弾き語りがグングン上達する!! ボーカルレッスンノート VOL.7 声の“当て方”を身につける【Go!Go! GUITAR プレイバック】


解説/石田匠

ボーカルレッスンノート VOL.7(1)
 

 声を“当てる”というのはイメージの話でもあるんですけど、たとえば音程の低い声を出すときに、声が奥に引っ込んでしまって音が埋もれているように聴こえる人がよくいます。僕はもともと声がこもりがちで、昔はあまり低くない音でも声が引っ込んでしまっていたので、必然的に曲の音程をどんどん上げることになり、ノドを締めてギリギリの音程で歌っていた時期がありました。
 そこで、歌についていろいろと勉強していく中で、鼻(鼻腔)を振動させることを意識しながら歌うようにしたんです。すると低い音でもエッジが出て、聴こえやすい声、前に出る声を出せるようになりました。このように鼻を振動させる、つまり声を“鼻に当てる”方法を知ってから、低い音程も出せるようになってずいぶん救われましたね。
 歌い手にとってのバイブル『うたうこと 発声器官の肉体的特質 -歌声のひみつを解くかぎ-』(フレデリック・フースラー著)は、声を“当てる”ということを医学的に解説している本なので、興味がある方はぜひ見てみてください。最終目標は、お客さんを振り向かせるための自分の良い声を探すということ。ここは力強く響かせるとか、ここは優しくとか、低い音から高い音までバリエーションを持つために、声を当てるイメージってすごく重要なんです。それによって声をデザインするということですね。

 

ボーカルレッスンノート VOL.7(2)

 

 周波数帯域を変えられるイコライザーってありますよね。1kHzとか2kHzという一番耳に残る音域(中~高音域)は、鼻に当てたとき声に反映されます。このように、声を当てる場所を変えることで声質を変えられるんですよね。
 声を当てる場所は他にもあって、鎖骨(胸)あたりで声を響かせるイメージを持つことで、太く広がりのある強い声を出すことができます。
 あとは、高い声はよく頭頂部を上から引っ張られるイメージで出すと言われます。ヘッドボイスとかファルセットと言われる高い音です。さらに上に引っ張られるイメージだけではなく、下からも引っ張られるイメージで声を出すと、音像がより大きくなります。これは声の当て方というよりは、鳴らし方に近いのですが。
 もちろん人それぞれ声は違うので、鼻声というか鼻に当たりすぎて声がキンキンする人は、少し後ろに当てるイメージを持って、倍音を響かせるのもいいだろうし、逆に声が後ろ目でこもっている人は鼻に当てるイメージが有効だと思います。声にパンチがない人は、響かせるというイメージを持って鎖骨に当ててください。
 たくさん声を出して、自分の声はどういう状態で、ここに当てたらこういう声がするんだということを知っていきましょう。声を当てるというのは、イメージ的な要素が多分にあります。鎖骨に声を当てるといっても、鎖骨だけが響いているわけではありません。ただ、そのイメージと連動して声質も一緒に変わっていくことを実感できれば、歌は進歩していくと思うんです。

 

ボーカルレッスンノート VOL.7(3)

 

ボーカルレッスンノート VOL.7(4)

 

 鼻の周りの骨内に“副鼻腔”と呼ばれる空洞があるのですが、その空洞が鼻水などで埋まっているときは声が全然鳴りません。僕はちくのう症(炎症によって副鼻腔に膿が溜まること)気味なので、鼻をかんで完璧に鼻が通っている状態を確認してからでないと歌い始めません。昔はそれに気付かずに、“今日は声が前に出ないな”と思いながら、鼻が詰まった状態で無理にエッジを出そうとしていました。するとノドを締めたり、潰したりしてしまうんです。
 鼻が通っている状態にしておくと声の鳴りは格段に良くなり、低い音を出すときも声がこもらなくなります。左右どちらかが詰まっている人も多いですが、両方が通っているのがベストです。だから僕はノドのケアも当然ですが、鼻の状態に気をつけています。鼻が詰まっているときは、声を当てても鳴らないから意味がないんです。

 

ボーカルレッスンノート VOL.7(5)

 

1.声を出しながら鼻をつまむ/離す

 生徒にもやらせるんですけど、声が鼻に当たっているかどうかをチェックする方法は、手で鼻をつまんで「He~」と鼻にめがけ当てるイメージで声を出します。そのときに、鼻がムズムズする感じがあれば声が当たっている証拠です。ただ「He~」と口から発音するだけだと、鼻をつまんでいてもつまんでいなくても声は変わりません。鼻に声が当たっていると、鼻をつまんだり離したりすると音が変わるんですよね。ぜひチェックしてみてください。 

 

ボーカルレッスンノート VOL.7(6)

 

2.「i~e~」で声を伸ばしながら鳴っているポイントを掴む

 「i(イ)」から「e(エ)」へと音を伸ばすとき、声を鼻に当てるポイントを確認できます。なるべくロングトーンで「i~e~」を繰り返し発音してください。大切なのは鳴っているポイントが上がっていく感じを掴むことです。出来るようになったら、次は息をあまり使わず最小限の息で一番大きく鳴るポイントを探していきましょう。これを知ることにより、ラクに大きく鳴らせるようになっていきます。

 

ボーカルレッスンノート VOL.7(7)

 

3.手に動きをつけることも大事

 平井 堅さんは高い音程の声を出すときに手を挙げますよね。学術的なことは置いておいて、高い音を出すときに手を上げると“高い音が出る”という意識になるので、とても有効なんですよ。あと僕は歌いながら、手を前に出す動きをよくします。これは、音程が低くなっても、声がノドの奥に引っ込まないよう前に出すイメージをしているんです。練習のときも、高い音のときは手を上げて、声を前に出すときは手を前に出す動作をしておくと、いざ歌うときにその動きと連動して声がしっかり出るようになります。身振り手振りで体に覚え込ませることはとても大事です。

 

ボーカルレッスンノート VOL.7(8)

 

日常生活の中でできる声の当て方​​​​​​​

 ご飯を食べに行ったときなど、僕は普通の話し声で注文するとだいたい周りの雑音にかき消されて聞き返されます(笑)。そんなときは話し始めに「n(ン)」とか「e(エ)」を入れます。これは鼻にかけた鼻濁音を少し入れて、次の言葉が聞き手に入って来やすくなる効果があります。他にも、子供と話すときはなるべくエッジのある声にしたり、授業中も声を当てる場所を変えて、生徒たちの気を引く声にしています。このように、声を当てるという動作は日常生活の中でも取り入れることができるので、ぜひ意識してみてほしいです。

ボーカルレッスンノート VOL.7(9)

 


 

■INFORMATION

PROFILE

石田匠

(いしだ・たくみ) 1973年生まれ・B型、広島県出身のシンガーソングライター。産まれた時からハスキーな泣き声に、両親が驚いたという。中学時代から80年代洋楽を入り口に、ロックを聴いて育つ。1998年、バンド『The Kaleidoscope』でメジャーデビュー。2004年、ササキオサム(MOON CHILD)とのユニット『Ricken’s』に参加。30代半ばになり自身のボーカルスタイルに限界を感じ、歌うことを一から見直すことになる。「気持ちよく歌うためには?」ということをいつも考えている。現在はソロアーティスト『石田匠』として活動中。同時にインストラクター、楽曲提供、コーラスなども行っている。www.kowanebito.jp

 

(Go!Go! GUITAR 2015年12月号に掲載した内容を再編集したものです)

 


 

Edit:溝口元海