Something about NEXT JAZZ ~DJ大塚広子 × TAKUMI MORIYA"NBN"Special Band~


サンプリング文化などの影響もあり、今改めて注目を集めるジャズ。とはいえ「何から聴けば良いのかわからない!」という人が多いのも事実。そんなビギナー向けに、DJ大塚広子が身近なジャズ・スポットや入り口をナビゲートする企画。

ジャズDJ大塚広子と巡る、ライブが聴けるジャズ・スポット in 浅草


今回は、今春浅草にオープンしたばかりのポートランド・スタイルのホテル、WIRED HOTELのカフェ&バー「ZAKBARAN(ザックバラン)」で行われたライブをレポートする。この日のバンドは、大塚がプロデュースするバンドRM jazz legacyで指揮をとるベーシストの守家巧、若手サックス奏者の加納奈実、アフロビート・バンドAfro Begueを率いるセネガル人のジャンベ奏者オマール・ゲンデファルの4名による、「TAKUMI MORIYA"NBN"Special Band」。前回はトランペットとDJのデュオという組み合わせだったが、今回はサックス、ジャンベ、ベース、そしてDJという編成。ドラムレスのこの編成では、大塚がレコードで作るループをリズムトラックとし、その上でミュージシャンたちが演奏していく。

 

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面白いのはそのトラックのラインナップだ。クリス・デイヴやカリーム・リギンスといったジャズ・ヒップホップを基調とするトラックから、デトロイト・テクノの名手レジー・ドークス、テクノ・ハウスの名盤と名高いマニュエル・ゲッチング『E2-E4』、70年代ジャマイカ音楽(ルーツ・レゲエと言ったほうがわかりやすいかもしれない)のカウント・オジー、現在のLAシーンをリードするDJのフライング・ロータスまで、ジャンルを交差させる大塚の選曲をバンドメンバーは見事に乗りこなしていく。

 

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バンドの中でひと際目を引くのが、曲によってサックスとフルートを持ち替え、ボーカルまで披露していくフロントマンの加納奈実だ。幼い頃からクラシック・ピアノをやっていたという彼女のプレイは、ジャズを基調としながらもさまざまな音楽の要素が散りばめられており、このバンドのサウンドを一層ジャンルレスな耳ざわりにしていく。弱音までコントロールされた音色は、時にリズム隊以上にバンドを引っ張っており、そこにはいわゆる「ジャズ」のイメージとして浮かびやすいサックスのまた違った面白さが垣間見えた。
そこで今回は、まずサックスという楽器をテーマに大塚広子とバンドのメンバーに話をきき、その上でこのジャンルレスなバンドのサウンドの秘密に迫っていく。

 

DJとプレイヤー、それぞれのサックスとの出会い

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─まず大塚さんから、DJとしてのサックスの面白さってどんなところですか?

大塚:サックスの音に慣れ親しんだのは、ジャズよりもハウスだったりアンビエントな音楽からですね。フルートとかサックスが音色として入っているけれど、それに気づかずに掛けたり踊ったりしている人達がいるっていう環境にいたので自然に聴いていました。デトロイト・テクノとか、セオ・パリッシュとか。

─じゃあ「このプレイヤーが」というよりは、サックスという楽器の音が使われていて好きになったという感じですか?

大塚:そうですね。例えば「ジャッキー・マクリーンが大好き!」とか、そういう聴き方よりはトラックの中ですでに聴いていて。その後にジャズを聴くようになってからプレイヤーにフォーカスしていったという流れがあります。

─ジャズにフォーカスしていったときに、面白いなっていうサックス奏者っていたりしました?

大塚:DJだから「この人が」っていうよりは、「この盤が」っていう感じなんですよね。でも挙げるとしたら峰厚介さんかな。和モノ系でも私が使っているのは峰さんが入っているのが物凄く多いと思います。アバンギャルドな70年代とか、菊地雅章さんとやっている『ヘアピン・サーカス』でのソプラノサックスだったりとか、リーダー作でも70年代のエフェクトをガンガン掛けているやつだったりとか。そういう時代の音がすごい好きでヒップホップと一緒に掛けたりしていました。

─なるほど。

大塚:ソロの上手い下手とかっていうところは全然わからなくて、私が重視していたのは質感ですね。ザラッとしているだとか、コズミックな感じがするとか、スモーキーなテイストとか。そういう雰囲気の方がクラブのフロアでは大事だったりするので。

─加納さんが最初にサックスとかジャズに出会ったのは何がきっかけなんですか?

加納:父がすごいソニー・ロリンズが好きで、家の中でも車の中でもずっと『サキソフォン・コロッサス』を掛けていたっていう。そこがはじまりですね。実際にサックスを始めたのは、父が自分もサックス吹きたいって言い出して、一緒に楽器屋さんに言ったんです。そこで「お嬢ちゃんも吹いてみる?」って楽器屋さんに言われて吹いた時にわりとスムーズに音が出て、「やる?」ってきかれたときに「やる」って言ったそうです。小学校3年生、9歳ぐらいの頃なのであんまり覚えてないんですけど(笑)。

 


─へぇー! すごく早くから演奏していたんですね。

加納:そうですね。私は吹奏楽部とかにも入ったことがなくて、人とちゃんとアンサンブルをするようになったのは音大でジャズのコースに入ってから。それまでは楽器店の音楽教室みたいなのに入っていて、年に一回ある発表会でやっと人と演奏するみたいな感じで。

─その頃って、今このバンドでやっているような音楽って聴いたりしていましたか?

加納:まったく聴いていなくて、ほんとにジャズばっかり聴いてました。ジャズ! ビバップ! みたいな(笑)。純粋過ぎてジョン・コルトレーンも聴けないぐらいでしたから。教室で最初に教わったのがチャーリー・パーカーだし、「チャーリー・パーカーわかんないな」みたいに思いながら泣きながらレッスンを受けていて(笑)。

─なるほど。

加納:でも東京に出てきて自分のカルテットを始めてからは意識が変わりましたね。この人達と一緒に演奏していくには自分はどうあるべきなのかとかを考えるようになって。「このバンドでこの曲を選ぶんだったらこうやって吹きたいな」とか考えるようになると、サックスも一つの吹き方じゃなくて色んな音色が出せたほうがいいなっていう風に。

─その時に、その視点で見たらこの人がいいなっていうサックスプレイヤーっていました?

加納:エリック・ドルフィーとかジョン・コルトレーンとかジョー・ヘンダーソンとか、どの人もやっている事は違うけれど存在感があるじゃないですか? それを自分の中に取り入れて、自分のフィルターにかけて出した時の音っていうのがいいんじゃないかなって思って、よく参考にしていました。日本の人だったら峰さんは私も大好きです。あとは緑川英徳さん。

 

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大塚広子が「デザイン」するバンドサウンド


─加納さんは、大塚さんが聴いているようなサックスと、ジャズのプレイヤーが思う「良いプレイ」っていうイメージは違うなと感じたりしますか?

加納:一度私のライブを観てもらった時の大塚さんの感想が、やっぱりプレイヤーから返ってくるような反応とは違っていたんです。技術的なものではなくて、色だったりとか……雰囲気を重視して聴いてくれるのが、私にとっても一番うれしくって。上手ければいいっていうもんじゃないってさっきもおっしゃっていたけれど、それをすごく私も最近思うので。その点で共感してもらえる部分があったのかなって思います。逆に言えばミュージシャンとずっと喋っていると「誰々がいいよね」とか「誰々のこのプレイがいい」っていう話になりがちなんですけど、あんまり個人的には好きじゃないなって(笑)。

─ソロでどれだけ盛り上げるかみたいな。

加納:そうそう! そこじゃないよなって。もっとバンド単位で盛り上がっているかとか、そういうところに意識を持っていきたいって思っているので。

 

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─バンドリーダーの守家さんとしてはいかがですか?

守家:大塚さんはレコードとか音源をいつも聞かせてくれるんです。それを聴いてリーダーである僕がプレイヤーに「リズムについてはこうしてほしい」とか伝える事が多い。間接的にプロデュースしているような形ですね。

─大塚さんが提案してくれる視点は、プレイヤー同士でやっている時に出てくる「こうしたい」っていうのとは違う毛色なんですか?

守家:やっぱりDJならではですね。大塚さんの提案はミュージシャンだけだと出てこない言葉としてのボキャブラリーであったりとか、デザインの領域だったりするから。それを受けて現場で再現したり録音したりライブをしたりって言う中で、結果として大塚さんのイメージに近い形になっていく。

─「デザイン」というのは?

守家:例えば建築でもデザインしている人が実際にここで釘を打ったりするわけではないじゃないですか。洋服のデザインとかでもそうですけど、そのブランドやデザイナーの名前があるけど、その人のイメージに近い形を作っていく人が必要で。

大塚:そういう意味では守家さんは料理長ですね(笑)。

 

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─このバンドのようにジャンルが色々混ざっていると、演奏する上でも苦労がありそうです。

加納:ジャズはジャズでグルーヴがあるし、テクノやレゲエにはまた違ったグルーヴがあるんですけど、私はジャズのものをこっちの上に乗せていっていいって思っているんですよ。むしろそっちのほうが混ざってカッコイイって思っているので。だから、あんまりジャンルによってプレイを分けるっていうふうには考えていないですね。もちろん一緒に演奏する人が違えば、もらうインスピレーションだったりとか、私がひらめくものは全然違うとは思うんですけど。

守家:僕からみて面白いのは、日本のプレイヤーって吹奏楽やっていたとかクラシックやっていたとかだと思うんだけど、加納さんは本当にジャズしかやっていないっていう点ですごく興味があって。さっき言ったそれぞれのグルーヴの良さだったり、違うタイム感だったりとか、もちろん人間同士のフィーリングっていうのは大前提だけど、一緒にコミュニケーションをとって新しい音楽を作ろうっていう心意気があって。僕らも新しいことをやっているっていう自負はあるし、そういうところの柔軟性を喋っていてすごく感じたんです。最初は彼女の音を聴かずにスケジュールの話をしたもんね(笑)。

─へぇー! 音を聴かずとも分かったんですね。

守家:演奏以外でも、話すことがそのまま音のコミュニケーションになることもある。フィーリングで分かることってあるよね。

 

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Live set
【1st set】
Chris Dave and the Drumhedz / Didn’t Exist
Reggie Dokes - The Skin I'm In 『Detroit Beatdown Vol. 2 EP 1』

【2nd set】
Manuel Göttsching / 『E2-E4』
SLEN / カリサビ 『 Life Lessons from Hiphop Greatet Sings』
Karriem Regins / Detroit Funk 『Headnod Suite』
Count Ossie And The Mystic Revelation Of Rastafari / 『Grounation』
Flying Lotus / Melt!『Los Angeles』 


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大塚広子
http://djotsuka.com/ 

RM jazz legacy 
http://rmjl.djotsuka.com/

守家巧 
https://twitter.com/takumimoriya

加納奈実 
https://kanonami.jimdo.com/

オマール・ゲンデファル 
http://afro-begue.com/

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LIVE INFORMATION

RECORD LOUNGE
DATE:2017.9.29(fri)
PLACE:岩手 mountee
START:19:00
CHARGE:2000yen(1D)
SPECIAL GUEST DJ:大塚広子

上田Stomp2017
DATE:2017.10.1(sun)
PLACE:長野 信州音楽村
START:12:00~21:00
CHARGE:1日券7,000yen、2日通し券12,000yen
出演:SPEAK NO EVIL,CRO-MAGNON,高橋 透,NORI,矢部直、大塚広子他

Bar stereo Autumn Event
DATE:2017.10.6(fri)
PLACE:高田馬場 Bar stereo
START:20:00~22:00
CHARGE:500yen
DJ:大塚広子

Another Music Lounge
DATE:2017.10.7(sat)
PLACE:目黒 Another 8
START:19:00~23:00
CHARGE:Free
DJ:大塚広子

ARK HiLLS CAFE:JAZZ FESTIVAL 2017
DATE:2017.10.14(sat)
PLACE:六本木 ARK HiLLS Cafe
START:11:00~22:30
CHARGE:adv.3,800yen/door.4,500yen
出演:Takumi Moriya LES SIX(守家巧(B)加納奈実(Sax,Fl,Vo)西田修大(Gt)柏倉隆史(Ds)福井アミ(Key))
Marter,ものんくる,Kan Sano,大塚広子他

 

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WIRED HOTEL ASAKUSA
http://wiredhotel.com/
WIRED CAFÉなどで知られるカフェ・カンパニーが、企画・運営・デザインを手がけるホテル。
ホテル1階のカフェ&バー「ZAKBARAN」は、浅草ならではの料理、つまみを厳選した日本酒や名物サワーで楽しめる「江戸バル」。ライブ、DJイベントなども定期的に行われている。


Text:花木 洸
Photo:Great The Kabukicho
Edit:仲田 舞衣