【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第10回「喰らえ!21世紀のスキッツォイド・マン特選カバー・ソング」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第10回は、「喰らえ!21世紀のスキッツォイド・マン特選カバー・ソング」。ロック好きや音楽マニアでなくても、誰もがどこかで聞いたことあるであろう印象的過ぎるイントロのフレーズで有名なあの曲が今回のテーマです。さまざまなアーティストによりカバーされてきたバージョンがある中でも「秘密レコード」ならではの観点でピックアップしてご紹介していきます。

なお、以下に記載のレアリティーはあくまでもオリジナル盤の希少度になります。多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!
 

どのジャンルでも名曲にはカバーってつきものですが、70sプログレの世界ではそれほど多くないような気がする今日この頃。
もちろんあるにはあるんですが、ロックやクラシックの名曲をプログレ・バンドがカバーするっていうのが大半で、プログレ・バンドが作った曲を他アーティストがどれほどカバーしているかというと、結構その数は少ないのではないかと思った次第です。

ただやはりというか、そんな中でも広くカバーされている名曲が、ご存知King Crimsonの代表曲「21st Century Schizoid Man(以下、21st〜)」です。
桑田佳祐はあの声をうならせてライブでカバーし、カニエ・ウェストは大胆にあの部分をサンプリング(アルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』収録曲「Power」)したりと、名曲だけあってそのカバーのされ方も実にワイド・レンジです。

ということで、今回はそんな「21st〜」の極上カバーを収録した、選りすぐりのレア盤たちをご紹介しましょう。いずれも原盤は高い入手難度を誇りますが、再発も出てたりするのでお気軽に手を伸ばしてみてはいかがでしょうか?
ではごゆっくりご覧ください!
 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Flower Travellin' Band『Anywhere』

発売国:Japan
レーベル:日本フォノグラム
規格番号:FX-8507
発売年:1970
レアリティー:(5/6)
 

まずは日本が誇る国産サイケデリック・ロック・モンスター、Flower Travellin' Band(以下、FTB)による名カバーです。
彼らが残したアルバムの中では、特に2ndアルバムとなる『Satori』が有名ではありますが、件の「21st〜」カバーを収録しているのはデビュー・アルバムとなっています。

Black Sabbathがその最初の一歩を刻んだ記念碑的名曲「Black Sabbath」ほか、他アーティストのカバー曲も収録していますが、やはり中でも「21st〜」のカバーは白眉の出来。中間部のフリー・パートをより増強し、10分超のロング・トラックへと変貌させています。個性の確立は次作にて完成を迎えますが、石間秀樹氏による一級品のギター・プレイが十二分に堪能できます。

本作の原盤は世界中のコレクターから数多のラブ・コールを受ける人気盤となっているため、中古市場では高額にて取引されています。さらに、帯付完品ともなれば圧巻のレアリティーを誇り、そう何度もお目にすることはできないかもしれません。なお、上記レアリティーの5星は、帯付であることを条件としていますのであしからず。

あと、ちなみにすごい余談なんですが、私ってヴォーカルのジョー山中氏(の本名)と同性同名です。漢字も全く一緒なんですが、別に両親がFTBファンだったというワケではありません。
だからなんだって話なんですが、たまにFacebook等で海外のFTBファンからメッセージが来るんですよ……。惜しくもジョー氏は2011年に亡くなられていますので、都度そのことを説明する私だったのです……。

加えて、日本人アーティストによるカバーとなれば必ず触れておきたいのは、人間椅子による「21st〜」カバーです。音盤化自体はされていませんが、ライブ・ビデオ等に収録されており、熱心なファンの間ではよく知られたカバーとなっています。そして、そんな中でも飛び抜けて有名なものが、地元青森の音楽番組『人間椅子倶楽部』内で披露された100%完コピバージョンです。
10年ほど前にYouTubeにアップロードされて以来、トリオ編成ながらその圧倒的なまでの演奏技術によって徹底的に再現されたカバーは、世界中のクリムゾン・ファンの度肝を抜き続けてきたのです……。要チェックですよ!

 

■ Suck『Time To Suck』

発売国:South Africa
レーベル:Parlophone
規格番号:PCSJ(D) 12074
発売年:1971
レアリティー:(5/6)

続いてご紹介するのは、南アフリカ最大の都市、ヨハネスブルグ出身の最狂ヘヴィー・サイケ・グループ、 Suckが残した唯一のアルバムです。

本作は彼らのオリジナル曲「The Whip」の1曲を除き、Deep Purple、Free、Grand Funk Railroad、Colosseumといった名バンドたちのカバー曲によって構成されていますが、いずれも耳の奥が爆ぜるほどのヘヴィー・サウンドに塗り替えられており、その凶暴さは他カバー・バージョンの追随を許しません。

そして、彼らの手にかかれば「21st〜」カバーも例外なく、凶暴性は150%増し(原曲比)。基本的にはオリジナル・バージョンを踏襲しつつも、よりラウドに、よりスピーディーに打ち鳴らされる、驚異のヘヴィー・サウンドにサブイボ立ちっぱなし間違いなし!

 

■ Evolution『Evolution』

発売国:Spain
レーベル:Dimensión
規格番号:6001-GS
発売年:1970
レアリティー:(4/6)
 

今度はドイツ〜スペインを股にかけたグループをご紹介します。

ドイツはハンブルグでビート・バンド、The Vampiresとしてキャリアをスタートさせたものの、成功に恵まれなかった彼らは活動の場を求めてスペインへ移住、シングル・デビューを果たしています。
その後、1969年にプロデューサーの提案からグループ名をEvolutionと改名し、サイケ〜プログレのサウンドを導入。シングルをリリースし確実にセールスを積み重ね、1970年に唯一のアルバムとなる本作をリリースしています。

本作はオリジナル曲を中心に据え、ファズ・ギター、オルガン、ブラス隊、そしてテルミンまでをも駆使し、バラエティーに富んだサウンド・メイキングを織り込みながらも、快活で疾走感に溢れたフリークビート・サウンドが貫かれています。
そして、B面のオープニング・ナンバーに配された「21st〜」カバーに関しても、オリジナルに忠実でありながら、アルバムのトータル・バランスに違和感なく溶け込むよう、タイトにまとめられたバージョンとなっています。秀逸。

 

■ V.A.『God's Chosen People』

発売国:US
レーベル:Old Glory Records
規格番号:NGR-4
発売年:1993
レアリティー:(2/6)
 

そして、最後にご紹介するのは、「21st〜」カバー史上最も異質な1曲です。

これまでとは随分とジャンルと時代は変わって、1993年にリリースされたエモ〜ハードコア・パンクのオムニバス・アルバムです。
収録されているバンドたちは正統派ハードコア・バンドが立ち並びますが、サプライズとでも言わんばかりにB1に収録されたのが、Rorschachというグループによる「21st〜」カバーです。

お馴染みのあのギター・リフから始まるワケですが、もちろん(?)ヴォーカルは振り絞るようなスクリームが炸裂。さらに、中盤のインプロ部分は大胆にカットされ、もったりと沈み込むようなインプロに置き換えられており、それもまた素晴らしい仕上がりです。
確かにしっかりとしたハードコア・バージョンといった趣ですが、クリムゾン〜プログレ・ファンの方たちにもレコメンドできる名カバーだと思います。

またのご来店お待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千