ロック史を創ってきた者たち 世界が愛したギターヒーロー名鑑 vol.2 エリック・クラプトン【Go!Go! GUITAR プレイバック】

 

ギターの可能性を広げてくれたギター・ヒーローにスポットを当てて紹介するコーナーの第2回。今回取り上げるのは、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジと並んでロック3大ギタリストの1人と称されるエリック・クラプトンだ。


文/平川理雄 マンガ/dobby

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(1)

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(2)

 

 1945年3月30日、イングランドのサリー州リプリーで誕生。父は第二次世界大戦時にイングランドに駐留していた既婚のカナダ人兵士で、母は16歳でエリックを出産。そのため祖父母に育てられることになる。R&Rが大流行していた'58年、13歳の誕生日にギターを買ってもらうがその当時はあまり弾かなかったようだ。16歳で再びギター熱が再燃。ロックのルーツとしてのブルースに熱中するようになる。というのも、自分の境遇からくる他人からの疎外感にブルースが共感してくれていると感じたからだ。
 17歳でエレクトリックギターを購入。フレディー・キング、B.B.キング、マディー・ウォーターズなどに傾倒し、翌年からバンド活動を開始した。その'63年10月ザ・ヤードバーズに加入し初レコーディング。ちなみに彼のニックネーム「スローハンド」はこの頃に付けられた。これは決して指が遅いのではなく「速いフレーズなのに遅く見える(無駄な動きがない)」という逆説的名称だ。'65年4月、ジョン・メイオールのブルースブレイカーズに加入し、ギタリストとしての評判を獲得することとなった。'66年7月、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーとクリームを結成し、『Fresh Cream』を発表。これが世界的な評判を得て、エリックはスーパースターへの階段を上ることになる。'69年、ブラインド・フェイス結成。’70年にはデラニー&ボニー&フレンズへの参加と、そしてデレク&ザ・ドミノス結成、『Layla And Other Assorted Love Songs』がヒットするなど多忙を極めた。
 そんな中、仲間や身内の不幸が重なったことの心労からドラッグ中毒に、そして活動を中断。友人たちの呼びかけにより復帰したのが'73 年。その後は商業的にも安定したヒットを飛ばす。'92 年、亡き息子に捧げた「Tears In Heaven」収録の『Unplugged』でグラミー賞受賞。以降、'94 年の『From The Cradle』などブルースの原点に立ち返ったアルバムを多数リリースしている。

 

■エリック・クラプトン年表
 

1945 イングランドのサリー州リプリーで誕生。

1963 ザ・ヤードバーズに加入。

1965 ブルースブレイカーズに加入。

1966 クリームを結成。『Fresh Cream』をリリース。

1969 ブラインド・フェイスを結成。

1970 ソロアルバム『Eric Clapton』をリリース。デレク&ザ・ドミノスを結成、『Layla And Other Assorted Love Songs』をリリース。

1971〜1972 音楽活動中断。

1973 レインボーコンサートで復帰。

1974 『461 Ocean Boulevard』をリリース。初の来日公演を行う。

1992 『Unplugged』をリリース。亡き息子に捧げた「Tears In Heaven」が大ヒット。

1994 『From The Cradle』をリリース。

1996 「Change The World」が大ヒット。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(3)


 プロ活動を開始してからのエリックが使用してきた数あるギターやアンプの中で有名なものを紹介しよう。まずはブルースブレイカーズ時代に使用した'60年製ギブソン・レスポールとマーシャル製アンプの組み合わせ。高出力なハムバッキング・ピックアップをアンプで歪ませたサウンドはその後のロック・ギターの定番サウンドの1つとなっている。
 ブラインド・フェイス〜デレク&ザ・ドミノス時代には'56年製フェンダー・ストラトキャスター、通称“ブラウニー”が活躍('70年購入)。メイプル指板によるクリスピーなサウンドはそれ以前のレスポールからは大きく変化した。さらに、ピックアップを切り替えるスイッチを中間点(本来はここにスイッチは止まらない)に固定し2つのピックアップを同時に出力する“ハーフトーン”と呼ばれるサウンドを確立した功績は大きい。
 “ブラウニー”購入と同年クラプトンは他に6本のヴィンテージ・ストラトキャスターを購入しているのだが、その内の3本('56 〜'57年製)を分解し最良のパーツを組み合わせて作り上げた1本が“ブラッキー”(下図)。このギターは音楽活動を再開した'70年代中盤以降の彼のトレードマークとなった。しかしこの“ブラッキー”は長期ツアーの中で調整が効かない程に疲弊してしまったため、フェンダーにシグネイチャーモデルを発注。ミッドブースト回路を搭載するなど、新たなアイデアも採り入れられていた。
 『Unplugged』で使用していたアコースティック・ギターは'39年製マーティン・000-42。その後エリックのシグネイチャーモデルが製作され(000-42EC、000-28EC)、ステージやライブでも使用された。
 使用アンプは先述のマーシャルの他にもフェンダーの“Dual Showman”、“Twin Reverb”、“Champ”やミュージックマンHD-150を使用。

 

■ブラッキーはこんな楽器だ!
 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(4)

 

クラプトンが'70~85年の間愛用していたフェンダー・ストラトキャスター、通称“ブラッキー”。2004年、クラプトンが設立したドラッグ・アルコール中毒のリハビリ施設を支援するためにオークションに出品され、その落札価格はなんと驚きの1億円超え!(959,500ドル)。2006年には復刻モデルが限定で発売されたが、数時間でSOLD OUTしたことにより、あらためて不変の人気を知らしめた。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(5)

ヘッド部6弦辺りの焦げ痕は、クラプトンが演奏中にタバコを挟んでいたことで出来た。
良い子のみんなは決して真似をしないように!
 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(6)

15年近くメインギターだった “ブラッキー”。硬材のメイプル指板は磨耗してしまい、まるでスキャロップ指板のように擦り減ってしまっている。
 

■クラプトン定番サウンドの作り方

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(7)

 

ストラト&コンボアンプの組み合わせが基本。ミドルを全開にしたメロウな音作りが特徴。場面に応じてワウ、ブースター、コーラスなどのエフェクターも使用。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(8)

 

ストラト&コンボアンプの組み合わせは今なお健在。70年代よりもミドルは控えめ、トレブルを上げたエッジの効いた音作りが特徴。ギター内蔵のブースターはエフェクタ ーで代用。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(9)

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(10)

 

多彩なチョーキングを展開し表情づけをしている箇所。q.cは半音のさらに半分程度の微妙なアップ。というより1回揺らすだけのヴィブラートととらえたらわかりやすい。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(11)

 

メジャーペンタトニック中心のプレイをローポジションで展開。ハンマリング、プリング、スライドを多用することで、ピッキングより多くの音数を稼いでいるのがわかる。

 

世界が愛したギターヒーロー名鑑  vol.2(12)

 

クラプトンのソロでよく使うフレーズで、アーティキュレーション(H、P、S、C、など)を多用。音数に対してピッキングの数がなんとほぼ半分だ。まさにスローハンド!

 


(Go!Go! GUITAR 2016年2月号に掲載した内容を再編集したものです)

 


 

Edit:溝口元海