弾き語りがグングン上達する!! ボーカルレッスンノート VOL.5 声を前に出す【Go!Go! GUITAR プレイバック】


解説/石田匠

ボーカルレッスンノート VOL.5(1)
 

 今回のテーマは声を前に出すです。これだけだと、あまりピンと来ない読者も多いかもしれませんね。僕が教えている生徒の中にも、力が入って肩が上がってしまい、声にコンプレッション(圧縮)をかけるようにして歌う人をよく見かけます。これは言い換えると、ノドに圧力をかけて声を潰している状態です。確かに高い音程を出すときに、肩に力を入れて歌うことを求められる場面もまったくなくはないのですが、まずは肩の力を抜きノドの奥を開いて声を出す、声が潰れてしまうような“障害物”のないイメージを持つことが大事だと思います。その状態で、これまでに話してきたように、安定した息を持続させながら声を伸ばす。これが声を前に出すということです。今回は、この障害物がある状態とない状態を体感するために、ある実験を行いたいと思います。障害物がないラクな状態をイメージとして持っておくと、確実に歌は変わります。
 人間は四足歩行から二足歩行に進化したことで、気管から咽頭(ノド)にかけての構造が変化していろんな声色を出せるようになったわけですが、ノドに変にストレスがかかりやすくもなり、それが声を前に出す上での障害物になっています。まずはそれを実際に体験してみましょう。

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(2)
 

<四つん這いで前を向いて声を出す>

 小さな犬でも鳴き声は大きいですよね。それは四つ足動物で顔が前を向いていることで、ノドから気管、そしてお尻の穴までが真っ直ぐなチューブになっているイメージで、声を遮る障害物がないんです。生徒ともやるんですけど、四つん這いで前を向いて「ハー!」と声を出すとラクに発声できるんですよね。まずはこれをやってみてください。

 

<上を向いたまま声を出す>

 次に、まっすぐ立って顔を真上に向け、ノドを大きく開きます。落ちてくる雨粒をノドの中に垂らし、そのままお尻の穴まで落ちていくイメージを描きます。ノドに障害物がない状態です。その状態で「ハー!」と声を出すと、いつもより大きな声が出せるはずです。それは、上を向くことで気管からノドが真っ直ぐに伸びているためです。

 

<顔を戻すとノドに圧がかかる>

 STEP2の状態で「ハー!」と声を出したまま、顔を下ろして正面を向きます。正面を向くにつれてノドが圧迫され、声の抜けが弱まると思います。この障害物がある状態とない状態をまずは感じてください。もちろんずっと真上を向いて歌うことはありませんが(笑)、僕は「ア」の音を出す時、力みやすい音なのでノドを開く状態を作るため、やや上向きで歌うこともあります。

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(3)

 

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(4)

 

 舌根(舌の奥の部分)を下げることで、ノドがより開きます。これも遮るものを少なくするためで、声が前に出るようになります。あくびの要領でノドの奥から舌を引っ張るイメージ。それを口を開ける動作と連動させながら、同時に舌根が下がるように練習していきましょう。あくびをして舌が出る人はいませんよね。舌が奥のほうに気持ち良くずり落ちる感覚、それが声を前に出すために大切なのです。

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(5)

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(6)

 

 「舌根を下げる」と言いましたが、僕もそうだったんですけど、舌に力が入っていたり硬い人はこれがなかなかできない。舌って随意筋(自分の意思で動かすことのできる筋肉)ではありますが、なかなか言うことを聞いてくれません(笑)。変に力を入れると舌がねじれたりするんです。
 そこで、舌をほぐすためによくやるトレーニングを紹介しましょう。まず、舌先を歯と歯茎の際に当てて左から右に動かします。それを上下の歯と裏表で行い舌をほぐしていきます。他にも「タタタタ」と連続して言うと、舌先が口内の上をノックする動きになるので、舌のストレッチにつながります。あとは、マシンガンの音を口で再現する「ターントリル」も有効です。できなければ、舌を伸ばしたり揉んだりするだけでも十分。とにかく、舌を柔らかくすることによって舌根が下がりやすくなるんです。せっかくノドの奥が開いても、舌が硬いと遮ってしまうんですよね。
 鏡を見ながらノドや舌の動きをチェックして、そのポジションをキープすることは非常に大事です。ボイトレの前にこれを行うだけで、声の出し方に対してよりていねいになれると思います。

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(7)

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(8)

 

 声を出すという動作の中で、一番良くないのは肩に力を入れること。力技のように高い声を出せる人はいるけど、そうすると体は力みによってガチガチになり、首を触ると“痛っ!”っていう状態になります。僕も昔はそうでしたが、これで長く歌ってはいけません。体もボロボロになってしまいます。
 それを解消するために、ローラーで首を挟んで刺激するマッサージグッズを使うこともあります。首を触ったり揉んだりしたときに痛いのは危ない状態なので、首をほぐすグッズは重宝しています。首を回すストレッチもとても大事です。
 あとは、表情筋や頬周りだけじゃなくて、目の動きも大事だと思います。身体のメンテナンスの話になるかもしれないですが、最近自分の中で流行っているのが、顔を上げながら眉毛も上げて、目だけ下を見るというストレッチ。下を向いたときには目だけ上方向を見るという動きも行います。そのとき、目だけ左右/上下にギョロギョロと動かします。特にパソコンやスマートフォンを長時間触っている人はそうですが、視線が固定されると目の疲労が肩にくることがあるんですね。でも、顔の動きと逆方向を見ることで、目の可動域を広く動かすことになりほぐれていきます。目がリラックスすれば肩の筋肉も緩まっていくんです。世の中にはいろいろな体操がありますが、結局は張り詰めた体を“緩める”ことが目的なんですよね。
 高い声を出すときも、眉毛を上げるだけで若干ピッチを上げることができます。また、眉毛を上げて歌うことは明るい声にもつながるので、気持ち良く歌えます。口を開けると同時にノドを開いて、眉毛も上げて、顔全体で気持ち良く歌うという状況を作らないと、自分が持っている声の鳴りを最大限に引き出すことはできないのです。表情が豊かであることはとても大事です。

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(9)

 

 ノドの奥が開いて舌も下がるようになったら、鏡を見てノドの動きを確認しながら「ア」や「オ」でロングトーンの練習をします。できればメトロノームを使って、「ワン・ツー・スリー・フォー」のカウントから入って発声します。序盤でも話した通り、出し始めの声が途中で弱まったりせず、一定の声でストレートに出すことが大事です。息が切れたところから再びカウントを取って、8分ブレスで発声。これを繰り返します。Superflyの越智志帆さんとかONE OK ROCKのTakaさんとか、キレイな声でロングトーンができる人の表情や歌い方に注目するのはすごく勉強になると思います。もちろん、キレイに音を出すことがすべてではありませんが、まずは気持ち良く出せる状態=基本を知ることが後々の個性をより引き立ててくれると思います。

 

ボーカルレッスンノート VOL.5(10)

 


 

■INFORMATION

PROFILE

石田匠

(いしだ・たくみ) 1973年生まれ・B型、広島県出身のシンガーソングライター。産まれた時からハスキーな泣き声に、両親が驚いたという。中学時代から80年代洋楽を入り口に、ロックを聴いて育つ。1998年、バンド『The Kaleidoscope』でメジャーデビュー。2004年、ササキオサム(MOON CHILD)とのユニット『Ricken’s』に参加。30代半ばになり自身のボーカルスタイルに限界を感じ、歌うことを一から見直すことになる。「気持ちよく歌うためには?」ということをいつも考えている。現在はソロアーティスト『石田匠』として活動中。同時にインストラクター、楽曲提供、コーラスなども行っている。www.kowanebito.jp

 

(Go!Go! GUITAR 2015年10月号に掲載した内容を再編集したものです)

 


 

Edit:溝口元海