ギタリスト・生形真一(Nothing's Carved In Stone)のギブソンES-335 【人生を変えた楽器】


ミュージシャンには、人生を変えるような楽器との出会いがある。運命的な出会いや、楽器とともに切磋琢磨したストーリー…。このシリーズでは毎回、さまざまなミュージシャンを迎え、各々のキャリアにもっとも大きな影響を与えた楽器を紹介してもらう。
第一回目のゲストはNothing's Carved In Stoneのギタリスト、生形真一。

彼と言えばギブソンのES-355だが、初めてセミアコ・タイプのギターに触れたのが、今回持ってきてもらったギブソンES-335。ELLEGARDEN時代にギタリストとしての個性を培ったというこのギター、果たして生形にとってはどんな存在であったのか、たっぷりと語ってもらった。


「誰も使っていない楽器だったら面白いかなと思った」

「誰も使っていない楽器だったら面白いかなと思った」(1)

─今日持ってきてもらったギブソンES-335は、いつ頃入手したのですか?

細かくは覚えていないのですが、この楽器自体が製造されたのは2000年で、俺が手にいれたのは2001年です。

post00000032013.jpg「誰も使っていない楽器だったら面白いかなと思った」(3)

─ES-335はセミアコですが、このタイプのギターを選んだ理由は?

この楽器を買った当時は20代前半で、いろんなタイプのギターを試してみたい時期でした。これを買う直前はフェンダーのストラトキャスターを使っていたんだけど、アタマのどこかにギブソンのギターを弾いてみたいって思いがあって。でも、その当時、ギブソン=レス・ポールっていうイメージが強くて。俺のまわりのバンドのギタリストたちもよく使っていたんです。俺もまだ若くて天の邪鬼だったから“人と違っていたい”って思いがすごく強くて。それでバンドの先輩なんかにギターの相談をしていたら、“セミアコはどう?”っていう話が出てきたんです。俺が10代の頃のセミアコって、おじさんがジャズやフュージョンを弾くためのギターっていうイメージだったから、自分としては考えもしなかったんです。でも、誰も使っていない楽器だったら面白いかなと思って、試しに楽器店で弾いてみました。

─そのときのことを覚えていますか?

今でも覚えていますね。楽器店でVOXのギター・アンプにつないで試奏してみたんですけど、まだ二十歳そこそこだったから、楽器による音の違いもあまり分からなくて(笑)。でも、そのときにES-335だけじゃなく、レス・ポールも弾いてみたら、大して変わらない感じがしたんです。だから“これは使える!”って思った。で、やっぱり当時ES-335は人気がなかったのか、定価の半額になっていたんですよね。28万が、14万。よし、これなら買えると思って購入しました。

─では、レス・ポールの代わりとしても使えるっていうのが、購入を決めたポイントでもあった?

そうですね。セミアコって歪ませるとハウっちゃうものだと思っていたから、それを気にしていたけど、思っていたほどハウらなかったのが決め手でした。

「誰も使っていない楽器だったら面白いかなと思った」(4)

─この楽器を手にした頃の生形さんは、まだ自分のギター・プレイのスタイルを模索している時期だったと思います。この楽器とともに自身の技術を磨いたり、スタイルを培ったエピソードなどがあれば教えてください。

この楽器を弾いてみて分かったんですけど、セミアコのギターって生音がちゃんと鳴るから、弾いたときの感覚がアコースティック・ギターに少し近いですね。

─ソリッド・ボディのギターと比べると、音に空気感がありますからね。

そう。これは今となって思うことですが、アンプに繋がずに生音で弾いているときでも、音の鳴らし方を意識しながら弾いていたんだろうなと。それが今の自分に生きているんだと思います。もちろん今、言ってもらったみたいな空気感って、アンプをつないで鳴らしたときにも感じるから、その音を大事にしていたというか。強く歪ませると空気感が分からなくなるんですよ。だから、そういう部分も意識しながら、自分にとって“良い音”を知るきっかけになったと思います。

─生形さんはストイックなギタリストっていうイメージもあるのですが、この楽器を買ったときなんかも、かなりギターを練習したりはしていましたか?

いわゆるギターの練習を一番やっていたのは、このギターを買う前でした。その頃は学校から家に帰ってきたらずっとギターを弾いてました。このギターを買ったときはバンドをはじめていたから、曲のなかでどんなギター・アレンジをするかとか、そういうことばっかりをやっていました。その頃はバンドで週に3回、毎回8時間はリハーサルをやっていました。

─かなり熱中してやっていたのですね。

自分のバンド人生のなかでも、青春真っ只中でした。そういう時代をこのギターと一緒に過ごしてきたから、フレットも2回打ち替えているし、この楽器を手に入れてからはサブ・ギターも持たなかったから、6年くらいはずっとこれ1本を弾き続けていました。
 

「誰も使っていない楽器だったら面白いかなと思った」(5)「誰も使っていない楽器だったら面白いかなと思った」(6)


ずっと弾いていると、いつからかそのギターに合わせた弾き方になる

─ES-335はソリッドのギターとはキャラクターも異なりますが、馴染むまでに時間はかかりましたか?

最初はやっぱり弾いた感覚も、それまでのギターと違ってボディも大きいし、あとトップがカーヴしているギターって、これが初めてだったから違和感もありましたね。でも、いつがきっかけだったのかは忘れちゃったけど、この楽器に馴染んでからはレス・ポールを持っても小さいなって思うようになった。俺はES-335でもストラトキャスターでも、その楽器に適した鳴らし方があると思っていて。あるギターをずっと弾いていると、いつからかそのギターに合わせた弾き方になるんですよね。

─生形さんのトレード・マークでもあるアルペジオ・ギターっていうのも、このギターから生まれたものだったり?

それはもうちょっと前からやっていたかな。アルペジオっていう発想自体は、ELLEGARDENでのシンプルなドラムとベースにギターが2本という編成のなかで、ギターだけでどれだけ広がりを出せるかを考えて生まれたものです。なので、考え方的にはピアノに近いというか、鍵盤の代わりみたいなアイディアでした。もちろんそういったプレイをやりはじめた時期にES-335を使っていたので、こういったスタイルの演奏に対して、このギターが影響を与えた部分はあると思います。やっぱりクリーン・トーンで弾いてもすごく魅力的な音が出ますから。

ずっと弾いていると、いつからかそのギターに合わせた弾き方になる(1)


─このギターについて、思い出深いエピソードがあれば教えてください。

とにかく珍しがられました。同じギターを使っている人は先輩のバンドはもちろん、後輩のバンドでも誰も見たことがなかったから、演奏以外の部分でも注目されたことを覚えています。それもあって、このギターを選んで良かったなって思っています。もし、あのタイミングでES-335を手にしていなかったら、全然違うギタリストになっていただろうし。
 

他のギターでは絶対に出せない音色が出せる

─この楽器をきっかけに生形さんと言えば、ES-335というイメージになっていきました。

そうですね。このあとに黒のES-335を買って、そのあとはES-355、それをもとにしたシグネイチャー・モデルをギブソンで作らせてもらいました。

─ギブソンという楽器メーカーに、どんな印象を持っていますか?

ギブソンって楽器のカタチもそうだし、ケースもそうなんだけど、クラシックのヴァイオリンみたいで、工芸品に近い感覚なんですよ。“そのまま使ってくれ”っていう。でも、ギブソンのギターって決して弾きやすくはないんですよね。 でも、その代わりに音色を追求している気もして、その分だけ“弾き手が頑張れ”っていうか(笑)。そういうギブソンが持っているこだわりが俺は好きなんです。その分、慣れるのには時間がかかったけど、他のギターでは絶対出せない音色が出せる楽器だと思います。

他のギターでは絶対に出せない音色が出せる(1)


─そういったこだわりをもって作られた製品っていうのは、楽器に限らず好きだったりもしますか?

好きですね。例えば洋服にしても使い捨てのようなものじゃなくて、例えば皮ジャンみたいに一生使えて、その後も受け継いで使ってもらえるものって、気持ちがこもっているような感覚があって好きです。だからギターにしても洋服にしても、一度好きになったら変えないんですよ。洋服でも好きなブランドを15年間くらいずっと着ていて、それもやっぱり、その洋服を作っている人たちのこだわりがあって。

─なるほど。生形さんのそういった性格があるからこそ、ギターに関してもギブソンのES-355をずっと使い続けているんですね。

はい、ずっと使わないと分からないこともあると思っていて。でもね、必ず嫌になる時期もあるんですよ。“なんでこの音しか出ないんだろう”って思った時期もあったし、でも、そういうときでも試行錯誤しながら使い続けていると、その先が見えてくるっていうか。
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いろんなことを教えてくれたから、一番感謝している存在

─今でもこのギターを弾くときはありますか?

もちろん、今だと楽屋で弾くギターとして使ったり、あとは曲作りするときにも使っています。ちょうど夏にELLEGARDENの復活ライブがあるから、そのときにこいつを使おうか迷っています。思い入れのあるギターだから一曲くらいは弾きたいけど、ステージではずっと使っていないし、今の自分の好みの音とはちょっと違うんですよ。
今はES-355を使っているのですが、それと比べるとこのES-335はもっと綺麗で中域の締まった音という印象。ES-335って “これ1本あればどんな音でも出せる”なんてよく言われているんですね。でも、俺はフロント・ピックアップなんてオヤジ臭いから一生使わないものだと思っていたから、その意味が全然分かっていなくて。例えばピックアップのポジションをセンターにしてフロント・ピックアップを混ぜると、シングルコイルっぽい音が出せたりもする。3、4年前にその面白さを知って、改めてこのギターの魅力に気が付いたんですよね。そこから、フロントを混ぜて使ったりするようになりました。

いろんなことを教えてくれたから、一番感謝している存在(1)

─それはギタリストとして、大きな変化ですね。

ええ、自分としても大発見というか、ここへきて自分の音色の好みが変わるなんて思ってもいなかったです。

─そういうところが楽器の面白さでもありますよね。一緒に年齢を重ねることでお互いが変わっていくというか。

20年前に買ったギターなんだけど、こんな可能性があることに今気がつくというか。この楽器を買ったときはまったく興味がなかったけど、ちょっと前にクリームの頃のエリック・クラプトンのライブ映像を見たら、このギターを使っていて、出している音がすごくカッコ良くて、ES-335の良さを改めて発見しました。あと、最近はジャズも聴くようになって、近年のラリー・カールトンの音源とかって、もうホントにスゴ過ぎて誰も太刀打ちできないような音を出しているんですよ。音が良いのはもちろん、完全にギターをコントロールしている感じとか、何度聴いても飽きないです。
 


─生形さんにとってこのギターの存在はどういったものですか?

このギターは、俺がギタリストとして、バンドマンとして成長していったときにずっと一緒にいて、俺にいろんなことを教えてくれたから、一番感謝している存在ですね。楽器に気持ちが宿るとかって、若い頃の自分はまったく全然信じていなかったけど、この楽器をきっかけに、そういうことがあっても悪くないなって思うようになりました。だから、今はこのギターじゃないけど、ライブの最後には客席の方にいって、お客さんに自分のギターを触ってもらうようにしていて。それによって自分のギターにもいろんな気持ちが入っていくんじゃないかなって思っています。

いろんなことを教えてくれたから、一番感謝している存在(2)

 

【Profile】
生形真一

1976年生まれのギタリスト。1998年、ELLEGARDENを結成。リーダーとしてギター、コーラスを担当。2008年、ELLEGARDENの活動休止をきっかけにNothing’s Carved In Stoneを結成、2009年より活動を開始。吉井和哉椎名林檎吉川晃司渡辺香津美などのサポート、DAY6のプロデュースなども行っている。
2018年5月、10年ぶりにELLEGARDENの活動を再開。

●生形真一 オフィシャルFACEBOOK
https://www.facebook.com/shinichi.ubukata.official/

●Nothing’s Carved In Stone
http://www.ncis.jp/?top


Text:伊藤 大輔
Photo:堀田 芳香
Edit:仲田 舞衣

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