【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第1回「夜トイレに行けなくなる……真夏の怪談サイケ」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による、新たな連載コラムがスタート! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第1回は「夜トイレに行けなくなる……真夏の怪談サイケ」記念すべき初回は日本初のサイケデリック・ロック・ディスクガイド『PSYCHEDELIC MOODS ‐ Young Persons Guide To Psychedelic Music USA/CANADA Edition』​​編著にも携わった氏ならではのジャンルから始まります。

なお、以下に記載のレアリティーはあくまでもオリジナル盤の希少度になります。多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。

秘密レコード_01


いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

約3年半に渡り連載を続けたコラム『レコにまつわるエトセトラ』に区切りをつけて、今月から新しい連載を始めることになりました。(レコにまつわるエトセトラについては、近いうちに展開があるかも?!)

本連載では、架空のレコード屋「Himitsu Records(秘密レコード)」を舞台に、店主である私から様々な切り口で推薦盤を紹介していきたいと思います。もちろん、ただの音源紹介というワケではなく、レコード・コレクター的豆知識なんかも盛り込んでいきたいと思いますので、引き続き蒐集家の皆さまもご一読よろしくお願いいたします!

ということで、記念すべき第1回目となる今回は、暑い夏の夜を彩る(?)サイケデリック・ロック、もっと言えば、まるで怪談でも聞いてるがごとく、一度針を落とせば思わず背筋も凍る、恐怖のアシッド・フォークをご紹介しましょう。

ちなみに、アシッド・フォークって、サイケデリック・ロックの中の小分類みたいなものなんですが、基本的に前者はバンド、後者はソロと、形態が異なっています。そのため、サウンドの性質も異なってくるのですが、アシッド・フォークはソロであるが故に、聴くのが辛すぎる剥き身の闇が収められて(しまって)いることも少なくありません。特に自主盤であれば、その傾向は強まるでしょう。

そう、ここに並ぶのはメジャー・レーベルのフィルターがかかることもなく、自室に籠り1人鈍い刃を研ぎ澄ました狂気のドキュメント。決して1人で聴かないでください……。

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Dave BixbyOde To Quetzalcoatl』(1970

レアリティー:★★★★☆☆4/6

まさに漆黒。かつてこれほどまでに暗く深い闇を捉えきった音源があったでしょうか。針を落として十数秒も経てしまえば、闇夜に1人ポツンと取り残された、そんな孤独感が瞬時に全身を包みます。
変な例えですが、その急変ぶりは、AirPods ProのノイズキャンセリングをONにした時と同じくらいです。

デイブ・ビクスビーは、アメリカはミシガン出身のアーティスト。ご多分にもれず、若かりし頃はガレージ・バンドで精力的な活動を続けるも、1つの出会いが彼の人生を狂わせます。
それが、当時のカウンター・カルチャーの一翼を担ったドラッグ「LSD」であり、その別名こそが「アシッド」です。

彼はLSDの過剰摂取により壊れてしまいますが、本作にはその精神が変容していく過程を真空パックしたサウンドが収められています。これぞ、まさに狂気のルポルタージュ。

 

F. J. McMahonSpirit Of The Golden Juice』(1969

レアリティー:★★★★★☆5/6

1960年代後半、ロック界にも大きな影響を及ぼしたベトナム戦争。ジミ・ヘンドリクス、CCR(Creedence Clearwater Revival)、マーヴィン・ゲイ等々、挙げ出せばキリがないですが、多くのミュージシャンたちは反戦を唱え、皮肉にも多くの名曲が生まれることとなりました。
しかし、そんな今でも伝説として語り継がれるような、ある種華々しく輝いたアーティストたちの裏側で、実際にその身を戦地に投じ、帰還後も後遺症に苛まれたアーティストたちの存在も忘れてはいけません。

カリフォルニア州サンタバーバラ出身のF.J.マクマホンは、アメリカ空軍の一員としてベトナム戦争の最前線に送られています。飛び交う銃弾、轟く爆撃音、蔓延するドラッグ、終わりなき戦い……。そして、生還してもなお、彼を待ち受けていたのは「心」との戦いでした。

その後、彼は自身の遺影のようなアートワークで包み込んだ本作を残しています。アルバム全体からは抑揚が欠落し、どこか虚で病的なムードが立ち込める中、低く粘り気のある(怨念めいた)声で悲哀と慈愛のメロディーを紡ぎ出しています。
戦地で仲間たちと酌み交わしたバーボン「Golden Juice」をタイトルに冠し、心の平穏を取り戻すためにも、自身の歌で戦争体験を語り継ごうとしたのです……。心してお聴きください。

 

Charles MansonLIE: The Love And Terror Cult』(1970

レアリティー:★★★★☆☆4/6

アメリカのカルト集団「Family」のグルにして、正真正銘のシリアル・キラー、チャールズ・マンソン。
彼が起こした数々の事件をここで語ることはしませんが、その狂気が生んだ人外の音楽をご紹介しましょう。

サンフランシスコのヒッピー・コミューンに溺れていた彼は、ひょんなことから出会ったThe Beach Boysのデニス・ウィルソンと親交を深めることとなります。その関係性の深さは、1968年にThe Beach Boysがリリースしたシングル「Bluebirds over the Mountain」のB面曲として、マンソン作曲の「Never Learn Not to Love(原題:Cease to Exist)」を採用したことからも明白です。
美しいハーモニーに彩られた穏やかな1曲に仕上がっていますが、それはあくまでビック・バンド、そしてメジャー・レーベルのフィルターが通された結果なのでしょう。

一方、彼のソロ・デビュー・アルバムにして、代表作となる本作『LIE: The Love And Terror Cult』は、全く異なる様相を呈しています。Familyの面々と共に録音された楽曲の数々は、軽い気持ちで聞くのも憚れるほどに、シラフとは程遠い狂気じみた音像によって形作られています。
それは、The Beach Boys提供曲「Never Learn Not to Love」の原曲「Cease to Exist」を比較試聴すれば分かりやすいかもしれません。

しかし、いつだって狂気とイノセントはコインの裏表。混沌とした楽曲が並ぶ中、冒頭1曲目に収められた「Look At Your Game Girl」ではある種、純真無垢ともいえる、痛々しいほどにピュアで美しいメロディーが歌われています。そして、私たちはその美しさにこそ背筋が寒くなるのです……。

 

Mick StevensSee the morning』(1972

レアリティー:★★★★★★6/6

最後にご紹介するのは、イギリスが生んだ夭折のサイケデリック・フォーキー、ミック・スティーヴンスのデビュー・アルバムです。
多幸感溢れるヴォーカリゼーションと、多層的に組み上げられた幻惑的なアレンジメントが織りなす至極の名品ですが、その裏には世にも奇妙な秘密が隠されていたのです……。

本作はほんのわずか制作された私家盤で、ジャケットは彼自身の手による完全なハンドメイド。そのため、様々なバリエーションが確認されていますが、その中でも秘密を握るのは、頭部をモチーフとした禍々しくもファンタジックなアートワークが描かれたものです。
そして、そのデザインもさることながら、そのジャケットがとりわけ異様なオーラを放つのは、着色に使用された素材にこそ理由があるのです。

そう、彼はその素材の1つとして、自身の「血液」を使用していたのです。さらには、歌詞が掲載された付属のソング・ブックも、彼が血液を用いてしたためたものだったのです。

作品に文字通り心血を注ぎ込んだ彼は、その後34歳の若さでこの世を去っています。しかし、楽曲がデータ音源化を果たした今もなお、まだその時の情念がまとわりついて聴こえてならないのです……。

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千

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