch & Farrarです。まぁそのまんまですが。
そしてほとんど誰も言いませんが、略してMWFとも呼ばれています。

彼らの2ndアルバムとなる本作は、いわゆるCrosby, Stills, Nash & Young(CSN&Yは誰もが呼びます)タイプのフォーク・ロックの王道を地で行く秀作です。ただ、ことさら話題にも上らない地味な存在であることは否めません(失礼!)。内容自体は全然そんな感じじゃないんですが、これをペナペナのしょぼい音で聴くと、ごくごくフツーの地味なアルバムだと勘違いしてしまいそうなことは確かです。

そこで登場するのは、かなりゴリッとした重厚な質感が持ち味の英オリジナル盤です。
艶やかで伸びのある中音域は美しいハーモニーやギターを彩り、なによりもドスのきいた低音はベースとドラムにとてつもない躍動感を与えています。
中古市場でもそんなに高くはない(そこがまた地味)ので、騙されたと思って買って聴いてみてください。思わずガッツポーズ出ちゃいますよ!



同じ曲でも音源の味わいは多種多様…それこそがレコードの魅力

 

レコにまつわるエトセトラ(6)レコにまつわるエトセトラ(7)

ラベルはコレが初回。上部のバンド名の下に「A Shel Tammy Production」との記載があるものは、2ndプレスにあたります。細かいですが。

 

The Pentangle『The Pentangle』
(LP / 1968 / UK / Transatlantic Records / TRA162)

最後はガラッと音楽性を変えて、ブリティッシュ・フォークの名作から一枚ご紹介。

フォークって聞くと、もしかしたら人によっては「そんな地味な音楽興味ないね」なんていう方もいるかもしれません……いやいや、ちょっと待ってください。そんな方はここに収録されている、尖りに尖ったサウンドを聴いてみてからご判断ください!

本作は彼らが1968年にリリースしたデビュー作なのですが、元々彼らはポッと出のミュージシャンの集まりなんかではありません。シーンではすでに一定以上の評価を得ていた凄腕のメンバーが集った、ある種スーパー・バンド的性格のグループでした。

そしてそのサウンドは、英国の深い森を感じさせる土着のトラディショナル・フォークと、研ぎ澄まし洗練されたジャズのクール・ヴァイブスとが、バチバチにバトルするようにハイブリッドされたもの(なんならフィジカルでもバチバチで、殴り合いが絶えない武闘派だったらしいですが……)。
さらには、英オリジナル盤が持つその極上の音像が、彼らの音楽をネクスト・レベルへと押し上げています。

こちらは音圧頼みのインパクト勝負というよりも、とにかく生っぽいリアルな音像が持ち味です。
全編素晴らしい音質ですが、特にA2に収録されたインスト・ナンバー「Bells」は、卒倒する人続出のキラー・チューンと言えましょう。
左右へのパンニングを織り交ぜながら、抜群のブラシ捌きをみせる長尺ドラム・ソロは、もうホントに目の前のソコで叩いているような、フレッシュが過ぎる極上の音像です。

全編聴き終えた後は、魂が抜かれたみたいにただ茫然自失とするのみです……昇天!

 

レコにまつわるエトセトラ(8)

V.A.『Kunstkopf Dimensionen』
(LP / 1974 / GER / Delta-Acustic / 10-130-1)


最後にオマケで他で紹介されなそうな一枚を。
クラウトロック界では重要なレーベルのサンプラー・アルバムなんですが、ただ音が良いというよりもダミーヘッドを用いたバイノーラル録音というのがミソです。

 

現代のCDやサブスクに収められているサウンドは、良くも悪くも画一的。もちろんプレーヤー周り次第で色々とサウンドの変化を楽しめるかもしれませんが、同一メディアであればソースとなる音源そのものの違いは少ないです。
裏を返せば、クオリティーが均一に保たれているとも言えます。だってデジタルですからね。

一方、レコードは良くも悪くも結構バラバラ。LPとシングル、オリジナルと再発、ご当地盤と各国盤……たとえ同じ曲でも、音源そのものの味わいは多種多様なんです。だってどこまでいってもアナログですからね!

The Beach Boysのブライアン・ウィルソンは、The Beatlesの『Rubber Soul』に大きな影響を受けて、世紀の名作『Pet Sounds』を創り上げたのは有名な話。
そしていつもファンの間で話題にされるのは、「じゃあブライアンが聴いた『Rubber Soul』って英米盤どっちなの?」です。
『Rubber Soul』は英米盤でずいぶんとサウンドも違いますが、そもそも収録曲が異なります。そりゃあどっちに影響を受けたのか、気になるのも無理はないですよね?

たとえ同じアルバム、同じ曲であっても、今と昔、あっちの国とこっちの国、みんな違うものを聴いていたワケです。
そう、でもそれこそがレコードの魅力のひとつ。その楽しみ方はどこまでも広がっているんです。あなたも果てなきレコードの旅に出てみませんか? ぜひ!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千