【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第9回「世界3大なんちゃらのポール・マッカートニー」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第9回は「世界3大なんちゃらのポール・マッカートニー」。例えば「タイのメッシ」や「韓国のイチロー」などのように、スポーツの世界でも有名選手の名前を引き合いに称賛されることがよくあります。それは音楽の世界でも同様で、特にThe Beatlesはよく使われるわけですが、今回はそのメンバーであるポール・マッカートニーにフィーチャー。ポールに比肩するほどの才能や魅力を感じさせる、名盤3枚をご紹介していきます。

なお、以下に記載のレアリティーはあくまでもオリジナル盤の希少度になります。多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。

秘密レコード_01


いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

アーティストの音楽性を簡潔に表現する、と言えば聞こえは良いですが、世界中のレコ屋は常日頃、お客さんのハートをワンショットで撃ち抜くような、インパクトのある売り文句っていうのを探しているものです。
みなさんはそんな中でもポピュラーな表現方法の1つ「〜(国名)の〜(アーティスト名)」というタタキって見たことありませんか?

「インドネシアのThe Beatles(Koes Plusのこと)」とか「ペルーのBadfinger(We All Togetherのこと)」とか、分かりやすいように大物アーティストの名を挙げて表現するんですが、やっぱりThe Beatles関連の名が冠されることが多いようです。
世界中の大半のバンドに大なり小なり影響を与えたバンドなので当然ですが、単なるものまねレベルの域を出ないものから、音楽性の近似というよりもその才能の質量が近い、なんていう見方からその名が冠されることもあるワケです。まぁ、要は天才ってことですね!

ということで、本日はそんなタタキの大定番「〜のポール・マッカートニー」が冠されたアーティストの中から、最高峰の3人をご紹介したいと思います。そもそもいずれの方もそんなタタキなんて不要な才人ばかりなんですが、彼らの音楽に触れる1つのキッカケには良いのではないかと思う次第です。

あ、ちなみになんですが、「〜のジョン・レノン」ってあんま聞かなくないですか? 単に似にくいのか、それともフォロワーが少ないのか……なんだか気になっちゃいますね! まぁとにもかくにも、ごゆっくりご覧ください!

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Emitt Rhodes『Emitt Rhodes』

発売国:US
レーベル:Dunhill
規格番号:DS50089
発売年:1970
レアリティー:(1/6)

「ポール以上にポール」、その異名に嘘偽りなし。まずトップバッターを飾るに相応しい「アメリカのポール・マッカートニー」ことエミット・ローズをご紹介します。

米カリフォルニア出身の彼は、The Palace Guardというガレージ・バンドのドラマーとして、そのキャリアをスタートさせています。その後、The Merry-Go-Roundというグループを結成し、ギタリスト兼ヴォーカリスト兼メイン・コンポーザーと、多くの役割を務め上げ、一定の成功を収めます。とは言え、唯一のアルバムとなった『The Merry-Go-Round』(A&M / SP-4132 / 1967年)は、ビルボード・ホット100で最高190位にとどまっており、次作の制作に取り掛かるも、その最中にバンド解散の憂き目を見ています。
しかし、彼はそんな失意の中で、その才能を一挙に開花させます。自宅にスタジオを設け、作詞作曲はもちろんのこと、1人で全ての楽器を演奏し歌い上げてみせたのです。そう、まるで彼のアイドルであったポール・マッカートニーのように。

そうして制作されたソロ作『Emitt Rhodes』は、ビルボードでも最高29位と成功を収めています。甘くて憂いを帯びたメロディー・ライン、コロコロと転がるピアノ、お馴染みのオブリガート、美しいファルセットとハーモニー、ウィットに富んだアレンジ。本作に収められた音楽的要素が想起させるのは、どこをどう切ってもポール・マッカートニー、その人のものでした。当時のThe Beatlesファンが、ポールの新作と間違えたという逸話も納得です。

皆それぞれにそんな「ポール印」を思い起こさせる要素というものがあると思いますが、それはポール本人とて、全ての楽曲でそれらの要素を満たし続けることはありませんし、満たそうともしないでしょう。しかし、エミット・ローズの頭の中の全ての音楽的要素は、皆が思う「ポール印」で満ち満ちていたのです。それは単なるポールの模倣ということではなく、才能の質量がポールと酷似していて、しかもその才能はポール本人以上に「ポール印」が濃かったということでしょう。

彼は1973年までの間に3枚のソロ作(全て自作自演)を残しましたが、そのハードワークに疲弊し音楽業界から引退しています。しかし、40年近くを経た2016年に復活作『Rainbow Ends』(Omnivore Recordings / OVLP-163)をリリース。長い時を経ても変わらぬその才に、カムバックを待ち望んだファンは心を打たれたものですが、惜しくも2020年に逝去しています。

ポール本人以上にポールした、骨の髄までポール・マッカートニーなアーティスト、エミット・ローズ。彼が遺した珠玉の名曲群、ぜひ一度ご視聴ください!

 

■ Alan Hull『Pipedream』

発売国:UK
レーベル:Charisma
規格番号:CAS1069
発売年:1973
レアリティー:(1/6)

次にご紹介するのは「ニューカッスルのポール・マッカートニー」こと、アラン・ハルです。まぁ、正直こんな異名はあんまり聞かないんですけど。

ブリティッシュ・フォーク・ファンにはよく知られた名グループ、Lindisfarneのフロントマンを担った彼は、グループで大きな成功を収めています。しかし、メンバー間の軋轢等もあり、グループは一時的に解散(1976年には再結成します)。その直後、彼は本作でソロ・デビューを飾ることとなります。
Lindisfarneのメンバーや周辺アーティストから腕利きを集めて制作された本作は、彼の英国職人気質漂うメロディー・メイカーとしての才にスポット当てた1枚となっています。やはりポール・ライクなメロディーはもちろんのこと、アメリカへの憧憬をもうかがわせるような枯れた味わいも込められており、彼の優れた作曲能力が遺憾なく発揮されています。
また、ゲートフォールド仕様のジャケットには、ベルギーのシュルレアリスム・アーティスト、ルネ・マグリットの絵が前面にあしらわれており、内面に綴じ込まれているプライベート写真満載のブックレットも相まって、聴く者のイメージをより一層掻き立ててくれます。

1975年には2ndソロ『Squire』(Warner Bros / K56121 / 1975年)をリリース。1stの路線を引き継ぎつつも、(気持ち)ジョン・レノン的なエッセンスも加わっており、前作同様に紛れもない名品となっています。
​​​​​​​その後もソロやグループと多くの作品を残していますので、本作がお気に召した方はチェックしてみてください!

 

■ Gerry Rafferty『Can I Have My Money Back?』

発売国:UK
レーベル:Transatlantic Records​​​​​​​
規格番号:TRA241​​​​​​​
発売年:1971
レアリティー:(1/6)

そして、最後にご紹介するのは「グラスゴーのポール・マッカートニー」こと、ジェリー・ラファティーです。ちなみにですが、こちらの異名は一般的ですのでご安心ください。

極上の深い森ないし、朝靄メロディーを聴かせてくれる名フォーク・グループ、The Humblebumsで本格的なキャリアを歩み出した彼は、当時からポール印のメロディーを奏でるソングライターとして、評論家筋からも評価の高いアーティストでした。
そして、満を持してリリースされたソロ・デビュー作となる本作は、もう骨の髄までポールの遺伝子が組み込まれた、特濃の1枚に仕上がっています。サビの解放感が堪らない、ポールっぽいロッキン・ナンバーA1「New Street Blues」で幕を開けたかと思うと、ハートウォーミングでこれまたポール節が光るルーラル・フォークA2「Didn't I?」が流れ、続くA3「Mr. Universe」では、もう絶対ポールの曲でしょ? っていうぐらい「Band On The Run」期のポールそのままの曲展開でブッ飛ばされ……(笑いながら)もう勘弁してくださいとでも言いたくなるほどに、至るところにポール印が散りばめられています。

3人の中でも最もポール・クローン度の高い彼ですが、本人さながらに多くの作品を残しています。キャリア・スタートのThe Humblebumsを始め、同郷のスコットランド出身アーティストと結成したグループStealers Wheel、そして、もちろんソロでも多くの作品をリリースしていますが、いずれも高い水準を誇っており、どこから聴き始めても彼の魅力を堪能していただけると思います。

あと余談ですが、そんな彼の弟ジム・ラファティーもシンガーソングライターで、2枚のソロ作品を残しています。やはりというか、弟もいくぶんポール度高めなワケですが、彼にはポール・クローンを期待するというよりも、モダン・ポップ〜ニッチ・ポップ・ファンにひっそりと愛される、そんな職人音楽がお好きな方にこそ刺さるのではないかと思います。ということで、ここでは特にモダーンなセンスが光る、2ndアルバム『Solid Logic』(Decca / SKL-R 5314 / 1979年)をオススメしておきますね!

​​​​​​​​​​​​​​では次回ご来店をお待ちしております!

 

 

←前の話へ          次の話へ→

 


 

Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千

  • 1 (このページ)
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6