フリースタイルピアニスト・けいちゃんインタビュー 最新アルバムと“けいちゃん”を形作るものとは?


ストリートピアノでの超絶アレンジによる演奏が話題を呼び、YouTubeチャンネル登録者数が107万人、総視聴回数は2億9千万回を突破(2022年11月現在)という、今、大注目の「フリースタイルピアニスト」けいちゃん。作曲でも圧倒的な才能を示し、昨年はデビュー・アルバム『殻落箱(ガララバコ)』をリリースした。作曲・演奏はもちろんのこと、作詞と歌唱のスキルの高さにも注目が集まった。活動の幅がますます拡大している彼の待望のセカンド・アルバムのタイトルは『聴十戯画』。今回は全曲がインストゥルメンタル作品となっている。今回のインタビューでは、アルバムのことはもちろん「けいちゃん」を確立した学生時代のエピソードなどを伺った。

前作とはガラッと変わったコンセプトによる『聴十戯画』

 

―前作は半分が歌入りでしたが、今回は完全にインストのアルバムになり、かなりコンセプトが変わったと感じました。

基本的に“いま”やりたいことをアルバムにしているので、前回は歌を入れたいと思ったのですが、今回はピアノにフォーカスしたいと思い、このような形になりました。

―タイプの異なる10曲が集まり、とても緩急のある仕上がりのアルバムになっていますが、何かテーマのようなものはあるのでしょうか?

タイトルの『聴十戯画』のとおり、今回は思い浮かんだ順番に曲を10曲書いて出来上がったアルバムです。“コンセプトがない”ことがコンセプト…というか、あえてそういうことは考えずに日常の創作の延長として作っていったものを並べていった感じです。ただ、出来上がった10曲を並べるときの順番はかなり工夫して、ストーリー性が出るようにはしています。

―前作もそうですが、けいちゃんの作品のタイトルはいつもすごく凝ったものになっていますよね。どのように素敵なタイトルが生まれるのか気になります。タイトルと楽曲はどちらが先にできるのでしょう?

基本的に曲を書いてからタイトルをつけます。ただ、今回のアルバムでは《Edo》と《人間失格》に限ってはタイトルが先です。タイトルは言葉の意味はもちろんですが、響き、聴き心地というのも大事にしています。例えば《Edo》は通常アクセントは平板型ですが、響きをあえて頭高型にしているんです。

 


NewAlbum Teaser『聴十戯画』

 

こだわりのタイトルはどこからやってくる?

 

―タイトルから音楽表現が始まっているのですね。インパクトが強い《人間失格》はどこからきたものなのでしょう?

映画の『人間失格』からです。劇中で“恥の多い生涯を送ってきました”というセリフがでてくるのですが、これにものすごく感動してしまって。人って基本的に自分の否定的な部分をあまり表に出さないように生きているから、それを認めてこういうことを言ってしまうなんて、すごくかっこいいなと。そして映画を観終わった直後には頭の中で楽曲ができていたんです。観終わってからすぐにピアノに向かい、携帯に録音して…ものの数分でできてしまいました。映画の世界観やさきほどのセリフ、観て感じたこと、映画の構成の起承転結の部分のも反映しつつ作りました。デモ音源を作る段階で、ピアノとストリングスだけのシンプルな構成にしたいというのも決まっていましたね。

―なるほど。では、個人的に気になるタイトルの楽曲について、もう少し聞かせて頂こうと思います。例えば《Lv.OFF》や《がぶ》《R101》などは、かなりけいちゃん色が強いタイトルだなぁと思うのですが…。

《Lv.OFF》の“OFF”は、疾走感のある曲調から、“限界を取っ払う”、“超える”という意味を込めて付けました。《がぶ》には特に意味はありません。噛みつくような曲だったのでなんとなくのイメージでつけています。《R101》は“対象年齢101歳”という意味です。100歳を超えた年齢の人に向けた、未来人のための音楽です。なので、この曲はピアノを打ち込みにしていて、尺八や琴といった和楽器を入れています。

―アイディアに溢れたタイトルや歌詞はどうやってインスピレーションを得ているのでしょう。文学青年なのかなと想像したのですが…。

いや、本は全然読まないんです。文学青年になりたいですけどね(笑)。ただ、日常的に面白い言葉を自分の中でストックするようにしています。街中で見つけたものや、素敵な曲の歌詞などからヒントをもらうことが多いです。

―《Edo》は、厳しい状況にある現代の中で希望や喜びを見つけようとする人たちをイメージしているそうですね。けいちゃんの作品はこれに限らず、常に前向きな力をくれると感じます。作品作りでこのようなメッセージ性というのは意識されているのでしょうか?

最近その想いが強くなってきています。コロナが落ち着いてきて、人と触れ合う機会が増えたとき、僕の音楽が助けになっていると言ってくださる方の多さに驚きました。そういう方々の力に少しでもなりたい、という想いは作曲するときに反映されていると思います。

―実際にYouTube動画のコメントやSNSなどの書き込みを見ると、本当にたくさんの方の支えになっていることがわかります。

とてもありがたいです。これからもカバーのリクエストを含め、ファンの方との交流は積極的にしていきたいと思っています。

 


「Edo」MV

 

けいちゃんのピアニズム

 

―けいちゃんの演奏は鮮やかな指さばきはもちろんですが、音の美しさも魅力だと思うのです。パフォーマンス的な動きで“魅せ”つつも、常に音色は凛とした響きがあるなと。かなりこのあたりはこだわりがあるのかなと思うのですが。

小さい時からずっと、クラシックという音色が勝負の世界で生きてきたので、それはベースとしてあります。どんなに速いパッセージでも、一音一音に神経を尖らせて、いい音を出すことを心がけていますね。長い間クラシックを真剣に学んでいたことは自分のピアノ演奏においてとても大きな財産になっています。何しろ音色について一番学べる分野ですからね。これがなかったら今の自分はないです。

―すごくリラックスした状態で演奏している印象もあります。

そうですね。ただ添えているだけみたいな感じになっていると思います。完全にリラックスした状態でいることで、頭の中にある音楽に身体が反応できるようにしている感覚です。

 

「けいちゃん」を形成した音楽大学での日々

 

―けいちゃんは音楽大学で音楽教育を専攻されていたそうですね。

小さいころはピアニストになりたいと思いつつ、将来のことなどを見据えて音楽の先生になろうと思い入学しました。ただ、大学にいるとキャンパスのあちこちから音が聴こえてくるんですよね。そうしたらやっぱり“演奏するっていいな”という想いが強くなってきて。2年生になったときにピアニストを目指すことにし、教職を取るのをやめました。

―教職を取るのをやめたとはいえ、音楽教育学科は様々なことを学ばなければならないので、大学生活はハードだったのでは?

教育科入ったのはとても自分に合っていたんです。ピアノ科だとどうしても学びの中心や演奏する曲はクラシックが中心になりますよね。でも音楽教育学科だと、とても幅広い音楽に触れることができるんです。たとえばリトミックは身体で表現したり即興もしますし、歌ったりもします。他にもジャズ入門の授業やコードネーム奏法や即興を学べるキーボードハーモニーなどの授業も取りました。授業以外でもジャズ科の先輩の演奏を聴いたり一緒にピアノで遊んだり…。電子オルガン専攻の学生とも仲が良かったです。彼らは自分にないものをたくさんもっているので、そこでもらったものを家に帰ってインプットするという日々を過ごしていました。

―ピアノや歌についてはどうだったのですか?

ピアノは2年生まで必修授業としてあるのですが、それを取り終えた後は独学で練習を続けていました。人の演奏を聴いたり耳コピしたり、バンド活動などもやって、とても充実した日々を過ごすことができましたね。歌については担当して下さった先生に心から感謝しているんです。普通ならオペラなどを学ぶところなのですが、“何でも持ってきていいよ”と言ってくださったので、ジャズの弾き語りをレッスンしてもらっていました。今活動の中で歌うことができているのは先生のおかげです。

―なかなかピアニストでここまで歌を積極的にできる方はいないですが、本当にお好きだったのですね。

直接自分の中のイメージをお届けできるのが魅力ですよね。そもそも僕はピアノと歌を切り分けて考えているわけではないんです。あくまでも“フリースタイルピアニスト”としての活動の一つに歌があるという感じです。ただ、実際歌うことは大好きですよ。大学の時もいつも歌っていました。合唱の授業も大好きでした。

―色々とお話を伺って、様々な経験や学びを通して「けいちゃん」というピアニスト、そして今回の『聴十戯画』が生まれたということがよくわかりました。ピアノという楽器の様々な可能性に出会うことができるアルバムで、多くの方が新しいピアノの魅力、そしてけいちゃんの底知れぬ才能に驚かれることと思います!

ピアノに無限大の可能性あるということはぜひ演奏や作品を通して伝えたいことなので、とても嬉しいです。実際、今回のアルバムだけでも曲ごとにかなり楽器の編成が変わっているのですが、そのどれにもピアノって馴染んでしまうんですよね。これって凄いことだと思います。これからも様々な形で作品や演奏をお届けしていきたいです。

 


 

【プロフィール】
 

けいちゃんインタビュー_01

 

フリースタイルピアニスト・けいちゃん

3歳のとき、家にあったピアノを弾いていたことから、母親の勧めでピアノを始める。数多くのコン クールへの出場及び入賞を経て、ピアニストを志す。高校の修学旅行でロンドンを訪れたとき、ストリートピアノに出会い、その魅力に気付く。音楽大学に進学後は型にとらわれない演奏の楽しさに惹かれジャンルの垣根を越えた演奏スタイルを進化させ2019年から本格的に音楽活動を開始する。 YouTubeにストリートピアノの演奏動画を投稿しフォロワー数107万人、総視聴回数2億8千3百 万回を数えるなど人気を博す。2021年6月30日デビューアルバム『殻落箱(ガララバコ)』にてCD デビュー。耳コピや立奏、マッシュアップ、即興演奏を得意とする注目のフリースタイル・ピアニスト。TBS系朝の情報番組 「THE TIME,」にレギュラー出演中。2022年12月には全曲インストゥルメンタル楽曲による待望のセカンド・アルバム「聴十戯画」をリリースする。

けいちゃんHP:https://keichanpiano.com/s/n146/?ima=0422

Twitter:https://twitter.com/knos_key

Youtube:https://www.youtube.com/channel/UC_DopZ9OANqNGho0wFwADqA

Instagram:https://www.instagram.com/keichan_piano/?hl=ja

 

【リリース情報】


けいちゃんインタビュー_02


【初回限定盤】 

 

けいちゃんインタビュー_02

【通常盤】
 
『聴十戯画』

2022年12月14日 Release

【初回限定盤】TKCA-75098 5,000円(税込)
CD+DVD(MINI PHOTO BOOKLET+三方背ケース付属)

【通常盤】TKCA-75099 3,000円(税込)

徳間ジャパン:https://www.tkma.co.jp/jpop_top/keichan.html

<配信>

「かげおくり」https://mysound.jp/song/8795035/

「Zero Rhapsody」https://mysound.jp/song/8507139/

「Edo」https://mysound.jp/song/8893203/

 

 


 

Interview & Text:長井進之介