【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第4回「名曲!? 迷曲!? マイナー・カヴァー・ソング」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による、新たな連載コラムがスタート! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第4回は「名曲!? 迷曲!? マイナー・カヴァー・ソング」。これまでに数々のカヴァー曲が世に出され、場合によっては原曲以上に有名になったものもあったりします。そんな中で今回はそういった有名カヴァーよりもマニアックながらも、不思議な魅力を持った名(迷)カヴァーをピックアップしてご紹介!

なお、以下に記載のレアリティーはあくまでもオリジナル盤の希少度になります。多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

古今東西、星の数ほど生まれてきたカヴァー・ソングたち。カヴァーと言うには憚られるような、人のふんどしで相撲を取ろうとでも言わんばかりのなんちゃないコピーもありますが、新たな解釈によって楽曲に新しい命を吹き込んだカヴァーや、埋もれた名曲にスポットを当て、原曲の再評価を促したカヴァーなんかも存在するものです。

なんなら原曲よりもカヴァーのほうが有名かもしれない、ジミ・ヘンドリクス「All Along the Watchtower」(原曲:ボブ・ディラン)、ドラマーとしての生命を絶たれながらも、カヴァーによって自身の復活を高らかに宣言したロバート・ワイアット「I'm a Believer」(原曲:The Monkees)、カヴァーをひた隠し(正直パクりで裁判沙汰)ロック史に刻まれるヘヴィー・ナンバーへとビルドアップしたLed Zeppelin「Dazed and Confused」(原曲:ジェイク・ホルムス)等々、とにかく挙げるとキリがありません。

ただ、今回ここでご紹介するのは、ハードなレコード・コレクターとかがこっそり知ってそうな、もうちょっとマイナーで通好みなカヴァー・ソングたちです。こちらを参考にして、ディープなカヴァー・ソングの世界を味わってみてください。ぜひ!


※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Bermuda Triangle「Dream on」

フォーマット:LP
収録アルバム:『Bermuda Triangle』
発売国:US 
レーベル:Winter Solstice Records
規格番号:SR3338
発売年:1977
レアリティー:★★★☆☆☆(3/6)

まず最初ご紹介するのは「世の中いろいろあるものね……」という風合いの、異端カヴァーからご紹介します。

広大なアメリカン・サイケデリック・ロック・シーンの中でも異端児としてその名を馳せる、ニューヨーク出身のアシッド・フォーク・デュオ、Bermuda Triangle。今現在彼らがこうして異端視されているのも、ブルーグラス等で親しまれていた楽器、オートハープをエレクトリック化した「エレクトリック・オートハープ」をメインに据えていたことでしょう。

そして、そんな彼らがカヴァー・ソングとして選んだのが、これまた異端なAerosmith「Dream on」。オートハープの特徴的なサウンドをバックに、か細く虚(うつろ)な女性ヴォーカルが鳴り響くそのあまりに幽鬼じみたサウンドは、原曲とはまったく異なる白日夢のごとき音世界を生み出しています。

なお、同じ調子でThe Moody Bluesの「Nights In White Satin」なんかもカヴァーしているので、アルバム1枚を通しで聴いて、どっぷりとその世界観に浸ってみてください。

 

■ Suck「21st Century Schizoid Man」

収録アルバム:『Time To Suck』
フォーマット:LP
発売国:South Africa
レーベル:Parlophone
規格番号:PCSJ(D)12074
発売年:1971
レアリティー:★★★★★☆(5/6)

1970年代初頭、英国で生まれた数々のレジェンド・ロック・バンドは、その影響を世界の隅々まで轟かせていました。そのため、北も南も西も東も、ありとあらゆるところで日夜カヴァーが繰り返されていたのですが、プログレともなると少しワケが違うようです。

南アフリカ最大の都市、ヨハネスブルグ出身のヘヴィー・サイケ・グループSuckは、1971年にたった1枚のアルバムを残していますが、今現在彼らのレコードが同国屈指の人気とレアリティーを持つ1枚となったのも、やはりKing Crimson「21世紀の精神異常者」の極悪カヴァーを収録していたからでしょう。

「21世紀の精神異常者」は近年でこそいろいろなバンドによってカヴァーされていますが、当時は日本が誇るFlower Travellin' Band、スペインの秘宝Evolution、そしてこのSuckがカヴァーしている程度でしょうか?
それだけ当時のバンドたちに、あの圧倒的な個性に対抗するのは難しいと思わせたのでしょう。しかし、Suckはその凶暴さで原曲をも凌駕する勢いでカヴァーしてみせています。

さらに、本作は1曲の自作曲を除けば、Deep Purple、Grand Funk Railroad、Free、Colosseum等のカヴァーで占められており、そのいずれもが致死量を超えたファズが充填された極悪カヴァーだらけ……。聴いてブッ飛べ!

 

■ Neil MacArthur「She's Not There」

フォーマット:7”
発売国:UK
レーベル:Deram
規格番号:DM225
発売年:1969
レアリティー:★★☆☆☆☆(2/6)

カヴァーは他人の曲ばかりではなく、自分自身で書いた曲をもう一度演じる、いわゆるセルフ・カヴァーというものも存在します。

本シングルはThe Zombiesが1964年にリリースした大名曲のカヴァーですが、ニール・マッカーサーなるこの人物、変名を使っていることからまったく目立たないものの、実はThe Zombiesのヴォーカリスト、コリン・ブランストーンその人です。

5年の時を経て、原曲よりもさらにエッジの効いたアレンジへと改変しており、ストリングス、ギター&ベース、そしてリズム・セクションは、ワイルドでソリッドなサウンドへと磨き上げられ、オルガン・ソロだったブレイク部分は、フルートと逆回転ギミックによるサイケデリックなアレンジへとアップデートされています。

まぁとにかく素晴らしいんで、原曲と共に目一杯の大音量で聴いてみてください。プレイ・ラウド!

 

■ Betty Lavette「Heart Of Gold」

フォーマット:7”
発売国:US
レーベル:Atco​​​​​​​
規格番号:45-6891​​​​​​​
発売年:1972
レアリティー:★★☆☆☆☆(2/6)

ニール・ヤングによる大名曲ともあって、やはり世界津々浦々でカヴァーされてきた曲ですが、個人的にはこのヴァージョンがベストだと思っています。

情感たっぷりに迫り上がるブラス隊、フローレスな仕事で魅せるギターのオブリガード、可憐に華を添えるフルート、そしてなによりもパワフルなレディー・ソウル・ヴォーカルが聴く者の魂を震わせるのです。

オリジナルとはまた違う表情を楽曲に与えた、カヴァー・ソングの模範たり得る名曲です。

 

■ Nirvana 「Lithium」

収録アルバム:『Orange And Blue』​​​​​​​
フォーマット:CD​​​​​​​
発売国:UK
レーベル:Edsel Records​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​
規格番号:EDCD485​​​​​​​
発売年:1996
レアリティー:★☆☆☆☆☆(1/6)

最後にご紹介するのは、ある意味やたらにややこしい1曲です。

米シアトルを皮切りに、瞬く間に世界をグランジで覆い尽くした偉大なるロック・バンド、Nirvanaはみなさんご存知だと思いますが、イギリスにも同名バンドがいたことはご存知でしょうか?

英ロンドン出身のNirvanaが結成されたのは古く、1965年のこと。60年代末から70年代初頭までコンスタントに名作を発表し続けた彼らは、今ではサイケ・ポップ・レジェンドとして、その筋のファンからは絶大な人気を誇っています。
その後ソロに専念した彼らは、80年代中頃までバンド活動を休止していましたが、そんな時に彗星の如く誕生したのが、アメリカ版Nirvanaでした。

「こちとら20年以上前からNirvanaだぞ!」ってな感じで、1992年に英Nirvanaはバンド名の権利に関する訴訟を起こしますが、米Nirvana側が和解金を支払う形で示談成立。両バンドともNirvanaを使い続けるということで一件落着したのでした。

その後、そんな英Nirvanaが企画したアルバムが『Nirvana Sings Nirvana』。言っちゃあなんですが、良く言えばユーモア、悪く言えばゴリゴリの便乗商法っていう感じですが、1994年にカート・コバーンが急逝したことにより、企画は頓挫してしまいました。
しかし、その際に録音された音源は、1996年にリリースされたレア音源集『Orange And Blue』に1曲だけ収録されることとなりました。そしてそれこそが、今回ご紹介する「Lithium」のカヴァーです。

まぁただこれが、シンセでモリモリに盛ったアレンジが加えられた、90年代版フラワー・サイケ・テイストな仕上がりで、今聴くと時代がかり過ぎていて、英米どちらのNirvanaファンも正直厳しい感じだと思います……。
英Nirvanaファンの私としては非常に心苦しいのですが、このカヴァーを世にも奇妙な「迷曲」として聴いてみてはいかがでしょうか……?

P.S. ちなみに『Orange And Blue』はレコード化されていませんが、この「Lithium」カヴァーは何かのコンピのレコードに収録されていた気がします。しかも、なんなら最近店で販売した気すらするんですが、老化現象でまったく何も思い出せません……。もしご存知の方がいればご教授ください!

では次回ご来店をお待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千