弾き語りがグングン上達する!! ボーカルレッスンノート VOL.6 伝わる歌い方を身につける(前編)【Go!Go! GUITAR プレイバック】


解説/石田匠

ボーカルレッスンノート VOL.6(1)
 

 ピッチ感(音程)を感じるのが母音、つまり「あいうえお(aiueo)」です。日本語の五十音は「ん(n)」を除いてすべて母音と子音の組み合わせで成り立っています(たとえば「な」だったら母音のaと子音のN)。基本となる母音をていねいに発音することが、聴く人に伝わる歌い方を身につけるために必要になります。
 まずは5つの母音を、自分はどういう響きで出せているのか確認することが大事です。自分は「あ(a)」をキレイに出せるなとか、「う(u)」は音量が小さくなってしまうな、などあると思いますが、母音のバラツキを揃えていきましょう。
 僕は「あいうえお(aiueo)」の順番を入れ替えた「あえいうお(aeiuo)」と「いえあおう(ieaou)」を用いて母音のバラツキを確認し、揃えています(後述)。
 これまで学んだ、舌根を下げてノドの奥を開くなどを確認しつつ、体をリラックスした状態で、まずは鏡を見ながら気持ち良く出せる「a」を作りましょう。メトロノームを4分で刻んで、テンポに合わせて「あ(a)」と発声してみましょう。最初はムラがあると思います。そのなかでノドの開き具合などをチェックしながら響きの良い「a」を決めるのが、母音歌いの第一段階です。

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(2)

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(3)

 

 日本語はひとつの音符に必ず母音と子音がセットです。対して英語は子音だけというのもありますし、あと「スゥ(Th)」とか「ヴ(V)」のように日本語にない発音がたくさんあります。その子音などによってリズム感を出していますね。子音を強く出すほど英語っぽい響きになっていきます。

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(4)

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(5)

 

 なぜ「あえいうお(aeiuo)」の順番かというと、「あいうえお(aiueo)」だと口を開いたりすぼめたりと動きが不規則ですが、「あえいうお(aeiuo)」は一番大きく口を開く「あ(a)」から「えい(ei)」と開き具合が徐々に小さくなって、「うお(uo)」で今度はすぼめた口になり徐々に口の開き具合が大きくなっていく中で、口の開き具合やすぼめ方、舌の位置などを段階的にイメージしやすく、それがバラツキのない母音を出すことにもつながるからです。
 大きく響きの良い「あ(a)」を決めたら、「えい(ei)」で開き具合が少しずつ狭く、舌の位置が高くなっていくイメージ。出川哲朗さんの“え~ヤバイよヤバイよ!”の「え(e)」は、よく抜ける声ですよね。「え(e)」は鼻に当てやすくてエッジが出て抜けるんです。少し鼻に当てるイメージで「えい(ei)」を出してもいいと思います。音量と音像をなるべく「あ(a)」と同じように声を出しましょう。
 次の「う(u)」では声が引っ込んで小さくなってしまいがちですが、「い(i)」の音量と音像が変わらないようになるべくキープしたまま「う(u)」を出します。
 最後に「う(u)」から「お(o)」で今度は大きく口を開きます。「お(o)」は「あ(a)」と同じくらいの大きな響きを意識してください。
 考え方としては、鼻に当てやすい「えい(ei)」と口をすぼめる「うお(uo)」グループに分けることができます。前の音を引きずって声を出してみましょう。「え(e)」から「い(i)」も、「え(e)」の響きを保ったまま「え(e)~い(i)~」とつなげます。それ以降も、「い(i)~う(u)~」「う(u)~お(o)~」と音をくっつけるイメージが大事です。
 このように、ひとつひとつの母音としてではなく母音を連動して捉えることで、母音の響きを揃えていけると思います。

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(6)

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(7)

 

 「いえあおう(ieaou)」は、口の開き具合が一番小さい「い(i)」から始まります。このとき、舌先を下の歯の裏に付けておくなど、口の中の形を意識してください。それから「え(e)」から「あ(a)」の流れで、口の開き具合を徐々に大きくしていく動きを実感することができます。「あ(a)」で一番口を大きく開き、「お(o)」では口の中の空間を保ったまま唇だけをすぼめます。「o」から「u」のときも、なるべく口の中の空間を小さくしないようにすると、大きな音を出せると思います。このように口の中の空間を大きく保つイメージを養いましょう。「いえ(ie)」「おう(ou)」が同じグループなので、「い(i)」の音が小さい場合は「え(e)」のイメージで、「う(u)」の音が小さい場合は「お(o)」のイメージで歌ってください。

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(8)

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(9)

 

<歌詞を母音だけで歌う

 うまく歌えないときは、歌詞を母音のみに変えて歌ってみましょう。たとえば「愛してる」という歌詞があったとしたら「aiieu」と歌います。子音を取って母音だけで歌うと、「T」のように舌先が口の中の上を叩くこともないし、「H」のように息が抜けるなどの複雑な動作がないのでピッチが安定しやすくなります。母音だけでしっかりと歌えるようになったら、子音を足していきましょう。
 故・忌野清志郎さんも“母音に気をつけてる”と聞いたことがあります。母音さえしっかり歌えていれば、子音が少々聞こえなくても聴き手に何となく歌詞の意味がわかるものです。僕も歌詞をすべて母音で歌ってみたりします。するとわかるのが、名曲と呼ばれるものは母音の並びがとてもキレイなんです。松任谷由実さんの名曲とされているものは、口が母音で覚えていたりするんですよね。母音歌いをすることで、母音の並びの心地よさも理解することができます。

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(10)

 

<子音を加える>

 「K(カ行)S(サ行)T(タ行)N(ナ行)H(ハ行)M(マ行)Y(ヤ行)R(ラ行)」という子音の中で、一番やっかいなのは「K」と「T」です。これは僕も歌うときに気をつける項目で、特に「T」は無意識にヘンに英語っぽくなってしまいやすい子音です。たとえば“大切な”という歌詞があったとしたら“とぅあいせつな”といった具合に、英語圏の人の日本語のような発音になっている人は多いです。
 そういうときは子音である「T」を小さく発音する。要は、子音と母音のバランスなんですよね。息が抜けやすいものだと「S」と「H」。“空(そら)”という言葉の「So」は抜けやすいので、どの程度息を抜くかを考えながら「S」を小さくするなど工夫が必要です。母音を書き出したあとに子音も書き出して、「こういう子音が入っているんだな」とイメージすると歌への理解がより深まります。もちろん曲調に合わせての話ですが。

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(11)

 

<ボーカリストとしての体験談

 今までいろんな曲を歌わせていただいてきたなかで、今回お話しした内容も随所に取り入れています。具体的には、①まず歌う曲のメロ譜をコードと共にチェック。②歌詞に入り、言葉の意味をひとつひとつ追っていく。特に漢字とひらがな、英語の違いを意識して見ていきます。③文脈が途切れないようにブレスの位置を決める。ブレスを入れる箇所に「V」と印を入れて、ブレスさえも歌の一部分として考えます。そして、最後に歌詞の響きをアレンジします。たとえば「永遠の(eien-no)」という歌詞に、あえて最初に「H」を入れて「Heien-no」にすることで、子音を少し加えてまろやかな響きにしたり。曲調によってですが、日本語重視の曲では英語っぽい発音になっていないかチェックして、母音と子音とのバランスに気をつけます。他にも「S」や「H」は息の抜け具合に注意したり、「N」とか「M」は鼻濁音を付けられるなとか、そういうことをローマ字表記にして歌詞に書き込んでいくんです。
 それらを叩き込んでから、もう一度まっさらな気分で歌えるように心がけています。

 

ボーカルレッスンノート VOL.6(12)​​​​​​​

 


 

■INFORMATION

PROFILE

石田匠

(いしだ・たくみ) 1973年生まれ・B型、広島県出身のシンガーソングライター。産まれた時からハスキーな泣き声に、両親が驚いたという。中学時代から80年代洋楽を入り口に、ロックを聴いて育つ。1998年、バンド『The Kaleidoscope』でメジャーデビュー。2004年、ササキオサム(MOON CHILD)とのユニット『Ricken’s』に参加。30代半ばになり自身のボーカルスタイルに限界を感じ、歌うことを一から見直すことになる。「気持ちよく歌うためには?」ということをいつも考えている。現在はソロアーティスト『石田匠』として活動中。同時にインストラクター、楽曲提供、コーラスなども行っている。www.kowanebito.jp

 

(Go!Go! GUITAR 2015年11月号に掲載した内容を再編集したものです)

 


 

Edit:溝口元海