ビッグイニングにつながる“魔曲”や独自のチャンステーマ、ジャズにラップ。高校野球応援の名物曲を一挙紹介!

▲曲目ボードを掲げる敦賀気比高校野球部。いつもの甲子園が戻ってきた

 

阪神甲子園球場にて3月18日に開幕した第94回選抜高等学校野球大会。久しぶりに吹奏楽部の応援が鳴り響くスタンドで流れる有名曲を“高校野球ブラバン応援研究家”として活動する著者が紹介。

連日熱戦が繰り広げられている選抜高校野球大会。「奏者は50人以内」「奏者同士の距離を十分取る」などの条件付きではあるが、3年ぶりに吹奏楽部の応援がOKとなり、久々の生音が甲子園いっぱいに響き渡っている。

アルプススタンドからは『サウスポー』や『狙いうち』『ポパイ・ザ・セーラーマン』『アフリカン・シンフォニー』など、おなじみの定番応援曲や各校のオリジナル曲など、バリエーション豊かな曲が流れているが、野球の強豪校には球場を沸かせるさまざまな名物曲がある。野球ファンにも人気の高い、有名曲を紹介しよう。

開幕戦を制した浦和学院(埼玉)の代表曲といえば『浦学サンバ』。今大会は感染対策で大声での応援が禁止されているため、曲間に入る「GO!GO! LET’S GO! 浦学!」というコールはできなかったものの、3年ぶりの演奏が許されたアルプススタンドを軽快で明るいサンバのリズムで明るく彩った。

 

高校野球応援有名曲(1)

▲開幕戦で『浦学サンバ」を演奏する、浦和学院高校吹奏楽部
 

今回の出場校で多くの野球部員からの支持を集めるオリジナル曲といえば、大阪桐蔭(大阪)の『You are スラッガー』ではないだろうか。

同曲が誕生したのは2012年のこと。同校吹奏楽部総監督の梅田隆司氏からの依頼で、作曲家の杉本幸一氏が作った曲だ。4、50代の吹奏楽部出身者なら、1988年の全日本吹奏楽コンクール課題曲『カーニバルのマーチ』の作曲者といえばわかるのではないだろうか。あの、サンバホイッスルが鳴り響く、名課題曲を手がけたのが杉本氏だ。

主に強打者の打席で演奏されることもあり「大阪桐蔭みたく強くなりたい」と、同曲に憧れる高校球児たちは多い。

どっしりと威圧的なメロディで、相手をたたみ掛けるように攻撃するのが天理(奈良)の『ワッショイ!』。アルプススタンド全体から一斉に「ワッショイ!」というかけ声が響きわたるのがおなじみの光景だ。一般のファンも、みなこの応援を一緒にやりたいため同曲を演奏しないと「なぜ『ワッショイ!』をやらなかったのか?」と学校に電話がかかってくるという。

大会2日目、延長13回タイブレークの“死闘”を制して長崎日大(長崎)に勝利を収めた近江(滋賀)のチャンステーマが、ピットブルの『Fire ball』だ。

野球部が「今日の主役はどこですか?」と問いかけ、一般生徒が「近江高校!」と応えるという野球部考案のラップ部分の歌詞が秀逸で、早くも名物曲となっている。

木更津総合(千葉)とのタイブレークに惜しくも敗れたが、延長戦で何度も鳴り響いていた山梨学院(山梨)のチャンステーマ『BIG WAVE』は、同校野球部が最も盛り上がる曲。野球部OBのシンガーソングライター・伸太郎氏が手がけた曲で、2013年に野球部監督に就任したばかりの吉田洸二監督から「ランナー2塁のチャンス時に得点が取れるような応援曲を作ってほしい」と依頼されて作った曲で、2014年のセンバツより使用。夏にまた甲子園に響き渡ることを期待したい。

 

高校野球応援有名曲(2)

▲スクールカラーに合わせて、赤いクラリネットで応援する広陵高校す吹奏楽部


 

ビッグイニングにつながる“魔曲”

 

高校野球ファンの間で“魔曲”として知られるのが、智弁和歌山(和歌山)の『ジョックロック』だろう。

『ジョックロック』とは、かつてヤマハのミュージックソフトにサンプル音源として収録されていた曲。同校教頭で吹奏楽部初代顧問の吉本英治氏が「フレーズごとに掛け声が入れやすそう」と1998年頃に応援曲に取り入れ、2000年夏から甲子園で演奏するようになった。攻撃中に「ジョックロック」を演奏すると、それまで押さえ込まれていた打線に突然連打が生まれたり、あるいは相手に信じられないエラーが発生したりと、なぜかビッグイニングにつながるため高校野球ファンの間で、“魔曲”と呼ばれるようになった経緯がある。

“美爆音”のキャッチフレーズで知られる習志野(千葉)の名物曲といえば、『レッツゴー習志野』だ。1975年同校吹奏楽部OBの根津嘉弘氏が作った曲で、当時から応援に使っていたという「ドンドン・ドドドン・ドドドドン Let’s Go!」というリズムをそのまま使うこと。「習志野」という掛け声を入れること。そして「習高らしく元気のいい曲を」という3点を心がけて作ったという。

曲間で「ならしのー」という掛け声が入り多くの習志野市民が一緒に歌える、もはや市民歌のような存在といってもいいだろう。

秋田県で多くの学校が野球応援で演奏する『タイガーラグ』は、ジャズのスタンダードナンバー。70年代に秋田商業(秋田)が使い始めて県内に広まっていったという、ご当地応援ソング的な存在だ。速めのテンポで演奏する学校が多い中、元祖の秋田商業は楽譜に忠実にゆったりめのテンポで演奏している。

龍谷大平安(京都)の『あやしい曲』は、冒頭のリズムがラヴェルの『ボレロ』を思わせることから、高校野球ファンの間では『あやしいボレロ』とも呼ばれる人気曲。重々しく威圧感のある曲調でたたみかけ、対戦相手も思わず不安な気持ちになりそうだ。

東邦(愛知)が使う『SHOW TIME』(湘南乃風)は「S・H・O・N・A・N 湘南」という冒頭の歌詞を、「T・O・H・O TOHO 東邦」と校名を入れてコールして大人気に。今では多くの学校が応援に取り入れている。

このように、オリジナル曲からジャズのスタンダードナンバー、既成曲にコールを取り入れてアレンジするなど、各校独自性を出そうとさまざまな工夫をしている高校野球応援の世界。アルプススタンドから聴こえてくる音楽にも耳を傾けると、観戦がますます楽しくなるので、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。

 


 

Text&Photo:梅津有希子

 

【関連記事】

TOP_980.jpg
甲子園のブラバン応援でNGの楽器とは!? 意外と知らない野球応援のヒミツ

 

ms1909_chiben_980.jpg
イチローの心も揺さぶった“魔曲”「ジョックロック」を奏でる智辯和歌山の応援力

 

TOP_980_copy.jpg
甲子園に響く『アフリカン・シンフォニー』の謎。野球応援とニュー・サウンズ。

 

TOP_980.jpg
2年連続採用のセンバツ入場行進曲『パプリカ』、去年と今年の編曲はどう変わったのか?

 

TOP_980.jpg
史上初のリモート応援にも挑戦!花咲徳栄高校吹奏楽部の感染症対策

 

TOP_980.jpg
甲子園でも大人気!「パワプロ」曲はどのようにして作られているのか?