【レコにまつわるエトセトラ】レコード専門用語辞典 〜 分かりやすい! 初見殺しの難解用語解説【第33回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第33回のテーマは、“レコード専門用語辞典 〜 分かりやすい!初見殺しの難解用語解説”
中古レコード店の商品タグに書かれた説明を読んでみると、ビギナーや門外漢には意味の分からない用語が使われていることがあります。何度も見かけているうちに、実はよく意味が分かっていないまま使っているなんてことも。

今回はそんなレコード専門用語の中でも、比較的ポピュラー(=よく使われる)でありながら正確な意味や定義がちょっと分かりづらいワードをいくつかピックアップ。画像を使って比較検討しながら、明快に解説していきます。

フラット・ラベルといってもラベル全体がフラットなわけではない?

 

レコにまつわるエトセトラ(1)

 

レコードの専門用語、それは蛇の道はヘビ。レコードの好きモノ同士であれば、たとえ入り組んだ表現とて察しがつくものなのですが、それってまだ馴染みの薄い方たちにとっては非常に分かりづらいもの。

それらはどこかの専門委員会か何かがオフィシャル認定しているわけでもなんでもなく、世界中のどこかの誰かが言い始めた用語が、巡り巡って徐々に根付いていったというケースが多いものです。そのため、同じものを指し示していたとて、世界中で色々な呼称が飛び交っているものも少なくありません。
特に非英語圏である日本は、やはり英米を中心とした英語圏とは少しばかり用語が異なることもあるんですが、そこは世界随一のレコード研究先進国、ここ日本が世界標準になっていることもまた多いのです。

みなさんはIsland Recordsで70年代後半から80年代初頭にかけて採用されていたラベル・デザイン、「Day & Night」というものをご存知でしょうか? 実はこの呼称を生み出したのは……何を隠そうこの私なんです。
正直言って証拠という証拠もないので眉唾っぽい話ではありますが、私が2000年代初頭に使用して以降、世界中に広まった呼称であることは間違いありません。いや、たぶん……。

ということで、今回はそんなふうに世界中で日々生まれているであろう、レコード専門用語を少しだけ解説させていただきましょう。なお、今回は数多存在する専門用語の中でも、初版特定において重要度の高い用語でありながら、非常に分かりづらくて困っている人も多い、いわば初見殺しの用語を中心にセレクトしました。

わかりやすいようにできるだけ画像も揃えましたので、見て楽しい読んで詳しい、そんな話になっていれば幸いです。ではご一読ください!

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

 

フラット・ラベル

ではまず初めに、今回ご紹介する用語の中でもとりわけ分かりづらく、私も実際に過去幾度となく質問を受けてきた用語から解説していきましょう。

フラット・ラベルとはラベルの形状に由来した用語で、その名の通りラベル面がフラットに、つまり平らになっているものを指しています。ただ、この用語が使用されるレーベルは限定されるもので、基本的にはPolydor関連のレーベルに限定して使用されています。なお、Polydor関連とは、本体のPolydorの他、The Whoやジミヘンの名作群を残したTrack Recordや、クラプトンでお馴染みRSO Records等が挙げられるでしょう。

そして上の画像が件のフラット・ラベルです。一口にフラットと言っても少しバリエーションがありますが、特に分かりづらく問題となるのはこの画像のタイプのものです。このラベルはご覧の通りDerek & The Dominosの名作『Layla And Other Assorted Love Songs』(UK Polydor / 2625005)のものですが、この作品はフラット・ラベルであることが英1stプレスの条件となります。

では、続いて本作の英2ndプレスにあたるラベルを確認してみましょう。以下写真は別作品のラベルにはなりますが、そのタイプ(形状)自体はまったく同じです。

 

レコにまつわるエトセトラ(3)

 

どうでしょうか? 違いが分かりますか? 正直、写真だとかなり分かりづらいところがミソで、それがまた皆さんを惑わすワケです。これは俗称「凸ラベル」と呼ばれるものですが、時には「ノン・フラット」とも呼ばれたりと、ここ日本でもその呼称自体は特に定まっていません。

ではもう一度上図をご覧ください。ラベルの縁の部分に円周上に白い文字が見えると思いますが、そこが凸型に膨らんでいるのが分かるでしょうか? これこそが「凸ラベル」と呼ばれる所以で、フラット・ラベルよりも一世代後のプレスとされています。

こうやって見比べたり、なんなら実物を触ったりするとまだ分かりやすいのですが、その字面だけで判断しようとすると足元すくわれちゃいます。というのも、フラットのほうもラベルの縁には段差が見えますよね? 凸ラベルと比べてフラットなだけで、ラベル面全てがフラットというワケではないんです……と書いててもワケ分からなくなってきますね!
とにかく細かいことを気にし出すとキリがありませんので、これはこういうものとして覚えて帰ってください。

そしてここで追い打ちをかけるかのように、さらに頭をこんがらがらせる話をしておきましょう。
RSO Recodsからリリースされた、エリック・クラプトンの名盤『461 Ocean Boulevard』(UK RSO / 2479118)。こちらは74年リリースということもあり、凸ラベルが1stプレスになります。マトリクスも色々とバリエーションがあって、初回となる「A//1 B//1」は高い人気を誇っています。
そしてそんな本作にもフラット・ラベルが存在しちゃいます。ただ、プレス時期を示すマトリクス等とのデータと突き合わせていくと、フラットであっても初期プレスというわけではなさそうです。そのことからも、このケースではフラットか否かが、上記のようにプレス時期を決定付けるものではなく、あくまでプレス・バリエーションに過ぎないということが分かるのです……。んー、ややこし過ぎますね!

 

“コーティング”に“テクスチャー”、どちらも“フル”でないものがあって…

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

ちなみにこれはフロント・コートの通常版です。


フル・コーティング・スリーヴ

次にご紹介するのは、フル・コーティング・スリーヴ、ちょっと略してフル・コートとも言います。そしてここでのポイントは、その「フル」というワードです。

ではまず上の写真をご覧ください。こちらは言わずと知れた歴史的名盤、The Jimi Hendrix Experienceのデビュー・アルバム『Are You Experienced』(UK Track Record / 612001)です。
本作の英1stプレスのジャケットは、「フロント・コーティング」と呼ばれる、ジャケット前面にのみコーティングが施されたものになります。ただ、かなりプレス枚数は少ないですが、裏面にも同じくコーティングが施された、今や中古市場ではすこぶる高値で取引されているレア・バージョンが存在します。
そしてそれこそが、まさにフル・コートと呼ばれるものです。つまり、通常はジャケットの前面等の一部分だけなのに、全体にも同じ加工が施されている、そんな時にこの枕詞「フル」が使われるという寸法です。

また、類似例として、本記事のトップ画像でもあるデヴィッド・ボウイ『Hunky Dory』(RCA Victor / SF 8244)も挙げておきましょう。本作の通常の英1stプレスは、コーティングのないマットなスリーヴなのですが、レア・バージョンとしてフロント・コート仕様が存在しています。ただこんな場合は「フル」は付かずに、単にコーティング・スリーヴ(・バージョン)なんていう感じで呼ばれます。分かります?

なお、そんなコーティングのありなしが、1stプレスの条件になってくるものも少なくありません。例えば、Cream『Disraeli Gears』(UK Reaction / MONO:593003 / STEREO:594003)は、フル・コートが1stプレスで、フロント・コートが2ndプレスとなります。
ただ、Black Sabbath『Paranoid』(Vertigo / 6360011)はちょっとイレギュラーで、コーティングなしが1stプレスで、外面コーティングありが2ndプレスとなっています。このパターンは結構珍しいといえば珍しいのですが、つまるところ、全ては作品ごとの判断が必要となるワケです。

 

レコにまつわるエトセトラ(5)レコにまつわるエトセトラ(6)

 

フル・テクスチャー・スリーヴ

また現れた「フル」シリーズ、今度はテクスチャー・スリーヴです。これもフルと呼ばれるからには、通常版よりもテクスチャー面が増えていることを指し示しているワケですが、少し混同しやすい一枚を例に挙げてみましょう。

Yes『Close To The Edge』(UK Atlantic / K50012)は、フル・テクスチャー・スリーヴであることが1stプレスの条件とされています。ただ、ここでのポイントは、本作がゲイトフォールド・スリーヴ(見開きジャケット)であるという点です。
上の2枚の写真をご覧ください。見開きの外側とその一部分を拡大した写真になりますが、その表面にテクスチャー(シワ加工)が施されているのがお分かりいただけると思います。ただ、ジャケットの外側、つまりジャケットの前面と裏面のどちらにもテクスチャーが施されているので、フル・テクスチャーだな……というのは早合点です。

本作のオリジナルの条件を満たした盤が入っているジャケットは、外側だけがテクスチャーとなっているものと、さらに内側もテクスチャーとなっている、つまりフル・テクスチャー仕様となっているものの2種類が存在しています。

では、ジャケット内側の写真をご覧ください。

 

レコにまつわるエトセトラ(7)レコにまつわるエトセトラ(8)

 

しっかり内側までテクスチャーが施されていますよね? このように見開きの場合は外側・内側どちらもテクスチャーとなって、初めて「フル」という冠が付くのです……。あー、ややこし……。

ではちょっとここでフルのくだりからは少し離れて、他作品のテクスチャーの例をご覧いただきましょう。

 

“テクスチャー”の種類にもバリエーションが

 

レコにまつわるエトセトラ(9)

 

Soft Machine脱退後のロバート・ワイアットを中心に結成されたグループ、Matching Moleのデビュー作にして、カンタベリー・シーンの記念碑的アルバム『Matching Mole』(UK CBS / S64850)です。上の画像だと分かりづらいですが、初期プレスの中にもジャケットが2種存在しています。少し色味の濃い右側が1stプレス、そして左側が2ndプレスとなるのですが、少し拡大して見てみましょう。

 

レコにまつわるエトセトラ(10)

 

右側の1stプレスのほうには、細かくニョロニョロとしたテクスチャー加工が施されているのがお分かりでしょうか? こういった1stプレスにだけ加工が施されたものを俗に「初回テクスチャー仕様」なんていうふうに表現したりもします。なお、これらの中に入っている盤のラベルは同デザインになりますが、テクスチャーのもののほうがマトリクスも若く、1stプレスであることを裏付けています。

今ご紹介したYesとMatching Moleを見ただけでも分かるように、テクスチャーとは表面加工の総称で、その加工の施され方は千差万別。コーティングとは異なり、ありなしだけの話じゃないんです。
ここでピンと来た方はかなり察しが良いですが、つまり1stプレスも2ndプレスもテクスチャー・スリーヴ、でも加工のタイプが違う、そんなタイトルもあるんです。そうなると、ただテクスチャーと呼ぶだけでは言葉足らずとなるワケです。

画像がなくて申し訳ないのですが、その例としてジョニ・ミッチェルの言わずと知れた名作『Blue』(UK Reprise / K44128)の英盤を挙げさせていただきましょう。本作の1stプレスと2ndプレスは、盤のラベルは同デザイン、そしてジャケットも同じくどちらもテクスチャーです。ただ、その加工が違うのです。
1stプレスは絹目のような細かいテクスチャーが施されているのに対して、2ndプレスは粗く斑点状(?)のテクスチャーとなっています。これ大事。

他にもテクスチャーって色々と種類がありますので、最後にKing Crimson『In The Wake Of Poseidon』の例を写真とともにお送りしましょう。

 

レコにまつわるエトセトラ(11)

雰囲気のある荒っぽいテクスチャーが魅力の英1stプレス。

 

レコにまつわるエトセトラ(12)

きっちりとした絹目加工が施された、70年代中頃プレスの英盤。

 

レコにまつわるエトセトラ(13)

テクスチャーに加え、ビカリと輝くラミネート加工が施されたニュージーランド盤。

 

とある日の店頭で、商品カードを片手に「これってどういう意味ですか?」と聞かれたのですが、見るとそこには「Bなし」と書かれていました。私も「え? Bなし?」とまったく意味が分からず、そのお客様と頭を捻ること30分……一向に解決しませんでした。
その翌日、「Bなし」と書いたスタッフが分かったので聞いてみると、「バーコードなしのジャケのことだよ」と言うわけです……いやいや、さすがにそれは分からんでしょ!?

それは極端な話としても、とにかく専門用語って分かりづらいものです。でも、レコード屋で実際に見たり触ったりすると分かりやすいですし、もちろんスタッフに聞けば色々と教えてもらえるでしょう。
そう、レコードというすこぶるアナログなフィジカル・メディアを100%楽しむには、やっぱりフィジカルな体験がピッタリくるものなんです。さぁレコ屋へ行こう!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千