Vol.5 長いタイトルの短冊シングル【8cmシングル時代のJ-POP ~短冊CDが起こしたムーブメント~】


ミリオンセラーといわれる、売上枚数が100万枚を超えたCDが連発していた1990年代、シングルCDのほぼすべてが「8cmシングル」としてリリースされていました。今回スタートするこの連載では、今も8cmシングルを約4,500枚所有し、フジテレビ系列で放送されたクイズ番組『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』のジャンル「90年代J-POP」でグランドスラムを達成した、イントロマエストロの藤田太郎が当時の時代背景や曲について、イントロなど様々な切り口で紹介していきます。
第5回目は、長いタイトルの8cmシングル!間違えないで噛まずに言えるとちょっとカッコいい!?曲満載です。よろしくお願いします。

差別化を図るための強いインパクト!

 

1988年に誕生した8cmシングルは、レコードに代わる音楽メディアとして急速に世の中に浸透し1992年には年間生産枚数1億枚を突破。その後、90年代の終わり頃まで伸び続けた音楽市場の中で、リリースされた多くの楽曲は他と差別化する戦略が展開されました。
その中でも、ユニークで強いインパクトを与えたのは「タイトルを長くする」という差別化。長いタイトル曲は、その字面だけで興味をそそられ言ってみたい!と思う気持ちも重なり、聴いてみる動機になります。今回は、そんな長いタイトル曲の8㎝シングルから厳選した10枚を紹介していきます。まずはこちらから!

 

8cmシングル時代のJ-POP(1)

 

岡村靖幸「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」(発売日:1990年10月10日 イントロ秒数:14秒)
加藤紀子「今度私どこか連れていって下さいよ」(発売日:1992年7月25日 イントロ秒数:19秒)


私は、渡辺美里さんに2021年5月放送のラジオ番組で「岡村靖幸さんってどんな人でした?」と聞いたことがあるのですが、その答えは「変わってる人、レコーディング中ずっと踊ってました」1984年19歳で作曲家としてデビューし、渡辺美里や吉川晃司、鈴木雅之らに楽曲を提供していた岡村靖幸は、提供したアーティストのレコーディングに参加し、レコーディング中も休憩中も本当にずっと踊っていたそうです。
その踊っている姿を観たプロデューサーに「輝いてる」と見初められたことがきっかけで、1986年にシングル「Out Of Blue」でデビュー。「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」は、セクシーでクールな言葉で描く歌詞やファンキーなのに人懐っこいいメロディのサウンドから強烈な個性を放つアーティストとして、すぐに一目置かれる存在となった岡村ちゃんが90年代に入ってからリリースした13枚目のシングル。中・高時代に所属していたバスケットボール部の経験から、いつまでも無邪気な気持ちでいることの大切さを描いた歌詞とイントロの乾いたギターの音でいつでも青春時代に戻してくれます。
「今度私どこか連れていって下さいよ」は、アイドルグループ「桜っ子クラブさくら組」のメンバーだった加藤紀子のソロデビュー曲。森高千里が1989年にリリースしたアルバム『非実力派宣言』に収録した曲をカバー。森高バージョンはセリフからスタートするイントロですが、加藤紀子バージョンは先にユーロビート調のサウンドが響き、その音に乗りながら、タイトルと同じセリフが登場。気になる人に自分からアプローチする、積極的なアタックをポジティブに描く歌詞がキュートな曲です。

 

8cmシングル時代のJ-POP(2)

 

B'z「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」(発売日:1993年3月17日 イントロ秒数:40秒)
 

以前「横ジャケ8cmシングル売上TOP10」で第4位にランクイン!と一度紹介した曲ですが、今回のテーマでこの曲は外せないでしょう!長いタイトル(の8㎝シングル)と言われて思い出すのはこの曲!という人は多いのではないでしょうか。B'zも傘下に所属している音楽制作会社ビーイングは、1990年にアニメ『ちびまる子ちゃん』のテーマ曲に起用されたB.B.クィーンズの「おどるポンポコリン」が164万枚のミリオンセラーを記録した以降、タイトルをサビの歌詞に登場させ鼻歌で歌えるキャッチーなメロディとして聴かせる楽曲をアニメやドラマの主題歌、CMのタイアップとしてテレビで大量にオンエアするという戦略で90年代に多くのヒットを生み出しました。その戦略をさらにブラッシュアップし『サビ頭の長い歌詞をタイトルにする手法』を考案し、大成功したのがこの曲です。
次は、この曲のリリース以降に音楽制作会社ビーイングが『サビ頭の長い歌詞をタイトルにする手法』でリリースした2枚を紹介します。

 

8cmシングル時代のJ-POP(3)

 

大黒摩季「別れましょう私から消えましょうあなたから」(発売日:1993年4月28日 イントロ秒数:27秒)
宇徳敬子「あなたの夢の中 そっと忍び込みたい」(発売日:1993年8月4日 イントロ秒数:15秒)


イントロから、ワイルド・チェリーの「プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」を彷彿とさせるテンションの高いギターリフで始まりスリリングでダンサブルなサウンドが展開する、大黒摩季の4枚目シングル「別れましょう私から消えましょうあなたから」。B.B.クィーンズのコーラス隊として誕生し、その後アイドルグループとして活動したMi-Keのメンバー宇徳敬子ソロデビューシングル「あなたの夢の中 そっと忍び込みたい」は、NTT DoCoMo ポケットベルCMソングに起用され、ピアノとストリングスの落ち着いたサウンドにしっとりとした歌声が響くバラード。1993年は、音楽制作会社ビーイングから『長いタイトル』のシングルリリースが続いた年。この2枚の他にも、DEENのデビューシングル「このまま君だけを奪い去りたい」(1993年3月10日発売)、ミリオンヒットを記録したWANDS「愛を語るより口づけをかわそう」(1993年4月17日発売)、T-BOLAN「わがままに抱き合えたなら」(1993年11月10日発売)など、キャッチーなサビ頭の歌詞をタイトルにし、ドラマの主題歌やCMのタイアップで大量オンエアしてヒットを連発。長いタイトルとビーイングアーティストの台頭は切り離すことができない、ヒットした理由の大事な要素の一つだと思います。
次はこちら!ビーイングではないレーベルからのリリースでこんな素敵な長いタイトル曲もありました。

 

8cmシングル時代のJ-POP(4)

 

郷ひろみ「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」(発売日:1993年1月21日イントロ秒数:31秒)
UN'z「風を受け走る君には怖いものは何もない」(発売日:1994年6月1日 イントロ秒数:6秒)

 

1972年に「男の子女の子」でデビュー以降、70、80年代はアイドルというスタイルで「ハリウッド・スキャンダル」や「哀愁のカサブランカ」といった多くの名バラード曲を生み出した郷ひろみ。90年代に入り『大人の郷ひろみ』を見せると、片思いの切ない気持ちを歌ったバラード「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」をリリース。この曲は元々1989年に楠瀬誠志郎がリリースした、同名アルバム収録曲。郷ひろみのカバーが決まり、楠瀬誠志郎バージョンも同年の10月に8㎝シングルとしてリリースされました。有線放送を中心にロングヒットしたこの曲から「言えないよ」、「逢いたくてしかたない」と続くバラード3部作をリリース。カラオケでの人気も火が付き、男性ファンを獲得。バラード3部作は、新しい層に魅力を伝えることに成功した企画となりました。

UN'z「風を受け走る君には怖いものは何もない」は、お笑いコンビ、ウッチャンナンチャンが出演していたフジテレビのバラエティ番組「ゲッパチ!UNアワー ありがとやんした!?」の『UN'z STORY』から誕生した。南原清隆演じる松木隆と、内村光良演じる稲田研二の2人組デュオUN'z(アンズ)の最初で最後のシングル。ユニット名のUN'z(アンズ)は、B'zとWANDSの掛け合わせた名前で、長いタイトルも当時ミリオンヒットを飛ばしていた2組のパロディ。ミュージックビデオやビジュアルもCHAGE&ASKAを彷彿させ、NHKの「ポップジャム」出演時にはaccessにライバル同士と語るなど、当時の音楽シーンを愛のあるオマージュで盛り上げた曲。ラテンフレイバーのクールなロックサウンドがイイ感じなのも最高です。



8cmシングル時代のJ-POP(5)

 

INFIX「傷だらけの天使になんてなりたいとは思わない」(発売日:1994年6月13日 イントロ秒数:15秒)
小沢健二「東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」(発売日:1994年7月20日 イントロ秒数:8秒)


「傷だらけの天使になんてなりたいとは思わない」は、5人組ロックバンドINFIX(インフィクス)が1994年にリリースした6枚目のシングル。孫悟空を唐沢寿明、三蔵法師を牧瀬里穂が演じた、日本テレビ系ドラマ『西遊記』のオープニングテーマに起用。
前年の1993年に日本テレビ開局40年記念で制作されたドラマ『西遊記』は、孫悟空を本木雅弘、三蔵法師を宮沢りえが演じ、主題歌は先ほど紹介したB'zの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」。この2曲のタイトル文字数は両方とも21文字。「傷だらけの天使になんてなりたいとは思わない」の作詞を担当した田村直美は『西遊記』という作品の連動を意識し、あえて同じ文字数のタイトルにしたのではないでしょうか。イントロから中華風のアレンジが響くロックナンバーは、長いタイトルを意識して制作された、慈しみを感じる楽曲です。

小沢健二の「東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」は、両A面でリリースされた「愛し愛されて生きるのさ」(このタイトルも結構長い)とともに音楽雑誌「ミュージック・マガジン」が2016年に発表した「90年代の邦楽アルバム・ベスト100」で1位に選出された名盤「LIFE」からの先行シングル。ホーンセクションには東京スカパラダイスオーケストラのメンバーが参加した、サンバ調のアレンジに乗ってめんどくさいことも飛んでっちゃうくらいにハッピーな歌詞とメロディが続く曲。四の五の言わず楽しみましょう!というメッセージは対照的にも見えるシニカルな長いタイトルがとても魅力的です。

 

8cmシングル時代のJ-POP(6)

 

宮本浩次「タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー」(発売日:1996年1月21日 イントロ秒数:32秒)
 

今回のラストに紹介するのは、宮本浩次(みやもと こうじ)さんのデビューシングル。
同じ漢字表記のエレファントカシマシのフロントマン宮本浩次(みやもと ひろじ)さんとは別の方。90年代前半、ビーイングを中心に長いタイトルの曲がヒットを連発しましたが、その流れで「一番長いタイトルの曲が登場した!」と盛り上がったのがこの曲。その長さ36文字!タイトルも強いインパクトがありましたが、楽曲もキャッチーなメロディと自由自在に変化しまくるファンキーなアレンジがとても印象に残るポップチューン。この曲を収録したアルバム『奇麗になりたい』も素晴らしい。メロディ・メイカーとして非凡な才能があることを証明した一枚です。2004年にアーティスト活動を休止されましたが、5年後の2009年に再開し2020年代に入ってからもライブなど精力的な活動をされています。デビュー曲のタイトルのように、今後も長く活動してほしいアーティストです。


ここまで読んでいただきありがとうございました。今回は、長いタイトルの8㎝シングルを紹介しました。これからも「8cmシングルって音楽メディアがあったことを忘れないで」という気持ちではなく、「8cmシングルって音楽メディアでこんな素敵な曲があったこと、知っていた方が面白いよ!」を伝えていきますので、次回以降もよろしくお願いします


 

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Text&Photo:藤田太郎
※画像は全て著者私物