【レコにまつわるエトセトラ】レコード専門用語辞典 part.2 〜 いくらでもある!続・初見殺しの難解用語解説【第34回】


近年また盛り上がりを見せつつある、レコード/アナログ盤。リアルタイムで再生メディアとしてレコードと接してきた世代だけではなく、CDやカセットすらも馴染みのない若い世代の人たちからも“新鮮”なものとして受け入れられているようです。

そうした流れの中でこの世界の魅力をよりディープにお伝えするべく始まったのが、本連載【レコにまつわるエトセトラ】。ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏を水先案内人に、入り口から底知れぬ深淵に至るまでを旅しましょう。

第34回のテーマは、“レコード専門用語辞典 part.2 〜 いくらでもある!続・初見殺しの難解用語解説”。専門店ではまるで当たり前のように使われていながら、ビギナーや門外漢には全く意味不明だったり、コレクターですらも実はよく意味が分かっていなかったりする“レコード専門用語”を前回は解説しました。

とはいえ、1回だけでは収まりきらないほど、そういった言葉は存在するもの…。続編となる今回は、意味を知っておくとレコード探しがより楽しくなる用語から、気になり始めると底なし沼に足を踏み入れてしまうような知識までご紹介していきます。

魅力的なものから珍品まで…“別ジャケ”の世界

 

レコにまつわるエトセトラ(1)

 

前回の記事を書いていて改めて思ったんですが、レコード業界って、よくもまぁこんなにも分かりづらい用語が揃ったものです。もちろんどんな業界でも専門用語はあるものですが、専門用語というよりも「これってほとんどスラングじゃないですか?」っていうレベルのものが多い気がします。

そしてかくいう私も、すでにその文化に染まりに染まってしまっているということもあり、普段から何の気なしに、そんなレコード・スラングをペラペラと流暢に喋ってしまっています。でもそれって、ただでさえ最高に分かりづらいレコード業界への新規入門者を遠ざけてしまう恐れもあるのです。

まぁとはいえ、字面だけで分からない用語なんて世の中いくらでもあるもので、今さら「使うのをやめましょう!」なんて言うこともできません。それに、いちいち説明臭い呼び方をしたところでまどろっこしいですし、第一なんだかクールじゃありません。

遡ること、レコード最盛期。アメリカでは新品を中古として、いわば新古品として販売しようとする時なんかに、その目印としてジャケットに無理矢理気味に穴(綺麗な丸じゃなくてバリが出てる感じ)を開けるという、今では許し難い所業が行なわれていました。

そしてその穴というか、今言ったくだりを総称して「ドリル・ホール(略してDH)」という専門用語で呼ばれているんですが、知っている方にとってはいちいち全部を説明するより、ドリル・ホールと言われたほうがスマートで分かりやすいんです。まぁもちろん、用語を正しく知っていればという話ですけどね……。

ということで今回も前回に引き続き、ちょっとクセのあるレコード専門用語を解説させていただきます。本当は前回まとめてお話ししようかと思った分なんですが、ひとつひとつ掘り下げていたら止まらなくてはみ出しただけなんですけど。まぁ少しでもお役に立てれば幸いです!

 

レコにまつわるエトセトラ(2)

これがドリル・ホールです。もっと雑で大きい穴のものもたくさんあります。

 

別ジャケット(別ジャケ)
別称:独自ジャケット、Different Cover(Sleeve)

今じゃちょっと考えにくい話ですが、1960〜70年代では生産される国によってアートワークが異なっているケースも少なくありませんでした。そしてアートワークだけではなく、収録曲自体を変えてみたり、独自に編集したベスト盤を作ってみたりと、なにかと自由が利いたおおらかな時代でもありました。そうして生まれた途方もないバリエーションは、現代のコレクターたちをどこまでも広がる魅惑のレコード魔境へと誘っていくのです……。

そんなこんなで、本国盤とは異なるアートワークが採用されたジャケットは「別ジャケ」と呼ばれています。また、言い換えとして「独自ジャケ」なんていうふうにも呼ばれていますが、どちらもその生産された国名と組み合わせて呼ばれることも多かったりします。例えば「イタリア別ジャケ」や、「スペイン独自ジャケ」と呼んでみたり、国を漢字にして「仏別ジャケ」なんていう呼び方もポピュラーです。

なお、日本のものは「日本別ジャケ」という呼び方はあんまりしません。「日本」を「国内」に言い換えて、「国内別ジャケ」と呼ぶほうが一般的ですが、特に深い理由はありません。ね? スラングっぽいでしょ?

 

レコにまつわるエトセトラ(3)

 

レコにまつわるエトセトラ(4)

イタリアン・プログレの雄、Unoの仏別ジャケ。元ジャケとは激しく異なります。

 

ではその実例を見ていきましょう。まずはトップ写真でもある、米サイケデリック・ロック・バンド、 The Tangerine Zooが1968年にリリースしたデビュー・アルバム『The Tangerine Zoo』の国内別ジャケです。

全然違う本国盤のアートワークは別途ご確認いただければと思いますが、素晴らしいほどにサイケデリックしているこの国内盤は、国内外問わず高い人気を誇っています。アートワークに加えて、帯の色味やフォントもさらにそのデザイン性を高めており、〇十万円というハイ・プライスにも(ある程度)納得です。

と、こんな調子で色々とご紹介するととんでもない量になりますので、残りは別ジャケの宝庫、トルコから名品をご紹介させていただきます。

数多存在するトルコ別ジャケにおいて、ロック界最高峰の呼び声高い傑作が、Led Zeppelin『II』の通称「モンスター・カヴァー」です。元ジャケなんて一切無視とも言わんばかりに、異様で気味の悪いアートワークに包み変え、その抗い難い魅力から市場価格も高騰を続けている、まさに「怪物」という形容がピッタリの一枚です。手持ちに写真がなくて申し訳ないですが、ちょっとググればご覧いただけますので、ぜひ一度チェックしてみてください。

 

レコにまつわるエトセトラ(5)
 

レコにまつわるエトセトラ(6)

 

そしてこちらがもう1つのモンスター・カヴァー 、Iron Butterfly『In-A-Gadda-Da-Vida』のトルコ別ジャケです。こちらも同様に元ジャケの名残は微塵もなく、コレを見ながら聴くと曲の印象までをもガラリと変えてしまうこと請け合いです。

そしてそんな中、ある意味ではそんな怪物たちよりも恐ろしい別ジャケも存在しています。ではまず画像をご覧ください。

 

レコにまつわるエトセトラ(7)

 

レコにまつわるエトセトラ(8)

 

書いてある通り、内容はPink Floyd『Obscured By Clouds』なんですが、使用されているステージ写真をよくよく見てください……。これって、本当にPink Floydですか?

「あれ? これってまさか……」となった方も少なくないと思いますが、そう、何を隠そう写っているのはQueenのメンバーです。もちろんQueenのメンバーがPink Floydに加入したワケではありません。何がどう時空が歪んでこうなったのかは知りませんが、こういうワケワカラン珍味を楽しむのも、別ジャケのたまらないところでもありますね!

 

ジャケットの背が絞られているか否か、それが問題だ

 

レコにまつわるエトセトラ(9)


背絞り
別称:ピンチド・スパイン(Pinched Spine)
 

これはなかなかの難解用語です。「背」とはジャケットの背(スパイン)のことで、それを絞っている(ピンチ)という意味ですが、なんじゃそりゃっていうのが普通の反応です。

では、上の画像をご覧ください。これはBad Companyの『Straight Shooter』の英オリジナル盤になりますが、ジャケットの製造工程上の理由もあって、こんな感じで背の上下がギュッと絞られています。だからなんだっていう話ですが、ここでのレコード・ジャンキー的ポイントは、同作品でも絞りの有無が存在するケースがあるということです。そしてそれらは単なるバリエーションということもありますし、初版の要件になることもあります。

このままではまだまだ分かりづらいと思いますので、今度はこちらをご覧ください。

 

レコにまつわるエトセトラ(10)

 

こちらは同じく『Straight Shooter』の英オリジナル盤なんですが、今度は背絞りがないのがお分かりいただけると思います。ではさらに複数枚同時に見てみましょう。背絞りを探せ!

 

レコにまつわるエトセトラ(11)

 

ご覧の通り、背絞り「あり」が1枚、「なし」が3枚です。これらはすべてジャケット以外、つまりラベル(カスタム・ラベル)とマトリクス(MAT:1U/1U)は同じものです。あ、一応マザーとスタンパーは違いますけど。なお、「なし」3枚の色味の違いは、日焼け等の経年劣化に由来するものなので、同じものと思ってください。

そしてこの4枚並んだ絵面からお察しかもしれませんが、この作品に関しては背絞り「あり」のほうが希少度が高いです。ただ、ここでの背絞りの有無はプレス時期と関係しているわけではありません。あくまでバリエーションと思ってください。

 

レコにまつわるエトセトラ(12)

この写真のものは見た目でも分かりやすいですが、やっぱり触ったほうが早いです。

 

なお、単なるバリエーションではなく、背絞りの有無が初版の要件となるケースもあります。そしてその例として挙げておきたいのが、Pink Floyd『Wish You Were Here』です。なぜこの作品を挙げたかったかと言うと、英盤では目指しくシュリンクラップに包まれているからです。

ロックのレコードを嗜んでいる方にはお馴染みなんですが、本作は通常のジャケット(燃えてる人が握手を交わしている白いヤツ)をシュリンク(丸いステッカーが貼り付けられた黒いヤツ)が包み込んでいます。いわゆる後発盤になるとシュリンクが付かなくなるんですが、シュリンク付きの初期タイプのジャケでも、背絞りの有無で2種類が存在します。

しかも、本作においては背絞り「あり」のほうが生産時期が早く、初版の要件となり得るっていうところがポイントです。別にシュリンクが付いていたら初回でも良いんですが、初回要件をストイックに突き詰めたい場合は、背絞りの有無も問われちゃうという寸法です。

まぁちょっと私も曖昧な言い方をしていますが、それはというのも、どこまでコダワルかによってその辺りは変わってくるということなんです。あしからず。

そしてそんなコダワリな方に向けてのアドバイスもしておきましょう。本作のジャケがシュリンクに包まれていた場合、目視で背絞りの有無を確認することが難しくなります。もちろんシュリンクを外すわけにもいきませんし、どうしたものか……というところですが、解決策はいたってシンプル。そんな時は手でつまみながら撫でるようにして、絞りの有無を確認してみましょう。あくまで優しくですよ!

プロのロック・バイヤーともなれば、本作のシュリンク付きを見るや否や、即座に両手が定位置に付きます。左手は背部分に動き絞りの有無をノールックで確認、そして右手は盤面他を取り出して目視でチェックというように、一切がよどみなく流れるような動きをみせていきます。これぞ職人。

 

知れば知るほど楽しくなる…そしてさらなる深みへ

 

レコにまつわるエトセトラ(13)

 

ワイド・スパイン(Wide Spine)

ついでになりますが、最後にそんなスパインの人気バリエーションのひとつ、「ワイド・スパイン」も解説しておきましょう。

このワードを有名にしたのも、みなさんご存知の歴史的名作、The Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』になります。上の画像をご覧いただければ一目瞭然、背の太さが倍ぐらい違うのがお分かりいただけるでしょう。この作品に関しては、通常とワイドに生産時期的な前後はなく、いずれも初版のものとされています。ただ、ワイドのほうが希少度は高く、そのインパクトのある見た目からもより高値で取引されています。

ちなみに余談ですが、ここからは上級者の方に向けての私からの問いかけです。あくまで上級者向けとなりますので、専門用語の解説は割愛させていただきます。すいません。

本作の英初版のジャケットには、ワイドの他にも多くのバリエーションが存在しており、中でも「Fourth Proof」、「Patents pending」が代表的でしょう。がしかし、そのビジュアルの派手な違いにも関わらず、なぜかコレクター界隈でも素通りで話題にされていないバリエーションがあるんです。そんな細かいクレジット違いとかではなくて、もっとデデンッとある部分の写真が違うんです。私も今までに何人かのコレクターの方に聞いてみたんですが、「初めて聞いた」の一点張りです。

私的に「Red Eye」と呼んでいるこのバリエーション、私もその存在に気づいてからまだ1枚しか見たことがありません。その時に撮った写真もあるんですが、レコード市場への影響も鑑みて、今の時点では掲載を見送らせていただきます。もう少し調べさせていただいて、個体数やその出自がある程度クリアになってから発表したいと思っているワケです。

だからこそ、みなさんから少しでも多くの情報をいただければうれしいなと思っています。「そんなんとっくに知ってるわ!」でも、「例のヤツ写真見してよ」でもなんでも良いんで、お気軽にお声掛けくださいね! よろしくお願いします!

ちょっとサージェントに熱くなってしまいましたが、最後にワイド・スパインの一例も挙げておきます。なお、『ホワイト・アルバム』とかが特にそうですが、ワイドだからってそんなにプライスに反映されないよっていう例(『ホワイト・アルバム』は他に優先される要素が多すぎるんです)もありますので、こんなのもあるんだーぐらいの感じでご確認ください。

▼以下全て英初版です。
 

The Beatles『The Beatles』(=『ホワイト・アルバム』)

Paul And Linda McCartney『Ram』

Kate Bush『Lionheart』

The Who『Quadrophenia』 ※これはただでさえ広めの背がさらに広いので、「スーパー・ワイド・スパイン」とも呼ばれています、って私が言い出しただけなんですけど。ちなみに細かい説明は割愛しますが、オランダ製です。​​​​​​​

 

レコにまつわるエトセトラ(14)

Soft Machineの1stの仏別ジャケ。背がかなり広めにピンチされているところも魅力の1つです。

 

2回に渡って専門用語の解説をさせていただいたワケですが、まだまだ氷山の一角も一角。しかもそのひとつひとつがまたややこしいのなんのって……。

でもこの世界って、知れば知るほどドンドン楽しくなっていくもの。最初はなんだかおぼつかない感じで使っていた専門用語たちも、いつの間にかに上手く使いこなすようになっていて、気付けばより深みへ歩を進めているものなのです。あ、それを沼とも言いますが。

ということで私としても、今後も色々な用語の話をさせていただこうと思いますが、単なる解説だけではなくて、できるだけその魅力や人気のヒミツなんかを一緒に語らせていただこうと思っています。そしてこの(ディープな)レコードの世界のガイド役として、少しでも入ってきやすいような土壌作りができれば良いな、と思っております。

とまぁそんなこと言っていますが、自分が浸かっている沼に引き摺り込んで、道連れにしようともがいているだけなのかもしれませんけど……。ではまた次回!

 

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Text&Photo:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千