若きウクレレアーティスト名渡山 遼が贈るクリスマスアルバム

 

美しい音色と華麗なテクニックを駆使したウクレレ演奏で世界的な活動を続けている名渡山 遼が『Happy Ukulele Christmas』をリリース。おなじみのクリスマスソングを繊細なタッチによるソロからジャジーなバンド演奏までバラエティに富んだアレンジで収録。ピアニスト西村由紀江とのコラボレーションによる書き下ろし曲「The First Snow with You」も必聴だ。愛用のウクレレはすべて手作りというビルダーとしての一面を持つ名渡山氏に、本作の内容や使用したウクレレのことなど、いろいろと話を聞いた。

楽器としての高いポテンシャルを活かし、ウクレレの可能性にチャレンジしてみたかった

 

――まず『Happy Ukulele Christmas』を制作した経緯からお聞かせください。

名渡山:このアルバムは通算19作目、キングレコードからは8枚目になります。今まではどんな作品を制作するか、ディレクターさんと相談して決めることが多かったんですが、今回は僕のほうからお願いして実現しました。クリスマス・アルバムは2015年にインディーズから1枚(『UKULELE Merry Christmas!』)リリースしているんですが、それから時間も経って演奏も変わってきているのと「雪」とか「冬の寒さ」といったニュアンスも演奏で表現することで、楽器としての高いポテンシャルを活かし、ウクレレの可能性にチャレンジしてみたかったんです。

――バンドアレンジの曲も多いですが、アンサンブルでの表現も意識していましたか?

名渡山:そうですね。ソロとバンドのときとではアレンジも演奏も別物で、全編ソロというのも面白いんですが、今回はクリスマスアルバムということもあり、いろいろな表情のウクレレの音を聞いてほしいと思いました。その結果としてバンドアレンジが多くなりましたね。

――バンド形式とソロの違いというのは具体的にどんな点ですか?

名渡山:まずアンサンブルにピアノがいるかいないかの違いが大きいですね。ピアノがいるときは、できるだけメロディーに専念して、メロディーの弾き方も歌うようなフレーズになります。一方ウクレレのソロでは、メロディー、リズム、ハーモニーのすべてを1本で完結させないといけないので、アレンジも変わってきます。キーの設定も重要で、ソロのときはウクレレの音がいちばん響いてくれる帯域を選んでキーを設定しますが、バンドでは楽器の特性より音楽的にどのキーが良いかで選びます。♭がつくキーだと寒い感じとか、♯がつくキーは暖かい響きになったりしますから。

――アレンジが大変だった曲はありますか?

名渡山:・・・・・・なかったかな(笑)。今回はあっと言う間にできた感じがあります。基本的にライブに近い演奏で「Sleigh Ride」以外はクリックも使っていません。だから「Last Christmas」の後半などは、最初と最後でBPM(テンポ)がかなり違っています。でも演奏が盛り上がってくると、少し速くなったほうが音楽的には自然なんです。参加してくれたメンバーも素晴らしい方たちばかりで、レコーディングは本当に楽しかったです。

――録音に参加したメンバーはどのように選ばれたんですか?

名渡山:ベースの澤田将弘さんは、僕が18歳のときからずっと一緒に演奏してくれている方で、ドラムスの長谷川ガクさんは、2019年頃にジャズフェスティバルで他の方と演奏しているのを観て「格好良いな〜」と思ってオファーして以来ずっと叩いてもらっています。ピアノの扇谷研人さんは今回初めてですが、以前から弾いていただきたいと思っていて、澤田さんとすごく仲良しなので、紹介してもらいました。

 

名渡山遼インタビュー_01

レコーディングメンバー(左から:長谷川ガク・澤田将弘・名渡山遼・扇谷研人)

 

――バンドアレンジに関してですが「Santa Claus is Coming to Town」はニューオリンズ風のドラムスが面白いですね。

名渡山:僕はトミー・エマニュエル(g)が大好きなんですが、彼のホリデーアルバム(『All I Want for Christmas』)にもこの曲が入っていて、そのアレンジもすごく好きなんです。それをみんなに聞いてもらったら、長谷川さんから「こんなリズムどう?」と提案されて「それで行きましょう!」と(笑)。今回「Sleigh Ride」以外はメンバーのアイデアがすごく入っているので、アレンジのクレジットは全員にしています。僕自身もまだ発展途上なので、作品を作る過程ですごい方たちから少しでも多くのものを吸収して、引き出しを多くしたいなと思っているんです。だから斬新だなと思ったフレーズやリハーモナイズなどは、すぐ真似してしまいます(笑)。

――今回の作品で吸収したところはどんな部分ですか?

名渡山:「Silent Night」のピアノのイントロには驚かされました。どうしてもありきたりになってしまうので扇谷さんに相談したら「こんな感じでどう?」と弾いてくれたのがこのフレーズでした「こんな宇宙みたいな転調があるんだ!」と感動しました。でもすごすぎてあまり参考にはできなそうなんですが(笑)。

――「Santa Claus is Coming to Town」などのアドリブのフレーズは前もって考えるんですか?

名渡山:何も考えていません。完全なアドリブなので、弾くたびに全然違ったりします。せっかく「せーの!」で録っているので、メンバーのちょっとした遊びにも応えられるようにしたいですから。

――「Sleigh Ride」はアレンジが凝っていますね。

名渡山:この曲を録音するのは3回目なんですが、今回は原曲寄りのアレンジをさらにバンド演奏でゴージャスにしたいと思いました。中間部は原曲のオーケストラアレンジを再現しています。演奏するのは大変なんですが、クリスマスらしいウキウキ感があるので気に入っています。ストレートなカバーでもウクレレで弾くだけで別物のアレンジとして聞こえるところがあって、それはウクレレのラッキーな部分かなと思っています。

 

ライブで共演するという夢は叶ったので、次は曲を一緒に作れたら最高だなと

 

――「All I Want for Christmas Is You」ではトリプルストロークをたくさん使っている印象があります。

名渡山:この曲の後半はシャッフルの3連符のリズムは意識して弾いています。原曲でスクエアなリズムを刻んでいるピアノのフレーズをソロで再現できたら良いなと思ったんですが、さすがにそれはちょっと厳しかったですね(笑)。

――トリプルストローク(3連符のストローク)は親指と人差指のダウンアップで弾く方法ですか?

名渡山:こういったシャッフルでは、人差指のダウンと親指のアップで3連符を弾くことが多いですね。両方とも爪が弦にあたるので、ダウンアップの音色の差が出ないんです。バトキン奏法を使うときは「人差指ダウン→親指アップ→人差指アップ」という方法で弾いています。

――ジェイク・シマブクロさんのスタイルですね。

名渡山:そうです。タイトに音が決まるので、装飾音的な弾き方をするときはその方法を使うことが多いですね。

 

名渡山遼インタビュー_02

 

――「Last Christmas」では、中盤でコードがマイナーに変わるところが斬新ですね。

名渡山:あれは扇谷さんのアイデアです。原曲は同じコードのくり返しなので、そのまま再現してもつまらないということで「ここはBmにしちゃおうぜ」と(笑)。当初はもっとテンションの効いたエグいコードだったんですが「ちょっとやりすぎかも・・・」ということで、良い感じのところに落ち着きました(笑)。

――「Have Yourself A Merry Little Christmas」はジャズバラード的なアレンジですね。

名渡山:扇谷さんから「内声は良いけどベースはこっちのほうが良いんじゃない?」などと提案していただいて、「なるほど~」と言いながら実はよくわかっていなかったりしながら(笑)。でも、あれよあれよと言う間に録音できてしまいました。今まではみんなでああだこうだと言いながら正解に近づいていくことが多かったんですが、扇谷さんからはいきなり「これが正解!」というのが出てくるので感動しました(笑)。

――「Silent Night」の後は2曲ウクレレソロのメドレーが続きます。

名渡山:そうですね。賛美歌は馴染みのある曲が多く、ソロが似合うのと、ウクレレが好きな人にカバーしてほしいなという思いもありました。バンド演奏や多重録音ではカバーしにくいですから。

――ダニー・ハサウェイの「This Christmas」は珍しい選曲ですね。

名渡山:この曲はディレクターが選んでくれたんですが、イントロのフレーズが1音ずつ違うコードで、それをコピーするのに苦労しました。でもそこが分かったら、レコーディングはあっという間に終わりました(笑)。

――「The First Snow with You」でのピアニストの西村由紀江さんとのコラボレーションは、どのような経緯で実現したんですか?

名渡山:西村さんのことはずっと大尊敬していまして、ライブで共演するという夢はすでに叶ったので、次は曲を一緒に作れたら最高だなと思いました。まず僕がウクレレとピアノでデモを作り、それに手を加えていただいて、何回かのセッションを経て、これも「せーの!」で録音しました。自分で作ったと言っても西村さんのことをリスペクトしすぎていて、西村さんの曲のニュアンスがたくさん入っています。たぶん本人も気づいていると思いますが(笑)。1曲ということですごく悩みましたが、最終的にはクリスマスソングにこだらわず、冬の季節感が伝わるような曲をイメージして作りました。

――もう1曲のオリジナルがオープニングの「Sparkling Snow」ですね。

名渡山:はい。この曲を作ったのは最後なんですが、クリスマスアルバムのオープニングらしく、きらめく雪をイメージして作りました。

 

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西村由紀江とのレコーディングでの一コマ

 

レコーディングで主に使用した「鶴丸」とウクレレ製作について

 

――CDジャケットには新しいウクレレ「梅花」が使われていますが、レコーディングでも使っているんですか?

名渡山:梅花を使ったのは賛美歌メドレーだけで、あとは「鶴丸」をメインで使いました。鶴丸は完成して6年経ち、倍音も増えてマイクの乗りも良くて。バッキングの細かいところでは別のウクレレも使っています。「Sleigh Ride」のストロークでは中学生のときに作ったウクレレを使ったり「Jingle Bells ~ Winter Wonderland」のバッキングは、KALAのスーパーテナーをローGよりさらに低くチューニングして弾いたりしています。

――鶴丸と梅花はどのようなところが違うんですか?

名渡山:難しいところなんですが、マイク録りのレコーディングでは、箱がボコッと鳴るような、ピックアップを通したライブではノイズの部類に入るような音も大事だったりするんです。特にアンサンブルでは、その音が入ることで空気感が生まれて音がまろやかになったりします。構造的に鶴丸はブレーシング(ボディーを補強する力木)が2本だけで、しかもハワイ製のウクレレのようにホゾ(木材の接合部分に作る凹凸)を組んでいないので、ちょっと音がぼやけるんですが、その分、音がふくよかでマイク乗りも良いんです。梅花はホゾを組んであるんですが、アンサンブルの中では音がきれいすぎるように感じました。逆に賛美歌メドレーでは、きれいな音のほうが厳かな雰囲気になるかなと思って、梅花を使いました。

 

 

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左(上):梅花 / 右(下):鶴丸

 

――ホゾの有無で鳴りが変わってくるんですね。

名渡山:はい。僕のウクレレ製作の師匠は、京都の占部ウクレレの占部英明さんという方で、占部さんは全部ホゾを組んで作るんです。でも鶴丸はハワイっぽい感じもほしいと思って、こっそりホゾを組まずに作りました(笑)。それ以外は占部さんの作り方なので、基本的には占部ウクレレの音なんですが、ちょっとだけ箱の音が出ている感じですね。

――チューニングは全部ハイGですか?

名渡山:ほぼハイGですが、A♭とかG♭といったキーでも開放弦を使えるように、ハーフアップ(半音上げ)もけっこう使います。今回のアルバムでは賛美歌メドレーがハーフアップです。ただテンションは強くなるので、ハーフアップにするウクレレはフレットをしっかり摺り合わせて、弦高も少しビビるかなというくらいまで下げます。強く弾くと弦がフレットにあたってビビるので、そうならないように力をコントロールして弾いています。

――自分で楽器をそこまで調整できるのもすごいです。

名渡山:・・・・・・そうなんですよね(笑)。先日も梅花のネックに指輪で傷をつけてしまって。それを修復しようとしてコンパウンドをかけすぎてしまい、結局予定が1週間空いたタイミングで、塗装をし直したんです。

――そもそも最初に作り始めたときは、見よう見まねだったんですよね。

名渡山:中学1年のときにおこづかいを1年分前借りして、木材を買って作り始めたんですが、作り方を知らずフレットを打つ場所もわからないので、指板用の材を自分のウクレレの指板にあてて、フレットの場所に印をつけたりしていました(笑)。ピッチがちょっとフラットする場所は溝を少しずらしたりして。ところが最初に買ったフレットがベース用で、ウクレレには太すぎて(笑)。それで2作目からはマンドリン用のフレットを使ったりしていました。そのうち師匠に弟子入りして、作り方を教わるようになりました。

――どれくらいの期間修行したんですか?

名渡山:師匠とは16〜17年のおつき合いになりますが、いまだに修行中みたいな感じです。最近はもう放任というか「ここはどうするんでしたっけ?」と聞いても「自分でやれ」と言われてしまいます(笑)。でも新しいことなどはすごくていねいに教えてくれます。

――弦は何を使っていますか?

名渡山:オーガスチンのクラシックギター用の弦を(1弦側から)「1弦、2弦、3弦、1弦」と張っています。レッド、ブルー、ブラックという種類があるんですが、1~3弦は共通なので、それを使っています。ちょっと太めですが、ウクレレ用の1弦は細いので、単音のメロディーなどを弾くときに線が細くなってしまうんです。一時はさらに太い音にしたくて「2弦、3弦、3弦、2弦」と張っていたこともありましたが、楽器にはあまり良くないので。

――それでは最後に、今後の予定をお聞かせください。

名渡山:12月21日に、今回のアルバムのリリースを記念して西村由紀江さんをゲストにお迎えしたクリスマスライブ「Ryo’s Ukulele Christmas Live」があります。来年1月15日には「Birthday Live ~Dear Ohana 2023~」というバースデーコンサートがあり、9回目となる今回はギタリストの木村大さんがゲストで出演してくれます。その2つのライブが自分にとっての節目で、20代最後と30代最初のライブなんです。30代になったら一段階枯れた音が出せるかなと思っているんですが(笑)。そして2月には「Ryo’s Valentine Live」も決まりました。コロナ禍によるフラストレーションの反動もあり、これからライブをやりまくりたいと思っていますので、お近くの方は是非いらしてください。

 


 

【プロフィール】
 

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名渡山 遼

ウクレレ奏者・製作者/作・編曲家

超人的なテクニックで世界的に活躍する若きトップ・ウクレレ・プレイヤー。
エキサイティングな高速フレーズから繊細で美しい音色まで自在に弾きこなし、ウクレレファンのみにとどまらず音楽家や業界関係者などからも高い評価を受けている。
1993年生まれ。11歳からウクレレを弾き始め、14歳の頃「天才ウクレレ少年」としてテレビで紹介され注目を集める。2010念にはジェイク・シマブクロのジャパンツアーに出演。2016年には2作のアルバムが“ハワイのグラミー賞”とも称される「ナ・ホク・ハノハノ・アワード」にノミネートされ、日本人としては史上最年少となる受賞を果たした。
2016年にキングレコードよりメジャー・デビュー。その後もフジロックフェスティバルの出演や、TOKYO FM「JET STREAM」テーマ曲の編曲・演奏、すぎやまこういち氏公認の「ドラゴンクエスト」カバーアルバムのリリース等、多彩な活動を繰り広げている。
愛用のウクレレは全て自身の手作り。ストラップやケースまで自作するウクレレ・ビルダーでもある。

名渡山 遼 HP:http://ryonatoyama.com/

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【リリース情報】


名渡山遼インタビュー_08


 

『Happy Ukulele Christmas』

2022年11月16日 Release

KICS-4088 2,200円(税込)

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キングレコード

商品詳細:https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4088/

 


 

Interview & Text:浦田泰宏