ロック史を創ってきた者たち 世界が愛したギターヒーロー名鑑 vol.1 ジェフ・ベック【Go!Go! GUITAR プレイバック】

 

デビューから50年、今もなお世界の頂点に立ち続ける孤高の天才ギタリスト

ロックを語る上で欠かせない楽器、それが「ギター」。そんなギターも、幾人かの達人がテクニックや周辺機材の使用法などの可能性を広げてくれたからこそ、いまだに色あせない魅力を放っているとも言える。今回から始まる連載は、そんなギターの可能性を広げてくれたギターヒーローの、特にロックギタリストにスポットを当てていきたい。


文/平川理雄 マンガ/dobby

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.1(1)

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.1(2)

 

 本名ジェフリー・アーノルド・ベック。1944年6月24日、ロンドン南部のウォリントン生まれ。当時の典型的な中流家庭に育ち、小学生の頃には母親からピアノのレッスンを受けることになる。12歳になりジュニア・アートスクールに入学するとロックンロールやロカビリーに興味を持つようになり、チャック・ベリー、ビル・ヘイリー、エルヴィス・プレスリーなどを聴きながらギターも弾き始める。16歳でウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートに進学し、ナイト・シフトというバンドを結成するが、本格的にギターにのめり込むと学校は中退。セッションやレコーディングでの活動を開始した。その頃のトライデンツ、シリル・デイヴィス&ジ・オールスターズ、クリス・アンドリュースなどのメンバーとして録音されたものはボックスCD『BECKOLOGY』他いくつかの音源に残されている。転機となったのは'65年。ジミー・ペイジがエリック・クラプトンの後任としてヤードバーズへの参加をオファーされていたが多忙でそれが叶わず、替わりに友人であったジェフ・ベックを推薦するという形でバンドに参加(後にジミー・ペイジも参加)、一流ギタリストの称号を得たのだった。'67年、シングル「Hi Ho Silver Lining」をレコーディングしソロデビュー。数ヶ月後にはロッド・スチュワート(vo)やロン・ウッド(b)らを迎えたジェフ・ベック・グループ(第一期)として、自己のバンドで活動を開始した。
 '69年、ヴァニラ・ファッジのリズム隊ティム・ボガート(b)とカーマイン・アピス(ds)に衝撃を受けバンド結成を構想するも、ジェフは交通事故で重傷を負ってしまい、その間にお気に入りの2人はカクタスを結成してしまう。'71年、ジェフ・ベック・グループは第二期に移行したが、翌年カクタス解散のニュースを知り、活動をそちらにシフト。ここにベック・ボガート&アピスが誕生した('74年解散)。'75年、ビートルズのプロデューサーであったジョージ・マーティンを迎え、当時流行していたフュージョンを取り入れたインストアルバム『Blow By Blow』を発表し、これが大ヒット。インストロックのアーティストとしての地位を確固たるものとした。以降、デジタルサウンドやドラムンベースも積極的に採用。バンドメンバーは特に固定せず、プロジェクトごとに最善のメンバーを招聘するという手法でその音楽性は拡大を続けていたが、2023年2月26日1月10日に78歳で逝去。

 

■ジェフ・ベック年表
 

1944 ロンドン南部のウォリントンで誕生。

1960 ウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートに進学するも本格的にギターにのめり込むと学校は中退。

1965 ジミー・ペイジの推薦でエリック・クラプトンの後任としてヤードバーズに参加。

1967 第一期ジェフ・ベック・グループを結成。翌年に1stアルバム『TRUTH』をリリース。

1969 自らが起こした交通事故で重症を負う。

1970 第ニ期ジェフ・ベック・グループを結成。その後、アルバム『ROUGH AND READY』('71年)、『JEFF BECK GROUP』('72年)をリリースするも'72年にバンドは解散。

1972 ベック・ボガート&アピスを結成。翌年、初の来日公演を果たす。

1975 ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンを迎え、インストアルバム『Blow By Blow』をリリース。

1989 アルバム『JEFF BECK'S GUITAR SHOP』をリリース。グラミー賞最優秀ロックインストゥルメンタル賞を受賞。

2016 アルバム『LOUD HAILER』をリリース。

2017 デビュー50周年、来日公演も開催。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.1(3)

 

親指&人差指によるピッキング

 楽曲に多彩なジャンルの要素を取り入れていることからもわかる通り、彼は奏法に関しても新たなスタイルを導入することに積極的だった。その一例が指弾きだ。ジェフがピック弾きから指弾きに切り替えたのは'80年代前半。ピック弾きでは中々思いつかないようなフレーズが指弾きで展開されることになったのだ。使用する指は主に親指と人差指の2本。
 Ex-1は「ビハインド・ザ・ヴェイル」をイメージしたものだが、本来はこの4小節で1小節という細かさだ(32分音符でプレイ)。3、4弦をそれぞれ人差指と親指に割り当て、親指はダウンピッキング、人差指はアップピッキングで交互に弾く。開放弦を交えながら上行するフレージングは圧巻!

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.1(4)

 

異次元のアーミング

 アームの使用方法を拡大することは、「ギターでメロディーを弾く」インストロックの第一人者であるジェフにとっては当然のことだっただろう。それまでは単音や和音を揺らすだけの使用法が主だったアーム奏法に、音程をコントロールさせたりパーカッシブに使ってみたり……。こうした繊細な手法が使えるのも、右手でピックを握らないからこそだ。
 Ex-2の前半2小節はクリケットヴィブラートと呼ばれるもの。トレモロユニットをフローティング状態にセッティングし、通常はアームの先端を軽くハジくのだが、ジェフは右手のひらでトレモロユニットを叩き、独特のサウンド効果を演出している。後半2小節は左手によるプリング/ハンマリングのような感覚で、右手によるアーミング(ダウン/リターン/アップの3種)で音程をコントロールするフレージング。ジェフの感性と音楽が一体化している好例でもある。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.1(5)

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.1(6)

 

 最後に彼が使用する主な機材を紹介しておこう。ヤードバーズ時代のギターは'55年製フェンダーのエスクワイアなどで、第二期ジェフ・ベック・グループ時代はフェンダーのストラトキャスターを使用。アーミングはこの頃から得意としていた。ベック・ボガート&アピス時代には一旦ギブソンのレスポールを弾き、ファズとマーシャルの1959アンプとを組み合わせたそのハードなサウンドはハードロックの定番サウンドの1つにもなっている。
 '89年以降はストラトキャスターをメインとしているが、まずはサーフグリーンが美しい通称“リトル・リチャード”を使用。その後'94年にネックを交換するのだが、そのネックは今もなお気に入っているようで、'99年にホワイトボディのストラト(当時フェンダー社のマスタービルダーであったJ.W.ブラックが製作)に移植して以来、ずっとこの楽器をメインギターとして使用し続けているのだ。パーツの特徴はアーミング時にチューニングの狂いを最小限にしてくれるウィルキンソン製ローラーナットとポスト部分で弦をロックするスパーゼル製ペグは必須。アンプはマーシャルDSL100H、フェンダーVibro-Kingなどを使用している。

 

90 年代以降のジェフ・ベック風サウンドの作り方

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.1(7)

ジェフのプレイは派手なアーミングが印象的だが、ヤードバーズ時代はトレモロユニットが搭載されていない、フェンダーのエスクワイアをメインに使用。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.1(8)

ストラト&コンボアンプの組み合わせが基本。アンプの歪みを抑えめにして、オーバードライブで歪ませる。ミドルを全開にした柔らかいトーンが特徴。

 


(Go!Go! GUITAR 2017年1月号に掲載した内容を再編集したものです)

 


 

Edit:溝口元海