開催直前!今からでも間に合う「TOKYO JAZZ 2022 NEO-SYMPHONIC! CINEMA JAZZ」の聴きどころを語る 〜ジャズ作曲家 挾間美帆インタビュー〜


3年ぶりのリアル開催が決定した、TOKYO JAZZ。
2002年に東京スタジアムで生まれた「東京JAZZ」は、今年21回目を迎える国内最大級のジャズ・フェスティバルです。今回は、東京芸術劇場とともに「TOKYO JAZZ 2022 NEO-SYMPHONIC! CINEMA JAZZ」を実施。そのプロデュースを手掛ける、世界を舞台に活躍する作曲家/アレンジャー/指揮者の狭間美帆にこのプログラムの聴きどころをうかがった。

――いよいよ公演当日が迫ってきました。挾間さんはこれまで3年間、シンフォニック・ジャズ(オーケストラで演奏されるジャズ)の新たな可能性を提示する公演をプロデュースしてきましたが、今年はTOKYO JAZZのメインプログラムとして新たな形での開催となりますね。今回のテーマである「映画音楽とジャズ」はどのように決まったのでしょうか?

挾間:わがままを言わせていただいて、私が決めました。「NEO-SYMPHONIC JAZZ」を3年前に始めたときから、ある程度テーマに沿って開催したいと考えていたので、今回もテーマは残したいなとは思っていたんです。でも、TOKYO JAZZのフェスティバル感も欲しい!……それで、よりキャッチーで目を引くプログラムにしたいと考えました。
 シネマ・ジャズというテーマは、前々からいつか取り上げたいなと思っていたのですが、ジャズっぽいシンフォニック・シネマ・コンサートとかいうと、どうしても昔から「私のお気に入りMy Favorite Things」と「二人でお茶を Tea for Two」が並んで、あとはヘンリー・マンシーニ……みたいな選曲が多かったですよね。それが悪いわけではないのですが、やっぱりアップデートしていきたいという思いが強くあるので、現在進行形の音楽を取り入れました。
 スピルバーグ版の『ウエスト・サイド・ストーリー』が(アメリカでは昨年12月、日本では今年2月に)公開になったのをみて、『ウエスト・サイド』を取り上げる機会は今しかないだろうなということもあったし、タイミングよくジョン・バティステが色々なところで大活躍して(※今年4月に発表されたグラミー賞で「アルバム・オブ・ザ・イヤー」を含む5部門受賞!)、ピクサーの『ソウルフル・ワールド』の音楽もジョンがやっているのをみて、ジャズと映画の関わりが深い2020〜2021年だったとも感じていたんです。

 

バーンスタイン『ウエスト・サイド・ストーリー』

 

――そういう意味では、プログラムの冒頭を飾る『ウエスト・サイド・ストーリー』は、今回のテーマにおいて核となる作品のひとつなんですね。

挾間:スピルバーグの作品を観た時に「そういえばこの映画ってミュージカルだった!(笑)」って思ったぐらい、途中までミュージカル映画であることを忘れちゃうんですよ。『ロミオとジュリエット』っていう王道中の王道の作品をどう音で表現するのか? キャッチーでありつつも、純音楽としてうまくでき過ぎていて、音楽の中身があまりにも強いし、音楽として完成されている。そのことが自分の中で大きいですね。
 あとはシンフォニックな部分で、コルンゴルトとかジェリー・ゴールドスミスとかにも連なるアメリカ的で華やかなオーケストレーション。それが私自身の好きな色彩感につながっていると思うので、そういう意味でも凄く尊敬している作品だと言い切れますね。バースタインの音楽がとっても偉大で、私は超ド級の傑作だと思っています。

――演奏される「シンフォニック・ダンス」は『ウエスト・サイド・ストーリー』の実質的な組曲版ですが、今回のプログラムのなかでは唯一、既にオーケストラが日常的に演奏するレパートリーになっていますね。

挾間:(技術的に)難しい曲なので力んでしまい、肩がだんだん上がってくような演奏が多いですけれど、でもそれだと音楽の真意とちょっとそぐわないことが前から気になっていて。例えば「クール」という曲を(楽譜上は2分の2拍子なのに)指揮者が(4分の4拍子のように)4つで振っちゃったりするのを観ると、ジャズの冷めた目線からするとそんなに張り切る必要があるんだろうかって思ってしまうんですよ。優等生の話じゃ全然ないし、もっともっとワルくて子どもっぽいし、もっと荒っぽい。泣く子も黙る石若駿君がいますから、引っ張っていただこうと思います(笑)。

 

鷺巣詩郎『エヴァンゲリオン』シリーズ

 

――次は鷺巣さんが音楽を手掛けている『エヴァンゲリオン』ですね。今回は演奏されませんが、挾間さんは去年公開された『シン・エヴァンゲリオン』のタイトルバックで流れる荘厳な音楽(《tema principale: orchestra dedicata ai maestri》)などもオーケストレーションされていました。プログラムに選ばれたのは、2014年の年末に発売されたエヴァのジャズ・アルバムの収録曲から、挾間さんがアレンジされた2曲です。

挾間:鷺巣さんからエヴァンゲリオンの曲をジャズ・バージョンにするアルバムを作るから、手伝ってくれっていう風にお誘いいただいたのが『THE WORLD! EVANGELION JAZZ NIGHT =THE TOKYO III JAZZ CLUB=』というアルバムなんです。レコーディングは国をまたいで録音しているので凄く豪華で、ロンドンのオーケストラと日本のビッグバンドを多重録音しているスコアなんですけれども、その中から"Welcome to the Tokyo III Jazz Club"などを東京フィルとゲストの皆さんでできる編成に書き直して演奏します。

――"Welcome to the Tokyo III Jazz Club"というタイトルでピンとこなくても、イントロ以外は「次回予告」としてお馴染みのあの曲ですね(笑)。エヴァとジャズといえば、最初のTVアニメの時からエンディングテーマがジャズ・ボッサにアレンジされた「Fly Me To The Moon」でした。

挾間:鷺巣詩郎さんはもの凄くジャズに造詣の深い方で、ご自身でジャズのクラブをパリにお持ちであったことがあるぐらいジャズがお好きなんですよ。私がお仕事させていただくようになったのは2011年、山下洋輔さんに紹介をいただいてからなのですが、最初の仕事のときにマイケル・ブレッカーとクラウス・オガーマンのアルバム(『Cityscape』)が送られてきて「あなたの役目はこれですから勉強しておいてください」って言われたんです。でも実はそのアルバムを聴き倒すぐらい聴いていたので「あ、そうですか!それならお安い御用です!」って思ったのを覚えています。

―― 一般的にいってお安い御用ではないと思いますが(笑)、趣味が最初から一致していたわけですね!

挾間:鷺巣さんの音楽は、私からすると母が好きで持っていたレコードの音がしてくる感じがして、だから自分の趣味にもセンスにもドンピシャなんです。ジャズっぽくしてくださいって言われなくても最初からそれを求められて10年間仕事をしてきているし、アレンジを依頼された曲がジャズっぽくない曲だったとしても、鷺巣さんの音楽は違うものに昇華する余地があります。そういう意味では何の苦労もなくて、いつも最高に楽しいですよ、鷺巣さんとのお仕事は!

 

ジョン・バティステ『ソウルフル・ワールド Soul』

 

――さて続いては、先ほども名前が挙がっていたピクサーの『ソウルフル・ワールド(原題:Soul)』です。挾間さんからみて、あの映画におけるバティステの音楽はどこが素晴らしいと思われますか?

挾間:心を通じて会話をするお話なので、何か心に染み入る音楽でなくてはいけないわけです。その場で忘れ去られては物語が成り立たなくなっちゃう。だから彼のバックグラウンドにもあるゴスペルっぽさがあって、ソウルフルで心に染み入る音楽になっていましたよね。それが即興であっても心に染みてくるような音楽をきちんと提供できているところが良かったと思います。そういう意味で、やっぱりゴスペルの力は強い。

 

テレンス・ブランチャード『When the Levees Broke: A Requiem in Four Acts』

 

――当日発表となる演奏曲目もあるみたいですが、公開されている曲目でいえば次が(邦訳すると)『堤防が壊れたとき:全4幕のレクイエム』というタイトルになる2006年のドキュメンタリー映画の音楽で、作曲したのはテレンス・ブランチャードです。

挾間:テレンス・ブランチャードの映画音楽といえば、やっぱりスパイク・リー監督ですよね。その中で代表作になるものを探していたら、彼がオーケストラと一緒に録音している映画作品集(2017年の『Music for Film』)があって、そこから選んだのが「Levees(堤防)」です。この曲はニューオリンズを襲ったハリケーン・カトリーナに関する、スパイク・リー監督が撮ったドキュメンタリー映画のための音楽なんです。やはり今をときめくジャズの作曲家として、どうしても取り上げたくて。

――ブランチャードは昨年10月、アフリカ系アメリカ人の作曲家として初めてメトロポリタン歌劇場(MET)でオペラが上演されて大評判となりましたね(※東京では9月末にライブビューイングでアンコール上映される予定)。挾間さんはそのオペラ『Fire Shut Up in My Bone』もご覧になってますけど、舞台作品と映画音楽におけるブランチャードの音楽にはどんな特徴がありますか?

挾間:流れの太い作曲家って言ったらいいのかな、オペラはずっとチューブで繋がっている感覚がしたんですよね。ソングはあったのか?という感じなので、ミュージカルといわれたら困っちゃう。ところがオペラとしてはうねりがあって、大きい流れで襲ってくる感覚があって凄く良かったんですよ。今回、演奏する曲も8分という長い流れがあって、気付くとこの曲に飲み込まれている感覚があります。でも、後でこの曲のメロディーを歌えって言われても、あんまり歌えないんですよね。そういう意味では凄く劇伴らしい劇伴を書く人なんだなって思っています。ご自身がトランペットという割と派手な楽器を演奏する割に、全然そういう書き方じゃないのは面白いですね。

 

ビョーク&メンドーサ『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

 

――ブランチャードの次はビョークです。ジャズのイメージはあまりありませんが、今回取り上げる『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(アルバム『セルマソングス』)は、アレンジで挾間さんがリスペクトしてやまないヴィンス・メンドーサが関わっているんですよね。

挾間:そうです。私の勝手な趣味で入れました(笑)。本当にシンフォニックジャズの現代における神様だと思っているので!

――今回はオープニングで流れる「Overture(序曲)」と、オリジナルではレディオヘッドのトム・ヨークとのデュエットで歌われる「I've Seen It All」が演奏されます。

挾間:中学生の頃、テレビのコマーシャルで「I've Seen It All」が15秒ぐらい流れたのを、たまたま掃除かなんかしている時にテレビ画面を見ないで聞いて、「何だこの音楽は!?」「なんか映画だぞ?」と驚いたんです。それで映画を観る前にTSUTAYAへサントラを借りに行っちゃって、ミュージカルで音がサンプリングされているなんてかっこ良過ぎと思って、サントラだけ聴き倒していました。その後に映画を観たので、暗過ぎてびっくりして(笑)。
 不思議なことに、やっぱり映画を観る前と後では音楽の印象が全然変わるんですよね。最初はバスケットボールの音楽で、何ならバスケの映画なんだろうかぐらいに思っていたので、そのギャップは衝撃的でした。何より15秒でそれだけインパクトが残るサウンド感が普通じゃなかった。今まで一番衝撃を受けたテレビコマーシャルだったかもしれないです。ゲストに中村佳穂さんが入ってくれるという時点で今回やるしかないと思いました!

 

岩崎太整 ほか『竜とそばかすの姫』

 

――『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の後は中村さんからのリクエスト曲である『スパルタカス』の「愛のテーマ」が続き、そして本編最後を飾るのは中村さんが声優として主人公を演じた『竜とそばかすの姫』の楽曲です。今回演奏される曲ではないですがこの映画に挾間さんも楽曲提供されていましたよね。

挾間:私はたった1曲だけで、中村佳穂さんが参加している歌の作品には全く関わってないんです。音楽が大事なミュージカル映画ってことを知らぬまま、提供した曲を書いていたので、完成した映画を観てびっくりしました(笑)。しかも中村さんの歌唱が素晴らしいだけでなく、曲自体も素晴らしくて凄く感激したので、中村さんがいらっしゃるならば是非歌っていただこうとお願いすることにしました。『竜そば』のファンの方々にも、是非とも生で聴いていただきたいですね。

 

映画音楽に興味をもった原点は「チップとデール」

 

――『竜そば』は1曲だけの提供でしたけれど、かつてNHKのドラマ「ランチのアッコちゃん」(2015/全8回)では全編で音楽を担当されていましたよね。挾間さん自身は作曲家として映画やドラマのための劇伴とどのように向かい合っているのでしょう?

挾間:今もアレンジの仕事は沢山のジャンルをやらせていただいていますが、自分がアーティストとしてデビューすることになった時に、作曲家として引き受ける仕事は、「ジャズ作曲家」として胸を張ってできる仕事だけに限るようにしたいです。それでも挾間の音楽で劇や踊りに合わせてみたいと思ってくださり、そういうチャンスをくださった皆さんには凄く感謝しています。
 だけど私自身はもともと劇伴作曲家になりたくて国立音楽大学に入ったんですよ。実際に商業音楽というかサウンドトラックを作る授業も結構取っていました。ディズニーの昔のアニメは、キャラクターが喋らずに映像と音楽だけで物語が描かれていたじゃないですか。特に「チップとデール」っていう2匹組のリスのアニメが小さい頃すごく好きで――今でもチップとデールは大好きなんですけど(笑)――、それで育ったので動きに合わせて全てがスポッティングされていることにもの凄く愛着のある子どもだったんです。多分、それはすごく今でも原点として残っていますね。今の自分のジャズコンポーザーとしてのブランドはもちろん続けていきたいですが、動きに合わせてスポッティングされた音楽も小さい頃からの夢なのでご縁とチャンスがあればやってみたいと思っています。

――今回の「映画音楽」というテーマ自体が、挾間さんにとって大事な要素であるわけですねえ。先ほどまで語っていただいたように映画音楽といっても、キャラクターも文脈も全く異なっているバラエティに富んだ曲目が並んでいるわけですが、既に中村佳穂さんや石若駿さんの名前は挙がりましたけれど、他にも黒田卓也さん、江﨑文武さん、須川崇志さんといった豪華メンバーの演奏で聴けるというのは、実に楽しみです!

挾間:今、現在進行形でジャンルを超えて活動しているミュージシャンたちも、実はジャズが凄く好きで、ジャズが原点でこういう活動をやっているんだよ!と伝えたかったこともありますし、それがTOKYO JAZZにふさわしい人選になるかなと思って、皆さんにお声掛けしました。みんなのマイ・フェイバリット・フィールドであるジャズがオーケストラと共演するという、ここでしかできないようなコラボレーションに参加していただけるということが嬉しいです。それが日本発のコンサートである意味合いも凄く大きいので、日本から自信を持って発信できるアーティストの皆さんとご一緒できるのが今から楽しみですね。

 

狭間美帆インタビュー_1

 


 

【Information】


狭間美帆インタビュー_2
 

TOKYO JAZZ 2022 NEO-SYMPHONIC! CINEMA JAZZ

https://tokyo-jazz.com/

https://www.geigeki.jp/performance/concert254/
 

日時:2022年8月19日(金)19時開演(18時開場)
会場:東京芸術劇場コンサートホール
プロデュース・指揮:狭間美帆
出演:東京フィルハーモニー交響楽団

Featuring 黒田卓也(tp)、江崎文武(p)、須川崇志(b)、石若駿(ds)
with special guest 中村佳穂(vo)※コンサート全編にわたっての出演ではありません。
 

演奏プログラム:

・バーンスタイン「ウエスト・サイド・ストーリー」より
・ジョン・バティステ「ソウルフル・ワールド」より
・鷺巣詩郎「エヴァンゲリオン」シリーズより
・ビョーク「ダンサー・イン・ザ・ダーク」より


and more

 


 

Interview & Text:小室敬幸

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